熊本宇土道路における軟弱地盤処理対策検討の中間報告
坂本孝
キーワード:軟弱地盤処理対策、壁式改良、アーチ式浅層改良
1.熊本宇土道路の概要と道路構築上の課題
(1)熊本宇土道路の概要
熊本天草幹線道路の一部を構成する道路として平成8年8月に整備区間に指定された路線で、国道3号、57号の渋滞緩和や地域連携の強化などで地域活性化に寄与する路線である。海路口IC~城塚IC(国道57号接続部)の約4kmが現在、事業中である。
(2)当路線の地形概要
当路線は緑川河口部に位置し、有明海南部に面した旧干拓地で、厚い軟弱地盤が分布する低平地からなる。計画路線周辺は主に農地として利用されているほか、集落が点在する。
(3)熊本宇土道路付近の地盤構成と特徴
当路線付近の地層は、深さ10m程度までの厚い砂層(黄色部)を含む上部層と、厚さ20~30mの軟弱な粘土層(水色部)からなる下部層に大別される。
本路線はこのような軟弱地盤上に高さ10m以下の盛土で計画されている。
下部粘土層は厚く、沈下速度が遅い(圧密係数Cv=200cm2/day)ため、盛土に伴って10年オーダーの長期にわたる大きな圧密沈下が進行することが課題である。
(4)道路構築上の課題
軟弱地盤上への盛土道路の建設に伴う課題を列挙すると下記の通りである。
- ①盛土本体に大きな圧密沈下が生じること
- ⇒最大沈下量2~3m
- ②盛土本体の圧密沈下が長期間にわたり持続する
- ⇒圧密度90%に達するのは盛り立て約17年後
- ③周辺地盤(道路用地外の家屋や用排水路、水田)の沈下が広範囲に及ぶこと
- ⇒法尻から30mの位置で約10㎝沈下、70mの位置で約2㎝沈下
- ④道路横断構造物(函渠・橋梁)と一般盛土部間で基礎形式の違いによる道路縦断方向の段差が発生すること(図-4参照)
2.軟弱地盤対策工の考え方
(1)設計条件(現在委員会で再検討中)
- ①道路本体の残留沈下量:供用開始以降の全沈下量を30㎝以下とする(道路土工-軟弱地盤対策工指針を参考に設定)
- ②周辺地盤の許容沈下量(建築基礎構造設計指針等を参考に設定)
- ・家屋等の建築物:最大沈下量2㎝以下、相対沈下量1㎝以下変形角0.3×10-3rad以下
- ・用排水路:許容沈下量(全沈下量)10㎝以下
- ・田畑:許容沈下量(全沈下量)10㎝以下
- ③函渠の許容沈下量:最大許容沈下量を50㎝とする
- (有明海沿岸道路の実績等を考慮して設定)
- ただし、継手部の開きの限界値は別途チェックを行う(プレキャスト:9mm、現場打ち:25mm)
(2)軟弱地盤対策基本工法の選定(盛土部対策の基本的な考え方)
当該路線付近の土地利用状況と道路構築に伴う沈下影響範囲は図-6の通りで、無処理または沈下促進型タイプの対策を行う場合の影響範囲(赤線)が、沈下抑制型タイプの対策を行うことで青線の範囲まで縮小・軽減される。
各種対策工の沈下影響範囲軽減効果を図-7に示す。
- ①田畑、用排水路を対象とした基本対策工法
- (用地境界での許容沈下量10㎝)
- ■バーチカルドレーン+鋼矢板
- (概算費用150~160万円/m)
- 地下水流動を阻害する恐れあり
- ■深層混合処理 ⇒ 基本工法に選定
- (概算費用90~100万円/m)
- 改良杭配置の工夫により地下水流動阻害を防止
- ■気泡混合処理土+深層混合処理
- (概算費用150万円/m)
- 地下水流動阻害の影響が少ないが、高価
当路線は海岸線にほぼ平行に計画されているため、山谷方向の地下水流動を阻害しないような対策工法の検討が必要である。
したがって、深層改良杭を道路横断方向に密に配置して縦断方向の間隔を大きく取ることで地下水の水みちを極力確保する(壁式改良)。さらに、盛土荷重を深層改良杭にスムーズに伝達するためにアーチ式浅層改良を併用する(図-8)。
- ②家屋近接部を対象とした基本対策工法(法尻から10m離れでの許容沈下量2㎝)
- ■深層混合処理+鋼矢板(図-9)
- (概算費用200万円/m)
- 鋼矢板による地下水流動阻害が懸念される
- ■部分着底型深層混合処理(図-10)
- (概算費用150万円/m) ⇒ 基本工法に選定
- 改良杭配置の工夫により地下水流動阻害を防止
- ■気泡混合処理土+深層混合処理(図-11)
- (概算費用230万円/m)
- 地下水流動阻害の影響が少ないが、高価
- ■コラムリンク(図-12)
- (概算費用200万円/m) ⇒ 基本工法に選定
- 地下水流動阻害の影響が少なく、比較的安価
- ■連続アーチカルバートまたはRCラーメン橋(図-13)
- (概算費用250~280万円/m)
- 抜本的な対策であるが高価
(3)函渠基礎形式の選定と段差緩和対策の検討
函渠基礎は下記のように設定
- ・機能に応じて沈下防止型と沈下許容型に区分
- ・支持層までの深さを考慮し、深層改良杭と既製杭を使い分ける(図-14)
- ・函渠と盛土部との段差緩和対策を検討
- ・段差緩和対策は下記3工法の比較から③を選定
- ①補修(オーバーレイ)対応
- ②サーチャージによる沈下促進
- ③深層混合処理杭の伸長
3.試験施工の概要
軟弱地盤対策の検討結果を検証するために下記の試験施工を実施している(図-15)。
- ・試験施工(盛土まで)終了、盛土後も継続観測中(赤枠部)
- ①無処理高盛土
- ②無処理低盛土
- ④壁式フラット型+アーチ式浅層改良
- ⑦-2 壁式T型すりつけ+平版型浅層改良
- ・試験施工中(改良工事中)
- ⑥コラムリンク工法
- ◆現在までの試験施工結果で判明した事項
- ①無処理高盛土の試験盛土結果に基づく「当初設計(解析)で用いた地盤定数」の検証結果
- 下部粘土層では当初解析値より沈下量が小さく、沈下速度も大きい ⇒ 当初設計した対策
工を軽減できる可能性がある(図-16)
- ②無処理低盛土の試験施工結果
- 盛土完了後10ヶ月までの計測結果から、高さ3m以下の低盛土は当初設計通りに無対策で問題ないと判断される
- ・盛土の安定は問題なし(図-17)
- ・現時点までに盛土に伴う圧密沈下はほぼ収束しつつあり、用地境界部の沈下量は許容値である10㎝以下を十分満足する(図-18、19)
- ③アーチ式浅層改良+壁式改良(フラット型)の対策工効果の検証結果
- 盛土完了後2ヶ月までの計測結果では下記のように十分な対策効果が伺える(今後の継続観測が必要)
- ・当初予測より沈下量が少ない(図-20)
- ・浅層改良版のアーチ効果が確認され、深層改良杭の道路縦断方向間隔を大きくしたことによる不陸の発生等はみられない(図-21)
- ④アーチ式浅層改良+壁式改良(T型すりつけ)の対策工効果の検証結果
- 盛土完了直後までの計測結果では下記の傾向が伺える(今後の継続観測が不可欠)
- ・盛土中央部の沈下量は当初予測と実績値は概ね一致している
- ・しかし、法尻付近から周辺地盤部の沈下量が当初予測より実績値の方が大きめとなっている(図-22)
4.今後の課題
当路線の軟弱地盤対策に関する今後の課題を以下に列挙する。
- (1)各種試験施工の継続観測とその結果に基づく対策工仕様の確定
- (軟弱地盤対策工の設計基準案作成)
- (2)壁式改良の改良体横断形状の最適化
- (T型すりつけ壁式改良の改良体配置見直し)
- (3)函渠部の段差緩和対策の検証
今回は全体概要と試験盛土の傾向と対策の中間報告として取りまとめた。蓄積される観測結果を基にさらに検証・検討が必要な部分も多く残されている。
今後も引きつづき、熊本宇土道路軟弱地盤対策検討委員会で助言等を頂いている関係者の皆様と共に、対策工法と設計基準案を作成し、工事を行っていく予定である。