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九州地方計画協会

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編集委員のたわごと

㈱さとうベネック 相談役
佐 藤 幸 甫

その日は12時までと12時からの会合が福岡市内の別々の場所で連続して予定されていた。どちらにも10分づつの早退と遅刻を了承していただいて,二つの会合をこなすことにした。最初の会合は九州技報33号の編集委員会であった。会議はスムーズに進行して11時50分頃には33号の骨格はほぼ決まり,あと2~3の問題を残すのみとなった。編集委員長の大塚先生に目くばせをし,委員の皆さんに会釈をして席を立った。一瞬,いやな予感というか何か後ろ髪を引かれるような思いがした。先を急がねばならないし,そもそも後にも前にも引かれるような髪などないではないかと,奇妙な納得をして会場を後にした。果たせるかな予感は的中したのである。欠席裁判で私に随筆を書けということになったらしい。
読者諸氏はすでにご承知のとおり,本誌の発行所が前々号から㈳九州地方計画協会にかわった。
初刊から31号までの発行を担当していた㈶建設工法研究所の理事長であった私は,九州技報の編集委員兼発行人であった。発行所が変っても引き続き編集委員を仰せつかったので微力ながらお手伝いをさせていただこうと思う。ところで私のような役所を退職した者にとっては,この編集委員会はとても楽しい勉強の場である。年に2回の会合だが九州や沖縄で進行しているプロジェクトや竣工した事業を比較的早く知ることができる。また,調査,研究のレポートの説明を聞くと,いま現場で何が問題になっているかがよくわかる。
さて,ここで編集委員会の仕事をご紹介しよう。掲載予定の論文はその題名,筆者,概要を編集委員各自が持ち寄ることになっている。大学教授の委員からは御自分の研究に関連した,研究室でキャッチされた幅広い分野のテーマが紹介される。数が多いのは九州整備局からの論文である。調査,研究,工事報告などバラエティーに富んでいる。また新しい工事契約システムの紹介や,工事検査基準改定の解説など現場にすぐに役立つ情報もある。業界はコンサルタントとコントラクターのグループからそれぞれ情報が持ち込まれる。沖縄を含む九州各県からは2県づつが順番に県内のインフラ整備の情報やトピックスなどを提供していただいている。
編集会議は,これらの論文の概要を担当委員から聞いて掲載の可否と順番を決めていく。審査のポイントはその論文が何を伝えたいかという点である。工事報告なら計画や設計の特異点,困難な施工条件を克服した苦労などが審査の着眼点になる。調査研究に関するレポートならそのテーマの意義や調査手法のユニーク性などが議論される。提案された論文以外のことでも重要な事項や話題性のあることを追加することがある。たとえば国土交通省が発足したときには省庁合併の意義を解説していただいた。巻頭言は学官産の順番ということになっていて,それぞれの分野の方に別途執筆をお願いすることにしている。随筆はそのときの委員会の思い付きで決まることが多い。たとえば〇〇さん最近国外旅行から帰ったらしいとの情報で〇〇さんにお願いするといった具合である。このような経験というか雰囲気が,冒頭に述べた予感に繋がったのである。
編集会議に出ていて,かねがね気になっているがある。それは論文のタイトルである。タイトルはいうまでもなくその論文の顔であって,簡潔明瞭に内容を表現し,タイトルを見ただけで内容が或る程度想定できることが望ましい。ところが提出される論文のタイトルには長いものが多く簡潔にはほど遠い。またタイトルから内容が想定しにくいものもたまにはあって,概要の説明を聞いて始めてタイトルの意味を納得する場合もある。その時はタイトルを少し変えたほうがいいのではないかと思うこともあるが,著者に失礼になるので会議ではそのような発言はしない。タイトルが長くなるやむを得ない事情は理解できる。それは同じような調査研究が数多くなされていて,既に発表された論文のタイトルと重複しないようにネーミングを考えなければならないからだ。このような場合はサブタイトルをつけるとよい。げんにサブタイトルのついた論文も多くみかける。このほうがはるかに分かりやすい。
具体例で説明した方が分かりやすいと思うが,例示に取り上げる著者には甚だ失礼であることは重々承知の上であらかじめお断りを申し上げておく。私は著者になんの恨みも偏見も抱いていないことをご理解いただいて,心を鬼にして,技報32号から2~3の例を取り上げてみよう。

その1
「九州技術事務所が取り組む新技術活用普及に向けての施策」これが主題でさらに副題が2行続く。全部で48文字である。私の代案の一例は「新技術活用への施策 一九州技術事務所の取り組み一」活用と普及は意味がほぼ同じなのでどちらか一つでよいと思う。2行の副題は本文を読めばわかるので削除した。いかがなものでしょうか。

その2
「都市基盤整備,商業集積整備と一体となった「まちづくり」への取り組み」これに更に副題がついて全部で46文字。さて,都市基盤整備と商業集積整備はハード面を表わし,「まちづくり」はそれらにソフト面を加えた総合的な意味を持つ。これらをひとまとめにして,もっと簡潔なタイトルはないかと考えてみよう。本文はJRの高架事業の機会をとらえて,空洞化した日向駅付近の中心市街地を活性化させようという計画の説明だ。それならズバリ「市街地空洞化対策」サプタイトルで「JR高架と一体となった日向市の取り組み」ではどうだろう。

その3
「六角川における河川緑化資材の検討」これは字数が少なくて簡明なのはよい。ところが緑化資材という聞き慣れない言葉に戸惑った。戸惑ったのは私の不勉強のせいかもしれない。建設省を退職して20年も経つのでよくわからないが,今の後輩達はこのような新しい術語の中で河川の植生はもとより,様々な分野の勉強をしているのだろう。そうだとすれば私の不明をお詫びするのみだが,このことを一時棚上げして話しを先へ進めさせていただきたい。タイトルを見て読者に「なんだこれは?」と考えさせれば,このタイトルはもう立派なキャッチコピーである。そういう意味ではこのタイトルは成功である。コピーのセンスでタイトルを考えるといろいろ楽しいアイデイアが浮かんくる。この論文は河川敷の植生から外来種を駆逐して在来種を保全しようという試みのようである。それならばうんと飛躍して「福は内,鬼は外 一在来種の保全を考慮した河川敷の植生一」なんていうのはどうだろう。すこしふざけ過ぎかな。

出版社の担当者は著者のアドバイザーとして著書のタイトルを真剣に考えるらしい。時には著者が尻込みするような過激なタイトルを提案して販売作戦を組み上げるとか。なにかの本の後書きで読んだことがある。本誌はまじめな学術雑誌?であるから,過激なタイトルやコピーはいらないかもしれないが,そのようなセンスでタイトルを考えると,執筆がもっと楽しくなるかもしれない。
あなた方のタイトルにケチをつけただけの駄文になったが,読者諸氏の旺盛な執筆欲にブレーキがかからなければ幸いである。

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