河川水質簡易予測手法について
建設省建設経済局建設機械課
建設専門官
(前 建設省九州技術事務所長)
建設専門官
(前 建設省九州技術事務所長)
熊 谷 元 伸
建設省九州技術事務所水質試課長
紀 伊 新
建設省九州技術事務所水質試験課
樋 口 充 喜
1 はじめに
近年,河川における環境への関心が高まる中,各河川においては多方面にわたる施策が「水環境管理計画」なるものによって進められているところである。また,この施策の中には,環境を重視した河川の水量や水質の維持管理に対するものがあり,水質という面からみると,現在まで行ってきた河川の地点毎の把握を一歩広げた流域の現状把握を行うことにより,環境の評価や各種施策の資料となるようなものを作ることが今後必要になることが考えられる。
こうした状況を踏まえ,平成元年~3年度にかけて,河川水質簡易予測手法について検討を行ったので,その結果をここに紹介する。
検討にあたっては,「河川水質負荷量調査マニュアル(案)」の考え方を基本とすることや,水質予測を行う上で,作業時の使い易さの重視,経験や知識による差ができるだけ無くなるようなものとし,市販のパソコン作業で容易にできるものとした。
2 検討項目
2-1 検討概要
今回の河川水質汚濁解析を行うにあたっては,図ー1に示すように自然系や生活系等から発生した汚濁負荷が河川の支川へ排出され,到達するまでに浄化の作用を受け,排出時以下の濃度で本川へ流入するという形態であり,それぞれ,発生の負荷,排出時の負荷,発生から排出までの汚濁の変化とその時の河川流量をもとに水質濃度を換算し評価を行った。
2-2 検討項目
検討項目は,図ー2の1~4に示す項目とし,予測の水質項目としてはBOD,T-N,T-Pについて行い,既存の水質,水量,人文等のデータをもとに,発生負荷→排出負荷→流入負荷といった河川水質汚濁のメカニズムについて実際の河川モデルで再現した。また,水質の再現にあたっての水質評価は,豊・平・低・渇水のうち,年間水量が比較的安定している低水時の流量による水質評価を行った。
3 検討結果
3-1 河川水質予測全体フロー
水質再現のフローを図ー3に示す。このフローに基づき,必要汚濁源データの必要精度や発生した汚濁の流出までの流達率,水質現況再現のための河川水量の再現等の検討を行った。
3-2 再現のための必要データの整理
水質現況再現を行うにあたって,事前に下記に示すものについて整理を行い,汚濁に関係するものを取りまとめた。さらに水質状況の把握を効率よく進めるために,あらかじめ用意しておいた表に河川流域に対する支川流域毎に集計した(表ー1,表ー2参照)。
ここでの検討としては,各種汚濁源(人文・地形等)とそれぞれの原単位(文献・流総・実測)による発生汚濁負荷量の計算値と既存データによる実測値との相関によって必要データ精度を抽出した。精度の検討は6ケースで行い,現地調査や市町村への聞き取り調査を実施して得た汚濁源データを3ケースと,作業の効率性の面から,このデータをさらに簡素化したデータの3ケースとした。それらの結果を表ー3に示すが,原単位の使い分けよりも汚濁源データの入手の仕方が汚濁現況再現時に大きく左右することがわかった。また今回水質再現を行った水質項目のうち数値的に最もバラツキが大きかったのはT-Nで,BODをはじめとした汚濁の指標のうちの1つということもあり汚濁源データは小さいところまで調べておいたほうがよいと考えられる。なおケースの仕分けは,各汚濁源に関係するものを1つずつまとめていく方法をとった。
汚濁源 × 原単位 = 発生負荷量
(人文・地形) (文献・流総) (6ケースの精度で検討)
3-3 流達率の検討
水質の負荷量収支の計算は,排出された負荷がある地点へ到達したときの負荷と比べ到達率(流達率%)により算出される。この流達率は,すでに「流総(流域別下水道整備総合計画調査)」によって作られているが,今回の対象とする地域が下水道の整備地区や未整備地区,山林,田畑といった数多くの条件もあって,流総の式ではその再現が困難であった。こうしたことから,今回の流達率の式については,現地調査や既存データ等をもとに若干の修正を加えた経験式を作った。修正した箇所は,下に示す式をみて分かるように,流総の式では,人口密度と流域面積を対象に考えられているが,今回作成した式は人口密度の代わりに人口,その他,山地・草地面積や耕地面積等も計算に繰り入れ,さらに,水質項目毎の定数も設定した。
流達率の計算
◎流総(流域別下水道整備総合計画調査)の式
◎今回作成した式
流達係数
3-4 水量収支に関する検討
水量収支を計算により求めようとする場合一般に流域面積に対する流量を下に示すような式で表される。
比流量 = a ×(流域面積)b
しかし,実際にはこうした形で比流量を求めることは,多くのデータと経年的な調査が必要となる。今回はこれらを考慮して,推定流量という形で年間降水量にもとづき,土地利用形態毎の係数とし,さらに,流域全体の特性を表現するために流域も同一とし,係数に幅をもたせた形で計算をした。
ただし,この係数の変動は,河川の本川流域に対する全支川流域も同一とし,この係数を流城内特性とした。結果は,表ー4に計算の結果を図ー4にはこれをグラフにしたものを示す。結果の通り,実測の流量を精度よく再現していることが伺える。
〔流出係数〕
山林・草地 0.15~0.25
市 街 地 0.70~1.00
そ の 他 0.27~0.55
4 水質再現結果
これまでの再現計算の結果を図ー5~7のグラフに示す。今回の再現計算地点数は46地点(取水,処理場も流域の1つと仮定)の流入,流出地点で行った。
5 環境容量の試算
環境容量は,あらかじめ流域に任意の環境基準を設定することにより,本川に対する支川流域毎の評価が表現できる。しかし,各支川の汚濁負荷の空き容量というみかたではなく,河川の基準地点の水質に対する支川毎の実態として評価しなければならない。これは,ある支川流域の環境基準に対する容量があるからといって開発などによる水質の悪化をまねいた場合,当然,基準地点の水質も悪化する。したがって,環境容量を求めることは,水質の維持・改善のためのものであることがいえる。このような視点により表ー5および図ー8に結果を示す。
6 水質の将来予測
水質の将来予測はこれまで行ってきた現況再現(現況フィッティグ)により,ほぼ現況と計算値が一致した時点で行うことが可能と考えられる。これは,現時点での汚濁源データを基準に将来の流域内の土地利用や人文,産業の変化を仮定するとともに,水利用の変化も考慮しての予測を行うものである。
7 まとめ
今までの水質解析汚濁の解析は,流達率や自浄係数等を細かく解析し検討を行ってきた。また,これらを行う上での相当の知識や経験も当然必要とされた。今回の検討では,こうした内容をすべて定数の範囲を変動させ,実測値との整合だけで評価した。したがって,難しい解析は行っていない。また,この水質予測計算は,従来の時間と労力を必要とした解析を,ある程度の精度を犠牲にして,短期間に予測計算を行い,河川流域の特性的な把握程度のものと位置付け,検討してきたが実際の結果から見ると十分に資料として使えるものができたことは嬉しいことである。今後,各河川での実態把握を,ケーススタディーも含め実施すればもっと使い易いものができると考えている。