一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
耳川水系総合土砂管理計画について
久保田修司

キーワード:総合土砂管理、産官学民連携、順応的評価改善システム

1.はじめに
耳川は、九州の南東部をほぼ東に流れて日向灘に注ぐ幹川流路延長94.8㎞、流域面積884.1.km2の宮崎県有数の二級河川である(図-1)。耳川水系の地形は、流域の大半を急峻な山地が占めており、流域の地質は、中流部では崩壊しやすい四万十累層群の砂岩・頁岩及びその互層が広範囲に分布している。このため、耳川水系は山腹崩壊が発生しやすい地形・地質条件となっている。

また耳川では、豊富で安定した水量と急峻な地形を背景に、昭和の初めから電源開発が行われ、現在、7つの水力発電用ダム(九州電力)が存在し、最大34万kW を誇る九州最大の水力発電地域となっている。
10年前の平成17年9月に日本各地を襲った台風14号は、耳川流域にも甚大な洪水被害をもたらした。特に、山須原ダム貯水池上流端付近に位置する諸塚村の街の中心部は壊滅的な被害を受けている(写真-1)。耳川流域では、大小500箇所の山腹崩壊が同時多発的に発生し、河川やダム貯水池に大量の土砂や流木が流れ込んだことも洪水被害を拡大させた原因の一つであったと考えられる。

このため、宮崎県では、土砂に起因する甚大な被害の発生を踏まえ、流域全体の関係者による行動(対策)を体系化した「耳川水系総合土砂管理計画」を平成23年10月に策定し、山地から河川、ダム、河口・海岸までの土砂に起因する様々な課題解決に向けた取組を流域関係者と協働で推進しているところである。
本稿では、地域住民を含めた流域関係者との連携による耳川水系総合土砂管理について報告する。
2.耳川水系の総合的な土砂管理の取組
(1)耳川水系河川整備計画の変更
平成17年台風14号災害では、諸塚中心部などで、家屋の半壊・全壊を含め、被害戸数70戸の甚大な洪水被害が発生した。このため、宮崎県は、耳川水系河川整備計画の見直しに着手し、耳川上流域において、河道掘削や宅地嵩上げなどの治水対策と、既存のダムを改造し、大規模出水時に河川やダムに流れ込んだ土砂を下流に流下させる「ダム通砂機能向上」を組み合わせた整備手法を、耳川水系河川整備計画(H21.3)に位置づけた。
また、このような土砂に起因する問題・課題に対する対策を効果的に推進していくために、山地における土砂発生源の抑制や、ダムにおける通砂機能向上、河川における治水安全度向上など、流域関係者が一体となって総合的に土砂管理に取り組んでいくことを併せて河川整備計画に明記した。

(2)耳川水系総合土砂管理計画の策定
a) 技術検討会及びワーキンググループの設置
耳川水系河川整備計画に位置づけた総合的な土砂管理を推進するためには、河川管理者のみならず山地から海に至るまでの流域全体の様々な関係者が共通認識の下で連携して、土砂管理に取り組んでいく必要があった。
このため、耳川水系の山地からダム、河道、河口・海岸域までの土砂に起因する様々な問題・課題に対する①流域共通の目標やそれぞれの関係者の役割分担、②取り組みを回していく具体的な仕組みづくりを検討することを目的として、関係市町村長、宮崎大学、電力中央研究所、九州電力、国土交通省及び宮崎県関係部局から構成される「耳川水系総合土砂管理に関する技術検討会(以下「技術検討会」という。)」を平成20年3月に設置した。
また、総合土砂管理の実施にあたっては、関係市町村、関係団体、地域住民との合意形成が重要であることから、地域住民の意見を取り入れ議論する場として、「山地」、「ダム・河道」、「河口・海岸」の領域毎に3 つのワーキンググループを設置した(図-2)。

b)基本的な考え方
技術検討会やワーキンググループでは、まず、耳川水系の土砂に係わる問題・課題を領域別に抽出するとともに(表-1)、地元意見交換会を開催し、地域の方々が持っているイメージを踏まえながら、耳川水系のあるべき姿のイメージを検討した。

耳川水系のあるべき姿は、現在顕在化している問題・課題が生じる前の状態であり、元々あった川の機能を復元することである。しかしながら、耳川においては、昭和初期から半世紀以上に渡って利水ダムが既存している状況であるため、ダムがあることを前提として、多様な生物が共生でき、人が川と親しめるような川の機能の再生を目指し、「耳川をいい川にする。~森林(もり)とダムと川と海のつながり~」を流域共通の目標として設定した。
また、この耳川水系の土砂に係わる問題・課題の軽減及び流域共通の目標を実現するために、「耳川水系総合土砂管理における基本理念」を掲げるとともに、各領域の問題・課題に対して流域関係者が対策に取り組むための「各領域の目指す方向性」を定め、流域関係者の役割分担を明確にした(表-2)。

c)行動計画
「基本的な考え方」で示した流域共通の目標である「耳川をいい川にする」ため、地域住民を含む流域関係者と連携を図りながら、継続的に実行できるシステムを確立する必要があった。
このため、耳川水系の山地から海までの流域関係者それぞれが実施する事業(行動計画)を領域別に整理し(表ー3)、各行動計画が耳川水系の土砂に係わる問題・課題に対してどのような役割を有しているのか役割分担を明確にし、他の流域関係者が実施している事業(行動計画)との関連性を明らかにした。
なお、これらの行動計画には、台風などの大規模出水時に河川やダムに流れ込んだ土砂を下流に流下させる「ダム通砂機能向上」を目的としたダム改造工事など全国的にも例の少ない先進的なものも含まれている(図ー3)。

342

また、各流域関係者が主体的に課題解決に向けた行動計画を継続的に取り組むよう、土砂に係わる問題・課題の状況を推し量るためのモニタリング項目(表ー4)を設定し、各流域関係者が実施するモニタリング調査結果を踏まえ、領域別の問題・課題の状況や関連する行動計画を順応的に評価・改善するシステムを総合土砂管理計画に位置づけた(-4)。

3.地域住民・行政・民間企業等の連携
(1)耳川水系総合土砂管理計画における順応的評価システムの構築
耳川水系総合土砂管理計画については、計画策定段階から地域住民・行政・民間等の流域関係者との協働により、耳川水系に係わる問題・課題や流域共通の目標を検討してきた経緯がある。
このため、同計画に位置づけた順応的評価改善システムについても、地域住民の意見を十分に取り入れることとし、行動計画の評価及び改善案を検討するため、学識経験者、関係行政機関、民間並びに地域住民代表で構成される「耳川水系総合土砂管理に関する評価・改善委員会」を平成24年7月に設置するとともに、委員会の下部組織として「山地」、「ダム」、「河道」、「河口・海岸」の領域別に4つのワーキンググループを設置し、評価・改善案について地域住民や民間関係者から幅広く意見を聴くことした(図ー5)。

このように、ある問題・課題に対して、それらに対応する関係行政機関、民間並びに地域住民の実施する行動計画を明確にし、その実施状況を毎年評価して、順応的に改善するシステムは、本県の行政では初めての取り組みであり、「耳川方式」と呼んでいる(写真ー2,3は平成26年開催状況)。

(2)耳川水系総合土砂管理に関する情報共有
 a)「 耳川フェスティバル」の開催
流域共通の目標である「耳川をいい川にする」ことを実現するためには、地域住民に耳川に関心を持ってもらい、住民参加による地域に根ざした川づくりを推進していくことが不可欠である。
このため、耳川においては、平成24年度から「耳川フェエスティバル」を流域4市町村の持ち回りで開催し、行動計画に基づく事業説明や、水辺環境の調査を通じて、総合土砂管理の取組に関心を持ってもらうとともに、流域市町村間あるいは世代を超えた交流を図っている(写真-4)。

また、この耳川フェスティバルは今年で4回目の開催を迎え、地域における恒例のイベントの1つとして定着しつつある。

4.おわりに
耳川水系総合土砂管理計画は、二つの大きな特徴を有している。一つ目は、平成17 年台風14号災害を契機として、土砂管理と治水安全度向上を目的としたものであったが、それに加え、地域住民の意見を踏まえて、河川再生を基本方針に掲げたこれまでにない斬新な土砂管理計画である点である。二つ目は、地域住民を含めた流域関係者が一体となり、各行動計画に関して順応的に評価改善を行う耳川方式システムを確立させたことである。
今後も地域住民が積極的に、耳川の様々な取組に参加できる仕組みづくりに努めていくとともに、関係行政、民間、地域住民にとって三方良しの問題・課題の解決を目指し、流域関係者との連携を図りながら、「いい耳川」を目指していく所存である。

謝辞:
耳川水系総合土砂管理計画については、検討を行ってきた学識経験者、地域住民、企業、国・県・市町村の各行政機関、コンサルタント等、多くの関係者の御協力により、取りまとめられたものである。これらの方々に感謝を申し上げるとともに、「耳川をいい川にする」ため、今後とも変わらぬ御指導・御助言を賜りたいと考えている。

参考文献
1)宮崎県:耳川水系河川整備計画,2009.
2)宮崎県:耳川水系総合土砂管理計画,2011.
3)杉尾哲:2005年台風14号による九州地域の豪雨災害,河川災害に関するシンポジウム,pp.25-36,2006.
4)中原学ほか:産官学民の連携による耳川流域における総合土砂管理について,地球環境シンポジウム講演集,pp.9-14,2014.

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧