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筑豊烏尾トンネルの工事施工報告と
CIM試行の取り組みに関する考察
二口卓史

キーワード:NATM、発破騒音振動対策、CIM試行

1.はじめに
筑豊烏尾トンネルは、国道201号飯塚庄内田川バイパス事業の一環として構築した延長約1.5㎞の道路トンネルである(図-1参照)。

飯塚庄内田川バイパス事業は、福岡都市圏と京築地域とを東西に結ぶ国道201号の慢性的な渋滞解消のため整備を進めている。計画された4車線のうち、筑豊烏尾トンネルの上り線トンネルを含め平成20年度までに全線を暫定2車線で供用開始している。しかし、未だに交通渋滞が解消していないため、引き続き起点側から4車線化を進めているところである。
本稿では、4車線化に向け整備中である下り線側(2期線)トンネルの施工時における留意点と、本トンネルの一部を対象に試行実施したCIM(Construction Information Modeling/Management)について実施内容と考察を述べる。

2.工事概要
今回施工した下り線側(2期線)トンネルは、糸田町側坑口から約950mを糸田工区、また飯塚市側坑口から約580mを飯塚工区として工区割りし発注した(図-2参照)。

各工区の工事概要を以下に示す。
(1)糸田工区
・工事名:福岡201号筑豊烏尾トンネル(糸田工区)新設工事
・発注者:国土交通省 九州地方整備局
・施工者:前田建設工業株式会社 九州支店
・施工場所:福岡県飯塚市多田地内~福岡県田川郡糸田町馬取谷地内
・工期:平成26年1月8日~平成28年3月31日(814日間)
・工事内容:工事延長 949m トンネル掘削工 933m CⅡ 626m DⅠ 236m DⅢ 71m 掘削補助工(AGF等)198m トンネル覆工 911m インバート工 331m 坑門工(竹割式)1式 地盤改良工(MITS)370本 残土搬出量 84,399m3

(2)飯塚工区
・工事名:福岡201号筑豊烏尾トンネル(飯塚工区)新設工事
・発注者:国土交通省 九州地方整備局
・施工者:株式会社鴻池組 九州支店
・施工場所:福岡県飯塚市多田地内
・工期:平成26年8月29日~平成28年3月31日(580日間)
・工事内容:工事延長 581m トンネル掘削工 569m CⅠ 82m CⅡ 385m DⅠ 20m DⅢ 71m トンネル覆工 603m インバート工 106m 坑門工(面壁式) 1式 残土搬出量 45,210m3

3.本トンネルの特徴
(1)地形・地質概要
本トンネル計画地は、福岡県飯塚市と同県田川郡糸田町の境界にあり、飯塚市役所から東に4㎞、田川市役所から西に4㎞、糸田町役場から南西に2㎞の地点に位置し、筑豊盆地の中心付近にあたる。
トンネルの南側に位置する標高359mの関の山を主峰とする南北方向へ連なる山体をほぼ東西方向に貫くルートで計画されており、トンネル計画地の標高は最大で295m、最大土被りは220m程度である。
起点側坑口部は北側にため池があり、トンネル軸線と北側斜面(地形勾配約40°)との位置関係は斜面平行型で、トンネルに対して南側からの偏圧地形を呈している。
終点側坑口部は緩やかな斜面(地形勾配10°~12°)を呈し、トンネル軸線との位置関係は斜面直交型である(図-3参照)。

本トンネル部の地質は、中生代の「花崗岩」、古生代の変成岩である「緑色岩」、古生代の堆積岩である「砂岩、粘板岩、チャート、石灰岩」で構成されている(図-4参照)。

特に留意すべき地質として、終点側坑口部に分布する石灰岩は地表から6~8m 程度の深さまでは粘土化した軟弱な強風化部(N 値3~9)が分布し、その下位には新鮮部と粘土部が混在する風化部が分布しており、既設の上り線トンネル施工において坑口付け時に斜面崩壊が発生している。
また、終点側坑口から約200m地点より坑奥に分布するチャートは強い風化の影響を受け、土砂状の地山を呈しており、既設の上り線トンネル施工においてNO.132+14.1地点で天端崩落が発生している。

(2)既設の上り線トンネル
今回のトンネル設計・施工にあたっては、既に供用開始している上り線側(1期線)トンネル施工時における実績を参考としている。調査用ボーリング結果による推測ではなく、実際の掘削データであるため非常に有意義なデータである。
坑口部の地盤改良(MITS工法)、沈下対策のウィングリブ鋼製支保工、掘削補助工の先受工法(パノラマ工法)の採用など、主に糸田工区側坑口の低土被り区間における工法設計の段階から、当時の切羽写真や切羽観察簿、A計測結果など施工時においてもひとつの拠り所とし施工を進めることができた。

4.課題と対策について
(1)糸田工区
測点No.134+3.0 ~ 135+18.0(図-5参照)において、未固結土砂状の強風化粘板岩が露出し、想定以上の変位に伴う変状が発生した(写真- 1、2 参照)。

これら変状に対し対策を実施したが、即時の変位収束に至らず、最終的には当該区間において縫い返し施工を実施するに至った。その経緯を以下にまとめる。

ア.事前予測検討
当該区間においては、前述のとおり既設の上り線トンネル工事において高さ8mにおよぶ大規模な崩落が発生した前歴がある。それを受け、既往ボーリングデータの物性値を使用してFEM解析を実施し、発生変位量の予測と計測工の管理基準値の再設定を行っていた(図-6参照)。
また、切羽前方探査ボーリングを実施し、未固結土砂の出現位置を把握した(写真-3参照)。

イ.変状対策工
施工中の変位量(図-7参照)測定結果に応じて以下の対策工を実施した。
①計測管理体制強化計測間隔10m(標準:20m間隔)、計測頻度1回/6時間(標準:2回/日)として強化した。
②補強プレート(t=20㎜)および補強ロックボルト
③早期閉合(インバート吹付コンクリート)

また、これらの対策に加え補助工法として先受けパノラマ工法、鏡ボルト工法、ウィングリブ鋼製支保工を採用して掘削を行った。その結果、インバート吹付コンクリートによる早期閉合後、変位は収束し大規模な地山崩落を防止したものの、覆工の巻厚が不足する事態となったため、縫い返しを実施するに至った(写真-4参照)。

ウ.変状に関する考察
施工計画時点において知り得る情報を用いて検討し、計測管理の強化のもと対策工を実施したが、予想を上回る変位が発生した。その要因として、以下のことが考えられる。
①露出した強風化粘板岩は切羽鏡面が自立できないほど劣悪で、掘削による緩みはFEM解析結果より範囲が広大であり、ロックボルトより外側まで及んでいた。
②土被りは35m程度あったものの、当該区間の地表面沈下量も21㎜発生していることから、緩み領域は2D(D: 掘削径12.5m)以上であり、山自体が脆弱な地質状態であったことが、大きな変位発生の要因となった。
このように、既設の上り線施工時において崩落した前歴を受け、想定される範囲で事前に対策を考えて臨みながら、結果として想定を上回る変位が生じた訳であるが、事前の情報がなければさらに深刻な状況に陥った可能性を考えれば、既設の上り線施工データの存在は有意義であったと言える。

(2)飯塚工区
一方、飯塚市側の起点側坑口付近には老人ホームや民家が近接しており、トンネル掘削時における発破や仮設備の稼動、工事用車輌の通行などによって発生する騒音、振動、粉塵など周辺地域への環境影響が懸念された。
トンネル坑口に最も近接する老人ホームは直線距離で約80m、集落は坑口から200m以上離れているものの仮設備ヤードは約20m とかなり近接していたため、これらが周辺地域に与える環境影響を低減することが課題であった(図-8参照)。

ア.発破による環境影響の低減
当初計画ではトンネルは発破を用いた掘削方式となっていた。そこで、騒音、振動、粉塵対策として4つの対策を実施した。
①発破作業位置を対象物から遠ざけることを目的として、坑口から約200mを発破掘削から機械掘削に変更した。これにより、騒音を26dB、低周波音を14dB低減した。
②発破段当りの薬量低減を目的として標準の発破方法に替え、導火管付き雷管を用いた多段制御発破を採用した。これにより、振動を5dB低減した。
③発破によって発生した騒音、低周波をトンネル外部に出さないことを目的として、坑口に防音扉を3基追加設置し計4基とした(写真-5参照)。これにより、騒音を78dB、低周波音63dB低減した。

④騒音、粉塵を仮設ヤード外部に出さないことを目的として、ヤード周囲に遮音壁(H=6.0m)を設置した(写真-6参照)。これにより、騒音を13dB低減するとともに、近隣集落への粉塵の拡散を防止した。

イ.環境影響低減策の効果測定
坑口部と老人ホームの間に常時、騒音・振動を計測する機械を設置して観測した(写真-7、図-9参照)。

発破時における振動騒音観測結果は、騒音は暗騒音以下、振動は最大46dB(人は揺れを感じないレベル)となり、老人ホームのほか周辺地域への環境影響を大幅に低減することができた(表-1参照)。

以上のように、様々な対策により周辺地域に与える環境影響を低減できた。また、工事期間中は周辺住民の方々への説明会や、見学会、工事進捗状況のお知らせなどを通じて工事への理解を深めることによって、近隣集落からの苦情・トラブルも無く無事に完成を迎えることができた。なお、今回実施したこれらの対策については発注時における施工者側からの技術提案に基づく内容を含むことを申し添える。

5.CIM 試行の取り組みと活用に関する考察
平成24年度から、各地方整備局において試行的にCIMを導入し、その効果の検証や課題の抽出を行う「CIM試行業務」や「CIM試行工事」が実施されている。平成24年度には11件の詳細設計業務においてCIM試行業務を実施し、そのうち6件をCIM試行工事(指定型)として試行が進められている。本トンネルもCIM 試行工事(指定型)として約2年間の施工期間においてCIMモデルを作成し試行を実施した(図-10参照)。平成28年3月31日に工事完成を迎え、CIMデータの納品までの一連の取り組みについて報告するとともに、今後の活用に向けた考察について述べる。

(1)現場概要とCIM試行について
本工事は、既設の上り線トンネルに併行して下り線トンネルを新設するものであり、詳細設計段階における3次元データを施工に引き継ぎCIM試行を実施している(表-2参照)。

今回の試行は、新設トンネルの糸田工区949mと既設の上り線トンネルの全延長1,544mをCIMモデルの対象とし、施工中の切羽観察結果、A計測結果、各種品質管理帳票をモデルに逐次付加しながら施工を進めた(図-10、11、12、13 参照)。

(2)CIMデータの活用と成果納品形式
ア.施工時における活用
既設の上り線トンネル工事における大規模崩落を踏まえ、発生変位量の予測を行うため、既往ボーリングデータの物性値を使用してFEM 解析を実施し、計測工の管理基準値設定を行っているが、その際にあらかじめ作成していた3Dモデルを用いることによってより現状に即した管理基準値の設定が可能となった(図-14参照)。

イ.工事検査での活用
工事検査において、CIM試行実施のとりまとめ成果を説明する際、CIMデータをモニターに映し出し、箱抜形状などの確認を行った。
また、A計測の計測結果、切羽観察簿のデータなど施工履歴を瞬時に示すことが出来た。

ウ.成果納品について
従来の電子納品に加え、CIMモデルとCIMモデルに付随されている情報をツリー形式にまとめて納品いただいた。データの納品にはCIMモデルだけでなく,PCやソフトウェアの推奨スペックや推奨ソフトウェアを提示するとともに、CIMモデルの操作説明書を添付していただいた。

(3)CIM試行に関する考察
今回の取り組みにおいて、設計段階から引き継いだ3次元データに加えて、既設トンネル(上り線)の施工データもCIMに取り込んだ。それにより、様々なデータを俯瞰して確認することができるとともに、実施工において気付きが生まれ、施工を安全に確実に進めることができるなどメリットが感じられた。
また、CIMモデルには施工時の様々な情報が紐付けされ、データの活用先として最有力な管理面においてパッケージとして引き渡しが可能となることで、管理の効率化・高度化につながる。しかしながら、現状においてはソフトウェアやハードウェアの汎用性・コストなど運用面における課題が残る。
今回試行したCIMや情報化施工などICT技術を統合し一体的に推進する取り組みであるi-Constructionの流れが今後加速し、CIM の重要性はさらに高まっていくものと思われる。現在は手探り状態であるが、今後さらに試行を重ね、かつて手描きしていた設計図面が徐々にCAD化され浸透していったようにCIM が一般化し、建設現場の効率化に繋がることが期待される。

6.おわりに
飯塚庄内田川バイパス沿線地域の人口は減少傾向にあるが、一世帯あたり自動車保有台数は福岡県や九州全体を上回っており、自動車交通への依存は高い。また、平成20年度全線暫定開通後も交通量は徐々に増加している状況である。
飯塚庄内田川バイパスが完成すれば、交通容量の増加により旅行速度の向上が見込まれ、渋滞解消はもちろんのこと、安全性の向上や地域産業の発展の後押しとなることは言うまでも無い。
筑豊烏尾トンネルの本体工事は平成28年3月に完成を迎えたが、今後トンネル内の防災設備や舗装工事などを進め、平成29 年度に飯塚庄内田川バイパスが全線で4車線化することを目標としている。
全線完成まであと2年足らずとなったが、地元周辺地域並びに関係機関の皆様との協調のもと、引き続き安全第一で工事を進めて参りたい。
最後に、本稿の執筆にあたって貴重な資料や情報を提供頂いた施工者である前田建設工業株式会社九州支店並びに株式会社鴻池組九州支店の工事関係者の皆様に感謝の意を表す。

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