直方バイパス掘割区間の地下水対策工
建設省 北九州国道工事事務所
工務課長
工務課長
佐 藤 敏 行
応用地質株式会社九州支社
技術部長
技術部長
塚 本 伸 一
応用地質株式会社 本社技術本部設計部
副部長
副部長
井 出 修
1 はじめに
一般国道200号バイパス(直方バイパス)の頓野地区では建設省と福岡県で同じ工法の掘割道路が計画されている。掘割の延長は,建設省区間で340m,福岡県区間で330mの計670mである。当該区間は,地下水利用の盛んな地域に当たっているため,道路構築によって地下水の流れを阻害し,井戸障害を引き起こす恐れがあった。そこで,道路の両側に連続遮水壁を構築し,逆サイフォン型の通水管で地下水のみずみちを人工的に作り,これによって地下水の遮断防止工を図るための設計を行った。
現在,概ね地下水対策工の施工は終了し本格掘削前の段階であるが,地下水障害は生じていない。
本報文は全国にもあまり例を見ない上述の地下水対策工の設計の概要について紹介する。
2 直方バイパスの経緯と概要
直方バイパスは,直方市内および周辺地域の混雑解消を目的として,昭和46年に八幡西区馬場山を起点として全長約7kmの内,4kmを建設省,3kmを福岡県で事業化されている(図ー1参照)。頓野地区では当初は平面案で都市計画決定がなされたが,周辺住民の「守る会」の反対を受け,昭和55年に掘割案とすることで了承され,平成2年9月に建設省,福岡県,直方市の3者間で確認書が取り交わされている(図ー2参照)。
以上の経緯のもと,平成4年度より調査・設計,平成9年度より地下水対策工の施工が開始され,現在に至っている。
直方バイパスの諸元は以下の通りである。
① 道路規格:第3種第1級
② 設計速度:80km/h(本部線)
③ 標準断面図:図ー3参照
3 基礎地盤の概要
堀割道路区間は九州自動車道八幡I.Cの南側約3kmに位置し,標高36~38mの洪積台地の段丘上に計画されている。周辺は田畑が多く,民家は点在する程度である。
当該地区は,図ー4に示すように表層から3~9mの層厚で段丘礫層が分布している。この段丘礫層は粘土混じり礫から成っており,N値は10~40,透水係数はK=1×10-4~1×10-3cm/secを示している。段丘礫層の下位には基盤である砂岩,礫岩,頁岩からなる古第三紀層(大辻層群)が分布している。この地層は互層状態にあり,N値は50以上を示し,新鮮部はK=1×10-5cm/sec程度の透水係数を示している。また,地層の上面は風化しており,所々に炭層の挟みが認められるが,下部は新鮮な岩盤が出現する。
4 地下水環境
(1)地下水位の状況
掘割道路は前述のように段丘上に建設される計画である。当該地区の地下水位はGL-0~-3mと非常に浅く,豊富であることが特徴である。図ー5には地下水位の低地を表した図を示したが,図示のように地下水はバイパスルートを横断し南西方向に流動している様子が伺える。
(2)地下水利用の実態
地下水位が浅く,地下水が豊富であることから周辺地域では多くの井戸利用が行われている。図ー6は周辺井戸の分布図である。また,表ー1は井戸の聞き込み調査結果の一覧である。
これらに示すように,井戸利用が盛んなこと,0~8mの浅井戸が圧倒的に多いこと,飲用・生活用としてほぼ毎日使用されていること,地下水量が豊富なこと等がわかる。
5 地下水対策工の検討方針
地下水対策工の基本方針は以下の通りとした。
・原則として補償のみで対応することとせず,事前対策により地下水障害を解消する工法を採用すること。
・対策工が道路構造に支障を及ぼさないこと。
・既に取得した用地内で対策が可能なこと。
・経済的に有利で,メンテナンスが可能なこと。
・地下水環境の保全工法として信頼できる工法であること。
・供用後のみばかりでなく,施工中も効果のある工法であること。
上述の考え方に沿った検討の流れ図を図ー7に示す。
6 地下水位の変動予測
地下水位の変動予測を行うため準三次元モデルを作成して浸透流解析を実施した。図ー8にモデル図を,図ー9には同定解析結果から得られた地下水位の等高線図を示す。図示のように,解析値は実測値とほぼ一致している。図ー10は掘割道路を構築した場合の地下水位の変動図である。図示のように道路両側に遮水壁のみを構築した場合には,山側(東側)で最大約3.5mの広範囲に地下水位のダムアップが生じ,反対に海側(西側)では最大約3mの地下水位の低下が生じ,地下水障害が発生するという結果が得られた。
7 逆サイフォン方式による地下水保全対策
対策工の比較検討結果を表ー2に示す。この表に示すように,逆サイフォン方式による地下水保全対策が最適工法と考え,構造細目を決めることとした。本工法は,道路の両側の切土法肩付近で地下水を遮断する連続遮水壁,地下水を上流側で集水するための受水井,下流側に地下水を涵養するための送水井,そしてこれら両井戸を接続する通水管,さらに立体的に集水・涵養を促進するための溝型透水工と鉛直透水工の組み合わせによる復水システムから成っている。
(1)連続遮水壁
連続遮水壁の選定に際しては,必要とする遮水性能に加え,山留め壁としての機能も考慮した。経済性や施工性,工期等を勘案した比較検討の結果,経済性に加え,分割施工の容易さや岩盤への適用等から,ソイルセメント柱列壁を採用工法として選定した。
なお,不透水層である岩盤への根入れ深さについては,浸透流解析結果や施工精度,施工事例等を勘案し2.0mとした。
(2)通水管
① 構造形式
今回の計画では,地下水障害が生じる条件を次のように設定し,この設定条件を基本に通水管の設置間隔を定めた。
・地下水位の低下に伴い,井戸の揚水量が80%以下に減少する場合
・地下水位低下量が現況の季節的な地下水位変動の標準偏差(23cm)の80%を越える場合(≒20cm)
このような設定条件を踏まえ,まず通水管の設置間隔と地下水障害としての影響が生じる井戸の件数を検討した。地下水位変動の計算は,準三次元浸透流解析で行なった。前述の図ー10Bには通水管の設置間隔を40mにした場合の結果を示している。
図ー11は,通水管の設置間隔と地下水障害の生じる井戸件数の関係を示したものである。この結果によると,通水管の設置間隔が概ね40mを越えると,地下水位低下が生じる井戸数が急増していくことが分かる。
したがって,この点より通水管の設置間隔は,40mを基本として計画した。
② 通水管の敷設方法
掘割道路の建設に伴う地下水の変動を極力抑制するためには,通水管の敷設を掘割道路の施工前に行うことが必要となる。このため,水量から設定される通水管の管径を満足するとともに,メンテナンスや機械化施工が可能な推進工法(小口径推進工法)を採用することとした。
③ 通水管径
通水管は,掘割道路建設の前後で地下水位の変動が生じるのを防ぐために設置するものである。浸透流解析結果によると,通水管1本当たりq=7.6ℓ/分と極めて少量の水が流れるという結果が得られている。
この流量を通水するのに必要な管径はマニングの式によると42~47mm程度,ヘーゼン・ウイリアムスの式によると17mmとなる。
しかしながら,横断管の最小径については表ー3に示す値が提案されている。本線下には地下埋設物を設置しないこと,管路は圧力管であること,機械化施工が可能な管径であること等を勘案し径を250mmに設定した。
(3)溝型透水工および鉛直透水工
受水井戸に確実に地下水が流入し,また送水井戸から地下水をロスなく流出させるため溝型透水工および鉛直透水工を設けることとした。
これらの概要は,図ー12に示す通りである。なお,井戸はφ2000mmのライナープレートにより掘削することとし,ライナープレートにはφ75mmの水抜き孔を3m2に1カ所の割合で設けることとした。また,溝型透水工を連続的に設置した場合には,縦断方向に地下水が流動する可能性があり,全てを連続させると逆効果になる。このため,溝型透水工の延長を,L=10.0mとした。また,鉛直透水工はφ500mmとして,2m間隔で打設するものとした。
以上に説明した構造細目をもとに,逆サイフォン管方式による復水工法の標準断面を,図ー13に示すように配置するものとした。さらに,施工中においても極力水位低下を防止するため,施工は千鳥の分割施工とした。
8 施工中のモニタリング結果
当該区間では,施工中~施工後における地下水位の変化を把握するため観測を実施している。図ー14はそのモニタリング結果である。このように顕著な地下水位の変化は生じておらず,対策の効果が十分発揮されていることがわかる。
9 あとがき
今回直方バイパスで採用した地下水対策工は全国で2例目であるが,遮水壁を岩盤に根入れした例は今回のケースが初めてである。このように極めて特殊な工法であるため,地下水位を観測しながら,慎重に施工を行っている。
現在のところ,地下水障害は発生していないが,路体の本格掘削はこれから開始されるため,今後も引き続き遮水壁内側の路体掘削による影響をモニタリングしながら,本対策工の有効性を監視する予定である。
今回の報文が類似の設計・施工計画の検討に活かされれば幸いである。
参考文献
1)西垣:被圧水および高地下水地域での基礎工の計画と施工の問題点 基礎工,Vol.18,1990
2)久楽ほか:漏水地盤における止水矢板の打設範囲とその効果 土木技術資料,30-3,1988
3)余村ほか:連続切土区間の地下水保全について,第33回業務研究発表会論文集(その1)日本道路公団,1991