番匠川灘 地区の河川改修事業について
~長年の堤防整備がついに完成~
~長年の堤防整備がついに完成~
佐藤博志
中村僚樹
中村僚樹
キーワード:河川改修、道路改良、係留施設
1.はじめに
番匠川は、その源を大分県佐伯市の三国峠に発し、佐伯市街地を貫流し、佐伯湾に注ぐ、幹川流路延長38㎞、流域面積464km3の一級河川である。 佐伯市街部は佐伯藩の城下町として栄え、「佐伯の殿様、浦でもつ」 と言われるなど、番匠川は豊富な山の幸海の幸を今なお創出する重要な河川である(図-1)。
灘地区は、番匠川河口部右岸に位置し、河口より約0.2㎞から2.6㎞の区間が事業区間となる。当地区は、各集落毎に山付きであるという地形条件及び当該地区と市街地を結ぶ唯一の生活道路が河川際を縦貫しており、河川改修に併せて道路改良を行う必要があったこと、また、佐伯市街地を有する対岸側の整備が優先されてきたことなどから整備が遅れていた地区である(写真-1)。
そのため、近年の出水では、平成16年に床上浸水13戸、床下浸水11戸、 平成17年には床上浸水2戸、床下浸水7戸の浸水被害が発生するなど、浸水被害が頻発していた地区である。また、東南海・南海地震における防災対策推進区域に指定されており、津波の影響を直接受ける地区となっている。
本稿では、平成27年度に完成した灘地区について、これまでの改修経緯及び工事内容について報告するものである。
2.番匠川灘地区における課題
2.1.地形・地質
当該地区は、河川と背後地の山に挟まれた狭い地区であり、山の尾根により生活ブロックが区分されている状況である。このため、一般的な盛り土による築堤方式の改修を行った場合、生活道路を含めたほとんどの土地が堤防敷となり、地域社会の存続や居住環境などに影響を及ぼす恐れがあった。
また、当該地区周辺は河川の勾配が殆どない感潮区間であり、周辺地質は上位に海成の未固結の粘性土・シルト、火山灰質砂層を含む沖積層が確認されるなど、沈下に対する配慮を要する地質となっている。
一方で、背後に灘山が迫っていることから、浅い位置に岩層が確認される場所が点在し、一部では岩の露出も確認されるなど複雑な地質を有する箇所となっている(図-2)。
2.2.県道改良事業との連携
灘地区には、河川に沿って県道梶寄浦佐伯線が通り、対岸の佐伯市街地への唯一のアクセス道路であるとともに、佐伯市東部に位置する鶴見とを結ぶ重要な道路となっている。しかし、特有の地形により平地が限られるため道幅が狭く、山の尾根によって道路が蛇行し、非常に見通しが悪かったことなどから道路改良が求められていた(写真-2)。
また、当該道路は敷高が低く、高潮や洪水によって道路が水没し通行止めになるなど、抜本的な改良が必要な状況であったが、河川改修同様、敷地的制約等によって対策が遅れている状況だった(写真-3)。
事業にあたっては、河川と道路の一体的な整備が地域の希望であり、河川改修を行うにあたっては、道路事業との連携を図った。
2.3.係留船対策
番匠川の流れ込む佐伯湾は美しいリアス式海岸が特徴で、好漁場が多く、漁場が近いため、漁業はもちろん釣りなどのレジャーが盛んであり、遊漁船の所有者も多い。一方で、全体的に係留施設が不足しており、多くの船舶が佐伯市内の各河川に係留している状態である。
灘地区においても事業区間には船舶が係留されており事業の支障となったが、昔からいわば地元の港として利用されていたこと、また、他に係留場所がないことなどから、市と連携した抜本的な対応が必要とされた(写真-4)。
3.灘地区河川改修事業について
3.1.改修計画
堤防形式については、通常の土堤方式のほか、特殊堤方式及び宅地嵩上げ方式等について比較検討を行った結果、上流区間は宅地嵩上げ方式(図-3、写真-5)、下流区間については特殊堤方式(図-4・写真-6)とした。
土堤方式では限られた平地の多くを堤防敷とする必要があり社会的影響が大きいこと、宅地嵩上げ方式では、道路も含め嵩上げを行う必要があるが、上流区間以外は対象家屋が多く小学校など現実的に嵩上げが困難な施設を含むため、下流地区に適さなかった。
一方、特殊堤方式とした場合、現況の平地を出来るだけ減らさないことが可能であり、県道拡幅事業と一体的に整備することで道路拡幅に伴う必要用地を特殊堤の前出しによって確保し、地域への影響を最小限に抑えることとした。
施工にあたっては、最大約1mの圧密沈下が想定されたことから、盛土については段階施工を行うこととし、特殊堤区間については比較検討の結果、基礎形式を矢板護岸形式とし、沈下防止矢板を設けることとした。
また、河川内に特殊堤を整備する場合、係留している船舶が事業の支障となるが、河川内係留船は佐伯市としても課題でった。元々入り江状になっていた第3工区の潮だまり箇所は、古くから台風等の際には係留船の避難場所ともなっていたが県道敷高が低いことから、県道を嵩上げ・拡幅し、潮だまりをマリーナとして活用できる整備を行った。また、河川事業及び道路事業によって発生する土砂を有効利用し、潮だまりの半分を埋め立てることで防災広場を設け、有事の際の拠点整備を行うこととした。
これらの調整によって灘地区は、河川改修の国、道路改良の大分県、係留施設の佐伯市の3つの所管事業が互いに連携しながら整備を行なった(写真-7)。
3.2.工事経緯
灘地区の上流区間については対象家屋が限られており、道路を含めた嵩上げが可能だったため、平成4年度に着工し、平成13 年度までに約30億円をかけて65戸の家屋嵩上げ及び約1,150mの道路改良等を行った(写真-8)。
課題の多かった下流区間については、全4工区に分けて整備を行うこととし、平成16年度より事業に着手した。上流側から第1 工区とし、当初は第1工区から事業を行っていく予定であったが、平成15年度に大分県が第3工区において、道路改良事業の一環であるトンネル工事に着手、また、佐伯市によりマリーナを予定している箇所においてトンネル工事で発生する土砂を活用した防災拠点計画及び残水面を活用した係留施設計画が具体化された。これを受け、第3工区の河川改修を県の道路改良事業と合併することで双方の大幅なコスト縮減が図れ、市によるマリーナ整備も円滑化が期待されたため、第3工区先行とした。その後、河川単独区間である第4 工区についても整備を行い、第3・4 工区について平成19年度までに整備を完了した。
引き続き、受託合併区間である第1 工区に着手、平成23年度には第2工区の整備にも着手し、平成28年3月をもって全ての河川整備を完了したところである(写真-9)。
4.おわりに
河川改修事業による堤防整備や国と県の合併工事で整備を終えている県道については既に供用され、今後の出水時において、家屋浸水や県道冠水など浸水被害の軽減に大きな効果が期待される。
また、佐伯市の整備による係留施設(マリーナ)についても地元によって管理・活用が行われており、台風等の際には船舶の避難場として活用されている。
なお、河川改修事業として、平成4年度に着手して以来23年間もの長きにわたり、本事業にご理解とご協力を頂いた地元住民の方々に感謝の意を表すとともに、歴代の佐伯市、大分県、佐伯河川国道事務所の関係者並びに工事に携わった施工業者、地質調査、測量設計、補償業務関係の関係者の皆様に感謝の意を表す。