「九州の扇の要」細島港のストック効果と将来像
~東九州自動車道の開通と大手木材加工メーカーの進出~
~東九州自動車道の開通と大手木材加工メーカーの進出~
明比健一郎
キーワード:細島港、東九州自動車道、ストック効果、企業立地
1 細島港の概要
細島港は、宮崎県の北部に位置し日向・延岡地区を主たる背後圏とする重要港湾である。
旧来から商業港地区は、関東や関西方面との交易で栄えた天然の良港で、海上交通の要衝として発展してきた。
明治時代には、四国・阪神方面との間に定期航路が開設されて以来、港湾の利用が増加してきた。昭和26年に重要港湾の指定を受け、臨海工業地帯の造成や工業港地区における港湾整備が進められた。昭和39年に日向・延岡地区新産業都市の指定を受け、地域産業を支える物流基盤として発展してきた。
平成5年に、県内初の定期コンテナ航路が釜山との間で就航されて以来、現在では、韓国や中国、神戸に8 航路が開設されている。平成13年には大阪との間にRORO船の定期航路が開設され、平成18年には東京航路が開設されている。
現在の港湾整備は、平成9年の細島港港湾計画(改訂)を基に、国土交通省九州地方整備局宮崎港湾・空港整備事務所と連携して行っている。外港地区の北、南沖防波堤は、港内静穏度の向上や長周期波の低減等を図るための防波堤として整備中であり、防波堤の延伸とともに、荷役障害が徐々に改善され、安全な荷役が可能となり、利便性が向上している
また、増加するコンテナ化に対応するため、水深13mの大型岸壁、ガントリークレーンを有する「国際コンテナターミナル」を整備し、平成12年8月に供用を開始している。
その後、さらにコンテナの増加に対応するため、コンテナヤードの拡充、2機目のガントリークレーンの整備を行ってきた。
平成22年には、国土交通省から重点港湾に選定され、その後の木材の需要等に対応するため、平成23年には、コンテナターミナルの対岸に「国際物流ターミナル」の建設に着手、平成27年3月には新たな水深13m岸壁やふ頭用地の整備を終え、同年6月に供用を開始した。
これまで、コンテナターミナルにおいて、バルク貨物が混在して取り扱われていたが、物流ターミナルの整備よりコンテナとバルク貨物が分離され、効率的な荷役が可能となるため、物流コストの縮減やヤードの効率的な利用が可能となり、新たな取扱い貨物の増加も期待されている。
このように、細島港は東九州地域の物流拠点として着実に発展しており、国際コンテナ航路の充実や外航クルーズ船の誘致、災害対応力の強化にも積極的に取り組み、さらなる機能強化を図っている。
2 「九州の扇の要」に位置する細島港と東九州自動車道の整備効果による企業立地
宮崎県は、九州東岸に位置し、海路では九州から首都圏、中部圏に最も近く、関西圏についてもアクセスしやすい位置にあるという地理的特性がある。
また、細島港を扇の軸として扇子を開くと九州が入るように弧を描くこととなり、九州県域が細島港から同じ半径の中に入ることから、細島港の地理的な位置付けを「九州の扇の要」としてきた。その扇の骨となるのが道路網であり、東九州自動車道や九州中央自動車道になる。
その宮崎県民の悲願であった東九州自動車道は、平成27年3月に大分県の佐伯と蒲江間が開通したことにより、宮崎市から大分市までが開通し、さらに、九州中央自動車道(九州横断自動車道延岡線)の整備が着々と進んでいることから、県内はもとより大分や熊本方面とアクセスが大きく改善されている。
このような細島港の港湾整備と高速道路網の整備の成果が、平成25年に国内最大手の木材加工会社である中国木材㈱が白浜地区の国際物流ターミナルの背後に進出することに結びつくこととなった。その後、急ピッチで工場の建設が進められ、平成27年6月6日には、日向工場第一期工事が完成し式典が行われた。今後、第2期工事等が予定されている。
3 国土交通省で紹介された細島港と東九州自動車の整備によるストック効果
この港湾と高速道路のインフラ効果は、さらに宮崎県産材などの国産木材を中国や台湾に向けた輸出を増加させ、木材価格の上昇につながり、低迷していた地域の林業を再生するというストック効果を生み出している。輸出量と木材価格の上昇は、この2年で2倍程度となっている。
国土交通省が今年4月に、くらしと経済を支えるインフラのストック効果の13箇所の事例を紹介しているが、この細島港と東九州自動車道の事例もこの中に含まれている。
4 ストック効果を活かす細島港が目指す将来像
東九州地域は、高速道路網の整備効果で飛躍の時を迎えている。細島港は、現在、木材関連の産業が立地し、さらに活性化している。しかし、細島港のポテンシャルは、それに留まることはない。旭化成の関連企業や東ソー日向、日向製錬所等の世界最先端の技術力を有する企業や、国内産業で重要な役割を果たしている企業が細島港に集積している。このような細島港の周辺の産業や企業を港湾機能でしっかり下支えする必要がある。
細島港は現在の港湾計画の基に整備を進めてきているが、その主要な施設が着々と進められ、すでに目標としていた平成20年前半に達している。このため、平成24年度から長期構想委員会を立ち上げ細島港の将来計画の検討を行っている。
現在、第3回の委員会を終え、細島港の課題を整理している。
課題としては、まず、細島港に建設された岸壁の最大水深は、13mで標準対応船舶は4万DWトンとなっているが、それ以上の貨物船が吃水調整を行いながらも入港しており、さらにバルク船の大型化が世界的に進んでいることから、新たな大型岸壁への対応が求められていることが上げられる。
また、企業立地が進み、港周辺の工業用地がほぼ残り少なくなっていることから、新たな用地造成が必要な状況になっている。
さらに、南海トラフ大地震等に備えた防災拠点づくりや、豊かな地域資源を生かした交流拠点づくりなどの安全・安心、交流・環境の面からも新たな課題に対応した取り組みが必要となっている。
このような課題に対応するため、平成40年代前半を目標に港湾計画の改訂作業を行っている。工業用地造成やさらに深い大水深岸壁をはじめ、防災対応やクルーズ船の誘致や小型船だまり計画など賑わいのある親水空間の創出を含んだ港湾計画策定に向けて取り組んでいる。
5 終わりに
細島港は、今、日向市の地元の方から「宝の港」と言われている。これまでの半世紀以上に及ぶ細島港に関わる利用者や関係機関等のご尽力で、日向市民や県民から期待される港に成長している。細島港が「九州の扇の要」としての「東九州の物流拠点」としてさらに発展し、次世代の港として対応ができるよう大水深の岸壁や土地造成等からなる港湾計画を早期に策定したいと考えている。
これからも地元の産業を支える港として、地域活性化に寄与できるよう港湾整備に取り組んでいきたい。