災害対策用照明装置の開発
平川良一
キーワード:照明装置、災害対策用、LED、キセノン
1.はじめに
二次災害が危惧される災害現場や照明車の搬入できない災害現場等において夜間での監視及び復旧作業が迅速に行えるよう、災害現場を安全かつ確実に照射できる照明装置の開発を行ったのでその結果について報告する。
2. 基本事項の検討
今回の検討は、従来の照明車等での対応ができない事象を対象としている。近年発生した災害事例を基にそのような条件時に照明装置として必要と考えられる機能を表-1に示す。
まず、各種光源の中から、光源の明るさ、堅牢性、効率等を考慮し、水銀ランプ、蛍光水銀ランプ、メタルハライドランプ、白色LED の特性について比較を行った。特性比較の結果を図-1に示す。
白色LED が最もバランスが良く、次いでメタルハライドランプとなっている。
バランス比較の結果等から、災害対策用としての適用性が高い次の光源を装置の対象として選定した。
・メタルハライドランプ(現有照明車の光源)
・白色LED(省エネルギー光源)
また、キセノンランプはランプ効率や寿命の評価は低いが、照射距離が長くサーチライト用の光源としての実績があるため照明装置光源の対象とした。
3.照射試験
照明装置の光源を決定するため、選定した3種類の光源について照射試験を行った。照射試験で使用した光源を表-2に示す。
試験は、地上4m の高さで水平に照射し、光源から10m、20m、30m、40m、80m、160m、315m の地点における光軸中心及び30m 地点における水平方向4m 間隔左右各5点の照度、相関色温度を測定した。照射試験状況及び各光源における315m 地点での明るさを写真-1に示す。
LED(1600W × 2、450W × 2)、メタルハライドランプ600W ×4の30m、80m 地点における50lx 以上(直射)の照度となる範囲を図-2に示す。
50lx はJIS Z9126(野外作業場の照明基準)において、「工事現場並びに排水管の取付け、運搬、補助作業及び収納作業」を行うのに必要な明るさとなっている。
なお、80m 地点の水平方向の照度は、30m 地点における照射試験における測定結果と配光図による推定値がほぼ一致しているため、配光図により計算を行った値を使用している。
LED 1600W ×2灯以外は、80m 地点で50lx以上の範囲がほぼなくなっており、照明装置の光源としては不適である。
キセノンランプは照射範囲が狭いが、遠距離まで照射することが可能である。500m 地点で50lx 以上の範囲は約6m であり、照明装置の光源として適している。
また、光は明るさだけでなく色温度により見え方が変わってくる。色温度の概要を図.3、30m地点における各光源の相関色温度の分布を図-4に示す。
30m 地点における相関色温度はメタルハライドランプ、LED が4600k ~ 5000k、キセノンランプが6000k ~6800k で演色性がよく照射対象物が自然な色合いで観察される色温度となっている。
4.照明装置仕様
照射試験の結果から、照明装置の光源は次の2種類とした。
①キセノンランプ 1000W
② LED 1600W × 2 灯
照明装置は、災害現場での活用がより期待できるよう遠距離照射と機動性を兼ね備え、不整地運搬車等に搭載可能な構造とした。
通常時は運搬を考慮した高さで作業時に6m 程度まで伸縮する機構を有し、照明器具を旋回・俯仰させることにより任意の方向を照射することができるものとする。
寸法は機動性を考慮し不整地運搬車(2.5t 積み)に搭載可能な大きさとした。
また、災害現場は平坦な場所とは限らず、傾斜地に設置して照明作業を行う場合も考えられる。照明装置は伸縮柱の傾斜が5°を超えると滑らかな動作が阻害されるため、傾斜地での作業時には伸縮柱の傾斜を5°以内にする必要があり、照明装置本体の下部に高さ調整台を取り付け、高さ調整台に設けた傾斜修正用のスクリュージャッキにより照明装置を水平にする構造とした。
今回製作を行った照明装置を写真ー2、主な仕様を表-3に示す。
5.機能検証実験
(1)安定度
照明装置における安定度の計算を行った。不整地運搬車(2.5t 積み)に搭載し伸縮柱を延ばした場合の風速と安定度の関係を図-5に示す。なお、図中の許容安定度1.3は高所作業車の安定性基準である。
伸縮柱が破断する許容風速34m/s において、設置時の傾斜許容である5°での安定度は約1.8であり十分な安定度を有している。
(2) 傾斜地設置試験
試験は、傾斜約10°の斜面に照明装置を搭載した不整地運搬車(2.5t 積み)を停車し、スクリュージャッキを使用し照明装置を水平にする作業に問題がないかの確認を行った。試験状況を写真-3に示す。
傾斜は10°まで調整可能であり、ラチェットレンチ等の工具をスクリュージャッキの回転ハンドルに取り付け右回しすると照明装置の傾斜が修正され、本体に取り付けられている水準器を見ながら照明装置を水平になるように操作を行う。なお、10°以上の傾斜修正操作とならないようストロークインジケータに注意喚起用として赤い着色部分を設けている。約10°の傾斜を5~6分程度で照明装置を水平にすることができ、特に作業時に支障等は見られなかった。
(3) 照度分布試験
LED の照射試験は、JIS C7612 に準じて行った。
照明装置を縦50m ×横50m の測定エリアから10m 離れた箇所に設置し、照射方向を30m× 30m 地点付近に固定し、その時の10m ピッチの36 点の水平面照度の測定を拡散レンズ有り、無しの2条件で行った。試験状況を写真-4、測定結果を図-6に示す。
50lx が得られる範囲は拡散レンズ無しの場合で幅約20m ×奥行き約60m、拡散レンズ有りの場合で幅約30m ×奥行き約35m であった。なお、水平面照度とは地面と平行な面のうける照度のことをいい、投光器単体の照射試験時に測定した直射に比べ今回の試験では約1/4 の明るさであった。
また、LED ランプは瞬時点灯が可能であり、災害対策用照明装置としては非常に有効である。
キセノンランプは、光柱角を最小、中間、最大の3種類とし、光源から112m 離れた箇所の照度分布の測定を行った。なお、キセノンランプは遠方からの監視を主目的としているため直射による照度として測定を行った。試験状況を写真-5、測定結果を図-7に示す。
最小光柱角の場合の112m 地点の光軸中心の照度は約1,500lx であった。測定値を基に配光図により計算を行った結果、約600m での光軸中心の照度は約50lx となり遠方からの監視には特に適している。
6.まとめ
今回開発を行った照明装置は、コンパクトで遠方照射能力を有している。
また、不整地運搬車に搭載することで機動性も発揮でき災害現場での活用が期待される。