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筑後川河川事務所 新庁舎の設計について
九州地方整備局 江口慎治
 
1 筑後川河川事務所建て替えの経緯

筑後川河川事務所は、筑後川及び矢部川の直轄管理区間の改修、維持修繕、環境保全を実施している九州地方整備局の出先機関です。
当事務所庁舎は、昭和38年に建設され45年経過した旧庁舎を、老朽化及び耐震強度不足を解消し、災害時の災害対策の指揮、情報伝達のための防災拠点としての機能強化を図るため、平成18年度から新庁舎の建て替えに着手し、昨年12月末に完成したものです。
 <新庁舎概要>
  【建設地】久留米市高野1-2-1
  【構 造】鉄筋コンクリート造4階建
  【延べ面積】6,446.04㎡
2 新庁舎の設計について
(a)設計コンセプト
○高機能→日常機能のみならず、災害時に防災拠点機能を発揮する庁舎
○安全・安心→災害に強く、安全で快適な庁舎
○長寿命→LCCの縮減に考慮した、長寿命の庁舎
○配置計画→敷地の高低差を利用することで、効率的な配置の実現
○環境負荷低減対策→太陽光発電の採用、南面日除けや氷蓄熱空調設備を設けることで
 空調負荷を低減、雨水再利用、地下水利用、屋上緑化、自然採光や通風の有効利用

(b)川を感じ、敷地高低差を生かした配置計画
敷地の東西方向に庁舎を配置し、より川に近い位置に川と対面する形で配置することで、庁舎からいつでも川を望み、川の変化を目で確認できるプランとしています。
また、本施設の地域は都市計画法の市街化調整区域に指定され、建物の最高高さを制限している区域であります。このため建物高さの抑制を、高さの異なる敷地形状を利用し、低い方の敷地面に建てることで、高さの問題を解消し、さらに来庁者の国道3号線から南側敷地(高い敷地)を経由する利用動線と職員による北側敷地(低い敷地)からの利用動線の分離を図るなど、利用者の円滑な利便性に資することを可能としました。<図a・b・c>


<図a> 配置計画プランイメージ


<図b> 敷地断面イメージ


<図c> 庁舎内外部の断面イメージ


平面計画においても、高い敷地面と同レベルを2階部分とし、この2階部分をメインアプローチとしたエントランスを配置し、各所への誘導の円滑化を図り、また低い敷地面と同レベルにある1階部分の主用途は車庫としているため、業務用の車両と一般来庁者の動線分離により安全・円滑な車両誘導を実現することができました。<図d・e>
なお、建物内部のゾーンレイアウトについては、執務ゾーンを南側にまとめ、北側に階段、エレベーター、トイレなどのコアを配置した平面構成としたことで南側の執務ゾーンは、明るく川が望める快適な環境となり、機能的な平面計画を実現しています。<図f>


<図d> 施設断面イメージ


<図e> 敷地内動線計画イメージ


<図f> 平面計画プランイメージ

(c)安全なくらしを支える施設
当事務所は、洪水及び震災などの災害時に防災活動拠点となることから、災害に強い施設とするため、地震に対して十分な構造耐力を備え、また、公共ライフラインが寸断しても、業務の継続性を維持できる機能を有しています。旧庁舎と比較した場合、災害時の復旧・支援活動、情報収集が迅速かつ的確に行える、より有効な災害対策スペースの確保、情報機器の集約化による円滑な防災・災害対策の指揮を行う機能的な施設となりました。

(d)環境に配慮した庁舎
建物の東西方向の配置やバルコニーの設置による日射量の制御、屋上緑化による屋根面の断熱性能を高めることで、空調負荷の低減を図っています。
また自然採光や自然通風が可能な平面計画やソーラーチムニー・太陽光発電・雨水再利用・地下水利用などの自然エネルギーの積極的活用をはじめ、電灯設備では、高効率(Hf)型照明器具の採用や人感・照度センサーによる制御、空気調和設備では各室の使用状況に応じた個別空調設備の採用により消費エネルギーの縮減を図るなど、地球にやさしい庁舎設計としています。

(e)長寿命庁舎の実現
防災拠点施設のため、耐震性を備える構造体の強度は通常の建物の保有水平耐力の1.25倍、さらに単純ラーメンフレームによりバランスのよい構造計画としているため、地震に強い耐久性のある施設としています。また内部の執務ゾーンは、大部屋方式によって構成し、OAフロアー、乾式間仕切り壁の採用で、将来的な機能の変更にも柔軟に対応可能です。さらに内装・設備のモジュール化、ユニット化により、点検、補修、更新性を高めるとともに、機能性、耐久性の高い材料を選定することで、メンテナンスしやすく、長寿命の庁舎となるために配慮しています。<図g>


<図g> 内部執務ゾーンの多様構成イメージ

(f)ユニバーサルデザインの実践
誰もが障害なく利用できる施設とするため、段差の解消、通路幅等の規格遵守、トイレ、エレベーター設備の対応、誘導設備の設置など、公共施設として配慮した整備としています。

(g)ランニングコストの縮減
新庁舎では、ソーラーチムニー、電動給気スリットシステム、太陽光発電、氷蓄熱空調設備、雨水利用、地下水利用等を採用しました。各設備の概要は以下のとおりです。
ソーラーチムニーは、庁舎中央部付近に1階から屋上まで縦に通風スペースを確保し、外部建具からの外気取り入れによる通風効果により、空気調和設備の年間稼働期間の短縮と空調負荷の低減を図っています。この際、外部建具に組み込んだ通風装置として、内外気温度を感知し、自動制御により外気を取り入れる電動給気スリットシステムを採用しています。
太陽光発電は発電量20kvAの設備により、発電した電力を庁舎内の空気調和設備、換気設備等の動力設備に供給しています。
氷蓄熱空調設備は、通常電力料金よりも安価な夜間の電力(業務用蓄熱調整契約)を使い、夏は「氷」、冬は「お湯」を作りエネルギーを蓄えて、昼間の冷房・暖房に利用するもので、これにより熱源機器の容量や契約電力も小さくしています。
雨水利用及び地下水利用は、庁舎に降った雨や井水を地下貯留槽に溜め、その後濾過を施した雨水・地下水を2次用水として、トイレの洗浄水や植栽の潅水に利用しています。そのほか、南側バルコニー上部に日射遮蔽ルーバー(日除け)を設けることで、室内への日射の制御を図り、空調効率を高める工夫も図っています。<図h>


<図h> 自然エネルギー活用のイメージ

3 新庁舎機能の特色について
(a)ソーラーチムニー
自動自然換気設備(ソーラーチムニー:太陽の煙突)は、「換気」「採光」「暖気の回収」の機能を有している設備です。通常空気調和設備の稼働期間は、夏7月~9月、冬12月~2月であり、その他は未稼働期となる中間期ですが、自動制御で屋外と室内気温の温度差を感知し、建物内部への給気(外気)の取り込み調整する、電動給気スリットシステムとソーラーチムニーの効果により、空気調和設備の稼働時間の短縮と負荷を抑えることが可能です。<写真a>


<写真a:屋上部分ソーラーチムニー>

(b)日射遮蔽ルーバー
バルコニー手摺り上部に設置した、日除け(日射遮蔽ルーバー)は、夏場と冬場の太陽高度の違いに着目し、夏場に執務室に入る日射を遮り、冬場はルーバーを通して日射を取り込むことで、空気調和設備の負荷低減を図る設備です。<写真b>


<写真b:日射遮蔽ルーバー>

(c)太陽光発電システム、屋上緑化
いずれも「温室効果ガス排出抑制の政府実行計画」に基づき、庁舎屋上に設置している設備です。太陽光発電は、今では珍しくはありませんが、本庁舎において、面積134㎡の太陽光パネルにより、最大20kvAを発電します。発電した電力は受変電設備に取り込み、庁舎内の空気調和設備等の動力設備として有効活用を図っています。
 屋上緑化は、ヒートアイランド現象の抑制、熱負荷の低減、緑化推進のための設備でありますが、本庁舎の効果としては、屋根面の熱負荷の低減を図っており、屋上部分約400㎡に軽量人工土壌と芝生敷きにより施工しています。<写真c・d>


<写真c:太陽光発電設備>


<写真d:屋上緑化>

4 最後に

九州地方整備局の直轄庁舎においては、災害から国民の生命財産を守るための防災及び復旧・支援活動拠点としての機能を有する整備計画と併せて、社会的要請である、地球温暖化抑制のための環境負荷の低減に対応する必要があります。どこでも起こり得る大地震に加え、地球温暖化によるゲリラ的な豪雨災害が各地で発生している中、安心・安全な地域の生活のための支援機能として、また、地球にやさしい庁舎を目指し、今後とも整備を進めて行きたいと思います。


<H20年12月末現在外観写真>

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