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波浪予測システムを利用した現場施工について
~与那国島祖納港の事例~

沖縄県 八重山支庁
 土木建築課 主幹
久 高 將 佑

沖縄県 八重山支庁
 土木建築課 主任
嘉 数 昌 寛

1 はじめに
与那国島は沖縄本島から南西へ509km,隣国の台湾とは111kmの距離にある日本列島最西端の島で知られている。祖納港は図ー1に示すように島の北岸に位置し,外海に直接面していることから波浪の影響を受けやすい。そのため平成8年度から港内静穏度の向上を目的としたケーソン式防波堤(西)の施工を写真一1のとおり鋭意進めているところである。現場条件は北風による冬季波浪(10月~3月)が非常に厳しいため,主な施工時期は春から夏(4月~9月)までの比較的静穏な時期となる。しかし,夏期には台風発生時期と重なる。さらに東シナ海での前線,低気圧等などの複雑な動きによる気象変化が激しく,1週間と同じ気象,海象条件が続くのはまれな状況となっている。このことから現場の施工において工程管理,安全管理(特に作業停止,船等の避難)が重要となる。
これまでは気象庁が発表する気象(海象)情報に基づき,作業開始の判断を行っていた。しかし,この情報は地形的な影響は反映しているものの,予測のメッシュが広く,施工対象地点の波高の情報を直接得ることができない。また,得られる期間は2~3日先程度である。
一般に防波堤のケーソン据付作業では3~5日間の連続した静穏度を必要とされる。連続作業を行う上で台風接近等の荒天が予想される場合には急速施工もしくは早期避難の判断が非常に難しく,作業責任者の経験に頼るところが大きい。
そこで,現場波高の予測精度を向上させるために既存システムを改良し,波が施工対象地点でどの様に変化するかを計算予測,さらに1週間程度の予測を行う波浪予測システムを作成した。
本論文はケーソン据付計画時に発生した台風が数日後に与那国近海に到達することが想定され,作業開始の判断を迫られた際に,比較的安価で構築できた波浪予測システムが作業開始の判断材料として有効であったので,その予測結果及び現場状況を報告するものである。

2 工事概要
今回の施工箇所を図ー2,3に示す。作業内容として,ケーソンを仮置場から進水,基礎マウンド上に据付,中詰材の充填蓋及び上部コンクリートの打設を行った。また,ケーソン両側面には根固・被覆ブロックを設置し,港外側は消波ブロックを据付けた。この作業中でケーソン進水から蓋コンクリート打設までが連続作業となり,3~5日の期間を要する。
その間が構造体として弱く,最も波浪による被災を受けやすい。そのため,数日間の連続した静穏時期に施工を行う必要がある。

3.波浪予測システムの導入
3.1 従来の波浪予測と課題
従来は気象庁が発表する気象(海象)情報を作業開始の判断材料としていたが,この情報は沖波(深水域)での波高を示している。しかし,施工地点は浅水域であり,深水域から到達する波は地形及び地底の影響を受け,浅海変形(屈折,回折,浅水変形など)をもたらし,浅水域への到達波高は深水域の波高とは大きく異なる事が多い。そのため,深水域の情報では作業開始の判断が難しく,作業責任者の経験に大きく左右される。このことから施工対象地点での到達波高の予測精度を向上させる事が課題であった。

3.2 波浪予測システムの導入
施工地点での予測精度を向上させるためには沖波が施工対象地点に伝搬する過程を考慮に入れて波浪計算(浅海変形計算)を行う必要がある。すでに確立されている波浪予測情報提供サービス及び今回導入したシステムの比較表を表ー1に示す。
①は気象庁が発表する気象(海象)情報である。これは格子間隔6’(約10㎞)の沖波(深水域)であるため施工地点での波高予測精度は低い。格子間隔を密に(格子間隔2’約3.7㎞)に改良したのが②のシステムである。格子間隔は細かくはなっているが,これも沖波であるため予測精度は低い。この沖波を設計諸元として祖納港周辺の海底地形データを用い,施工地点の到達波高予測システムとして改良したのが③,④である。当初,予測精度が高いことから③の導入を検討したが,費用は④と比較してかなり高価である。祖納港の利用頻度もケーソン据付工事中の連続作業施工日(数日)程度であることから,費用をかけて常時予測する必要性がないと考え,経済性を重視し④の手法を採用し,予測システムを構築することにした。

3.3 予測システムの計算手法及びフロー
今回採用した予測システムの計算過程は次のとおりである。浅海変形の計算概念を図ー4に示す。

①祖納港周辺の海底地形データを入力する。
②浅海変形効果を考慮した波の伝搬計算
エネルギー平衡方程式による計算を以下の仮定下で行い,浅海変形係数を求める。
 ・波の状態が時間的に変化しない。
 ・成分波の周期は変化しない。
 ・外部エネルギーの授受はない。
浅海変形係数を用いて施工箇所の波浪予測値を求める予測フローを図ー5に示す。

3.4 予測システムの改良
前述の浅海変形計算では沖波の入射方向を単一方向としているため,全方位の成分波のエネルギーが一方位から入射してくると仮定して計算している。この方法では二方向から伝搬する波に対して,あまり精度よく計算できない。
そこで,多方向から波が伝搬する場合でも波浪予測を高精度に計算できるように,浅海変形を成分毎に計算するように改良(計算の修正)を行った。改良した場合にはどの程度効果があるかを実測値と比較して検証を行う必要がある。今回は安価にするため改良結果と実測値の比較は行っていないが,他港での事例として改良前,改良後および実測値の経時変化図を図ー6に示す。この事例によると,改善前よりも改善後の方が実測値に近い値を示していることがわかる。

4 予測結果の検証
4.1 ケーソン据付作業開始の最終判断
6月23日のケーソン据付計画時点に遠方で台風7号が発生し,図ー7に示す気象庁発表の台風進路情報では与那国地方へ向かう予測であった。
23日時点,現場は静穏度を保っていたが,今後の台風の接近に伴い波が荒れることが予想された。予測システムよる23日時点の1週間予測を図ー8に示す。
作業は24日にケーソンを据付,26日に蓋コンクリートを打設した後 27日には久部良漁港へ避難する計画を立てた。26日までの波浪予測システム算出の最大波高が施工作業限界波高1.0m以下であったこと,27日避難時の予測が避難作業限界波高1.7m以下であったことから,施工及び避難までの連続作業が可能と判断し,24日から始まるケーソン据付作業開始の最終判断を23日に行った。

4.2 予測結果の検証
予測結果の検証として当該予測システムによる波高予測と現場波高の比較を目視により行った。
写真一2,3に中詰材投入,蓋コンクリート打設状況を示す。

写真から確認できるように,ケーソン進水・据付から蓋コンクリート打設までの連続作業期間中,現場周辺海域では十分な静穏度を確保できていた。さらに,予測システムを用いて25日に1週間予測を行った結果を図ー9に示す。台風の接近が23日時点の予測よりも遅くなるという予測結果が得られ,現場では施工計画を標準工程に戻す事ができ,十分な台風対策を行った上で船舶を久部良漁港へ避難することができた。その間も予測システムによる波高と現場波高がほぼ一致しており,安全に施工及び避難することができた。写真ー4に船舶の避難状況及び写真ー5にその後到達した台風時の波浪状況を示す。

表ー2に23日のケーソン据付開始最終判断時における気象庁発表の波高予測,当該予測システムによる波高予測及び25日の再予測,作業内容による作業中止条件(波高),当日の現場状況及び作業内容をまとめた。

気象庁予測(沖波)は作業限界波高(現場)との直接的な関連性はなく,施工開始の判断材料として不十分であると共に当日含む2日先の予測しか得られない事が判る。予測システムを活用することによって,判断材料として十分に期待できる1週間の作業計画を立てることができた。さらに25日時点で再予測を行うことにより,現場工程を再度見直す事ができた。

5 おわりに
予測システムを活用することにより,これまでできなかったきめ細やかな波浪予測が得られ,安全で円滑な施工を図ることができた。
当該システムは防波堤設計時の波浪推算で用いた既存の地形データを入力することだけであるので,システム構築がとても安価であり,特にケーソン式防波堤工事を行う他港湾においても十分に活用することができる。
今後の課題として平成17年度の残り3函で予測システムを活用し,円滑な事業促進を図ると共に,波高計を用いて現場波高観測を行い予測結果との定量的な検証を行っていきたい。

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