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生月大橋の補修工事について
金子哲也

キーワード:生月大橋、復旧、補修、鋼材ひび割れ

1.はじめに

生月大橋が架かる生月島は、長崎県の北西部にある平戸市にあり、人口約7,000人、面積16.5k㎡の漁業が盛んな島である。
大バエ断崖に代表される変化に富んだ美しい海岸線が多く、風光明媚で、西海国立公園にも指定されている。また、潜伏キリシタン、捕鯨などの歴史もあり、島内の博物館ではその一端に触れることが出来る。
生月大橋は、平成3年7月31日に供用された生月島と本土とを結ぶ唯一の橋梁である。最大支間長は400mで世界最大級の3径間連続トラス橋である。

この長大橋において、供用後約19年が経過した平成21年12月9日、P6橋脚付近の北側斜材部にひび割れが発見された。
本稿では、ひび割れ発見から復旧工事完了までの検討過程、設計や施工について紹介する。
【生月大橋の概要】
路線名:主要地方道平戸生月線     航路幅:320m
供用開始日:平成3年7月31日      桁下高:N.H.H.W.L上 31.0m
橋 長:960m(最大支間長 400m)   交通量:3,076台/日
幅 員:6.5m                  橋梁形式:3径間連続トラス橋

2.ひび割れの状況

今回のひび割れは、平成21年12月7日~12月8日に行われていた設計コンサルタントによる生月大橋維持管理関連業務の現地調査(遠望目視)の際に発見された。

ひび割れの状況は、下記の通りである。
(超音波探傷試験、磁粉探傷試験により確認)
①海側フランジ面のひび割れ
長さ46.5㎝(開き 4㎜)
②生月島側ウェブ面のひび割れ
長さ51.0㎝(開き 4㎜)
③道路側フランジ面のひび割れ(表面損傷)
長さ 7.5㎝(深さ 2㎜)

なお、損傷斜材の上端部、損傷斜材と対称の斜材について、超音波探傷試験、磁粉探傷試験等のひび割れの有無を確認するための試験を行ったが異常は発見されなかった。

3.応急対策について

ひび割れ発見後、まず、交通規制(片側交互通行)を実施した。その後、ひび割れ進展による部材の破断を防ぐと共に、本復旧までの安全性を確保するため、下記の応急対策を実施した。
①12月11日
ひび割れ先端での応力集中を低減させるため、ウェブ面のひび割れ先端部に直径20㎜の孔(ストップホール)をあけた。

②12月12日~12月14日
ひび割れが発生したウェブ面に添接板を設置しひび割れ部分を閉じ合わせるとともに、ひび割れによる断面欠損を補った。

③12月20日~12月25日
4本のPC鋼棒によるバイパス部を設置し、ひび割れによる断面欠損を補うとともに、PC鋼棒を締め付けることで応力の流れを鋼棒へバイパスさせ、残存部材にかかる応力を緩和した。

応急対策完了後、載荷試験などで安全性を確認したのち、平成22年1月9日に交通規制(片側交互通行)を解除した。

4.計測及び監視

安全性に関して更なる万全を期すため、本復旧が終わるまでの間、損傷した斜材周辺にひずみ計を37箇所設置し、24時間体制でひずみの計測による監視を行った。
監視は長崎県と長崎県道路公社が担当し、PC鋼棒による応急対策が完了するまでの片側交互通行規制中は、橋上に測定数値が表示されるモニターを設置したワゴン車を置き、測定者もワゴン車に常駐して監視を行った。その後は、長崎大学の協力により、パソコンでの遠隔監視が出来るようになったため、職員が生月大橋から離れた職場や自宅で監視を行った。

5.本復旧工事における課題と対策

学識経験者などで構成される「生月大橋緊急対策検討委員会」で復旧工事に関する計三度の審議が行われ、損傷部材を切断撤去し、新設部材を取り付ける「斜材部分取り替え案」が条件付きで採用されることとなった。損傷部材を完全に撤去することにより長期耐久性に優れ、かつ、撤去した損傷部材の詳細な調査が実施出来る。

条件付きで採用と記載したが、その条件とは下記の通りである。
  1. 切断する際には、応急対策で設置した4本のPC鋼棒を緊張して撤去する斜材部分を無応力状態にする必要があるが、無応力状態に出来なければ工事を停止すること。
  1. 切断時には、4本のPC鋼棒で支えているとはいえ、斜材が繋がっていない状態になるため、更なる安全性向上対策について検討すること。
この2つの条件が、本復旧工事における最大の課題であり、これらを克服しなければ、本復旧工事の完成はあり得ない。
この件について、学識経験者、県、設計者施工者で協議を重ね、作業ステップ毎に課題整理を行った結果、次のような対策を実施することとなった。

①の無応力状態にするための対策(方法)
  1. ひび割れが発生した斜材をFEM要素とし、その他を骨組み要素でモデル化したFEM解析により、どれくらいの軸力をどのように載荷すれば無応力状態になるかを推定する。
  1. PC鋼棒への導入軸力の精度向上のため、引張試験により実際に使用されているPC鋼棒の荷重とひずみの関係を確認する。
  1. ロードセル(力を検出するセンサー)を用いた軸力計測システムを構築しPC鋼棒の軸力管理を行いながら段階的に軸力を導入する。
  2. 計測システムは、PC鋼棒や斜材に設置したひずみ計、PC鋼棒に軸力を導入するデジタル荷重計付き油圧ジャッキ、ロードセルを用いて総合的に監視する。

  1. 無応力状態の確認
  2. PC鋼棒に目標の軸力を導入後、ひび割れ箇所の下部にあるガセット部の四隅の高力ボルトを抜き、そこにピンを挿入し、他の高力ボルトを緩めた際にピンの挙動が無ければ、無応力状態であると判断する。

②の更なる安全性向上のための対策
  1. 部材切断撤去~新設部材設置の作業を2分割で片側ずつ行うようにし、斜材が全く繋がっていない状況を作らないようにする。

6.本復旧工事の施工

軸力導入から既設部材の切断撤去、新設部材の設置は、平成22年5月24日~5月29日に夜間工事で実施された。
通行規制については、夜間工事中、全面通行止めの措置をとった。
夜間全面通行止めの措置を行った上での工事であるため、作業の遅れは許されない。そのため、工事工程表の作成に当たっては、工事に先立ち、実物大の模型を製作した上で、実際に現場で作業を行う作業員が切断等の試験施工を行い、問題点の洗い出しや作業時間の計測などを行った。その結果を工程作成時に反映することで、より精度の高い工程表を作成することが出来た。

5月24日~5月29日に実施された夜間工事の詳細は、下記の通りである。
①5月24日(月)
・PC鋼材への軸力導入工
・損傷部の無応力状態の確認
無事、無応力状態が確認出来た。
②5月25日(火)
・悪天候により中止(強風)
③5月26日(水)
・悪天候により中止(強風)
④5月27日(木)
・斜材への孔明け
仮のスプライスを製作し、それをガイドにして斜材への孔明け作業を行った。

⑤5月28日(金)
・損傷部材の切断・撤去
・新設部材の設置

⑥5月29日(土)
・高力ボルト本締め
・PC鋼材に導入していた軸力の解放

その後、塗装等の防錆工、足場や支保工などの仮設材を撤去し、平成22年6月30日に全ての工事が完了した。

7.おわりに

今回の生月大橋の補修工事が、損傷発見から完了まで半年という短期間に完了することが出来ましたのは、長崎大学の先生方をはじめとする学識経験者、国土交通省、県、道路公社、設計者、施工者が一体となって取り組んだおかげだと感じています。この場をお借りして、関係者の方々に厚く御礼申し上げます。
今後は、撤去した損傷部材の詳細調査など、本格的な原因究明のための調査を実施し、その結果を踏まえ、生月大橋の安全の確保のために、点検や、維持補修を行っていきたいと考えています。
また、今回の出来事を、長崎県の他の橋梁の維持管理にも生かして行きたいと考えています。

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