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矢部川水系星野川柳原(やなばる)地区の斜面崩壊対策について
寺本泰之

キーワード:斜面崩壊、河道閉塞、専門家による技術指導、緊急工事、監視観測体制

1.はじめに

九州地方における平成24 年の梅雨前線による豪雨は、九州北部を中心に記録的な大雨を降らせ、各地に大きな被害をもたらした。
特に、7 月3 日から14 日にかけて九州北部を襲った大雨では、福岡・熊本・大分の3 県で死者31 名、行方不明者3 名の人的被害が発生し、公共土木施設、農業・林業及び商工観光等の被害総額は約1,900 億円に上った。
福岡県八女市星野村においても、多くの河川が氾濫し大半の護岸が倒壊、河川沿いの人家が被害を被った。道路沿いの斜面は至る所で斜面崩壊、落石災害が発生し、特に大きなものでは、福岡県の管理である矢部川水系星野川の柳原地区において斜面崩壊が発生し、星野川の河道を閉塞する災害が発生した。
本稿では、今後の大規模土砂災害時対応の教訓とするため、九州北部豪雨により発生した柳原地区の斜面崩壊及び河道閉塞の被害状況と、防災や対策の状況、自治体連携等の九州地方整備局の取り組みについて報告する。

2.気象概要

九州北部を襲った7 月3 日及び11 日から14日に発生した豪雨は、時間雨量80 ミリを超える猛烈な雨が数時間継続する現象が熊本県と大分県を中心に九州北部各所で発生したことが特徴である。
柳原地区においても、7 月13 日12 時から14日12 時にかけての24 時間雨量が556 ミリに達し、最大時間雨量は96 ミリという猛烈な雨が観測された。住民からの情報によると、斜面崩壊の発生は7 月14 日の8 時頃であり、災害発生時までの連続雨量は416 ミリであった。

3.災害概要
1)災害状況
(1)斜面崩壊状況

斜面崩壊が発生した斜面は地すべり防止区域外である。斜面崩壊の規模は、空中写真及び現地測量の結果、斜面長約350m、幅約230m、深さ約20m 程度である。
また、斜面崩壊ブロック内の土塊は下方へ50m ほど水平移動している(写真ー1)。

(2)河道閉塞状況

斜面崩壊により星野川が一時的に完全に閉塞されダム湖が形成された。その後の河川の流下により一部解消されたものの、残された土砂により河床が5m 程度高くなり、上流域には水深5m 程度のせき止め湖が形成された。

2)被害想定

今後の再度災害発生の危険性が高く、斜面崩壊による移動土塊の到達範囲にある人家22 戸及び河道閉塞による湛水区域の人家33 戸、氾濫区域の人家122 戸の計177 戸の人家に被害発生の危険性がある状況であり、緊急に対策を行う必要があった。

4.初期の対応

7 月14 日に斜面崩壊及び河道閉塞が発生した翌15 日に防災ヘリ「はるかぜ」による現地調査を実施。7 月17日に土木研究所土砂管理グループ地すべりチームによる現地調査を実施し、技術的指導を受け、7 月20 日より福岡県が地盤伸縮計、河川水位計、レーザー距離計、傾斜計等を設置し、監視警戒体制をとるとともに、応急対策を実施した(写真ー2、写真ー3)。

その後、地すべり機構の解析を進める中で、対策については、河道断面確保のための末端部の掘削に当たり、二次災害が発生する危険性もあることから、上部の潜在的崩壊ブロックを含む斜面の状況を常時監視しながら迅速な対策実施が必要であり、高度な技術を要する事業であるとの判断から直轄砂防災害関連緊急事業を採択し、国により対応を行っている。

5.対策の検討

検討の場として土木研究所と九州地方整備局の職員により構成した「柳原地区地すべりマネージメント会議を発足し、想定した地すべり面の確認や安全度の評価の妥当性等を確認すると伴に、対策工法とその効果について迅速に検討が行える体制にした。

(1)地形・地質概要

当該地周辺の山系は一般に標高400m から600m 級であり、斜面崩壊の発生した柳原地区の標高は400m を上限とし、災害発生斜面は北東傾斜面で緩傾斜である。土地利用は主に茶畑として利用されている。北側斜面は地形図や空中写真判読から明瞭な古期の地すべりが数ブロック確認されており、そのうちの一つの下部において発生したものである(図ー2)。

当該地周辺の地質は中から古生代の三郡変成岩類が分布している。主な地質は、泥質片岩、砂質片岩、緑色片岩などであり、これらの地層は、その生成時代が古いことから多くの片理が発達し、且つ褶曲作用を受けて、多くの断層破砕帯などが存在することから地すべりや斜面崩壊が発生しやすい地層である。また、このような変成岩は、全国的にみると四国の中央構造線沿いに東西方向に分布しており、いわゆる中古生層地すべり地帯として有名な地層である(図ー3)。

(2)素因、誘因

素因としては、地質構造として基盤岩の上位に斜面上方から移動してきた古期崩積土、崩積土が厚く分布し、当該地の地すべり移動土塊を形成している。
誘因としては、連続雨量416 ミリ、時間雨量96 ミリの豪雨により、地すべりブロック内に大量の地表水が流入し、地すべり面に作用する間隙水圧を上昇させたことが考えられる。
地すべり範囲については、河道が閉塞状況となっており、早期に対策工に着手する必要があることから、土木研究所と伴に現地調査を行い、ボーリングデータ等から深さ約30m 付近の古期崩積土までを移動土塊と判断した。

(3)安定解析

現状安全率の考え方は、現在も活動中であり、動きが緩慢であることからFs = 0.98 と推定した。また、計画安全率の考え方は、地すべり末端部に人家及び県道八女香春線が存在し、保全対象の重要度が高いこと、且つ河道閉塞が懸念されることからFs = 1.20 と設定した。

(4)緊急対策、恒久対策

対策工については、降雨時に再度災害発生の危険性が高まることから、次回出水期までに行う緊急対策とその後実施する恒久対策の段階施工を行うことで災害防止の対応方針とした。
緊急対策としては、地すべりの誘因となる表面水を地すべり地に入れない、且つブロック内の地下水を上昇させない工法を検討し、仮排水工及び横ボーリング工を計画した。また、地すべり頭部の排土工を行い、河道内の暫定掘削工を行う計画とした。
恒久対策としては、地下水排除工として集水井工、排土工に伴う切土法面にアンカー工、最終的な安全率の確保として杭工を計画した。
なお、河道断面の復旧も併せて計画した。

6.緊急対策工事の実施

緊急対策工事として計画した仮排水工、横ボーリング工、頭部排土工、暫定河道掘削工について、地すべり挙動の監視及び工事段階での安全度に配慮しながら、平成25 年度の出水期までに緊急対策工事を完了することで、地すべりの安定化を図り河道掘削が可能な状態を確保し、暫定河道を完成させ、河道閉塞を解消した(写真ー4)。

7.危機管理の対応
1)地すべり監視体制

地元住民や工事関係者の危機管理として地すべり監視体制の確立を行う必要があることから、雨量、河川水位による気象情報の観測、レーザー及び地盤伸縮計による地表面の動きの観測及び頭部の孔内傾斜計による地中内の動きのリアルタイム観測を行うこととした。
また、リアルタイムの観測データをWEB 配信により常時パソコンで監視可能とするとともに、主要観測データに危険度の基準を設けることで、基準値をオーバーした場合、アラームメールが配信されるシステムを構築し迅速な対応を図る体制づくりを行った(図ー7)。

2)地すべり観測体制

地すべり機構解明のため、また、対策工の効果検証のために傾斜計及び地下水位計を設置し、定期的に観測を行い、経時変化の把握ができる環境とした。

8.平成25 年出水対応

平成25 年7 月3 日から4 日の降雨では、出水期間中に設定したアラーム基準値を越えるデータを観測したため、早急に現地調査等を実施することが出来た。具体の行動としては、12時34 分地盤伸縮計の動きが加速し、12 時39分にアラーム作動、同刻メール配信を受け12
時52 分に事務所による現地調査を開始した。このシステム構築により迅速な対応及び体制確保を行うことが出来た。
この降雨で、崩壊箇所の上方斜面において新たな地すべり滑動の顕在化が確認され、今後の豪雨により土砂災害が発生しないよう、緊急に対策を講じることとした。

9.まとめ

近年、集中豪雨が頻繁に発生することにより、土砂災害の発生の危険性は高くなっている。今後このような土砂災害の発生時には、今回の斜面崩壊への対応を教訓とし、迅速な災害時の対応を行うとともに、日頃より対応について準備を行っていく必要がある。
今回の執筆にあたり、貴重な資料や情報の提供を頂いた日鉄鉱コンサルタントの皆様に深く感謝申し上げる。

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