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泥土吸引除去装置の開発

建設省大分工事事務所
 機械課長
佐 藤 修 治

1 はじめに
道路はつくることも大切であるが,車両や歩行者が安全かつ快適に利用できるように維持することは,地味ではあるがつくることに劣らず大切なことである。
さて道路維持の中に側溝清掃作業がある。これは路側にある側溝の溜桝や側溝内に堆積した土砂泥等を側溝清掃車を用いて吸引除去するものであるが,除去対象物の性状が作業場所によって変化し,また地面下にある桝や溝内の作業であるために作業員の姿勢が中腰となり,悪環境で苛酷な作業である。さらに現道上での作業でもあるために危険であり,かつ交通渋滞を起こす原因になる。
それで今回は側溝清掃作業における悪条件を改善することを目的として,側溝清掃車の吸込アタッチメントを開発し,作業能力および作業性の向上を図ったものである。

2 開発の経緯
(1)側溝清掃方法
側溝清掃作業は側溝清掃車を用いて機械的に行う。すなわち車両に架装した真空ブロワにより負圧をつくり,吸込ホースを介してホースの端部に吸込アタッチメントを取り付け,その吸込アタッチメントの先端を土砂泥の中に入れて吸引除去を行うものである。作業状況を写真ー1,2に示す。

(2)在来の吸引除去方法の問題点
現在使用されている吸引アタッチメントは数種類あり,現場状況によって使い分けられるようになっている。その中で代表的で最もよく使用されるのは写真ー3および図ー1に示す円筒形の構造をしている。この形式は円筒を斜めに傾け,かつ円筒形先端を土砂泥中から露出させて,空気を流入させつつ吸引しないと吸引除去ができないという欠点がある。この場合の模式図を図ー2に示す。

その理由を説明すると次のとおりである。図一3に示すように,吸引アタッチメント円筒の先端口を土砂泥中に完全に埋設してしまうと,真空ブロワの吸引力がー450mmHgであるために,吸引力よりも土砂泥の重量や管摩擦および塑性変形抵抗の方が大きくなり,吸引できない。すなわち
  P<W+N+F
ただし P:真空ブロワの吸引力(負圧力)
    W:円筒内部の土砂泥の重量
    N:円筒内壁と土砂泥の摩擦力
    F:土砂泥の塑性変形抵抗力

この問題の対応策として図ー1で分かるように吸引アタッチメント円筒先端に切欠きを設け,空気の流入を助ける工夫したものもあるが,依然として次の問題は残る。
① 土砂泥の中に先端口を完全に没入することはできない。
② 先端口切り欠き部から多量の空気を吸い込むため吸引効率が低下する。
③ 固く締まった土砂および粘性土は,スコップで掻き寄せたり,あるいはジェット水でほぐしたりしてやらなければならない(写真ー4)。

④ 土砂泥の上に水の層がある場合は,事前にこの水を除去しなければならないため,余分な作業が必要で作業能率が低下する。
⑤ 吸込アタッチメントの中間姿勢保持が必要で,作業員は中腰になってこれを支えなければならず,疲労の原因となる。
よって以上の問題を解決するために,新たな吸込方式を考案し,開発をすすめたものである。

3 装置の開発
(1)発想と考案
新吸込方式の発想と考案を順を追って説明する。まず,吸込アタッチメント先端に切り欠きを設けて導入する空気流に代えて,吸引流入ではなく圧縮空気を吸込アタッチメント内に強制的に吹き込んだらどうか,というのが発端である。そうすれば小量の空気で,より大きな効果が生じるはずである。この考えによるアタッチメント内の土砂泥の挙動を模式図で表したものを図ー4に示している。

Ⅰ:吸込アタッチメント円筒先端近くに圧縮空気吹込用ノズルを設ける。
Ⅱ:吸込アタッチメント先端部を土砂泥中に没入させ,圧縮空気を吹き込む。
Ⅲ:吹き込まれた圧縮空気は土砂泥中を侵入拡散し,円筒内壁と土砂泥間の摩擦力を低減し,円筒入口部における土砂泥の塑性変形抵抗力を低下させると共に,円筒内部の土砂泥を攪拌してほぐす。
Ⅳ:円筒中で拡散した圧縮空気は,真空ブロワの吸引力によって上昇気流となり,土砂泥と混合して上方に引き上げられる。
次に,圧縮空気吸込口をノズルではなく,円筒内壁の水平円周方向に沿った細溝とすれば,吹出口の土砂泥との接触作用部が長くなり,摩擦力低減および攪拌効果が一層増大するのではないかと考えた。
更に,圧縮空気の代わりに高圧水を使用すれば,締まって固くなった土砂や粘性土にも有効ではないかと場合によっては,圧縮空気と高圧水を交互に吹き込むことも効果的となるであろう。
(2)考案装置の概要
以上の考案に基づき実験装置の設計および製作を行った。その概要は次のとおりである。
考案装置の全体概略図を図ー5に示す。図の上端は吸入ホースの連結部であり,その下に操作用の2段ハンドルがある。ハンドル部から入った圧縮空気および高圧水は縦の供給管を通って,下部の吹出口に至り,円筒内部に吹き出される。

 ① 圧縮空気および高圧水吹出機構
図ー6に吹出機構の詳細図を示す。吹出口は円筒内壁の水平円周方向に細溝伏に設けられている。ただし,圧縮空気と高圧水の交互吹出しを考えて,細溝は4つに分割されている。その様子は写真一5を見るとよく分かる。なおこのため円筒の下部は2重管になっており,同様に縦方向に隔壁で4室に仕切られている。

 ② 圧縮空気および高圧水分配機構
圧縮空気は小型空気圧縮機から,高圧水は高圧ポンプから供給される。このように供給口は2つであるが,2段ハンドルの円周管とこしき管および縦管との連結部の孔の組合せによって,2本ずつ交差する計4本の分配管に分岐する。もし圧縮空気もしくは高圧水のみを使用したい場合は,専用のアタッチメントで対応する。

4 実験装置による現場性能試験
(1)現場性能試験条件
実物大の実験装置を製作し,表ー1および2に示す条件において現場性能試験を行った。

(2)現場性能試験結果
 ① 吹出口の吹出角度
吸込アタッチメント円筒の水平断面に対する下向き角度30゜および60゜で試験したが,60゜の方が効果的であった。
 ② 吹出口細溝幅
1.0mm,1.5mmおよび2.0mmの場合について試験したが,1.5mmが最も良好であった。
 ③ 吹出口位置
15mm,20mmおよび30mmの場合について試験したが,有意な差は見られなかった。

 ④ 実作業能力
土質性状別の実作業能力を図ー7のように考案型と在来型と比較して示す。ここに実作業能力とは,対象土砂泥の吸引除去量を正味作業時間(準備,調整,移動,待機跡片付等に要する時間は含まない)で割ったものである。また在来型とは写真一3および図ー1に示す形式のものを指す。図ー7より,考案型がすべての土質で優れており,特に泥土のように含水比の高いものについて有効である。

(3)考 察
① 吹出角度が60゜とある程度大きい方が有効であるのは,写真一7の高圧水使用時の吹出し状況で分かるように,吹出流は吸引による気流の作用で上方に曲げられるために,下向き角を大きくとった方が土砂泥の攪拌範囲が広くなるからと考えられる。

② 吹出口溝幅については中間の1.5mmが最も効果のある理由は現時点では説明できない。
③ 吹出位置については30mmとし,図ー6に示すように先端部に小さな切欠きを設けることにより,土砂泥の変形抵抗力を乱す効果があると考える。
以上の3つの試験結果は実測データを解析した定量的関係ではなく,定性的なものである。
④ 作業能力において,硬質土よりも泥土で優れているのは,圧縮空気および高圧水吹出流が硬質土を剪断・攪拌するのに力が不足し,泥土には十分であるからと考えられる。ただし,土質性状による圧縮空気と高圧水の使い分けは明確ではない。

5 まとめ
側溝清掃車の吸込アタッチメントの考案,実験装置の製作および性能試験において良好な結果を得ることができた。これを特長と問題的について述べると次のとおりである。
(1)特 長
① 実作業能力が向上したことにより作業時間が短縮され,作業時間中における危険性および交通阻害が軽減される。
② 土砂泥のほぐしおよび吸入口への掻き寄せ等の補助作業が減少し,作業労力の減少と共に作業環境が改善される。
③ 吸込アタッチメントの先端口を土砂泥の中に没入させた状態で吸引作業ができるので先端口を最適位置に保持するために作業員が無理な姿勢を取らなくても良いことになり,疲労度が軽減される。
(2)問題点
① 吸込アタッチメントの構造が複雑になったことにより重量が増大し,作業員の負担になる。この点についてはアルミニウム材料を中上円筒部に使用することにより軽量化を図っている。
② 小型空気圧縮機および小型高圧ポンプが必要である(ただし排水管清掃車の高圧ポンプを利用することもできる)。

6 今後の課題
泥土吸引除去装置の開発は,側溝清掃作業の効率化,環境改善等を目的としてすすめてきた。圧縮空気および高圧水吹込みによる方式は,含水比が上昇しないこと、泥土に対する作業性能が高いことを考えると,他の施工すなわちヘドロ浚渫などにも応用できるのではないかと考えられる。しかし,原理的に空気の負圧吸引力を利用するこの方式は,吸引圧力が大気圧を越えることができないこと,および吸引力は作用距離が少しでも大きくなると著しく低下すること,更に対象物の性状という負荷に大きく左右されるという欠点を考えると,全く別の方式を考えるべきかも知れない。次に今回は性能試験データが少なく,装置の構造寸法の最終決定には至らなかった。この点については,吹出口の吹出角度・幅・位置の他に吹出圧力および容量の条件を設定して室内試験を行ない,理想的な形態を見出す必要がある。また作業能力についても現場性能データが少ないので,多くの現場で試験を行い,適正な歩掛を求めなければならない。最後に装置の軽量化であるが,吸込アタッチメントは軽ければ軽い程良いので,総アルミニウム化やプラスチック成形化なども検討している。

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