生コン業界における品質管理の現状
(全国品質管理監査制度を中心に)
(全国品質管理監査制度を中心に)
全国生コンクリート工業組合連合会九州地区本部
技術部長
技術部長
田 口 茂 久
1 はじめに
日本における生コンクリート工場は,1949年(昭和24年)に東京コンクリート工業㈱業平橋工場が誕生した。その後,本格的に普及し始めたのは1950年代の後半頃に当たり,品質規格としてJIS A 5308(レディーミクストコンクリート)が1954年に制定され,1965年にJISマーク指定品目となった。現在では4820工場が操業し,JISマーク表示許可工場は4350工場で全工場の90%である。このうち,全国生コンクリート工業組合連合会(以下,全生工組連)の会員は3570工場で,全工場の74%,全JIS表示許可工場の80%に達し,比較的組織率の高い団体といえる。また,今日,日本で生産される生コンクリート(以下,生コン)は西欧主要5カ国の生産量合計をしのぐ約165百万m3/年に達している。
一方,九州の経済規模は全国の約10%と言われるが,平成10年度の生コン生産量は全国の14%になっている。さらに,九州地区内(沖縄を含む)の生コン工場は全国の17%に及ぶ750工場(会員611工場,81%)になっており,生産量,工場数において全国経済規模を上回っている。
さて,生コン工場の製造プラントは1956年より急速に進歩した制御機器を導入したプラント建設が進められ,最近では,各機器の高性能化と共にコンピューター制御による製造システムの自動化が図られている。その一方では高流動コンクリート,高強度コンクリート,水中不分離性コンクリートなどのより高性能コンクリートが求められると共に購入者からは品質に対する信頼性向上が一段と高まっており,今日までのJIS至上主義とする品質保証体系では対応できない時期に入っている。この信頼性向上の施策として,全生工組連においては,1995年に第三者の参画による全国統一品質管理監査制度を導入し,約20年継続した内部監査制度から第三者機関に向けてシフトを始めた。近年の国際化の中で,国際標準規格の品質保証システムに関連するISO 9000シリーズの導入が建設業界で急速にすすめられているが,この動きへの対応に関しては生コン業界でも例外でなく今後は全国統一品質管理監査制度を柱に国際化(ISO)を視野に入れた品質保証システムの確立を図ることになる。
ここでは,全国統一品質管理監査制度の概要と最近の取り組みの動向を紹介する。
2 品質管理監査制度導入の経緯
(1)品質管理監査制度の発足
生コン業界における品質管理監査制度の導入は,昭和50年代の不況下で多発した“欠陥生コン事件”を契機に昭和53年5月に関東中央生コン工業組合(現在の埼玉,千葉,東京,神奈川4工業組合で結成)が最初である。本制度導入については,欠陥生コン事件においてJIS表示許可工場における品質管理の在り方そのものにも問題があるとのことで,行政当局等から“品質管理強化の内部指導体制の確立”を厳しく指導された経緯がある。
この頃,生コン業界では全国的に協同組合による共同販売事業が普及するにつれて,協同組合では生コンの品質保証という連帯責任体制の確立が不可欠な状況下にあった。すなわち,出荷する生コンの品質のバラツキを無くし,均斉化を図ることが共同販売事業を運用する上での前提条件であった。しかし,協同組合では組織力,財政力の格差あるいは需要者からの信頼・評価を得ることが難しいことから工業組合の体制下で品質管理監査制度を進めることが望ましいとの判断に基づき,各工業組合において監査制度の導入が図られ,JISによる品質保証を補完するとともにその信頼性向上を目的として全工業組合の事業の重要な柱として定着した。
(2)九州地区における監査制度の動き
九州地区では中小企業近代化促進法による構造改善事業の重点事業として,昭和54年の大分県生コン工業組合が監査制度に着手したのを初めに昭和59年までに各県でも取り組むことになった。この間,九州各県は抜取り検査を中心とする内容の監査を実施していたが,その他の監査項目については,統一性に欠けていたため,会員からの要請もあって昭和59年には九州地区統一品質管理監査チェックリストを作成し,全県同一レベルでのチェック体制を整えた。しかしながら,監査制度の運用面においては,監査への外部立会,顧問制度を採用していたものの委員構成については大半の工業組合とも生産者のみによる内部監査の範囲で推移した。
平成4年に発生した鉄筋,生コン業者によるJIS違反事件によってJIS製品への信頼度が低下する中,長崎県生コン工組では,九州地方建設局技術管理課の指導を受けて平成5年7月には従来の委員会組織を工業組合から切り放し,松藤教授(九州大学大学院)を議長とする学・官・産による監査委員会を発足した。また,監査基定として基準評定基定,品質評定基定,管理体制基定による監査評定総合規定を作成し,対外的信頼・評価を得られる体制作りに取り組んだ。この成果は今日の全国統一品質管理監査会議設置の基盤にもなっている。
(3)全国統一品質管理監査制度に向けて
20余年に亘って実施した監査も全国的には内部監査ゆえに購入者からの信頼性は今一つである上に,各工業組合で行われている監査制度では全国的に統一性を欠くことが指摘されてきた。平成8年5月に実施した品質管理監査制度の状況に関するアンケート調査は次の通りである。
① 品質管理監査は全46工業組合(以下,工組)が実施している。うち,産・官・学で委員会を構成しているのは29工組,業界のみは8工組,産・官・学の一部が加わっているのは9工組である。
② 学識経験者が委員長を務めているのは16工組,官公庁の代表者が委員長を務めているのは1工組のみ,残る29工組は工組の理事長が委員となっている。
③ 立入り監査は年1回が27工組,2回が18工組,3回は1工組だけである。
④ 監査方法は実地検査のみが3工場だけで,残る43工組は書類監査も行っている。
⑤ 産・官・学の立会は32工組が実施。
⑥ 監査結果の外部への公表は33工組が実施。
これらの現状を踏まえて新しい監査制度の検討がなされることになった。
3 全国統一品質管理監査制度について
(1)全国生コン品質管理監査会議の発足
国際化の進展を始めとして建設産業を取り巻く社会経済環境が急激に変化する中,平成7年12月に全生連合会に中央における産・官・学の第一人者の参画した「全国生コンクリート品質管理監査会議」が設立され品質管理監査の透明性・公正性・中立性を高め,より信頼性の高い監査制度を確立するための検討がなされた。具体的内容の検討については,初代議長の故 岸谷教授(東京大学工学部名誉教授)の提案により若手を中心とした7,8名でワーキンググループを構成し,監査制度の在り方,統一監査基準の作成に当たることになった。
ワーキンググループの8回に亘る検討内容に基づき平成9年3月18日に新しい品質管理監査制度の説明会が開催された。これをもって,全国統一基準による品質管理監査制度が正式にスタートすることとなった。新しい監査制度の仕組みは次の6項目をもって説明できる。
① 産・官・学体制による品質管理監査組織を構成する。
② 組織は1工組を1単位とする。
③ 組織の名称を統一する。
④ 全国統一した基準によって監査する。
⑤ 監査の仕組みは中立性・公正性・透明性を持ったものとする。
⑥ 監査結果を使用者に広く公表する。
(2)監査制度の仕組み
この制度は,通産省,建設省の指導を得て,中立性,公正性,透明性を高めた監査によって,生コン業界の一層の品質向上を図り,かつ購入者の高い評価と信頼性を得ることを目的として構成された全国生コンクリート品質管理監査会議が生コン業界からの委託を受けて実施するものである。
この制度の構成は,全国生コンクリート品質管理監査会議(以下,全国会議)と各の県生コンクリート品質管理監査会議(以下,地区会議)からなっている。監査制度の仕組み並びに全国会議と地区会議の行う審議事項を図ー1,表ー1にそれぞれ示す。
(3)品質管理監査会議の構成
会議の構成と特別委員の所属は表ー2,表ー3の通りである。また,会議には,規程,基準などの原案を作成する下部機構として小委員会を設けている。
(4)全国統一品質管理監査基準
監査基準はJIS工場の遵守事項として要求されているJIS規格,個別審査事項並びに全国会議で定めた要求事項を基本に策定されたものである。図ー2に全国統一品質管理監査基準の概要を示す。その内容は,A総括的事項の調査,B個別的事項の調査,C実施検査からなるが,平成10年度から品質の確保をより確実なものとするため,従来のJIS A 5308の規定を補足するものとしてISO 9000 S(品質システムの規格)のうち表ー4に示す項目を取り入れた基準になっている。
さらに,監査において最も重要な役割を占めるのが監査指導員および監査員であり,全国会議として表ー5のような資格基準を設けている。また地区会議の監査指導員に対し,監査方法の説明会を毎年3月に開催し,監査指導員はこれを受けて各地で監査員に対する説明会を行うことになっている。
(5)監査結果の評価基準
監査チェックリストには監査項目毎に評価を行うようになっているが,平成10年度からは工場の総合評定が行えるように監査項目をその重要度によって1種,2種,3種に分類した適合判定暫定基準を提示している。工場の総合評定は,監査項目119項目の減点の総計がー20以下であればその工場を適合と判定するものである。
(6)平成10年度の監査結果について
平成10年度の監査を受けた対象工場は,全国で3,152工場であり工組組合員3,070工場,非工組組合員82工場であった。各工場の総合判定の結果は「適合」と判定された工場が2,902工場(92%)であり「不適合」工場が8%であった。
監査結果に関連する全国会議の長瀧議長(新潟大学教授)の記者会見の内容は次の通りである。
「あくまで監査基準(案)による評価であり,この基準は相当にハードルの高いものになっている。したがって,通常のJIS基準によるものであれば合格工場でもこの基準に従うと不合格ということは大いにあり得る。不適合が8%という数字については,以上の事情を配慮してくれぐれも慎重に取扱って欲しい」と要望している。さらに「発注者,ユーザーは,この品質管理者の合格工場を積極的に使っていただきたい。それが生コン製造の品質管理の意欲を向上させることにつながるのだから」とも要請した。
4 監査制度に対する対外的な評価
監査の中立性,公正性,透明性を高め,かつ生コンクリートの品質保証体制の確立を目的として発足した全国統一品質管理監査制度に基づく監査が実施され3回目を重ねた。平成10年度からは適合判定暫定基準に基づき適合工場には大部分の地区会議において合格証が発行されている(図ー3)。
このような背景を踏まえ,学会等からの評価も高まり平成11年3月には建築学会がコンクリートの品質管理指針・同解説中に「監査合格工場から選定するのが望ましい」としており,土木学会のコンクリート標準示方書・施工編(平成11年版)にも同様の表現内容が盛り込まれることになっている。さらに,発注官庁サイドにおいては,九州地方建設局技術管理課を中心とした「生コンクリー卜品質管理監査連絡協議会」を発足させ,監査の結果によって優遇処置を講じる動きがみられるなど,本制度に対する評価が高まる気運にある。
5 おわりに
今日の国際化の流れ,特にISO 9000 Sについては,建設関連業界で急速に浸透しつつある中で,欠陥生コン事件を契機に始まった品質管理監査制度も20余年に亘って実施された実績に基づき平成7年に設立された品質管理監査会議は国際化の波にうまく合わされるタイミングで動き始めたといえる。
不透明と言われていた生コン工場の品質管理の状況が第三者の参画する品質管理監査制度により透明化されたが,これで品質保証の全てが完成した訳ではない。むしろ,今そのスタート地点にあるという認識に立って業界としての品質保証システムを確立していくことが生コン業界が果たすべき使命であると考える。
延いては,本制度が確固たるものに作り上げられた時,ISO取得の有無に関係なく,需要家から監査合格工場はISO 9000 Sに対応できる工場であるとの評価を得ることができると確信する。
最後に,本内容は「平成10年度・全国統一品質管理監査結果報告書(全国生コン品質管理監査会議・平成11年8月)」並びに「生コンクリート製造業における品質保証のあり方(全国生コン工組連・平成11年6月)」を中心に整理したものである。