「有明海沿岸道路(佐賀福富道路)の軟弱地盤対策について」
佐賀県 重松友善
1.はじめに
佐賀県は、東に福岡県、西に長崎県に隣接し、また県内には、人口集中が大きくない小規模な都市が分散している状況であり、これらを連絡する東西方向の交通が主要なものとなっています。
県内の道路交通体系としては、東西方向には基軸となる九州横断自動車道や、西九州自動車道、有明海沿岸道路を通し、これを補完する道路として南北方向に佐賀唐津道路、国道498号などを配して、走行性の高い幹線道路のネットワークを形成していくこととしています。
有明海沿岸道路は、福岡県の大牟田市を起点とし、有明海湾奥部の平野地帯を周回し、佐賀県の鹿島市へ連なる延長約55kmの路線で、地域間の交流・連携を強化する地域高規格道路として位置づけられています。
沿線には有明佐賀空港、三池港などの重要な広域交通拠点や福岡県の大牟田市、みやま市、柳川市、大川市、佐賀県の佐賀市、小城市、鹿島市など沿岸部の都市群が存在しており、有明海沿岸地域の経済、産業の活性化などの地域の更なる発展に寄与するとともに、一般国道208号、444号等の現道の混雑緩和と交通安全の確保を目的として計画された道路です。
2.佐賀福富道路
佐賀県内において、有明海沿岸道路は大きく3つの区間に分かれており、大川市大野島地区から佐賀市嘉瀬地区までの約9km区間を大川佐賀道路として、国土交通省が実施し、佐賀市嘉瀬地区から白石町福富地区までの約10kmを佐賀福富道路、また白石町福富地区から白石町深浦地区までの約9kmを福富鹿島道路として、佐賀県が実施することとしています。
現在、大川佐賀道路は、測量、設計を実施しており、また、福富鹿島道路は、環境アセスメント関係の調査を行っているところです。
佐賀福富道路は平成13年度から事業に着手し、平成17年度までに環境アセスメント関係の調査、路線測量、設計などを実施し、平成18年度から用地買収、工事に着手し、現在、その進捗に努めているところです。
道路の諸元としては、
・道路規格 1種3級
・設計速度 80km/h
・車 線 数 4車線(2車線)
・幅 員 20.5m(10.5m)
となっていますが、まずは、暫定2車線での供用を行うことで整備を進めています。
3.有明粘土層
有明海沿岸道路が通過する有明海湾奥部の低地は、有明海に面した佐賀平野を構成しており、九州最大の沖積平野となっています。
沖積層は、海成の有明粘土層と非海成の蓮池層からなっています。有明粘土層は、有明海海底および周辺の海岸低地の地下に広く分布しており、貝殻を混入する極めて軟弱な粘土で、暗灰色~暗青灰色の粘土や砂混じりシルトからなっており、層厚10~15mで分布し、最大層厚は30m程度になっています。また、蓮池層は、汽水域から淡水域で形成された非海成沖積層で、粘土、シルト、砂、礫から成り、含水比が高く、軟弱で、層厚は6~10mで、最大20m程度となります。
これらの粘性土は、含水比が非常に高く、標準貫入試験のN値が1未満となるなど極めて軟らかい土で、また他の海成粘土に比べて圧縮指数が大きく圧密係数が小さいという特性を持っています。
平野の南部では、層厚が厚いことから、圧密による沈下量が大きく、圧密期間も長期間に及ぶため、この地域の土木工事等においては、この対策が重要な課題となっています。
今回行った実証盛土の例をあげると、無処理地盤に高さ2.5mの盛土を行ったケースでは、盛土終了後約600日を経過した今でも沈下が継続中で、総沈下量は115cmを超えている状況です。
4.軟弱地盤対策
有明海沿岸道路は、道路、水路等の横断施設以外の部分は、高さ4m~8m程度の盛土で築造する構造になっており、軟弱地盤対策が必要となっています。
軟弱地盤対策については、学識経験者、行政関係者を委員とする有明海沿岸道路(佐賀福富道路)軟弱地盤対策工法技術検討委員会において、平成14年度から検討を進めてきたところです。
まず、深さ50mのボーリングを3kmピッチで実施した結果をもとに、軟弱層厚、土質特性などを考慮し、エリアを佐賀~久保田、芦刈、福富の3つに区分しました。
次に、最初に事業化される起点側の嘉瀬南IC~久保田ICにおいて、深さ30mのボーリングを500mピッチで実施した結果をもとに、地盤定数の設定を行い、検討用モデル断面を設定して、対策工法の検討に着手しました。
対策工法の選定にあたっては、対策効果(安定、沈下、周辺変位)、経済性、施工性、環境への配慮の項目により評価を行い、「深層混合処理工法非着底式(全面改良)」を最適工法と判断しました。
次に、対策工法の実施設計を行うにあたり、検討条件の主なものとして、
・道路本体部での残留沈下を30cm 程度以下とする。
・盛土法尻部(用地境界付近)での変位量を5cm程度以下とする。
・セメント改良体による地下水への影響を考慮し、透水層から1m以上のフロートとする。
などの項目を設定し、FEM解析等で検討した結果、次のような工法を選定しました。
工法の具体的な内容は、
・スラリー式機械攪拌工法
・改良強度 quck=600KN/㎡
・改 良 率 ap=30%
・改良深さは、有明粘土層下端(透水層)から1.0m程度フローティングさせる。
となっており、概略は下図のとおりとなっています。
対策工法を検証するための実証盛土の観測では、盛土本体の沈下、周辺部での変位ともに概ね満足できる結果を得られています。さらに嘉瀬南IC~久保田IC間の本体盛土工事においても、平成21年3月に着工し、現在のところ、周辺の変位等の問題もなく施工できており、今後の施工や完成後も十分に満足できる結果を得られるものと確信しているところです。
5.現在の状況
福岡県側では、昭和63年度に国道208号高田大和バイパスとして事業着手されており、平成6年度に地域高規格道路の計画路線として指定を受け、その後整備が進められて、平成21年3月に大牟田市から大川市までの約24kmの区間で一部分の側道利用区間を含めて供用開始されたところです。
佐賀県側では、佐賀市街地に近い嘉瀬南ICから事業に着手しており、現在は、主に、嘉瀬南IC~芦刈IC間でボックスや橋梁などの構造物、地盤改良工、盛土工、芦刈IC~住之江IC間の用地買収、六角川にかかる橋梁の検討などを進めています。
特に嘉瀬南ICから久保田ICまでの約1.7km区間については、嘉瀬川に架かる橋梁本体も完成し、今年度、盛土工、舗装工等を施工し、平成23年春頃の供用開始を予定しています。
まずは、1区間だけの供用ですが、有明海沿岸道路の佐賀県における第1歩として、交通に対する効果はもちろんのこと、県民の方々へのこの道路の必要性などのPR効果も挙げられるものと期待しています。
6.今後の課題
現在の工法は、既往の基準、マニュアルをもとに検討、選定を行ったものであり、今後、現在施工を行っている箇所のデータを収集、検討し、工法の仕様を見直すことが必要であると考えています。
また、芦刈IC付近から南側になれば、軟弱地盤の層厚が厚くなっていく傾向にあり、現在実施している深層混合処理工法と異なった工法についての検討が必要になってくると考えられます。
その他にも軟弱地盤対策に限らず様々な課題が現れてくることが考えられますが、この事業は県の道づくりの重点方針の1つとなっており、早期完成に向けて努めていきたいと思います。
(注:文章中の佐賀県内IC名称は現時点ではすべて仮称です。)