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桜島の火山灰を利用した歩道平版ブロックの開発

建設省鹿児島国道工事事務所
建設専門官
大 崎 弘 道

建設省鹿児島国道工事事務所
管理第二課長
並 松 敏 明

1 はじめに
鹿児島県のほぼ中央に位置する桜島火山は,荒々しい山ひだ,ゆったりとした広がりを持つ裾野および藍々とした錦江湾とのコントラストなど,その景観はすばらしく,鹿児島のシンボルとして重要な観光資源の一つとなっているが,一方この島は,若い火山といわれ過去数多くの爆発,噴火をくりかえし,人々に多大な被害を及ぼしている。
近年の大爆発は,大正3年1月と昭和21年3月に発生し,大正の爆発では約33億トンもの流出溶岩により,それまでは島であった桜島が大隅半島と陸続きとなった。また人的被害も死者および行方不明者合わせて58名に達した。昭和の爆発では死者は1名であったが山林,農作物に大被害が生じた。
現在は,昭和40年代の後半から噴煙活動が活発となり,大爆発こそないが,噴煙にともない放出される多量の火山灰および火山ガスにより,周辺住民への被害が毎年多数発生している。
当鹿児島国道工事事務所が管理する国道でも,路面に降った火山灰(以下「降灰」と記す)による,スリップなどの交通障害および通過車両,風によって生じる粉塵障害などを防止するため,降灰のたびごとに路面清掃車により清掃を行い,回収した降灰は山間の峡谷部などの「降灰捨場」に運搬し投棄している。
毎年,回収される多量の灰のため,捨場の確保が年ごとに困難となっており,また環境保全の面からも捨場設置は,自然景観の破壊,降雨による集積降灰の流出および風による粉塵発生など,好ましいものではない。
本文では,これら降灰の有効利用の一環として降灰を骨材の一部とした歩道平版ブロックを開発し,試験的であるが実際の歩道に布設したので,その経緯と内容について報告するものである。

2 桜島からの総噴出火山灰量および回収量
桜島火山から噴出し地上に降る灰の量は,鹿児島県が桜島を中心に58ケ所に観測所を設け,総合的に観測している。この資料にもとづいた年間の降灰量,およびこの内道路,宅地,公園,学校,下水道など住民生活に影響するために人為的に清掃回収される概略回収量を図ー1に示す。
このように毎年数万m3の降灰が捨場に投棄されており,さらに回収は人口密集地である鹿児島市が中心となるため,捨場も地価の高い市周辺に必要となりこれも捨場確保が困難な一因となっている。

3 開発の経緯
降灰の有効利用については,桜島の活動が活発となり多量の降灰が発生しだした,昭和50年代の初めより試みられ,主として焼結による陶器,タイルなどの建築資材,合成樹脂により固結化したボード,型押し成形品およびガラス材の配合材などの製品が開発され,商品価値としては有望であるが,需要が少ない,または多大な設備投資を必要とし材料の安定供給に不安があるので工業化できないなどのため,いずれも量産化にいたっていない。
そこで今回の開発では,既存の設備で容易に製作できること,開発費および長期調査の点より当事務所で施工する工事に利用できることなどを考慮し,①路盤路床材,②アスファルト混合物の石粉材,③コンクリートの細骨材などについて検討した結果,①②については追跡調査が煩雑になり,またもし結果が思わしくない場合の補修が大規模となるなどのため,③について開発することとした。
コンクリート骨材への利用は容易に着目できることであり,事実2,3の団体および企業で研究なされたが,強酸性であるSO3(無水硫酸)によるコンクリート中の鉄筋の腐食などにより,商品としての信頼性に欠けるものとして,いずれも製品化は実現していない。
このため今回は,無筋構造物である,追跡調査が容易である,破損が生じても補修が容易であることなどの理由により,歩道平版ブロック(以下「ブロック」と記す)の開発を行うこととした。なお,開発はコンクリート製品の研究開発を専門としているJ.F.B社との共同開発とし,この社の全面協力のもとに実施した。

4 降灰の性状及び供試体による強度試験
1)降灰の性状
今回使用の降灰は,写真一3に示すように空缶,紙屑,木片など雑多なゴミが混入しており,これらを除去した後の粒度分布を図ー2に示す。粒度およびその分布は回収地点が同じでも噴煙の程度,風向,風力により異なるが,鹿児島市内は桜島火口から10~15kmの位置にあり,降灰の粒子は一般に細かいものが多い。図ー2に示すように示方書の範囲から外れており,良質な骨材とは言いがたいが,このまま使用することとした。

次に蛍光X線分析装置による化学組成の分析結果を図ー3に示す。これによるとコンクリートに有害となる成分は含まれていないと思われる。ただし鉱物学的には約70%が火山ガラスであり,これは一般のガラスを細かく砕いたような角ばった形状をしており,この面からも良質の骨材とは言いがたい。さらに粒子表面には火山ガスが付着しており,その代表成分が水に溶けて硫酸となり強酸性を示すSO3(無水硫酸)である。

2)供試体の製作および強度試験
降灰は,砂ふるい機により不純物(ゴミ)を除去し,火山ガス成分および微細粒子(シルト分)除去のため十分に水洗いを行った。水洗い初めの洗浄水はPH3~4と強い酸性であったが,最終的にはPH6~7とほぼ中性となった。
この降灰を用いて,次の3ケースについてJISにもとづく供試体を製作し,強度試験を行った。
なお,供試体は4×4×16cmとし,各3個を製作し,その平均値を測定値とした。
ケース1
セメント:高炉B種
混合骨材:細砂(粒径2mm以下)
W/C比:33%(フロー値250mm)
製  造:モルタルミキサ混合
     型枠流し込み成型
養  生:水中14日
配合比 :表ー1
ケース2
セメント:KCBセメント(超微粉高炉スラグセメント)
その他はケース1に同じ
ケース3
セメント:高炉B種
混合骨材:石灰砂,炭酸カルシウム
W/C比:45%(フロー値250mm)
製  造:モルタルミキサ混合
     プレス加工成型
養  生:水中14日
配合比 :表ー2

ケース1は,標準的なコンクリート製品とした場合の強度を調査するもので,セメントは化学抵抗性がすぐれていると言われる,高炉B種とした,またブロックを製作するプレス機械(写真一4)の関係でフロー値を250mm程度とする必要がある。セメントの量を一般の場合より相当に多くしているが,これは試験施工であるが供用中の歩道に布設するので,化学変化などで障害があってもより長期間損傷が生じないよう考慮したのと,材料費の増減は製品コストにさほど影響しないためである。

ケース2は,J.F.B社が高品質の製品に使用している特殊セメントで,高強度で化学抵抗性にもすぐれ,付加価値の高い製品の開発を考慮して調査した。ただしこのセメントを使用した場合,プレス機による製作は困難である。
ケース3は,ブロックを製品として量産する場合,製品コストの面からプレス機による製作が不可欠で,モルタルの粘性の低下および成型性の向上のため,石灰石および炭酸カルシウムの配合が必要である。
なお,一般の骨材使用のプレス成型品にも相当量の石灰石,炭酸カルシウムが使用されている。
各ケースの結果を図ー4,5に示す。これによると強度は充分であり降灰の量また骨材の違いによる差異はあまりないものと考えられるため,ケース3の材料により製品を製作することとした。

5 歩道版ブロックの製作および布設
プレス機で写真一5に示すブロックの製作を開始したが,降灰量の比率が多い場合の成型が困難で,最終的には表ー3に示す比率まで降灰量を少なくせざるを得なかった。
ブロックは,標準版とみかげ石調版(表面をやや黒く着色し,みかげ石片を混入している)の2種を製作し,美観およびスリップ防止のためドーナツ状の凹みをつけ,さらに標準版には自然石感をだすために,ショット機により表面の目荒らしを行い,みかげ石調版表面は美観をだすために研磨を行った。
製品コストについては,製作工程が一般ブロックとまったく同じであるが,降灰のふるい分けおよび水洗いに多くの時間を要し,またセメント量が約2倍となっているため,開発に要した経費を除けば一般品より数%割高となるものと思われる。もしプレス機を使用せず型枠による人力作業とした場合には4~5倍のコストになるものと思われる。
試験施工として,当事務所が管理する国道10号線の鹿児島市内の歩道に面積670m2,枚数にして約7,400枚を布設した。この製品に使用した降灰量は約6m3である。また施工方法は従来とまったく同じで施工費の増減はない。
なお,アクセントをつけるため,みかげ石調版を配置することとし,そのデザインを当事務所職員に募集し写真一6に示すように8枚に1枚の割合で布設した。

6 問題点および今後の対応
今回の開発にあたって,生じた主な問題点およびその対応策などについて次に示す。
1)材料となる降灰の不足
捨てるのに困るから利用したいのに不足とは変な話であるが,当事務所が清掃する鹿児島市地区は,風向の関係で夏場(5~9月)に降灰が多くこの開発を計画したのが9月末であった,このため夏場に回収し捨場に堆積した降灰を利用することとしたが,ここには通常清掃で回収したゴミも投棄されており,これらが混合し利用できる降灰はごく限られた量であった。不足分は大隅工事事務所の捨場(垂水市周辺)のものを利用したが,これも不純物が多く,降灰のふるいおよび水洗いに多くの時間を要した。
この対応としては,夏場の「ドカ灰」と称する多量降灰時の回収灰(不純物の混入がほとんどない)をストックヤードを設けて保管しておくことが考えられる。ただし降灰は粒子が細かく降雨による流失,風による飛散が生じやすくこれらの対策が必要である。
2)降灰の利用量が少ない
当初は,骨材として降灰量100%を計画していたが,製品コストの関係でプレス成型とせざるを得なくなり,このため表ー3のように骨材全量の約20%と,利用する比率が大幅に少なくなった。
この対応としては,混和剤などによる脱水性の改善および降灰自体による粒度分布の調整などが考えられる。
3)火山ガス成分の除去が困難
今回は,火山ガス成分の除去のため水洗いを行ったが,粒子が細かいため通常の洗浄方法では降灰の流出量が多く長時間を要した。さらに乾燥にも長時間を要し効率の悪い作業となった。
この対応としては,アルカリ薬剤による火山ガス成分の中和処理,乾燥時間を考慮した容量を持つ貯蔵施設の設置などが考えられる。また排水の酸性度が強いため排水中和処理も必要と思われる。
4)耐久性の確認
今回の開発では,耐久性に最も影響のあると思われる火山ガス成分を,水洗いにより十分に除去しており,耐久性については問題ないと考えられるが,多少の残留またはその他の化学反応など予期しない障害が発生しないとも限らないため,特に外観の変化に留意し必要により抜き取り検査を行い,強度および内部構造の変化などの追跡調査を行う計画である。

7 おわりに
降灰の有効利用は,桜島周辺の人々にとって未だ達せぬ悲願であり,当然この種の開発に対する関心高く,その成功が期待されている。
この開発は,まだスタートしたばかりで,関発の最終目標である耐久性の結果は5年程度の期間が必要であり,今後も長期にわたり追跡調査を行うとともに,機会あるごとにこれらの研究開発を試み,降灰の有効利用を促進するつもりである。
一方,必ずしも十分な研究体制のもとに計画したものではなく,通常の業務で行える範囲内での実施である。
このため,今後の調査の参考として,この種の研究開発に有用な調査および試験方法などについて,読者諸兄のご意見および助言などが伺えれば幸いである。
このブロックの布設ケ所周辺は,当事務所が進めている“シビックパフォーマンス’’(地域の特性と個性を活かした町づくり)として,ミニ公園,桜島溶岩の道しるべなどが整備され,ブロックもパフォーマンスの一環としての役目をはたしている。
最後に,共同研究者として各種の調査,試験およびブロックの試作など全面的に協力いただいた㈱J.F.Bのみなさまに,ここに記して感謝の意を表します。

参考文献
桜島火山対策ハンドブック(平成2年)鹿児島県

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