熊本北部流域下水道熊本北部浄化センターにおける
資源・エネルギー循環に関する取り組みについて
資源・エネルギー循環に関する取り組みについて
熊本県 最上有希
1 はじめに
深刻化する地球温暖化や資源・エネルギーの枯渇等、地球規模での環境問題が顕在化する中で、環境に対する取り組みが急務となっています。
熊本県においても県政運営の基本的方針、施策展開の方向性を示した「くまもとの夢4 ヶ年戦略」の中で「バイオマス利活用の推進、新エネルギー対策」を重要施策として位置付けており、循環型社会へ向けて取組みを強化しています。
かたや全国の下水処理場で使用される電力は、日本の電力総使用量の0.7%を占めるなど、下水処理施設の稼働による環境への影響は無視できない状況にあります。
このような中で下水道施設は生活排水を浄化し、放流先である公共用水域の水質改善のみを目的とした従来型の施設から、従来の機能を備えつつ下水の持つポテンシャルを最大限に活用できる資源・エネルギー循環型の施設へと移行していく必要があります。
今回は熊本北部流域下水道熊本北部浄化センターで実施している資源・エネルギー循環に関する取り組みについて紹介します。
2 熊本北部流域下水道の概要
熊本北部流域下水道の対象区域である熊本都市圏の北東部は、熊本市のベッドタウンとして急激に市街化が進んだことから、生活排水の影響による河川の汚濁が問題となっていました。
このため、熊本市、菊陽町及び合志市(旧合志町)にまたがる3,568haの区域を対象に昭和57年度から熊本北部流域下水道事業を実施し、平成元年3月に一部区域を対象に供用を開始しました。
平成15年度には植木町を編入し、現在では全体計画4,256haに拡大しています。
<熊本北部流域下水道 概要>
○事業期間 昭和57年~平成32年
○総事業費 416億円
○全体計画能力 128,700m3/日(10池)
○H20末供用施設能力 94,760m3/日(7池)
○全体計画処理面積 4,256ha(内H20末整備済 3,532ha)
○全体計画処理人口 193,600人
○処理方式 分流式
○水処理方法 凝集剤添加ステップ流入2段硝化脱窒法+急速濾過法(※1)
※1 現況施設は標準活性汚泥法による処理を実施しているが、平成21年度に策定された「有明海流域別下水道整備総合計画」に基づき、今後の増設及び改築は窒素、燐の除去が可能な標記の処理法へと移行していく。
○汚泥処理工程 濃縮→消化→脱水→搬出
○放流先 坪井川
○下水道処理人口普及率 73.6%(H20末)
3 循環型施設移行への取組み
CO2排出量の削減が社会的な要請としてあげられる中で、公共用水域の水質改善を目的に整備される下水処理場は、処理水の増加に伴いその処理に費やすエネルギーも増加する状態にあります。
また一方では、処理場に集められた汚水から生み出される熱や汚泥、消化ガス等の潜在的な資源が新エネルギーとして注目されるなど、下水処理場に求められる機能も時代と共に多様化しています。
本県では、下水から生み出されるこの貴重な資源を汚水処理に還元することにより、環境負荷の総量を削減する下水処理場における資源・エネルギー循環型システムの構築を目指しています。
この取組みの第一歩として、熊本北部浄化センターにおいて、発生量の8 割以上が未利用となっていた消化ガスを有効に活用するために、平成18年12月から消化ガス発電設備を供用しています。
当センターでは汚水の浄化によって取り除かれた下水汚泥を細菌の作用により発酵分解して安定化及び減量化を行う嫌気性消化処理を行っています。その過程で発生するメタンを主成分としたガスを消化ガスと言います。
消化ガス発電とは、この消化ガスのメタン(CH4)から水素を抽出し、水の電気分解と逆の反応を利用して電気を得る発電方法です。
燃料極:H2→2H++2e–
空気極:1/2 O2+2H++2e–→H2O
当センターにおいて、発電のために導入したリン酸型燃料電池は、消化ガスから得られる水素と空気中の酸素とを電気化学反応させて直流電気を取り出し、これを交流に変換して出力する施設で、一般的なガスエンジン方式と比べて①効率的に発電できる、②大気汚染物質(窒素酸化物、硫黄酸化物)の発生が少ない、③低騒音、低振動、という利点があります。
なお、導入にあたっては、下水道施設として九州初の試みであったことから、経済性、維持管理性、環境負荷低減のためのCO2 削減効果、稼働実績など、多くの視点をもって検討し方式等を決定しました。
これらの施設により発電した電力はすべて処理場内で利用されています。平成20年度の発電実績は2,676,420kwhであり、総使用電力5,880,622kwhの約46%に相当するなど、期待された能力を十分に発揮しており、その結果、当浄化センターは全国的に見ても電力購入量の少ない処理場となっています。
また、消化ガス発電を行う過程で燃料電池本体から発生する高温・低温の2種類の熱エネルギーについては、平成22年4月から供用予定の汚泥消化槽の加温熱源として利用することとしています。
このように、処理場で発生するあらゆる資源・エネルギーを還元することで、総量を削減し、循環型施設への移行を目指しています。
4 グリーン電力エネルギーについて
太陽光、風力、水力、バイオマスなど自然エネルギーで発電した電力は「グリーン電力エネルギー」と言われ、二酸化炭素の排出削減や化石燃料の使用低減と言った「環境付加価値」を有しています。当センターの消化ガス発電による電力もグリーン電力エネルギーとなります。
電力は当浄化センターで使用しつつ、このグリーン電力が持つ環境付加価値を切り離して「証書」という形で取引することを可能にしたものが「グリーン電力証書システム」です。証書を購入することにより、使用する電力をグリーン電力と見なすことができるというもので、グリーン電力の発電設備を持たない企業や個人は証書を購入することで、環境対策に貢献することができます。
熊本県では、企業等の環境改善活動への支援と新たな収入の確保のため、このシステムを利用して「グリーン電力価値」を売却することとし、売却先を広く公募しました。
この公募により決定した株式会社九電工と平成21年2月に平成21年4月から平成24年3月までの3ヶ年間のバイオマス発電業務委託契約を締結しました。その後、グリーン電力認証センターによるグリーン電力発電設備認定を平成21年5月15日に受け、平成21年度第1四半期の発電量として293,646kwhが認定されました。この電力量について、証書発行事業者である株式会社九電工が証書購入者に対しグリーン電力証書の発行を行うこととなります。また、売却益として3 年間で約3,500万円が得られる見込みです。
5 今後の取り組み
下水環境課では当センターが県のめざす循環型社会の下水道におけるモデル施設となるよう、今後も資源エネルギー循環に関する先進的な取り組みを積極的に推進していきたいと考えています。
今年度は消化ガス以外に資源及びエネルギーとして利用の可能性がある以下の項目について導入可能性調査を実施することとしています。
・小水力発電導入可能性調査
・太陽光発電導入可能性調査
・下水汚泥の固形燃料化可能性調査
処理水の落差を利用する小水力発電や、広い敷地を有効に活用できる太陽光発電について、今年度の調査結果を踏まえ実用化の見通しが立てば順次、導入を図る予定です。
また、下水汚泥についてですが、現在、熊本北部浄化センターの下水汚泥(脱水汚泥)は産業廃棄物として処分業者へ委託し、排出先で肥料化やセメント原料化などの再利用を図っています。
ただ、発生する汚泥量は今後、確実に増加していくため、安定した処分先の確保、リスク分散が課題となっています。このため下水汚泥自体が有しているエネルギーとしての価値も評価されることから、エネルギー循環を前提とした安定処理を念頭に燃料化という手法についても可能性調査を行っています。
今後、調査結果に基づき、下水汚泥については最適な方策を検討することとしています。
6 おわりに
以上、熊本北部浄化センターにおける資源・エネルギー循環に関する取り組みについて紹介しましたが、当センターは既に稼働してから約20年が経過し、施設の老朽化対策も必要な時期にきています。
また、面整備も順調に進んでおり、平成22年度からは、9,10池の増設工事に着手する予定です。
汚水を適正に処理するという必要な機能を維持しながら、これらの工事と循環型施設への移行を行うことは容易ではありませんが、当浄化センターが下水道における資源エネルギー循環システムのモデルとなれるよう、今後とも積極的に取り組んでいきたいと考えています。