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社会資本整備における「新たな公」としての民間非営利団体との連携
九州地方整備局 森山誠二
1.はじめに

特定非営利活動促進法(以下「NPO法」という)が施行され平成20年12月で丁度10年が経過した。登録団体が全国で4万近くに上るなど、社会における大きな分野として、着実に成長しつつある。
一方、公益法人改革、民間会社の社会貢献への機運が高まるなか、これまでのような特別な存在ではなくなりつつあり、一定の競争環境におかれようとしているのも事実である。
本稿では、民間非営利団体をNPO法に基づく特定非営利活動法人のみならず公益法人など広く捉え、道路や河川、公園などの社会資本整備における連携の現状やあり方について述べることとする。

2.社会資本整備の最近の状況
2-1. 増大するストック、老朽化の進展
道路、河川、公園などの社会資本は、市民の日常生活に欠かせないものであり、豊かな生活をハード面から支えるものである。
日本の社会資本の整備は遅れてスタートしたものの、地域的な偏在はあるものの、一定の水準にまで達しつつある。なお一層の整備が必要ではあるが、これまでのストックの維持や管理をどうするかについて、本格的な対応が必要となってきている。

2-2. 引き続き高い整備ニーズ
大規模な社会資本の整備については、大都市を中心に、一定の充足感も顕在化しつつあるが、身の回りの社会資本については、全国的にもまだまだ不十分な状況といわざるを得ない。段差解消や駅前の駐輪場整備、路上の電柱など、各自治体において、引き続き高い行政ニーズを占めている。
こういった生活レベルの社会資本の整備にあたっては、生活者目線といった細かいケアが欠かせない。一方、現在の行政に対して、人員や予算の不足もあり、多くを期待することは事実上不可能に近い。
管理水準が比較的高いと言われている直轄国道でさえ、車道を一日に一回程度巡回するのが限界であり、生活者が毎日利用する歩道に至っては、突発的な対応を除けば、定期的な点検はできていない。

2-3. 景観法など、新たなニーズの増大
豊かさを実感できる生活空間づくり、誇りの持てる故郷づくりの観点から、美しい景観への期待や欲求が高まってきている。美しい景観づくりにあたっては、美しい自然や民間建築物、これらと調和した社会資本の整備が必要となってくる。
具体的には、周辺の自然や土地利用の状況を踏まえつつ、道路の付属物の色彩やデザイン、河川護岸の材質やデザインなどをコントロールしていくなど、細部にこだわった、きめ細かい社会資本の整備が求められることになる。
こういった作業の重要性は認識しつつも、これらの遂行にあたっては、行政的には大きな手間ひまと専門性が必要となってくる。また、長期間にわたる継続的な監視やコントロールも欠かせない。
現在の行政組織にそのすべてを期待するのは人員的にも人材的にも相当に困難な状況にある。また、税金の使途として、こういった分野に大胆に資源を投入することは、広く国民の理解という観点から異論も出てくるかもしれない。

2-4. 公共事業費の削減
無駄ではないかとの大合唱のなか、事業費は大幅に減少傾向にあり、通常の維持管理などにも不自由な状況になりつつある。
また、平成21年4月から道路特定財源制度が廃止され、道路整備にあたっての安定的な財源がなくなることとなり、計画的な維持管理の観点から不安材料となっている。
さらに急激な事業費削減のため、建設業界における経験豊富な技術者も減少傾向にあり、今後の維持管理を円滑に進めていくうえで、課題の一つになっている。

3.行政による取り組みの限界
3-1. ますます増大する行政負担
戦後の国土復興時代には、社会資本の整備に相対的に多くの資源が投入されてきた。その後、一定の整備も進められていくなか、高齢化社会の進展もあり、行政として社会福祉の分野などへの関与が不可欠になり、相当の資源の投入もなされてきている。
さらに、経済政策による負の部分へのフォローとして、再チャレンジ支援など、これまでプライベートな領域とされていた分野についても、行政が関与せざるを得なくなりつつある。
また、産業界やそれの育成を主務とする関係省庁との連携に加え、個別の消費者自体を保護する視点の強化が不可欠となってきたことから、新たに「消費者庁」が設置されることになるなど、行政として一層関与を強めることとなっている。

3-2. 財源不足
このように、様々な行政ニーズが発生しつつあるが、社会資本整備の分野についてそのニーズがなくなったわけではなく、また必要とする財源が不用となったわけでもない。しかしながら社会資本整備について、予算確保の不断の努力は必要であるものの、過去と同様のものを期待することは現実的には困難な状況にある。
財源とともに、技術の継承も不可欠であり、減少しつつある財源のなかにあっても、必要最小限の人材の確保は怠るわけにはいかない。技術力は一朝一夕に養えるものではない。

3-3. 二分化される社会構造
都市への過密が進展する一方で、地方都市の空洞化はますます深刻化してきている。中山間地域の過疎化に歯止めがかかる様子はない。
中山間地域において、限界集落が増加するとともに地域コミュニティの崩壊が懸念されている。山林の保全や水田の維持など、国土保全の観点からは誰かが維持していくことが必要である。これまで地域において担い手が提供されてきたが、地域コミュニティが崩壊した場合、頼るべきは行政しかなくなってしまう。様々な分野を抱えざるを得ない地方自治体において、さらに新たな業務を担当するのは生半可なことではない。こうした自治体は財政状況も厳しく、新たな財政的な負担も困難であろう。
こうしたなか、各種手法を用いた、限界集落の救済策が講じられつつある。目標を見失いがちな都市生活者が自然のなかで暮らすことにより自分を取り戻し、一方で限界集落となった地域に都市の活力を導入する。こういった、二地域居住や都市農村交流などの取り組みも始まりつつある。

3-4. 行政部門から、民間非営利団体へ
こうした増大する行政ニーズに対して、これまでのように一つひとつ行政が対応していくのではなく、「新たな公」としての民間非営利団体が対応していく取り組みが始まっている。NPO法制定のさきがけとなった、阪神淡路大震災における民間非営利団体の精力的な取り組みは記憶に新しい。最近では、介護医療、幼児保育、障害者の社会参加、若者自立支援など、様々な分野において民間非営利団体の活動は活発化してきている。
社会資本整備など、これまで行政が担っていた分野においても、民間非営利団体の活発な活動に期待したい。大規模な工事や車道部分など危険がともなう作業となる領域はともかく、歩道部分など生活者レベルのきめ細かい対応が必要となる分野については、民間非営利団体の出番ではなかろうか。
大規模かつ大量生産の場合には、行政組織が効率的であるが、少量かつ多品種生産の場合には、民間非営利団体などの小回りの効く組織での対応のほうが効率的である。分野によっては、公平性や継続性に過度に依存しない政策執行へシフトしていくことも必要である。

4.社会貢献活動の活発化
4-1. 民間非営利団体の活動の拡がり
阪神淡路大震災を契機に、平成10年に特定非営利活動促進法が制定され、毎年4千団体程度の新規登録がなされ、現在では4万団体近くが登録されるなど、民間非営利活動の分野は順調な広がりを見せている。
法律に規定する活動分野も12分野から17分野に拡大され、また、多くの地方自治体においても市民活動を支援する専門の部署を設置するに至っている。
また平成12年には介護保険制度が導入され、介護サービス分野において民間非営利団体の活動が著しい。平成15年から導入された指定管理者制度における民間非営利団体の活躍も目覚しく、団体の組織的な成長にも寄与している。
一方では、NPO法に基づく特定非営利活動法人(以下「NPO法人」という)の名を語る不誠実な団体も存在しはじめ、NPO法人自体に対するイメージとしての期待感に水をさすこととなっている。

4-2. 公益法人改革による組織的枠組みの充実
これまで、NPO法人は民法34条における公益法人との関係が常に議論されてきており、NPO法人は公益法人の特別なものとして整理されている。
世界的なスタンダードで言えば、公益法人などは民間非営利団体の範疇に含めるのが自然である。これまで公益法人が、特定官庁の認可を受けることとされていたため、役人の天下り団体として存在してきたのではないかという疑念があり、国民から厳しい批判を受けることとなった。
このため、特定官庁の制約を受けない、真に公益に資する団体と一般的な団体とに区分する、いわゆる公益法人改革が始まり、平成20年12月から新制度がスタートしている。
すでに制度化されている中間法人など、類似する団体も含め、容易に法人格を取得することが可能となり、今後、各団体の差別化が難しくなっていくことが予想される。単なる手続きとして、NPO法人として登録するだけの場合も増えつつある。今般、公益法人改革にともない、民間非営利団体の枠組みが、再構築されることとなり、選択と選別の時代に入っていかざるを得ない状況になりつつある。

4-3. 民間事業者による社会貢献活動
社会的な公益を担っているのは、行政や民間非営利団体のみではない。利潤追求が第一とされる株式会社においても、社会的な公益事業に取り組んでいる事業者も少なくない。CSR(企業の社会的責任)や社会的なコンプライアンスが求められるなか、企業の社会貢献活動も着実に進展しつつある。
こういった活動は、かつて日本において盛んであった。江戸時代に大阪の八百八橋を地元の商人が整備した事例、明治時代に民間企業が国家を背負い殖産興業に邁進した事例、地方出身者が中央で成功し地元に社会資本を整備した篤志家の事例など、枚挙に暇はない。世界的にも、ダイナマイトで財をなし科学技術の発展のために寄付したノーベル、石油王のロックフェラーなど、民間企業者の慈善活動による社会貢献事業は相当深い歴史と実績を有している。

4-4. ソーシャルビジネスの創出
社会貢献活動を行っていくうえで、これまでは、ボランティア活動を中心とし、ビジネスに絡めることなく、個人的な慈善事業としての取り組みが主流であったいえる。
新たに事業を起こすにあたり、社会貢献を一つの分野として捉え、ビジネス的視点に立ち、進めていくという動きが始まっている。社会的企業家としてのソーシャルアントレプレナーという概念も日本に定着しつつある。
地域の困りごとをビジネスとして解決していこうというコミュニティビジネスという概念もさらに進化し、ソーシャルビジネスとしての動きも始まっている。個人の善意を基本としつつ、善意のみに依存しない仕組みが構築されつつあり、今後、一つの大きな分野になることが期待される。
この場合、組織の形態は、NPO法人であるのか、公益法人であるのか、又は株式会社であるのかは問わない。公共の分野ではあるが、誰も担っていない隙間を、「新たな公」として民間団体が担っていくことが期待される。

4-5. ソーシャルキャピタルの活用
こうした社会貢献活動は、行政の手が行き届かない、画一的な取り組みが適さない、受益者が汎用的ではなくある程度限定的である、などの領域で行われることが多い。
その際、ソーシャルキャピタルと呼ばれる社会的公共資本の活用が重要なポイントになる。地域における町内会組織、人間関係、慣習など、行政が関与することなく、地域の活動や秩序の維持のうえで欠かせないソフト的なネットワークがソーシャルキャピタルとされている。
こうしたソーシャルキャピタルの状況を的確に把握し、連携・活用していくことが必要であり、その際、地域のボランティアを束ねる民間非営利団体の役割は大きい。

4-6. ソーシャルビジネスとしての社会資本整備
江戸時代などにおいては、道普請や街道清掃など、社会資本の整備は、市民の仕事であった。明治政府になり、治山治水や鉄道をはじめとする社会資本の整備を、大量にかつ迅速に進めていくため、行政が一元的にその役割を担うこととしてきたものである。戦後においては、先進国に比べ著しく整備の遅れていた道路整備などにその重点は移っていく。
行政が担当するということが習い性になるにつれ、家の前の道路の清掃も、当然、行政の担当ということになってくる。行政の担当となると行政としての責任論も出てくることとなり、四角四面の対応ということも発生してくる。つまり、行政と個人との責任関係が明確になりすぎることの弊害である。
本来は、規模が小さい生活道路や歩道などについては、行政が深く関与する必要はなく、地域が自ら考え、対策を講じていくことが望ましい。家の前の生活道路は、自ら掃除をし、細かい補修も自ら行う。地域によっては実際にそうなっていることもあろうし、それが本来の姿である。
また、日常生活をしていくうえで、道路脇の電柱、歩道の段差、排水溝のグレーチング、信号サイクル、駅前の不法駐輪など、細かい不満は山積である。不満を感じつつも、わざわざ行政に苦情を言うほどのものではないと感じている市民も少なくないだろう。こうしたことが行政への不満としてアーカイブに蓄積されていき、いずれは行政全体への不信感にまでにつながっていくこともある。
こういったあるべき論や実態のなか、行政が細部にまで対応することはできないという現実、そもそも行政がどこまで対応するべきかどうかという議論も踏まえた対策が必要となってくる。
こうした課題の解決策の一つとして、緩やかにビジネス的視点も入れ、ソーシャルビジネスの一つの分野として取り組んでいくという方向があるのではないか。公物管理のなかでも行政がさほど責任を負う必要のない部分については、積極的に民間非営利団体に委ねることとし多くのボランティアの協力を得るなど、マーケットとして期待できる。

5.民間非営利団体の位置づけと活動状況
5-1. 民間非営利団体との連携の分野
毎日利用している、道路や公園を日常的に利用していくにあたっての不具合は何か、まずはそういったモニター機能を民間非営利団体に期待したい。行政は施設の管理者ではあるが、頻繁に点検できるわけではない。歩道の細かい段差解消などの修繕は、一般市民であっても不可能な作業ではない。規模が大きくなるにしたがって、土木技術などの専門性が必要となってこようが、規模がさほどではない場合には、民間非営利団体が自ら行うことができることも少なくない。
また、団体のメンバーには、建設会社勤務の人やそのOBなど一定の技術を有する人もおられよう。たとえば、マンションは住居者の共有資産であり、日常的に利用しているものであるので、管理会社に委託する部分も大きいが、最終的には自ら管理していくということになる。修繕の場合など、住居者側にも若干の専門知識がどうしても必要となる。住居者のなかには建築や設備に関係している人や詳しい人がいるものであり、そうした人の役割は大きい。
規模の大きい維持管理や新たに工事を行う場合には、行政が主体とならざるを得ないだろうが、色彩やデザインなどの細かい部分については、地域の声の代弁者として、民間非営利団体が意見の集約や行政とのパイプ役を果たすなどの役割に期待がかかる。
一つの例として九州道守会議があげられる。同会議はボランティア組織であるが、行政や建設関係者もメンバーとなっている。志のみならず一定の技術を有した民間非営利団体として、道路清掃や良好な景観形成などの分野において社会的な役割を果たしている。また九州各地で道路管理者と協定を締結しているボランティアサポート活動団体についても同様のことが言える。

5-2. 国土形成計画における「新たな公」
社会資本の物理的な整備のうえで、民間非営利団体に期待するのみならず、地域のコミュニティを維持していくうえでの役割も期待したい。ソーシャルキャピタルの維持のための、民間非営利団体への期待ともいえる。
全国的な人口減少、都市部への人口集中の加速、それにともない、中山間地域において限界集落が増加している。一方で、日本の国土を保全していくうえで、中山間地域が果たす役割は大きい。現在は、住民がその地域に居住等していることにより、一定の国土の保全が可能となっている。
中山間地域の集落が消滅することになれば、その地域の国土保全のため、何らかの行政的な施策を講じることが必要となってくる。全国津々浦々でそういった事態となると、行政の負担は計り知れないものになりかねない。
中山間地域は、都市住民にとって、魅力のある地域でもある。自然に還ることは、人間関係などに悩む都市住民に対して生きる力を与えることもある。住民が減少している中山間地域にとっては、自然とのふれあいを求めてくる住民であってもありがたい。それ相当の厳しさはあるものの、都市住民のために、また中山間地域の存続のためにも、都市と農村の交流を図ることが必要であり有効である。
このために必要となるのが、交流促進を斡旋しアレンジする人材であり、またそういった人材が活躍できる団体である。すでにそういった役割を担っている民間非営利団体も少なくない。

5-3. 街づくり関連法
社会資本整備の分野における行政側の取組としての、NPO法人などへの期待が高まっており、以下ように各種施策が講じられてきている。
① 行政からの委託先
従前から広く行われてきている取組であり、福祉や子育て分野のみならず社会資本整備の分野でも進められている。調査や広報の支援、河川緑地や植栽帯の管理の委託、河川・道路清掃活動の助成など様々な取組が行われている。
② 補助事業の主体
街づくり活動や社会実験を行う場合に補助するものである。公募という形式を取り、国や自治体を問わず広く行われるようになっている。道路や街づくり事業に関する社会実験、都市再生や元気再生プロジェクト調査、社会貢献事業など、NPO法人を除外することのほうが稀少なほどの状況となっている。
③ 法律における役割
平成13年の都市緑地法改正においてNPO法人が緑地管理機構となり得るとされた。これを契機に、都市計画法や景観法における計画提案、都市再生特別措置法における事業主体、道路法における占用許可特例など、様々な権能が付与されるようになった。地方自治法に基づく指定管理者制度にあたっても、法人格を要件としたことでNPO法人への道が開かれている。

5-4. 活動の状況
全国の各地域において、様々な連携活動が展開されている。多くの自治体において、民間非営利団体との連携の手引きなどの指針が策定され、また広く民間非営利団体との連携のための部署やセンターを設置している例が多い。
民間非営利団体の活動支援のために中間支援組織が設置されている例も多い。これまで筆者が関係したなかでも、全国規模ではNPOサポートセンター(東京都港区)、ブロック規模では中国・地域づくりハウス(広島市)、県内規模ではNPOぐんま(群馬県高崎市)、いわてNPOセンター(岩手県盛岡市)など、設立由来は様々であるが、行政や関係民間非営利団体とも深く連携し活動を実施している。
これまでは、民間非営利団体の活動内容の特殊性から、契約にあたり随意契約とすることが多かった。最近では、契約時における透明性の確保、税金の支出の適正化、公益法人との随意契約の排除などの影響も受け、民間非営利団体との契約にあたっても随意契約ではなく一般競争やプロポーザル方式の導入などが進められている。活動の特殊性や公益性をどう評価するのか、それを契約にあたりどう考慮するのか、市民に対する透明性をどう確保するのかなど、試行錯誤は続けられている。

5-5. 安定的な枠組み導入の必要性
行政と民間非営利団体との連携が図られているものの、その関係が属人的なものに偏り、継続的な連携になっていない事例も見受けられる。
当初は属人的な関係から始まることは決して悪くないことであるが、いつまでもそうであっては連携も進展していかない。民間非営利団体が果たす役割を行政側としても十分に認識し、安定的な連携のための枠組みづくりが必要となってきている。
連携することが行政の業務であるのではなく、連携することが市民サービスの向上につながるものでなければならず、行政においても明確な手法として認識し、そのために必要となる手続きやルールを定めることが求められている。

6.民間非営利活動団体の活動支援のために
6-1. 民間非営利団体との連携の意義
社会資本整備の分野において、行政が民間非営利団体を通じてボランティアと連携することにより、市民目線でのきめ細かい維持管理が期待できる。民間非営利団体側にとっては、社会貢献の機会の増大、自己実現の達成につながるとともに、地域にとっては、地域産業の活性化、地域コミュニティの維持・充実にも貢献することとなる。
個別分野の行政担当から見た場合、民間非営利団体との連携そのものや、民間非営利団体活動の分野の活性化そのものについては、目的ではない。細かいところに目が行き届いた社会資本の整備が、今よりも効率的に実施でき、市民へより良質なサービスを提供することが重要なのである。この目的達成のために民間非営利団体との連携を推進することとなるのである。

6-2. 中間支援団体の育成
民間非営利団体から見た場合、社会資本の整備が、新たな一つの分野として認識されるようになることが望まれる。公共事業費が今後伸びることは期待しにくいとしても、ほかの分野に比べて、マーケットとしては決して小さくなく、また長期的に大きく変わることはなかろう。
全国に4万近くあるNPO法人のうち、事務所を構え、常勤職員を1、2 名以上擁している団体は、1割にも満たないという。そういう組織の場合、活動の継続性について保証はない。小回りが効く、機動性が良いということと、組織の継続性・安定性があるということとは、通常両立しにくい。後者にウェイトがかかってくると、既存の行政組織と同じようにいずれはいわゆる官僚主義、お役所仕事といった弊害が生じることも懸念される。
そこで、民間非営利団体の立ち上げや活動をサポートする中間支援組織の存在への期待がかかる。組織の形としては、NPO法人であるばかりでなく、公益法人ということも考えられよう。中間支援組織自体も、お役所的な組織にならないような十分なケアが必要であることは言うまでもない。

6-3. 従事する人材の育成
社会資本整備の分野については、一定の専門性も必要となってくる。その分野に通じた専門的な民間非営利団体による技術セミナー活動などを通じたスキルアップなども効果的である。
また、産業分野として縮小傾向にある、建設会社や建設コンサルタントとの連携により、OB人材の活躍の場としての役割も期待できるかもしれない。
最近始まっている、熟年世代の地域デビューのなかで、身近な社会資本の整備を一つのテーマとして設定されている例もある。知見を有する人材が多く参加するとともに、そういった人材により専門技術が緩やかな伝承されていくことにも期待したい。

6-4. 行政部門による契約制度
安定的な制度として市民の税金が投入されていくためには、行政の連携先としての民間非営利団体側に対して、一定の信用保証がなされることが必要となる。仕事上の成果はどうなのか、キチンと最後まで成果を出せるか、社会的に公正なのか、など詰めるべき点も少なくない。一方では、そういった点をあまりにも追求しすぎると、民間非営利団体ならではのきめ細かさが失われてしまうことも懸念される。
行政が民間非営利団体と継続的に連携することついて、多くの市民の理解を得るためには、様々な工夫も必要となってくる。現在、通常の土木工事や建設コンサルタント業務では、会社登録、入札参加、契約、工事・業務の実施、完了検査、成果の評価などの手続きが定められている。まずは、こうした既存の仕組みを活用していくことが考えられる。
入札にあたり、民間非営利団体の特徴を踏まえた入札参加条件の設定をどう行うのか、条件付与にあたり外部評価をどうするのかなど、現在の入札契約制度の枠組みを踏まえつつ、民間非営利団体としての特徴を生かした運用の検討が必要となってくる。
また、成果の評価にあたっても、民間非営利団体の協力も得つつ、外部評価の仕組みを導入するなど、担当する行政職員の恣意や能力に依存せず、かつきめ細かい評価を実施するための検討が必要である。

6-5. 非営利団体への支援
総じて民間非営利団体は、建設工事や建設コンサルタント業務を実施する会社と比べ、職員数など経営規模が圧倒的に小さい、歴史や実績に乏しい、建設資材や機器などの資産を保有していないなどの特徴がある。このため、安定的に業務に取り組むためには行政側からの一定の支援が必要となってくる。
建設工事において導入されている、前払金や中間払制度の導入、工事完成保証制度の適用などに準じた制度の導入、事業規模の小さい役務などにおける格付け制度や評価制度の導入、その際中間支援組織の役割など、検討課題は多い。
また、現在行われているボランティアサポートプログラムや防災協定など、可能なものについては、行政と積極的に協定を締結するなど、明確な形での連携の推進が期待される。

6-6. イベント窓口から、事業課対応へ
行政と安定的な関係が構築されていくためには、調査やイベントの委託、一時的な支援にとどまるのではなく、行政の通常事業の一環として連携が行われていくことが重要である。
その場合、これまで行われている通常の工事、建設コンサルタント業務、役務の役割を代替するというのではなく、民間非営利団体ならではの付加価値を加えるものであるというのが基本的なスタンスであると考えている。

注)本稿は弟64回土木学会年次学術講演会での著者の講演原稿をもとに
加筆したものである。


【参考文献】
電通総研編「NPOとは何か」(1996)
山岡義典他著「NPO基礎講座」(1997)
NPOサポートセンター「社会資本マネジメントにおけるパートナーシップに関する提言」(2001)
森山誠二著「これからの国土と交通-NPOが拓く新たな連携」(2001)
行政改革推進本部「公益法人制度改革に関する有識者会議報告」(2004)
東京都世田谷区「生涯現役プロジェクト」(2006)
大石久和著「国土学事始め」(2006)
国土交通省「国土形成計画(全国計画)」(2008)
経済産業省「ソーシャルビジネス研究会報告書」(2008)

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