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筑後川排水機場群機能高度化事業(リファイン)

国土交通省 筑後川工事事務所
 機械課 専門職
鹿 毛 英 樹

国土交通省 筑後川工事事務所
機械課 係長
南 嶋 哲 郎

1 はじめに
筑後川の中下流域は,干拓底平地で支川が多く,日本一の干満差(約6m)を有する有明海の潮汐の影響を強く受ける内水被害常襲地帯であるため,昭和20年代から全国に先駆けて排水機場による内水排除が行われてきた。
現在,筑後川工事事務所にて管理する排水機場は,図ー1に示すように21機場もあり,その内11機場が昭和20年~30年代に建設されたもので,経過年数は40年~50年と老朽化が進み,信頼性が著しく低下している。
また,内水氾濫域では,産業基盤の整備や宅地化の進展により飛躍的に資産が増大し,排水機場の運転障害や操作遅れなどは絶対的に許されない状況となっている。
このため,老朽化の著しい排水機場群を計画的な更新と併せて,最新技術の導入,IT活用による管理の高度化,コスト縮減など総合的な観点から機能高度化(リファイン)すべく特定構造物改築事業にて実施することとした。

2 事業概要
(1)筑後川排水機場群の現状
老朽化の著しい排水機場群の現状と問題点を以下に示す。
① 機器の老朽化
主ポンプ,エンジンなどの主要機器が,既に耐用年数(40年)を超過しており,信頼性が著しく低下している。
写真一1に老朽化した大刀洗排水機場を示す。

② 現行技術基準に不適合
現在の揚排水ポンプ設備技術基準(案)および設計指針(案)に照らし合わせると満足していない点が多々あり,そのことによる操作上の不具合が頻発し,維持管理費も割高となっている。
以下に代表例を示す。
 a 主ポンプ駆動にモータを使用
排水機場での主ポンプ駆動装置は,停電時でも稼働できるように内燃機関を原則としているが,モータ駆動の排水機場が4機場も有り,危機管理上十分とはいえない。
また,年間電力料は,内燃機関と比較して約8倍も高価である。
 b 各種冷却水に河川水を使用
各種冷却水は,清水循環方式を原則としているが,エンジン・減速機の冷却水や主ポンプ・真空ポンプの軸封に河川水をポンプアップにて給水しており,家庭ゴミ等のつまりなどで補給水断になることがある。
 c 全ての操作が手作業
操作は,押しボタンによる連動運転操作が原則であるが,全ての操作が各機器を直接動かす手作業であるため,熟練した操作人でないと操作が困難であり,操作遅れの可能性がある。
また,除塵機の設置もないため,人力による除塵作業は危険を伴うものである。

③ 内水域の資産の増大
内水域は,排水機場の建設当時と比較して,産業基盤の整備や宅地化の進展により飛躍的に資産が増大してきており,安全確実な排水運転の確保に加えて排水量の増大を望む声も多い。

④ 操作人の高齢化
操作人の平均年齢が65歳と高齢であり,今後,安全確実な操作と後継者の確保が懸念される。

(2)機能高度化事業の基本方針
筑後川排水機場群の現状と問題点を踏まえ,以下の4つの基本方針を基に事業執行することとした。筑後川排水機場群機能高度化概念図を図ー2に示す。

① 技術革新
新技術の採用による排水機場の機能向上,信頼性向上,コンパクト化,および維持管理の合理化を実現する。
② 危機管理への対応
ポンプの排水能カアップや,信頼性の向上,情報化技術(IT)の導入等により,今まで以上の浸水被害の軽減を実現する。
③ 広域高度管理
個々の機場の維持管理から排水機場群としての相互ネットワーク化による統合管理で,的確で効率的な維持管理を実現する。
④ ライフサイクルコスト縮減
既設機器の有効活用と駆動装置の変換により,更新費および維持管理費を含めたライフサイクルコストの縮減を実現する。

(3)機能高度化事業の具体的内容
① 機場内の具体的改善内容
モータ機場の内燃機関化による停電時の排水機能確保をはじめ,故障の原因となる冷却水系統の完全無水化への取り組み,既設ポンプ回転数アップによる排水能力向上など,最先端の新技術を導入して機能高度化を実施する。
特に,主ポンプのケーシングとインペラは,解放点検の結果,損傷が少ないため,今後もオーバーホールにて延命させ,更新費用を低減することとした。
図ー3に大刀洗排水機場を例にした機能高度化事業の具体的内容を示す。

② ITの活用
各機器の機能高度化とともに,光ファイバーネットワークを活用し,運用管理の高度化を行うため,運転支援付き集中操作盤による遠隔制御システム,建設CALSにより故障時初期診断を行う故障支援システムを導入し,広域的な集中管理を実現する。
図ー4にITシステム図,図ー5に排水機場広域監視画面,図ー6に排水機場遠隔操作画面を示す。

(4)事業対象排水機場と年次計画
今回の機能高度化事業の対象は,筑後川中流地域に昭和30年代に設置されたモータ機場を主体とした八幡,陣屋川,大切洗,思案橋,古川の5つの排水機場群で,実施年度は,平成13年度からの5カ年計画としている。
その後は,筑後川下流地域に昭和20年代に設置され,昭和60年代にエンジンを更新した排水機場群を機能高度化していく予定である。

3 機能高度化事業による効果
(1)コスト縮減に対する効果
① 既設主ポンプの有効活用
既設主ポンプの実耐用年数を長期化することにより,更新費用を約15%低減する。
② 新技術採用による機器の簡素化
完全無水化や運転支援付き集中操作盤の採用で,機器の簡素化により更新費用を約2%低減する。
③ 主ポンプ駆動装置の内燃機関化
主ポンプ駆動装置をモータから内燃機関へ変更することによる電力料の低減で,年間維持費を約40%低減する。

(2)信頼性向上に対する効果
① 危機管理体制の強化
光ファイバーネットワークによる集中管理で,排水運転開始までの初動対応が充実され操作遅れが回避でき,不測の事態でも遠隔制御装置により遠隔からの迅速な操作が可能となる。
また,故障の把握も遠隔から行えるようになり,トラブル未然防止や復帰対応が迅速となる。
② 治水安全度の向上
既設主ポンプを有効活用し,回転数アップにより排水量を10%増量させ,治水安全度を向上させる。
③ 統合管理の実現
各機場毎に個別で管理していたものを光ファイバーネットワークによる統合管理で,維持管理業務を簡素化する。
また,操作も近接する機場を連携運転させることにより,効率的な排水運転を実現する。

4 勉強会の開催
筑後川排水機場群機能高度化事業を実施するにあたり,平成12年7月~11月にかけて㈳河川ポンプ施設技術協会と共に以下の表ー1のメンバーにて,勉強会を開催した。
勉強会は,準備会1回,作業部会3回,勉強会2回の合計6回を開催し,老朽化した排水機場群の視察を行い,機能高度化の具体的方法,新技術の動向,IT(情報化技術)の活用方法,延命化策と耐用年数など関する意見交換を行い,具体的な実施方針をとりまとめた。
特に新技術の分野では,今回の検討の成果により,以下の2件の特許出願を行うことができた。

(1) 省スペース・省電力型ガスタービンの開発
ポンプ駆動装置をモータからガスタービンヘ更新することにしたが,現状の上屋スペースに納まらないために,ガスタービンと減速機を一体化し据え付けスペースを約25%縮小した横軸ポンプ用省スペース型ガスタービンを開発提案した。
また,ガスタービンの運転に最低限必要な換気ファンを電動機からガスタービンの機付き油ポンプで駆動することにより,省電力でしかも停電時でも排水運転を継続することが期待できるようになった。
図ー7に省スペース型原動機の機構図,図ー8に省電力型ガスタービンの概要を示す。

(2)乾式真空ポンプシステムの開発
横軸ポンプにおける完全無水化の最大の難点として,水封式の真空ポンプがあったが,半導体工場の吸着搬送等で使用されている乾式真空ポンプを応用し,試験を重ねた結果,水封式と同等以上の真空作業が可能であることを確認できた。
さらに,この乾式真空ポンプは,最高真空度の調整と連続運転(工場試験で12時間の連続運転を確認)が可能であるため,横軸ポンプの待機運転を可能とした。
これにより,完全無水化の実現と横軸ポンプでも始動水位前に待機運転ができ,立軸ポンプと同等の始動性を確保することができる。
図ー9に乾式真空ポンプシステムの概要,写真ー2に排水機場に設置した乾式真空ポンプシステムを示す。

5 おわりに
筑後川工事事務所で管理する河川管理施設は,排水機場だけでなく堰,水門,樋門,樋管を合わせると,その数は300設備以上にもなる。
この中でも排水機場は,内水被害軽減のため安全確実な排水運転が必要不可欠であり,そのために今までも点検や必要な修繕を実施してきた。
しかし,老朽化した施設数が多いことから,河川管理者としては安全確実な排水運転の継続に危惧せざるを得ない状況となっていた。
このような中,今回,特定構造物改築事業として筑後川中流地域排水機場群の機能高度化事業が採択されたことは,筑後川工事事務所だけでなく関係市町村,地元住民の方々にとって非常に有意義なことであると考えている。
平成13年度より機能高度化事業(リファイン)に着手していくことになるが,効率的で効果的な事業執行は当然の責務であり,より良い事業となるように一致団結して望む所存である。
最後に,事業採択に向けご尽力いただいた関係各位の方々,並びに勉強会のメンバーの方々にこの書面をもって深く感謝の意を表したい。

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