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福岡市高速鉄道3号線(鉄輪式リニアモーター)
土木構造物の耐震設計について

福岡市交通局建設部
建設第一課長・技術士(建設部門)
斉 藤 頼 敏

福岡市交通局建設部
建設第一課 係長
木 下 敬 一

1 はじめに
福岡市高速鉄道3号線は,福岡市の人口の約40%,50万人が居住する西南部地域の慢性的な交通渋滞の改善を図り,将来の交通需要の増大に対処するとともに,西南部地域における高速輸送サービスの提供および均衡ある街づくりを推進するために建設されるものである。路線は,福岡市西区橋本を起点とし,早良区・城南区を経て,都心の中心である中央区天神に至る建設延長12.7km(営業キロ12km)の「鉄輪式リニアモーターシステム」の小断面地下鉄である(図ー1参照)。この方式の特徴としては,車両の駆動用回転モーターをリニアモーターに変えることで,急カーブや急勾配への対応が可能になるほか車両やトンネル断面が縮少できることなどから建設費の低減が図られるなどのメリットがある。
本地下鉄は,平成8年12月工事に着工し,平成18年度の開業を目指し,現在,くい打工事に先立つ埋設物や街路樹などの移設工事を施工している。

2 計画の概要
3号線の計画については,昭和46年3月都市交通審議会が運輸大臣に答申した「答申第12号」の中でその必要性が述べられている。
その後,「北部九州パーソントリップ調査」・「福岡市総合計画」・「九州地方交通審議会」・「福岡都市圏交通対策協議会」などでその必要性,緊急性が検討され平成7年6月に運輸大臣より鉄道事業の免許を取得した。路線・規格・その他建設計画の概要は,表ー1のとおりである。

3 地質・工法
路線におけるトンネル通過深度の地盤は,図ー2に示すように大きく3つに分類され,その主な特徴は次のとおりである。
(1)風化花崗岩部(橋本~茶山)
風化花崗岩は,著しく風化変質作用を受けており大部分がまさ土化している。まさ土部においては,その上部数mはコアが指で容易につぶれ,石英の一部を除いて粘土化または土砂化している。コアは,一軸圧縮強度が0.5~4.0kgf/cm2で,坑内水平載荷試験による変形係数が500~2,000kgf/cm2であり,下部は棒状コアとして採取でき手で容易に割ることができる。また,梅林~福岡大学にかけては,圧縮強度が最大で800kgf/cm2越える弱風化の花崗岩がGL-10m付近まで分布している
(2)古第三紀層部(茶山~薬院)
砂岸・頁岩を主とした硬岩・軟岩の変化が著しい古第三紀層が,断層および断層破砕帯を多数介在し広く分布しており,このうち警固断層には幅広い破砕部が見られる。また,桜坂付近では,道路路盤下から岩盤となり,一軸圧縮強度が1,000kgf/cm2程度のレキ岩も出現する。
(3)第四紀層部(薬院~天神)
第四紀の沖積層・洪積層がGL-30~40mまで堆積している。このうち砂質土は均等係数が10以上の粒度分布の良い土が多い。粘性土は,ところどころに砂を互層状に挟んでおり,洪積粘土は固結して非常に硬い。

工法については駅部は全駅とも開削工法とし,駅間部は道路交通への影響をできるだけ避けるため,地質・地下水・近接構造物などの状況を考慮してシールド工法(単線並列型),ナトム工法(複線型・単線型)を採用することにした。
駅およびトンネルの工法別標準断面は,図ー3のとおりである。

4 耐震設計
(1)経 過
鉄道事業法に基づく工事施工認可申請に必要な駅・トンネルなどの土木構造物の設計は平成6年度に実施していたが,そのまとめの段階である平成7年1月17日早朝に発生した兵庫県南部地震の被害の甚大さから耐震設計の検討が必要となった。特に鉄道関係では神戸高速鉄道㈱の大開駅函型トンネルの中柱の崩壊によるトンネル破壊の状況から,開削工法により建設される函型ずい道の耐震設計について設計手法の検討を行った。
また,シールドトンネル,山岳トンネルについては,軽度のクラック等は発生したが構造物本体の耐久性に間題を与えるような大きな被害がなかったということから,これらのトンネルについては現設計内容で当面は耐震性に間題はないものと判断し,耐震設計の検討を除外した。
(2)開削トンネル耐震設計のフロー

(3)耐震設計
本設計は,兵庫県南部地震発生を機会に開削卜ンネルの耐震性について「福岡市高速鉄道3号線土木構造物耐震設計マニュアル」として設計手法をまとめたものであり,土木学会や運輸省から新しい耐震設計基準が制定されるまでの間,暫定的に適用するものである。今後関係の基準が制定・改訂された場合は,これらに準拠してマニュアルの見直しを行い実態により適合するよう運用を図っていくつもりである。
① 解析方法
開削トンネルの耐震設計は,応答変位法で行うことを原則とした。ただし,構造物が大規模な場合や他の構造物が上載されるか,または合築される場合および地層構成が複雑な場合などは,必要によって動的解析を用いてよいことにした。
② 基本方針
耐震設計は,すべての設計断面を対象に中地震時の検討を行い,構造物が特殊な形状についてはさらに大地震時の照査を行うものとした。
●中地震時の耐震設計
想定地震……構造物の耐用期間中に数回程度発生する地震。
設計目標……中地震時において構造物の各部材が弾性的な挙動を保持できるものとする。
設計方法……地震時断面力によって部材に生じる応力度が許容応力度以下になるように断面を定める。
解析方法……剛域を考慮した弾性解析とする。
対象断面……すべての設計断面
●大地震時の耐震設計
想定地震……構造物の耐用期間中に遭遇する可能性のある既往最大規模の地震(本設計では当面兵庫県南部地震を適用)。
設計目標……大地震時において構造物の各部材が終局耐力を保持し,全体形の崩壊を防止できるものとする。
設計方法……地震時断面力が部材の終局耐力以下になるように部材を定める。
解析方法……部材の非線形を考慮した非線形(等価線形)解析(剛域有)とする。
対象断面……非対象構造物等で地震時変形モードが特殊と想定される断面。
③ 地震時に考慮すべき荷重(図ー5参照)

●常時
考慮する荷重……地表面荷重・土圧・水圧・自重,その他必要な荷重
計算モデル……土中の場合は底版反力モデル,岩着の場合は底版地盤バネモデル
●地震時(中地震時・大地震時)
常時荷重(剛域有),地震時鉛直慣性力
地震時水平慣性力,
地震時土圧(地震時変位増加分),
地震時上床面せん断力
④ 設計地震力
●中地震
設計水平震度(0.17)……基準水平震度(0.2)に地域別補正係数(0.75),重要度別補正係数(1.1)を乗じて求める。
鉛直設計震度(0.09)……設計水平震度の±1/2とする。
応答速度の基準値……国鉄「建造物設計標準」解説〈基礎構造物〉の基準値に準拠する。
●大地震
設計水平震度(0.52)……兵庫県南部地震の際に神戸ポートアイランド地下80mで観測された最大加速度678galに基づく基準水平震度(0.69)に地域別補正係数(0.75)を乗じて求める。
鉛直設計震度(0.26)……設計水平震度の±1/2とする。
応答速度の基準値……兵庫県南部地震の際に観測された神戸ポートアイランドの地下80mの観測波形(NS成分)による。
⑤ 耐震設計上の基盤面の設定
基盤層は深さ方向に連続し,かつ,次の事項を満足する地層の上面に設定する。
●砂質土  N値50以上の層
●粘性土  N値30以上の層
●地層のせん断弾性波速度(微小ひずみの場合)が300m/sec以上の層
⑥ 断面照査法
●中地震時
  常時と中地震時の応力を合成し,応力度計算を行い,許容応力度内にあることを確認する。
  この時の許容応力度は常時の許容応力度の1.5倍とする。
●大地震時
  常時と大地震時の応力を合成し,曲げおよびせん断が地震時終局耐力内にあることを確認する。
(曲げ)
  設計曲げモーメント(Md)≦設計曲げ耐力(Mud)
(せん断)
  設計せん断力(Vd)≦設計せん断耐力(Vyd)
  また,せん断力に対する安全度は次の式により曲げモーメントに対する安全度より大きくすることを原則としている。

5 おわりに
福岡市の地下鉄3号線は,以上述べた新しい設計手法に基づき平成7年度から実施設計を行い,順次工事発注を行い平成9年3月末現在,3.3kmを5工区に分け工事中である。
今回の耐震設計の結果については,構造物の柱断面が大きくなることや側壁,上床版,中床版,底床版の主鉄筋のランクアップが生じることが判明するとともに,構造細目に関する検討も残されていると考えている。
今後は,現在各方面で検討や研究・検証が行われている耐震設計に関する基準や指針の動向もみながら,適宜修正を加え,経済的で質の高い地下鉄道の整備推進を図っていきたいと考えている。

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