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筑後川堤防の植生とモグラ孔調査

建設省筑後川工事事務所
 調査課長
入 江  靖

建設省筑後川工事事務所
 調査課調査第一係長
渡 邉 英 敏

建設省筑後川工事事務所
 調査課調査第一係主任
田 島 精 二

1 はじめに
筑後川の堤防には,春季になると菜の花が咲き乱れ,地域住民のいこいの場となっている。しかし,この菜の花も枯れてしまうと,深根性の根が腐敗しそれを餌とするミミズが発生する。そして,さらに,これを餌とするモグラ等の小動物が発生し,これらが堤防に穴をあけることが,堤体の弱体化に影響があるのではないかと考えられている。そこで,これらの小動物の生態実態調査を行い,堤防域内の分布状況を詳細に把握したので,その結果をここに紹介する。
調査方法としては,モグラの生息を確認するため,1)現地調査,2)開削調査地点の選定,3)スウェーデン式サウンディング,4)石コウ水の予備試験,5)石コウ水の注入,6)平面調査,7)堤防開削調査,8)試料の採取,9)捕獲調査の各調査を実施した(図ー1参照)。
以下項目ごとに結果を述べる。

2 調査結果
2-1 現地調査
図ー2に調査地の位置を示す。筑後川左岸28K 800~29K 300の旧堤を対象に開削調査地点位置を選定することを目的として,モグラ塚の現地踏査を実施した。

2-2 開削調査地点の選定
現地踏査に基づき,最もモグラ塚が多く認められる28K 966~28K 996の30m間を開削することにした(開削部の平面図を図ー3に示す)。

2-3 スウェーデン式サウンディング
堤体の土質の硬軟を把握するため,JIS-A1221に準じて試験を実施した。その結果,今回の堤体土においては,表層近傍はWsω=50kgf,堤体内は殆どがWsω=100kgfであった。粘性土としては比較的軟らかい。
2-4 石コウ水の予備試験
石コウ水の注入に際しては,①加える水の量(配合量),②攪拌時間,③固結時間,④固結度について予備試験を実施した(試験結果を表ー1に示す)。

2-5 石コウ水の注入
石コウ水の注入配合比は,予備試験の結果を踏まえ,石コウ:水=1:2とした。電動ミキサーで攪拌し,注ぎ口を切り取ったジョウロに石コウ水を入れ,モグラ穴が石コウ水であふれるまで注入した。
2-6 平面調査
モグラ穴の平面分布を把握するため,平面調査および表土はぎとり調査を実施した(表土はぎとり調査の状況を写真ー1に示す)。

2-6-1 平面調査の結果
モグラ塚の数を表ー2に示す。

・2m×2mの格子に最大6個のモグラ塚が存在した。
・モグラ塚は,堤防天端付近よりも法面の下方から第1小段にかけての部分に多く存在していた。
2-6-2 表土はぎとり調査の結果
表土をはぎとり,モグラ穴の拡がりを追跡した。表土はぎとり後の平面調査結果詳細図を図ー4に示す。
・モグラの穴は,深さ20cm以内の浅い所で連続しているのがよくわかる。
・モグラの穴の径は,約4~6cmで,大きいところは,10cmぐらいあった。
・モグラの穴は深さ40cm以内が多く,最大45cmであった。

2-7 堤防開削調査
断面調査は,1工区および2工区で各々4断面(1m間隔),合計8断面を実施した(図ー5および写真ー2参照)。

2-7-1 調査方法
モグラ穴の堤体内の平面分布状況を調査するため,実際に堤体を開削した。開削手順は以下のとおりである。
① 開削のための丁張りを行う。
② バックホウにより計画仕上げ面の少し上面まで粗掘削を行う。
③ モグラ穴に注意しながら,人力により計画仕上げ面まで掘削する。
④ 掘削面に格子を設け観察を行う。
⑤ 掘削面の代表地点で攪乱試料を採取する。
⑥ 掘削面を更に奥へ1m掘削し,②~⑤の手順を3回くり返す(図ー6に堤防開削の調査断面を示す)。

2-7-2 調査結果
モグラの穴は,表面から約30~50cm付近の粘土質砂層の間に最も多く,最も深いモグラの穴は深さ136cmであった(図ー7参照)。
ミミズの穴の深度は約5.5mであり,植物根は表面から1.0m付近まで及び,平均的には0.5m程度である。堤体は,全体的に含水比が高い粘性土よりなり,堤体中央付近は,比較的固いシルト質であった。

2-8 試料の採取
2-8-1 調査方法
モグラの生息域と,土質の関係を把握するため,堤体の試料採取を実施した(試料採取地点を図ー6に示す)。
室内土質試験の内容は以下のとおりである。
(1)粒度試験,(2)比重試験,(3)含水量試験,(4)液性限界試験,(5)塑性限界試験
2-8-2 試験結果
粒度試験:粒径加積曲線では概ね表面近くは粗粒度が多く,堤体深部になるに従い細粒度が多くなる。
深度一比重相関:比重試験では,深度との相関で,大きな変化は見られず,全体的に比重は2.6~2.7の範囲を示している。
深度―含水量相関:全体的に含水比は18~43%の範囲にあり,時に表層近傍ではバラツキが見られ,堤体深部での含水比は,35~43%と他の所より高い値を示している。
深度一塑性指数相関:モグラやミミズの生息域での塑性指数は8~23を示し,生息しない堤体深部での塑性指数は25~33となり,深部になる程高い値を示している。
深度一砂分相関:砂分は表土付近のモグラやミミズの生息域では10~59%で,堤体部は5~10%と低い値である。
以上のことから,ミミズおよびモグラにとって,活動しやすい環境とは,ある程度の粗粒分があり,含水量も適度な軟弱部分の表層部であるといえる。
モグラ穴と堤体土質の関係を表ー3に示す。

2-9 捕獲調査
堤体に住む小動物の生息状態を把握するため,モグラを対象とした捕獲調査を行った。捕獲調査を行う際には,現地踏査を実施し,モグラの本道を探し出し,罠を仕掛けた。
2-9-1 モグラの特徴
モグラの特徴を簡単に説明する。
モグラの仲間は食虫目(類)に属し,日本にはミズモグラ,アズマモグラ,サドモグラ,コウベモグラの4種類が生息する。その他に,対馬に産するモグラをコウベモグラではなく,別種の大陸系のモグラであるオオモグラとする考えもある。
九州地方では大型のコウベモグラが主である。モグラは,頭胴9~18cmで,ミミズ,ケラ,その他に,クモ,ムカデ,時にはカエル,カタツムリなど動物質だけを食べる。モグラは極めて大食で,1日にミミズ50~60匹,ほぼ自分の体重と同量食ベ,10~20時間食べないと死亡すると言われている。モグラは,5~6月頃,2~5匹子を出産し,成長は早く8月には成獣とほぽ同大となって,独立生活(縄張りがある)に入る。寿命は約5年である。
2-9-2 罠の種類
a 落とし捕獲罠:モグラ穴に垂直に穴を掘り,φ100mmの塩ビパイプを設置し,罠の上を通ったモグラが落ちてくるのを待った。
b 水平捕獲罠:φ50mm程度の塩ビパイプをモグラ穴に仕掛けた。
2-9-3 捕獲の成果
捕獲に成功したのは水平捕獲罠でコウベモグラ1匹,落とし罠でコウベモグラ2匹(内1匹生け捕り)とハタネズミ2匹(生け捕り)であった。
捕獲に際しては,罠に人間の臭いをつけないよう十分水洗いし,土の掘削,埋戻しは素手で行わないようにした。
2-10 まとめ
モグラ塚より石コウを注入して,表土のはぎとりや,断面開削を行う調査方法は,これまで目視や突き棒で行っていた平面調査(モグラ穴の平面分布を調べる)からわからなかった堤体内のモグラの穴の深さ,拡がり等の状況を把握する上で,非常に有効であるといえる。
モグラ穴は,腐植層の表土(表面より50cm前後)の部分に特に多く,浅いところ(表面より20~30cm程度)で連続した拡がりを持つことが多い。モグラ穴は,深さ60cm以内が多く(84%),最大深さは136cmであった。深いモグラ穴は,縦坑の形態をとっているようである。また,モグラ穴の径は,約4~6cmで,大きいところでは10cm程度であった。

3 モグラ穴の堤防堤体への影響
モグラ穴の堤防堤体への影響は,今のところ,物理的,数学的には解明されていない。
現段階で推定できる問題点は以下のとおりである。
・堤防表面付近はモグラ穴が縦横に走っており,豪雨時,出水時には法崩れを引き起こす可能性がある。
・モグラ穴の分布域では透水性が大きくなっていると考えられ,出水が長期化すれば,堤体漏水を引き起こす可能性がある。特にモグラ穴がパイピングの水みちとなる恐れがある。
・ミミズ穴についても堤体の奥深くまで侵入しているため,浸透に関して影響を及ぼす可能性がある。

4 モグラ穴対策
菜の花とモグラの因果関係がある程度明らかになったため,当面,堤防上の菜の花を刈り取ることにより,対処することとした(高水敷の菜の花は残す)。
将来的には,モグラや菜の花の生息が許容されるような堤防の整備が必要である。
なお,堤防上の菜の花の伐採については,事前のPR活動を十分おこなったため,地元から特に反対する意見は出ていない。

5 今後の課題
今回の調査で,堤防内のモグラ穴の実態が分かったが,堤防に与える影響についてはまだなお不可解な部分が多く,今後さらに調査検討していく必要がある。
また,植生やモグラ等小動物の属性を調査し,将来的には堤防上に美しい花が咲き乱れるような築堤工法を検討していく必要がある。

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