熊本県民総合運動公園整備事業の概要
(「くまもと未来国体」主会場整備)
(「くまもと未来国体」主会場整備)
熊本県土木部都市計画課
参事
参事
増 田 厚
1 はじめに
「くまもと未来国体」の主会場となる熊本県民総合運動公園は,熊本市の東部に位置し,JR熊本駅から約12km,九州縦貫自動車道熊本インターから約1kmの位置にある開園面積約63haの運動公園である。熊本県においては,本運動公園を拡張し,平成11年開催の第54回国民体育大会メイン会場として整備することが,平成元年12月に決定された。これを受け,平成4年3月に拡張区域約34haを都市計画決定,平成4年5月に事業認可を経て事業に着手し,現在整備を進めているところである。
今回の整備は,陸上競技場,屋内運動広場など大型施設を含めた公園整備であり,熊本県でも例がない大型プロジェクト事業であるため,ここにその概要を紹介するものである。
2 熊本県民総合運動公園の整備概要
(1) これまでの整備経緯および現況
熊本都市計画公園熊本県民総合運動公園は,熊本県の施策として展開した「県民総スポーツ」の具体策として,広く県民各層が気軽に利用できる野外レクリェーション,スポーツ活動の場とするとともに,都市周辺における緑を存続させ,併せて良好なる都市環境の創造に資することを目的として,昭和47年~昭和57年,昭和62年~平成3年の2期にわたり,63.1haの整備を行った。本公園は,開園以来多くの県民に,スポーツ活動や体力作りはもとより,遠足やピクニック会場などレクリェーションにも利用されており,県民の健康増進や憩いの場として,平成6年度の年間利用者が約250万人の都市公園である。
(2)国体秋季主会場の整備概要
① 公園としての施設整備の必要性
近年の社会情勢の変化により,個人生活においては,生活のゆとりや豊かさに対する関心が高まっており,「物の豊かさ」だけではなく,精神的なゆとりや充実感,連帯感といった「心の豊かさ」がより求められている。また,労働時間の短縮により余暇時間も増加しており,余暇活動の中でスポーツが生活の充実にとって,重要な価値を持つものであることが幅広く浸透し,スポーツに対する関心が高まっている。この傾向は,21世紀に向けていっそう高まるものと思われる。
また,都市化・高齢化の生活環境の変化に伴い,個人の価値観・ライフスタイルはさらに大きく変化しており,スポーツ施設においても「より高度で多様な」機能が求められており,都市公園にも多くの機能が求められている。
今回の公園整備においては,国体施設の整備を通じて,県民のスポーツ活動・生涯スポーツの拠点づくりおよび各種国際大会やスポーツ文化イベント等が開催できる施設整備を行う。
② 整備方針
整備にあたり,熊本県総合計画(ゆたかさを多彩『生活創造』くまもと),文部省保健体育審議会(「21世紀に向けたスポーツ振興方策について(答申)」)等の施策をもとに,熊本県民総合運動公園の整備方針を次のように決定した。
熊本県のスポーツの中核施設(総合的な拠点)
・誰もが生涯を通じてスポーツを楽しめる施設整備(「するスポーツ」)
・グレードが高いスポーツイベントが開催できる施設整備(「みるスポーツ」)
・競技力向上に寄与できる施設整備
・公園で1日楽しめる多様なメニューの提供ができる施設整備
③ 計画概要
平成3年3月に策定された「第54回国民体育大会主会場整備基本計画」により,熊本県民総合運動公園拡張区域に国民体育大会秋季大会主会場として,陸上競技場,補助競技場,荒天時の開閉会式会場となる屋内施設等の運動施設および駐車場等の便益施設,その他公園施設として園路広場,修景施設,休養施設,管理施設の整備が計画された。
これを受け,公園基本設計,陸上競技場設計競技,屋内運動広場提案競技を経て,各施設の基本・実施設計を平成7年2月までに終了した。
その施設の概要は以下のようなものである。
a 陸上競技場
【面 積】約41,000m2
【用 途】陸上競技,サッカー・ラグビー等の球技,国体秋季主会場,陸上競技会場
【整備水準】国際規模の各種競技が招致できる施設
日本陸上競技連盟公認第一種競技場
b 補助競技場
【面 積】約28,000m2
【用 途】陸上競技等
【整備水準】日本陸上競技連盟公認第三種競技場
トラック:1周400m,6レーン,全天候舗装
インフィールド:天然芝,全天候舗装
c 投てき練習場
【面 積】約12,000m2
【用 途】やり投げ,砲丸投げ,ハンマー投げ,円盤投げ,多目的広場
【整備水準】第一種競技場の付帯施設
d 屋内運動広場
【面 積】約26,000m2
【用 途】テニス,ゲートボール,ソフトボール,サッカー等のスポーツおよび文化活動,各種イベント
【整備水準】全天候型のスポーツレクリエーション施設
国体の荒天時開閉会式場
e 園路広場
・ペデストリアンデッキ:L66m,W18m
・アンダーパス:2カ所 W10m,W8m
・幹線園路・準幹線園路(ジョギング路兼用)
・散策路
・憩いの広場:芝生広場,緑陰樹
・花の広場:芝生広場,花木
f 便益施設
・駐車場:2カ所約 49,000m2
・便所:9カ所
g その他
・休養施設,修景施設,管理施設
3 主要施設について
今回の整備事業における主要施設である陸上競技場および屋内運動広場については,平成5年度にそれぞれ設計競技および提案競技を行い,その当選作品を計画案とし,平成6年度に基本・実施設計を施行し,平成7年度に工事に着手し,現在工事施工中である。
今回の公園整備事業の主要施設であるこの2つの大型運動施設について,ここに紹介するものである。
(1)陸上競技場
① 設計競技
「平成11年に熊本で開催される第54回国民体育大会の秋季大会主会場となる熊本県民総合運動公園に陸上競技場を計画するに当たり,隣接地に計画している屋内運動広場と共に県民スポーツの中核として象徴性・記念性に富む施設とするために,高度の技術と最新の英知を結集し,独創的な計画案を求める指名設計競技を行うものです。」(熊本県民総合運動公園陸上競技場設計意克技募集要項)の目的のもとに,建築設計事務所5社によりコンペが行われた。
② 施設の特徴
従来の競技場が,競技者用の諸室と運営役員用の諸室をメインスタンドに設けているのに対し,本競技場は競技者用の諸室をバックスタンドに設けることにより,競技者と運営役員を分離した。観客席への出入り口を52箇所設置し,横歩きなしで移動でき,わかりやすく避難しやすいスタンド計画とした。
スタンド周囲に二重螺旋のスロープデッキがまわり,人に優しい動線計画となっている。
メインスタンドとバックスタンドの大半を覆うテフロン膜の大屋根は,4基の照明塔により吊される独特の構造形式となっている。
③ 施設の概要
a 建築概要
・階 数:地下1階,地上7階,塔屋1階
・建築面積:20,240.83m2
・延べ面積:34,950.44m2
・グランド面積:21,089.90m2
・屋根頂部高さ:37.45m
・照明塔頂部高さ:59.7m
・観客席数:3.2万席(身障者席154席含む)
・構造
架構:鉄筋コンクリート造およびプレストレストコンクリート造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造)
屋根:サスペンション膜構造および吊り構造(膜構造評定:BCJ-M085)
基礎:鉄筋コンクリート造独立基礎(一部場所打ちコンクリート杭基礎)
b グランド概要
・トラック:1周400m,9レーン,全天候型ウレタン舗装(エンボス仕上)
・インフィールド:
各種跳躍(走り高,棒高),投てき(砲丸,円盤,ハンマー,やり)競技ピット
天然芝(オーバーシーディング)107m×70m,
全天候型ウレタン舗装
・アウトフィールド:跳躍(走り幅,三段,棒高)競技ピット
全天候型ウレタン舗装
c 設備概要
・フィールド照明設備:フィールド用アーク型投光器
平均水平面照度1,500Lx
・電光表示装置:10m×23m程度
英数字・片仮名・記号:12行40文字
漢字(JIS第1,第2水準):5行13文字
・昇降機設備:シースルータイプ2台
乗用15人乗り
(2)屋内運動広場
① 提案競技
「県民誰もが気軽に,かつ,安全にスポーツ,レクリェーション,文化イベント等を楽しむことができる全天候型,全年齢型の屋内運動広場を計画するに当たり,隣接地に計画している陸上競技場と共に県民スポーツの中核として象徴性に富む施設とするために,高度な技術と最新の英知を結集し,独創的な計画案を求める提案競技を行うものです。」(熊本県民総合運動公園屋内運動広場提案競技募集要項)の目的のもとに,設計事務所と建設業者の共同提案方式による県民が使うドームの提案コンペを行った。
② 施設の特徴
東京ドーム,福岡ドーム,出雲ドームなどに代表される従来のドームは,対称形であるのに対し,非対称な空間をデザインしている。
屋根は,中央グランド上の「浮雲」と呼ばれる世界に例のないハイブリッド二重空気膜構造とその周囲の一重骨組膜構造およびそれらをつなぐリングトラスとの異なった構造形式の組合せである。屋根からの自然光の取り入れが,テフロン膜の二重膜部分と一重膜部分更にリングトラスにあるハニカムガラス部分により多彩な取り入れができ,これにより豊かな空間が生まれる。
中央部二重空気膜屋根の施工において,リフトアップ工法を採用することにより,工期の短縮を図る。
③ 施設の概要
a 建築概要
・階 数:地下1階,地上2階
・建築面積:26,317m2
・延べ面積:26,938m2
・グランド面積:11,254m2
・屋根頂部の高さ:48.2m
・天 井高 :32.0m(グランド部)
・観客席数:2千席
・構 造:RC造+S造 一部ケーブル補強空気膜構造
基礎:直接基礎(地盤改良による)
・屋根材 :四フッ化エチレン樹脂コーティングガラス繊維織布(テフロン膜)
b グランド概要
テニス,ゲートボール,ソフトボール,サッカー,陸上競技等の屋外スポーツができる多目的グランド
・舗装:砂入り人工芝
・利用:吊り下げ式防球ネットにより,2分割,3分割および4分割の使用が可能
各種レクリェーションスポーツおよび運動会等のスポーツイベント,スポーツ教室および講演会,コンサート等の文化イベントの開催可能
c その他の施設の概要
・温水プール:25m×5コース
・体育情報ピット:スポーツに関する情報,資料の提供
・会議室,更衣室,売店,ジョギング走路
d 設備概要
・グランド照明:500Lx
・電光表示施設:大型映像装置(25m2程度)
・昇降機設備:乗用エレベーター(油圧)11人乗り,1台
4 おわりに
今回の整備事業は,プロジェクト事業にありがちな期限が定められた中での事業執行であり,埋蔵文化財調査や高圧鉄塔の移設等,用地買収以外の現場条件が重なり,各関係機関や関係者の協力・努力のもとにこれまで進められてきました。
昨年度,ここに紹介した主要施設も工事着手をし,平成11年の国民体育大会および平成9年5月の男子世界ハンドボール選手権大会と大きなスポーツイベント開催へ向けて,施設整備工事にも拍車がかかることとなります。
今年度,工事も最盛期を迎えることとなり,限られた時間の中での発注者,受注者の奮闘の日々が続くと思われます。
読者の皆様におかれましても,熊本県が整備を進めておりますプロジェクト事業をぜひご見学いただき,ご意見を賜りますようご案内申し上げます。