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鉄やコンクリートに代わる新しい構造材料
一オールFRP製の歩道橋一

建設省土木研究所 材料施工部
 化学研究室 研究員
佐々木  厳

建設省土木研究所 材料施工部
 化学研究室 主任研究員
西 崎  到

1 まえがき
繊維強化プラスチック(FRP)は,軽量,高強度,高耐食性などの特徴を持つ,注目すべき構造用新材料のひとつであり,土木分野に適用することのメリットは大きい。炭素繊維やアラミド繊維による緊張用ケーブル材や炭素繊維シートなど,すでに開発段階から実用化段階へ入っているものもある。例えば,ケーブルはコンクリート用の補強緊張材やグラウンドアンカーなどとして,また炭素繊維のシートをコンクリート部材に接着する工法は構造物の耐震等の補強用として普及しつつある。
九州でFRPケーブルが土木構造材料に使用されたのは,北九州市八幡西区を流れる撥川(ばちがわ)にかかる撥川南橋(1989)が最初であるとされている。撥川南橋は,三菱化成㈱(現三菱化学㈱)黒崎工場内に建設された構内道路の橋梁であり,32本のプレテンション桁および2本のポストテンション桁によるTL-20の荷重条件に適合するプレストレストコンクリート橋である。FRP製のPC緊張用ケーブルが使用されたのは,桁34本のうちの1本で桁長18.1mのポストテンション桁である。φ8㎜の8本マルチCFRPケーブルを8組使用し,ケーブル全体の許容引張り荷重は40tonfである。同橋では歪みゲージやロードセルにより長期観測が行われた。炭素繊維は線膨張率がほとんどゼロであるがコンクリートは気温の上昇に伴い膨張するため,温度上昇に伴いプレストレス量が増加するなどの興味深い現象が観察されている。
本報では,FRPをコンクリート等の補強用材料として用いるだけではなく,FRP自体を構造材として土木構造物を建設する試みについて紹介する。FRPは鉄やコンクリートといった従来の土木構造材料に比べて非常に軽最であり設計施工面での利点が多く,また耐食性に優れるため維持管理上も有利であると考えられる。しかしながら,鉄やコンクリートに代わる土木用途の一般構造用材料としてのFRPの適用例はほとんどなく,解明すべき技術的課題も多いのが現状である。土木研究所では,FRPを主たる土木構造材料として使用するための研究に取り組んでおり,その一歩として歩道橋への適用をとりあげて適用上の課題解決を行っている。FRPの基礎的な材料試験等から得られた材料物性の検討により最適な橋梁の構造形式を選定した結果2)3)をもとに,オールFRP製の歩道橋の試験橋梁を建設した。ケーススタディとして実施した本歩道橋の設計製作と施工法の検討の概要を紹介するとともに,FRP利用の効果を考察してみることとする。

2 引抜成形FRP
土木構造材料としての適用を考える場合,線材,パイプ,型材,チャンネル等の等断面長尺部材が求められることが多い。FRPにはさまざまな成形方法があるが,このようなFRP材料としては,引抜成形FRPが代表的なものであり,写真一1のような様々な断面形状の部材が製作可能である。土木分野で最近普及しつつあるカーボンやアラミドなどの繊維を使用した緊張用ケーブル材料の一部も引抜成形により製作されている。

土木構造物にFRPを用いる場合,緊張用ケーブル等の機能部材に対しては高価な炭素繊維等の高強度繊維の利用が可能であるが,桁部材等の一般構造部材には,コスト面からガラス繊維強化プラスチック(GFRP)が主な対象となる。そこで引抜成形によるガラス繊維強化プラスチックを,桁や床版等の一般構造部材に使用するための検討を行うこととした。
FRP引抜成形材は,例えば10cm角断面で長さ10mの角パイプ部材1本でもその重量は約36kgであることから,現場において大きな重機を必要とせずに容易に架設する事も可能と考えられる。GFRPの主な物理性状4)を,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の緊張ケーブル5)構造用鋼材と対比して表ー1に示す。GFRPは鋼材なみの強度を有するが弾性率が小さいため,土木橋造物のような長スパンとなりがちな構造部材へ適用する場合,構造形式や部材設計が課題となりうる。

3 土木構造材料としての利用効果
FRPの土木構造材料への適用における利点とコスト縮減の効果などを以下に考察してみる。
FRPは鉄やコンクリートといった従来の土木構造材料に比べ非常に軽量である。このため,緊張や補強用の材料ばかりでなく,橋梁でいえば桁や床版といった一般部材を含めた構造物全体に使用すれば,製作および施工にかかる現場架設作業が軽減され施工の省人化・省力化などの効果が期待できる。また,死荷重の低減による,構造物自体の小型化や長大化などの様々な効果も期待される。
実際の応用例として考えられるのは,架設作業に関わるメリットとして,のり高のある山どめ工や砂防施設,重機の進入の困難な山間部における工事などの架設作業が困難な場所への対応のほか,都市部での工事における交通規制の縮減も期待できると思われる。構造物の死荷重低減のメリットとしては,下部工の小型化などがまず考えられるが,新たな構造形式や施工方法の可能性を秘めているといえる。
災害時に備えた応急橋や仮設工としての用途については,構造重量が小さく簡易な基礎にも対応でき,また異常時における架設作業も容易であることから,規格化して準備しておくことも有意義であろう。
明石海峡大橋を越えるような長大橋梁は,自重と強度の関係において限界と言われる領域にきているため,従来材料のさらなる強度向上,あるいは構造形式や構造材料の抜本的な変更が必要であると考えられる。FRPの利用はこのような超長大橋の建設に大きく寄与することも期待される。現在のところ材料の信頼性から適用しうる部材は限られるが,吊り橋でいえば,ハンガーロープ,補剛桁の一部や,検査路等の付帯設備類に使用することができるであろう。
FRPは薬品の運搬貯蔵容器や土木構造物の防食材料に使用されているように,材料自体の耐腐食性が鋼材よりも優れている。このため,長期にわたり健全な状態で供用できると考えられ,鋼構造や鉄筋コンクリートに比べて維持管理の軽減も期待できる。現時点では材料費に起因するコストが高いため,施工面での費用減を加味しても初期コストは従来材料による場合に比べてやや高くなるものと思われるが,維持管理費を含めたトータルコストでみれば十分に見合うものと考えられる。
造形性については,FRPは模型や船舶に広く使用されている材料であり,成形法にもよるが形状の自由度が高く意匠性に富む。このため,従来材料では困難であった形状の構造物が容易に製作でき,また軽量性と相まって新しい構造形式を適用する可能性も考えられるところである。

4 試験橋梁の建設
新素材を用いて土木構造物を建設するためには,強度や弾性率,接合方法や架設等の施工性,疲労や長期耐久性の情報が設計に不可欠である。設計において使用するための許容応力は既往の調査などからある程度わかってきているが,その他の項目については未だ不明な点が多い。また,架設作業などの施工手順が従来の材料の場合と異なってくると考えられ,標準的な施工手順や留意事項を明らかにしておく必要がある。このため,FRPの基本的物性の改良項目や施工上の課題を抽出するため,また現行の設計法に従って設計施工を行う際の照査項目の是非等を確認し,また解決するために,ケーススタディとしてつくば市にある建設省土木研究所の構内に試験橋梁の建設を行った。
4.1 構造形式
土木研究所で以前に行ったフィージビリティスタディ2)の結果から,FRPを用いた歩道橋としては斜張橋が有力であり,橋体の剛性向上の点からトラフ斜張橋が最適と考えられる。しかし,トラフ桁(床版と高欄を含めた大きなU桁)の製作はハンドレイアップによる成形になるため現場作業量が増えることもあり,本橋では引き抜き成形部材を使用した通常の斜張橋を採用した。
建設した橋梁模型は橋長20m,中央支間長11m,幅員2mの,3径間連続斜張橋形式の歩道橋で,その一般図を図ー1に示す。
部材形式としては,この規模の橋梁であれば床版を直接斜材で吊る形式も考えられるが,大規模道路橋梁を念頭に置き,主桁を兼ねた床版パネルを橋軸方向の主部材として並べ,これを横桁で支え,その端部を斜材で吊る構造形式を採用した。

4.2 使用材料
使用材料としては,引抜成形部材を主構造材料に適用し,炭素繊維によるFRP(CFRP)ケーブルを吊り材とし,ハンドレイアップ(繊維・樹脂・型を用いて手作業で行うFRP成形法)による取付部品を併用した。部材と使用材料の対応を表ー2に示す。主要な材料はGFRPの引き抜き成形部材であり,マトリックス樹脂はビニルエステル樹脂,繊維含有率:70%,密度:1.9g/cm3である。
FRPの連続引抜成形の上では部材長に制限はないが,ケーブル等でなく一般構造部材として使用する場合は,施工面から当然ながら縦および横方向の接合が不可欠である。接合には接着,ソケット,ボルト,リベット等の様々な方法が利用できる。本橋梁模型は分解して他の場所へ容易に移設できるものとするために,接着等の永久接合を使用せず,ボルト1本あたりせん断耐力19.4MN(2tonf)を有するFRP製ボルトと添接板による組立方式を採用した。

4.3 設計要件
設計荷重は人道橋の設計で用いられる歩道群集荷重(350kg/m2)であり,通常の歩道橋設計基準を参考に設定した。構造設計は一般的な設計法に従い,所定の荷重を全面,中央径間,側径間に載荷したときの各部の応力およびたわみを,部材の設計許容応力度およびたわみ制限基準L/300で照査した。
構造評価の一例である図ー2および表ー3からもわかるように,部材の断面力は十分に許容値内であるにもかかわらず,変位量が基準値に容易に達してしまう。このことから,FRPによる橋梁は圧倒的なたわみしばりになってしまい,設計における自由度が制約されるといえる。材料の弾性率の向上や,部材断面形状の改善等により,剛性をより向上するような部材設計が望まれる。
上部工の死荷重が非常に小さく,斜材に作用する張力は最大載荷時でも一本あたりおおよそ10kN(約1tonf)程度である。よって,耐荷力的には非常に細いケーブル材で十分であるが,景観の面から直径10mm程度のCFRPケーブルを使用した。ケーブル定着具については,できるだけ小さな形状とするため,必要な張力に見合う最低限の定着具を製作して使用した。
橋梁本体に階段および手摺りを含めた上部工部材の総重量は,約4.4トンであり非常に軽量となった。すべて人力により架設することをも可能とするため,床版パネルは縦横断方向に9分割し,タワーを含め,個々の部材重量は全て150kg以下に抑えた。なお,建設省制定の土木構造物標準設計により同規模の横断歩道橋の鋼重を概算すると,階段を含めて15.1トンとなり,その大きな重量差が認められる。

4.4 施 工
本橋の建設は工場における部材加工と現場架設に分けられるが,今回は製作施工法等の検討を行いながらの作業であったこともあり,工場での部材製作加工に3週間,現場作業は仮設等の準備工を除いた本体部材の組立に関しては作業員4名およびクレーン1台を擁して4日間であった。施工においては,写真ー2のように人力のみによる部材架設作業工数の検討も行った。FRPの部材加工は木工的な作業が可能であり,部材製作工の軽減や,現場における修正にも対応できるものと考えられる。
FRP製部材の重最および現場作業量からみると,簡易な基礎上あるいは人力のみの架設も可能であると考えられるため,災害時等の応急道路橋への応用なども期待でき,FRPの軽量性は構造材料として大きな魅力であると言える。
完成した試験橋梁の全景を写真ー3に示す。

5 おわりに
繊維強化プラスチックの土木構造材料への利用可能性を紹介するとともに,適用による効果を整理した。また,試験橋梁の建設をケーススタディとして行うことにより,必要な材料物性用件の確認と改良点の抽出,構造設計の検討,部材架設方法やその施工性評価などの様々な検討を行い,軽量性や加工性などのFRPの材料特性による適用上の利点を確認することができた。また,完成した橋梁を用いた載荷試験により,変形挙動等の確認も行った6)。材料物性の改良点としては,構造形式および部材断面の改良等によるより一層の剛性向上の必要性が指摘された。新材料を用いた構造物の施工においては接合技術の確立が不可欠である。FRPの利用においては,今回採用したボルト接合の他,接着,ソケットリベット等の様々な方法の組み合わせが考えられるが,信頼性,施工性,耐久性などを勘案して,今後,適切な接合方法を実用化する必要がある。
土木分野におけるFRPの利用はまだ歴史が浅く,様々なアイディアの採用と適用事例の蓄積が望まれる。部材接合方法等の要素技術を含めた応用技術の進展に期待するところである。なお,建設省土木研究所では,平成9年度より㈳強化プラスチック協会および民間会社による共同研究を開始して利用技術の研究を推進し,確立することとしている。

参考文献
1)Koga, Okano, Sakai, Kawamoto, Yagi:”Application of a Tendon Made of CFRP Rods to a Post-Tensioned Prestressed Concrete Bridge”, Proceedings of the Advanced Composite Materials in Bridges and Structures,1992
2)建設省土木研究所材料施工部化学研究室:“繊維強化構造材料の歩道橋への利用可能性の検討”,土木研究所資料第3291号,平成6年11月
3)Nishizaki, Sasaki, Sakamoto, Katawaki:”Feasibility Study of the Application of FRP to Pedestrian Bridges”, Proceedings of the First International Conferene on Composites in Infrastructure, 1996.1
4)㈳強化プラスチック協会:“FRP入門〈新版〉”,昭和62年9月
5)建設省土木研究所ほか:“プレストレストコンクリート橋への緊張用新素材の利用—その2”,共同研究報告書,平成4年
6)佐々本,西崎,坂本:“引抜成形FRPを構造材料に用いた歩道橋”,土木学会年次学術講演会論文集第V部,平成7年

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