舗装構造に着目した舗装メンテナンスサイクルの構築に向けて
国立研究開発法人土木研究所
道路技術研究グループ舗装チーム
上席研究員
道路技術研究グループ舗装チーム
上席研究員
藪 雅 行
キーワード:メンテナンスサイクル、舗装点検要領、舗装管理
1.はじめに
わが国の舗装ストックは道路延長ベースで約100万㎞1)であり、膨大なストック量となっています。高度経済成長期に集中的に整備されてきた道路施設の老朽化が進行する中、他の道路構造物と同様に、舗装においても、メンテナンスサイクルを確立し、より効率的に維持管理していくことが求められています。
舗装管理に関連した技術基準として、「舗装点検要領」(平成28年10月国土交通省道路局)(以下、点検要領という。)2)が策定されています。点検要領では、「表層や基層の適時修繕による、路盤以下の層の保護等を通じ長寿命化に向けた舗装の効率的な修繕の実施を目的とした舗装の点検」に関する事項について定めており、これまでの舗装管理において重要視されてきた路面を良好な状態に保つ視点に加えて、路盤以下の層を含む舗装構造全体の健全性を良好な状態に保つ視点の重要性を指摘しています。
本稿では、舗装構造に着目した舗装管理の視点について述べるともに、舗装メンテナンスサイクルの構築に向けた土木研究所の取り組みについて紹介します。
2.舗装管理の視点
2.1 舗装メンテナンスサイクル
舗装メンテナンスサイクルのイメージを図-1に示します。舗装の管理を的確に実施していくためには、「点検」・健全性の「診断」・補修等の「措置」および、点検・診断・措置の「記録」、さらには、これらを踏まえた次の「点検」の実施といったサイクルを確立していく必要があります。メンテナンスサイクルによる舗装管理を実現していくためには、点検・診断において、舗装状態と損傷の要因の関係を的確に把握し、その結果に対応する措置を実施するなど、点検・診断・措置の結びつきを踏まえた対応を行っていく必要があります。
2.2 代表的な損傷メカニズムと舗装管理の視点
わが国の道路舗装では、主にアスファルト・コンクリート舗装(以下、アスファルト舗装という。)とセメント・コンクリート舗装(以下、コンクリート舗装という。)が用いられ、それぞれ構造特性が異なるため、舗装管理にあたっては、それぞれの構造特性と損傷メカニズムを踏まえた対応を行っていく必要があります。以下では、わが国の舗装延長のうち約95%1)を占めるアスファルト舗装を例に述べていきます。
舗装は路床の上に構築され、一般的な構成は、図-2に示したとおり路面から順に表層、基層、路盤となっています。アスファルト舗装の代表的な損傷メカニズムを図-3に示します。路面に生じたひび割れ等の損傷を放置すると、損傷箇所から路盤に雨水が浸入する状態となります。さらに、この状態が続くとポンピングにより路盤材の細粒分の噴出などが生じ、路盤の不陸や路盤の支持力の低下を招き、舗装構造全体の損傷に至ります。
舗装構造全体の損傷に至ると、表層あるいは表層・基層のみを修繕する切削オーバーレイ工法等による措置を行っても、路盤等の支持力が十分でないため、早期に路面にひび割れや沈下による不陸等が発生し、再度補修が必要な状態となります。このため、舗装の点検を実施し、点検結果に基づく表層等の適時適切な措置により路盤以下の層が損傷しないように管理するとともに、早期に劣化している区間については、詳細調査による損傷要因の把握、その損傷要因に対応した措置を実施し、再度早期劣化が生じないように対応することが必要となります。
このような管理の考え方は、点検要領にも反映されています。表-1に点検要領における舗装の健全性の診断区分(大型車交通量が多いなど損傷の進行が速い道路等)を示します。点検要領においては、表層を使い続ける目標期間として使用目標年数を設定し、表層が使用目標年数に満たず早期に劣化が進行している区間は、診断区分「(Ⅲ-2路盤打換等)」となります。この診断区分に該当する区間については、これまでの措置の履歴確認を含めて詳細調査を実施して路盤以下の層の健全性を確認し、適切な修繕設計に基づく措置を講ずることが求められます。
3.土木研究所の取り組み
土木研究所では、2.で述べた舗装管理の視点や点検要領を踏まえつつ、より効率的・効果的な舗装メンテナンスサイクルの構築に向け、点検・診断・措置に関わる調査研究に取り組んでいます。本稿では、土木研究所での取り組みのうち、点検診断に関する取り組み3例を紹介します。
3.1 検定によるFWDの測定精度の確保
点検要領において、舗装の詳細調査の代表的な方法として、FWD(Falling Weight Deflectometer:重錘落下式たわみ測定装置)によるたわみ量調査、コア抜き調査、開削調査が示されています。このうち、FWDによるたわみ量調査は、衝撃荷重を路面に与えた時の舗装のたわみ量を測定する(写真-1、図-4参照)ことにより、非破壊で舗装内部の健全性の状態を知ることができるため、近年多くの現場で活用されています。
FWDは、修繕工法の選定等の目的で現場において用いられるものであり、一定の測定精度を有した装置であることが求められます。そのため、土木研究所では、FWDの構成で重要な装置である荷重計とたわみ計の較正・検定を可能とするFWD検定施設を整備し、所有者からの依頼によりFWDの検定(以下「FWD検定」という。)を実施しています。
FWD検定3)では、FWDの測定値が正確であるか確認をし、検定に合格したFWDには、土木研究所から認定書を交付しています。
これまでの受験実績を図-5に示します。FWD検定を開始した平成22年度における検定台数は6台でしたが、令和元年度は25台にまで増加しています。
3.2 詳細調査に基づく措置の有用性の検証
2.2において述べたとおり、点検要領において、早期に劣化が進行している区間に対しては、詳細調査を実施して路盤以下の層の健全性を確認し、適切な修繕設計に基づく措置を講ずることが求められています。
土木研究所では詳細調査に基づく措置が、舗装の構造的な健全性の回復にどのような影響を与えるかを検証するため、コア抜き調査をもとに修繕工法を選定した修繕工事現場にて、FWDたわみ量調査を修繕工事の前後で実施しています。
対象とした調査箇所は、関東地方整備局管内の直轄国道(往復2車線、大型車交通量は舗装計画交通量N6区分に該当)での修繕工事区間(上下2車線、L=約600m)です。コア抜き調査(アスファルト混合物層25cm)は、工事着手前に24箇所で実施しています。写真-2に引き抜きコアの状況を示します。コアの損傷状況は一様ではなく、ひび割れの深さが浅い位置でとどまっているもの、層間で剥離が発生しているもの、混合物自体の剥離が進行しているものなどがありました。
調査の結果を踏まえ、当該工事現場では、ひび割れ深さが深い区間と浅い区間で工法を変更し前者ではアスファルト混合物層の全層打換え、後者では表層・基層の切削オーバーレイ工法が選定されています。
図-6は、当該現場において工事前後のFWDたわみ量調査による各箇所のたわみ量を比較したものです。たわみ量が小さいほど構造的な健全性が高いと推定されますが、前述のコア抜き調査に基づく修繕工法の選定により、区間を通して舗装の健全性が均一なレベルに回復にしており、早期の損傷を招く構造的な健全性の低下した区間がなくなっていることがわかります。この調査結果からも詳細調査による措置の実施が、舗装の構造的な健全性を確保する上で有用なことがわかります。
3.3 舗装の損傷と要因の体系化
舗装の代表的な損傷メカニズムについて、2.1で述べましたが、実際に現場において発生している舗装の損傷パターンは舗装構成や地域特性等によって多種多様であり、ひとつの劣化現象が複数の損傷の原因になることや、ある損傷が別の損傷の原因になる等の場合があります。
舗装の適切な点検・診断を実施するためには、点検時に路面等から観察される舗装の損傷状態を理解するとともに、その損傷がどのような要因により発生したのか、その損傷が次にどのような損傷に進展するかを予測しておくことが肝要です。
土木研究所では材料の劣化現象や損傷、またその損傷が進展した場合の状態に関する体系的な整理を進めています4)。図-7は舗装の損傷の種類ごとに、原因となる劣化現象や損傷の進展により生じる状態などの相互関係を体系図に整理したものです。この図は、各劣化現象や損傷と、その原因を矢印で結びつけることで、損傷の進展過程や相互の関係全体を俯瞰して把握することができます。各劣化現象や損傷を結ぶ矢印をもとに、図中の右側に矢印をさかのぼることで発生原因をある程度絞り込むことができます。これにより、発生原因を踏まえた措置方法が検討でき、また予め発生原因を把握しておくことで他の現場において予防保全策を講じることができます。
図-7はアスファルト舗装の損傷同士の関係や要因を体系的に整理した図であり、現場の路面状況から損傷の種類を選別するものではありません。実際の点検診断では、路面に生じている変状が図-7のどの損傷に該当するか、を判断することが重要となります。しかし、熟練の舗装技術者でないと、現場の状況から損傷の種類を判断することは容易ではありません。そこで、路面の状況や地域条件等によって簡易にひび割れ種類を絞り込む、選別フローの作成もあわせ検討しています。
図-8にひび割れについて作成した選別フローを示します。このフロー図は、現場目視の結果からひび割れの形状や路面の沈下程度、地域条件等からひび割れの種類を簡易的に絞り込むものです。さらにフロー図で絞り込んだひび割れ種類の名称に記された番号から図-7の体系図を参照し、ひび割れ種類の矢印をさかのぼることで損傷原因の推定が可能となります。
4.おわりに
「舗装点検要領」の策定を受け、点検要領に基づく舗装メンテナンスサイクルの構築に向けた取り組みが各地で進められています。このような状況も踏まえ、土木研究所では、本稿で紹介した取り組みも含め、これまでの活動で得られた技術的知見を広く水平展開していくことも重要と考えています。このため、(公社)日本道路協会舗装委員会等の各種技術委員会活動への参画等を通じて、産・学・官の技術者とともに、技術的知見を集約し、これらを広く提供するための取り組みも引き続き実施していく予定です。
また、近年は、舗装の点検・診断・措置についても、より効率的で生産性の高い新しい技術の開発も求められています。土木研究所では、本稿で紹介した取り組みのほか、舗装の点検・診断におけるAIの活用や高速で移動しながら舗装のたわみ量を計測し舗装の健全性を調査できるMWD(MovingWheelDeflectometer:移動式たわみ測定装置)の開発5)などの調査研究にも取り組んでいます。
今後とも、舗装メンテナンスサイクルの構築に向けた各種の取り組みにご理解・ご助力いただければ幸いです。
参考文献
1)国土交通省:道路統計年報,https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-data/tokei-nen/index.html
2)国土交通省道路局:舗装点検要領、平成28年10月
3)坂本康文:FWD(重錘落下式たわみ測定装置)検定施設、土木技術資料、第48巻、第7号、p6-7、2006
4)舗装の損傷と要因の体系図(案)、舗装、Vol.55、No5、p42-49、2020
5)綾部孝之、寺田剛、渡邉真一、藪雅行:移動式たわみ測定装置の実用化に向けた取り組み、土木技術資料、Vol.61、No.4、p16-19、2019