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水生生物に優しい川づくり基材
「アユ・ストーン」について

環境カウンセラー(事業部門)
帆 足 建 八

大分県土木建築部 河川課長
岡 林 修 一

1 背景
近年,全国各地の河川で,河床の巨石,玉石などが減少し,河状ならびに流況が単調になると共に多くの生物の生息場所としての機能が低下したのではないかという疑問を生じている。その対策として,巨石投入が各地で試みられている。その目的は河川生態の基盤を支える付着藻類の着生面積を増やすことと良好な付着藻類の着生を促すこと,流れを多様化することにより休憩場を生み出し,水生生物の餌場,住み家になること,洪水時には魚の隠れ場にもなることである。
投入する巨石は,もちろん川石が望ましいが,持ち出される川でもその石は当然貴重なものであり,次善の策として山石が使用されているのが現状である。確かに山石にも十分藻類が付着するが,その大きさによっては,洪水で流失したり,埋没したりするケースが多い。また,アユは横からアゴをこすりつけて付着藻類を喰むために,より滑らかな表面を好む。これらの点で山石には難点が残されている。
今回,これらの問題点を解決する一手段として,微細な藻類が付着しやすく,かつ表面を滑らかにした栗饅頭型の環境配慮型のブロックを開発し,大野川において設置実験を行った。

2 玉石ではなく何故巨石か
アユは珪藻といわれる藻類を主として餌とするのであるが,藻類の本には次のように書かれてある。「珪藻では,底礫の大小は,その上に生じる藻体量には大きく関係する」注1
注1 藻類の生態(秋山優・有賀祐勝・坂本充・横浜康継 共編)

また,九州大学水産学科木村清朗元教授によると「巨石に付着した藻類は洪水の後にも部分的に残る場合が多く,これを残り「アカ」と称しアユの魚体が大きくなる重要な要素の1つである。」との話もうかがった。
大分県安心院町にある内水面研究所主幹研究員,猿渡実氏も大分県内でアユの魚体の大きいものがいるのは筑後川上流支流の天ケ瀬町付近であると証言されている。そして,天ケ瀬町付近は巨石の分布では北部九州の河川では群を抜いていることも事実である。
アユが石に付着している藻類を喰む様子を水中ビデオで撮影し,それをつぶさに観察するとアユ特有の櫛状の歯でかきとる様子がうかがえる。その動作は非常に速く,石の曲率半径に沿い器用に曲がりながら喰むためある程度の石の大きさが求められる。
以上のことを総合的に配慮して玉石でなく巨石投入ということになったものと思う。

3 河川における巨石,玉石の役割
魚が棲める川の条件として,①流量の確保,②水質の確保,③避難場所の確保,④餌の確保,⑤天敵からの保護,⑥産卵場の確保,⑦回遊路の確保,⑧仔魚の成育場所の確保,が必要とされている。
巨石・玉石は2で述べたように付着藻類の基物として藻体量を大きくする点で優れておりまた,洪水後にも付着藻類を残す点でも貴重である。この付着藻類は河川生態系の一次生産者に当たり,水生昆虫,アユ,オイカワなどの餌となり,更にこれらが魚類,両生類,爬虫類などの餌になる。魚類は魚体に応じた空間を求める習性があり,巨石,玉石の周辺を住まいあるいは避難場所としている。魚類によってはこれらに巨石,玉石に産卵するものもあり,また天敵からの難を逃れる場所でもある。魚類によっては,巨石,玉石は無くてはならない住まいであり,人間にとっての上質の田畑に相当するものである。うかつに経済性と,人間の立場で見る河川の景観上の理由で巨石,玉石を現地発生品という安易な考えで採用し護岸にすることは魚類,水生生物にとっては誠に迷惑千万の行為であるといえる。
さらに,魚の習性として好ましいと思われるものに寄り添う性質がある。これを魚の趨触性というが,巨石,玉石,アユ・ストーンはこの趨触性にも適するものである。

4 コンクリートは藻類の付着基物として適当か否か
前述の「藻類の生態」では,珪藻はごく特殊な基物すなわち金属のような場合を除くと着生基物による影響は少ない。
また,藻類の生理生態学注2では「珪藻は珪酸質の殻をもっているので,オルト珪酸Si(OH)4の形でSiをとりこまなければならないという特殊な栄養要求性をもっている。」とある。
注2 藻類の生理生態学(W.M.ダーリー著,手塚泰彦・渡辺泰徳・渡辺真利代 共訳)

いずれにしても大野川での実験で高炉セメントB種(高炉水砕スラグ45%)を使用したアユ・ストーンでは投入後3日位から付着藻類が付き始め,珪藻の旬の時期に相当する1週間後はアユ・ストーンに付いた喰み跡が判明し難い程きれいに珪藻は喰まれていた。
水冷スラグ,徐冷スラグはいずれもSiO2を溶出し,水に接するとオルト珪酸の形に変化し珪藻の成育に役立っていると考えられる。今後川石とアユ・ストーンに付着した藻類のクロロフィルaの測定等によってこれを実証してみたいと思っている。

5 アユ・ストーンが栗饅頭型である理由
(1)栗饅頭の表面の滑らかなイメージ
(2)縦長方向を流水方向に合わせることによって流失を防ぐ。
(3)アユが喰み易いように大きな曲率半径を有する部分と平面で構成されている
(4)埋没の恐れに対して一定の高さを有する
(5)底面は平面にして,沈下,転倒に対して安定性を高めた
(6)大きさは河川の規模(水深・流速)に応じて選択し得るよう,重量を4t,3t,2t,1tの4種類とした。

6 大野川での実験概要
実験の場所は,本県で最大の流域をもつ大野川の犬飼地先と支川緒方川に設置した。本水系は,一昔前まではアユを含む魚介類の多さでは九州屈指の河川として知られていたが,近年はその数も少なく,特にアユは魚体も小さくなり,量も減少傾向にある。
よって,今後の河川管理施設(根固ブロック等)への活用の可能性について,検討するために,2期に分けて試験施行を行なった。(位置図ー1)

第1期
設置場所 大分県犬飼町戸上地先
目  的 アユ・ストーンの付着藻類着生効果と喰み跡調査
時  期 平成12年9月29日設置~平成12年10月10日水中撮影
     アユ・ストーン2t:2個,3t:2個,擬石(2t):2個
九州大学木村清朗元教授による喰み跡調査結果のコメント
「巨石,玉石が減少した河川で,アユの餌となる良好で微細な付着藻類の着生基盤が少なくなっている現状では非常に興味ある試みである。試験段階では付着藻類の着生は予想異以上に早く,アユの喰み跡から考察すると十分に研究に値する。」

第2期
設置場所 大分県大野郡緒方町大字辻地区
目  的 アユ・ストーンの付着藻類着生効果とアユの漁獲量,生育状況調査(写真ー1)
時  期
   ブロック据付 平成13年3月21日~22日設置
   稚アユ放流  平成13年4月3日1万5千匹放流
設置概要
   アユ・ストーン 1t:15個,2t:18個(左岸側)
   自然石     径30cm:100個,径60cm:100個(右岸側)
    ブロックの配置は千鳥型として,地元漁協関係者と協議して決めた。
調査結果アユの喰跡(写真ー2)
 アユの漁獲量は明確ではないが,地元の関係者の意見ではアユの魚体が大きいものが多くなった,とのことであった。
今後の調査
 追跡調査では,付着藻類の着生とアユの喰み跡から,その効果はある程度確認されたがその他の魚介類への影響を含めて,追跡調査を行なう必要がある。

7 アユ・ストーンの今後の課題
(1)使用場所として,早瀬,平瀬,淵など,どのような場所が適切か?
(2)適切な設置密度と間隔は?
(3)設置の方法は?
  平列型,千鳥型,ランダム型
(4)藻類に旬があるか?
 これは藻類の剥離と密接な関係があるといわれているが,表面粗度と剥離に何らかの関係があるか否か?
(5)アユの櫛型の歯の構造から見て,どの程度まで滑らかさが必要であるか?
(6)濁質の土粒子の付着と藻類の旬は関係があるのか否か?
(7)川の濁度とアユの漁獲量との関係は?

8 アユ・ストーンの今後の利用方法
従来から根固め,護床工,水制等に使用されてきたブロック類は河川環境上優しいものとはいえないことからやや敬遠傾向にあったが,アユ・ストーンのように微細な付着藻類の着生,アユが喰み易いような表面の滑らかさ,ある一定の大きさを持つことなどの技術開発がなされ,巨石替わりの効果を充たすとなれば話は変わるのではないか。
従来,河川の護岸,橋脚の保護根固,横断構造物の護床工等は洗掘防止を主目的として大きさと型だけを考え設計していたが,これらの根固めブロックに付着藻類が十分に着生することを考えればこの様な構造物もアユの餌場にもなり得る。
一方,アユ・ストーンに根固機能を持たせるには粗度が少なすぎるという欠点がある。従って,この欠点を補うために従来型根固工とアユ・ストーンを併用工法とすれば十分使用することが可能と思われる。
また,これまでコンクリート構造物を用い落差工を施していたが,川を上下する魚類にとっては必ずしも優しくなかった。ヨーロッパではこれを改善するために巨石を集中して配置し,落差工の代わりとする研究が行われている。
幸い,アユ・ストーンは平成13年8月に国土交通省九州地方整備局でパイロット事業の認定を受けた。環境に優しく,かつ従来通りの機能を有す工法を積極的に開発することは,環境復元を目指す21世紀の我々土木技術者の責務ではなかろうか。

9 アユ・ストーンの設置に際しての配慮事項
1)大野川,緒方川の実験,施工結果から判断すると出来るだけ流速の大きい早瀬に設置することが望ましい。
中小出水でもアユ・ストーンに付着している藻類が剥離し,しばしば付着,成長,剥離を繰り返す方が藻類の旬が多く,延べ期間も長くなると考えられる。
また,水が淀むところは藻類に浮泥が付着して喰み跡が少ない。
2)アユ・ストーンの設置高さは天端における水深が40~50cmが望ましい。しかし出水時に20cm程度沈下するケースもあり,河床材料等から判断して沈下予想分だげ浅く設置した方が良いと思われる。なお,美観上,機能上,アユ・ストーンの天端高は渇水位より10cmは必ず低くしておくこと。
3)淵での設置は群アユの育成に効果があると思われる。淵の中でも中小出水で流速が大きいと思われる水衝部にあたる端がよい。(稚アユの放流をするところでは効果がある。)
4)喰み跡から考察すると,アユ・ストーンの側面部が喰み易いせいか?喰み跡が多い。従って,縦長の方向を出来るだけ流向に平行に設置した方がよい。
5)アユ・ストーンの直上流部に流水を妨げる物がある場合は,障害物を除去し流水が強くアユ・ストーンに当たるよう配慮すること。
6)アユ・ストーンは前述の様に出来るだけ早瀬に設置した方が望ましいこと,アユ・ストーン底面が平面であるので設置前にある程度の地均しが必要なこと,縦長方向を流向になるべく平行にすること,比較的重量があること等を配慮して施工機械の搬入も考えておくこと。

10 アユ・ストーンの諸元

11 問い合わせ先
緒方川の実施に関する件
 大分県土木建築部河川課
 TEL 0975-36-1111 岡林修一

それ以外
 防災工業(株)
 TEL 03-5216-4861 

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