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椿山トンネル工事報告~CIMを活用したトンネル施工について~
沓掛孝

キーワード:CIM、椿山トンネル、坑内変位、4次元モデル

1.東九州自動車道の概要
東九州自動車道は、北九州市を起点とし、大分市、宮崎市を経由して鹿児島市に至る延長436キロの高規格幹線道路である。
今年4月に椎田南~豊前が開通し、北九州市から宮崎市までが高速道路で結ばれ、鹿児島県内の開通区間とあわせて全体計画の約8割が開通。
宮崎市(清武JCT)から日南市((仮)日南ICは、事業中。日南ICから油津IC、夏井ICから志布志ICは、平成28年度より事業化区間として事業に取り組むこととしている。

2.椿山トンネルの概要
椿山トンネルは、清武JCT~北郷IC間12本のトンネルのうち、宮崎市域に計画された延長1,100mのトンネルである。
トンネルの地質は日南層群の砂岩頁岩互層を主体とし、断層・破砕部や硬質岩塊と破砕性岩が混在する複雑な地質構成を呈していた。特に貫通側坑口部は小土かぶり区間が110mと長く、崖錐堆積物が砂岩頁岩互層を覆い、その岩種境界付近にて地すべりが想定され、トンネル掘削に伴う大きな変位が懸念されていたことから、各種の計測結果を速やかに評価し、それに応じた迅速な対策が必要とされた。

3.椿山トンネルにおけるCIMの取組
CIM(Construction Information Modeling/ Management)は、計画・調査・設計段階から3次元プロダクトモデルを導入し、施工、維持管理の各段階においても3次元モデルに連携・発展させ、あわせて事業全体にわたる関係者間で情報を共有することで、設計、施工段階のさまざまな検討を可能とするとともに、一連の建設生産システムの効率化・高度化を図るもので、国土交通省では、平成24年度より導入検討とモデル事業における試行を開始している。
なお、椿山トンネルでは、CIMによる3次元モデルに施工記録を取り込み管理するシステムを構築しているが、さらに切羽前方探査や計測結果を速やかに取り込み、掘削前に切羽前方地山の最適な支保パターンを予測することに取り組んでいる。

4.計測結果のモデル化と時間要素の追加(4次元モデル)
地すべりや大きな変位が懸念された貫通側坑口部では、坑内A計測および地表面沈下計測(10m間隔)に加え、地中傾斜計による地すべり計測(2測点)を実施した。計測結果は各種情報と関連付けて評価できるようにCIMを用いて一元管理を実施した。貫通側坑口部における計測工配置図を下記に示す(図-6)。

3Dモデル化した各種の計測結果を下記に示す(図-7)。それぞれの計測モデルに属性情報として計測した時刻を付け加え、3次元のモデルに時間要素を加えた4次元モデルとした。
さらに、トンネルモデルに掘削した日時の情報を加えることで、掘進していくトンネル切羽と全体の変位傾向を関連させて見える化した。
地表面沈下計測と坑内A計測の4次元モデルを示す(図-8)。

5.貫通側坑口部における計測結果の評価手法と対応策の検討
5-1傾斜計モデルによる地すべり挙動の評価
地すべり挙動を把握するため、CIMにより傾斜計モデルとトンネルモデルをあわせて表現し、トンネル掘削の進捗に伴う傾斜計の変位を見える化した(図-9)。

その結果、傾斜計の挙動はトンネル掘削の進行やそれにともなう地表面沈下と連動しているが、想定地すべり方向への挙動は見られなかったことから、特に地すべり対策工は必要ないと判断することができた。

5-2坑内変位の評価と最適な工法の採用
貫通側坑口部は、偏圧地形を呈しており、特に砂岩頁岩互層(破砕部)から崖錐層への地質変化付近では、トンネル掘削にともない地表面やトンネル天端の大きな沈下や崩落が懸念されていた。
本工事では、切羽前方地山の地質状況を詳細に把握するために、ノンコア削孔による切羽前方探査技術(トンネルナビ)と水平コアボーリング(PSワイヤラインサンプリング工法)を実施し、それらの結果をCIMに取り込み前方探査モデルとして表現した。これにより、貫通側坑口部においても、地質の変化点を高い精度で事前に把握することができた(図-10)。

今回、前方探査モデルと時間要素を持たせた地表面沈下および坑内A計測モデルをあわせて表示することで、地質変化点前後の変位の経時変化をわかりやすく表現でき、予測された挙動を示しているかを評価することができた。その結果、砂岩頁岩互層(破砕部)において左脚部に偏った沈下が確認され、その後崖錐層区間に入ると地表面、坑内のとも下がりへと変化して、変位が増大していくことが予測できた(図-11)。

これにより、工事関係者は、地質状況や変位状況の情報共有や最適な支保検討が可能となり、早期に対策工を検討することができた。
実際の対策工として、偏圧を受けて左脚部に偏った沈下を生じた区間には、左脚部に追加したロックボルトと補強パイル(L=3.5m)を実施した。崖錐層に変わり、とも下がりにより変位が増大した区間には、両脚部への補強パイル(L=6.5m)と、吹付コンクリートによる上半部の仮閉合を実施した。

6.坑口地形の3Dスキャン及びCIMへの適用
貫通点付近は、崖錐土に砂岩の岩塊が露出する複雑な地形となっており、従来の横断測量による2次元の表現では、地形の状況を正確に把握することが困難であった。このため、貫通側坑口部の現地盤を3Dスキャナで測量し、点群データをCIMに取り込みモデル化した(図-12)。加えて、事前に施工されていた垂直縫地ボルトと長尺先受工の補助工法をモデル化した(図-13)。
これにより、貫通点付近の地形とトンネル構造を詳細にイメージすることができ、補助工法の延長や仕様について適切に選定し、それぞれの補助工法が互いに干渉することなく施工することができた。

7.CIM活用の効果
従来の2次元モデルによる表現(断面図、縦断図、計測グラフ等)から、CIMによる3次元モデル表現(一元管理)を行うことにより、さまざまな施工情報が見える化され、工事関係者が理解しやすくなった。
今回、CIMに統合した計測結果に属性情報として時間要素を加えて4次元モデルとすることで、変位量のデータをトンネル掘削の進捗と関連させてイメージしやすくなった。その結果、工事関係者の情報共有やイメージが明確になり、補助工法の施工時期や工法について最適な選択をすることができるなど、4次元モデルによる管理の有効性を確認することができた。また、3Dスキャナを利用した詳細な3 次元地山形状モデルを作成できる技術により、計画的な施工が実施できることも確認することができた。
現場からは、「地形・地層、切羽写真・計測データなど多くの情報を一度に見ながら施工を進められるようになり、切羽判定におけるパターン選定の「重要な指標」として活用している。」また、「施工管理や各種管理の判断基準として活用しているため、トンネル工事の経験が浅い若手職員の施工管理教育にも利用している。」といった声も聞かれ、当初想定されたCIM施工の効果も検証することができた。

8.おわりに
今回の執筆にあたり、貴重な資料や情報の提供をいただいた施工者である(株)大林組の工事関係者の皆様に感謝の意を表します。

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