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新燃岳降灰除去に係る道路災害復旧事業
前田秀高

キーワード:新燃岳災害対策、車両走行試験、降灰除去

1.はじめに

宮崎県南西部の鹿児島県境に位置する霧島山(新燃岳)(図-1)は、平成23年1月26日にマグマ噴火が発生し、1月27日以降の爆発的噴火の発生(写真-1)により降灰が道路上に広く堆積した。
このため、車両の通行に著しく支障をきたし、通行止めを余儀なくされる事態となった。
宮崎県では、県が管理する道路上の降灰除去作業に当たり、公共土木施設災害復旧を申請し採択を受けたことから、本稿で災害復旧事業採択に向けた取組みについて報告するものである。

2.道路における降灰の概況

1月27日から2月上旬にかけて発生した爆発的噴火に伴い、降灰は新燃岳の南東(都城市側)と東(西諸県郡高原町側)の2方向に大きく分かれて堆積し、南東方向では礫状、東方向ではパウダー状の降灰が確認された。
宮崎県では、道路上の降灰範囲及び降灰堆積厚を確定するため、2月4日から6日にかけて道路上の降灰調査を実施し、概ね500mピッチ毎の合計180ポイントで降灰状況を確認した。
この結果、降灰厚が1㎝以上の県管理道路が7路線確認された(図-2)。
特に、降灰の著しい国道223号(都城市御池地区)では、降灰厚さが10㎝程度確認され、車両の通行が困難な状況となった(写真-2)。

3.降灰による車両通行への影響走行試験
降灰による災害は、交通に著しい妨げとならない場合、災害復旧事業の適用除外(国庫負担法施行規則第3条三項)となるため、どの程度の降灰厚さで交通に著しい妨げがあるかを影響走行試験により検証した上で、災害復旧申請の判断材料とした。

(1)試験種類

走行試験は、平成23年2月9日から11日までの3日間で国土交通省及び財務省の担当官が立会いの下で都城市と高原町の2会場において実施した。
試験は、20㎞/hにて走行する車の全制動による停止距離を測定する制動試験(図-3)を実施した。

(2)試験方法
試験は、通常路面、礫状の積灰及びパウダー状の積灰の3種類に分け、路面の状態を乾燥、半湿潤及び湿潤の3パターンの状態で実施し、積灰厚さを1㎝、2㎝及び3㎝と変えて各5回、試験回数の合計で110回の制動試験を実施した(表-1、写真-3)。

(3)制動距離の基準

車両の制動距離については、道路構造令にすべての種類の道路上で確保しなければならない制動距離が定められている。
速度とタイヤと路面のすべり摩擦係数の関係から、設計速度が20㎞/hの制動距離は3.6mが算定され、今回3.6mを制動距離の基準値として適用した。

D=V2/2gf(3.6)2
D:制動距離(m)、V:速度(㎞/h)、f:すべり摩擦係数

(4)試験結果

降灰厚1㎝、2㎝、3㎝の乾燥、半湿潤及び湿潤状態での試験結果に大きな差違はなく、制動距離の基準値3.6mを上回った(表-2、3、4)。

今回の試験では、事故の危険性及び試験敷地の広さを考慮し、試験速度は20㎞/hに設定したが、実勢速度の場合、さらに制動距離は超過し、交通事故の危険性が増加することと考えられる。
また、今回の試験では、安全性を考慮しABS機能を装着した車両を使用したが、ABS機能を装着していない車両が通行した場合の危険性も憂慮される。
以上の結果、総合的に判断して降灰厚1㎝以上で交通に著しい妨げがあると判断でき、国庫負担法による災害復旧の採択条件を満たすことが可能となった。

4.降灰除去に係る道路災害復旧事業の実施

降灰除去の災害査定においては、厚さ1㎝以上の降灰が確認された国道223号他5路線の延長L=44.029㎞、降灰除去工V=10,040m3が復旧費44,682千円で採択を受けた。
復旧作業は、車道部においては、トラクタショベル掘削とダンプ運搬の組合せとし、歩道部においては、小型のトラクタショベルと人力掘削の組合せにより除去作業が進められ、爆発的噴火後の1月27日に工事着手して3月25日には災害復旧を完了し、3月末までに全面通行止めを解除することが可能となった(写真-4)。

5.おわりに

今回の降灰では、交通への影響が広範囲に及び迅速な対応が必要であったが、災害緊急調査、車両走行試験、事前打合せ、さらには災害査定の実施まで、1ヶ月間という類を見ない短期間で対応することができた。これも国土交通省をはじめとした関係機関の皆様に多大な御支援を賜った成果であり、深く感謝したい。
また、今回の車両走行試験は、雲仙岳や有珠山など他県では既に取り組まれた試験ではあるものの、宮崎県では初となる試みであり、貴重なデータを保有することができた。
いつ噴火するか予見できないのが火山活動であるため、今回の経験を今後の災害復旧事業に継続的に活用していきたい。

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