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桜島のさらなる安全対策の充実について

国土交通省 九州地方整備局
大隅河川国道事務所 調査第二課長
鶴 本 慎 治 郎

国土交通省 九州地方整備局
大隅河川国道事務 調査第二課
稲 葉 茂 道

京都大学防災研究所
 火山活動研究センター 助教授
井 口 正 人

1 はじめに
桜島は現在噴火活動が低下傾向にあるが,噴火活動の比較的活発な時期と不活発な時期が交互に繰り返されており,噴火活動が活発な時期にはそれに比例するように,土石流も発生しており(図-1),図-2に示すように今後活発な火山活動をし始める前の予兆現象なども確認されていることから,今後活動期に入れば土石流も増加することが十分予想される。

平成12年10月7日の噴火(図-3)では,南岳火口から約2km(立入禁止区域)付近の野尻(のじり)川8号堰堤において,噴火後10~20秒に10cm程度の噴石の落下が確認されている(図-4)。また,火口から約5.6kmの袴腰はかまごしでも,1cm程度の噴石の落下が確認されている。当時の噴火では,直接的被害は無かったものの,ひとたび噴火が起これば十分に直接的被害を受ける可能性が考えられる。今後桜島での砂防工事は,南岳火口から半径2kmの立入禁止区域周辺での作業も必要となってきており,桜島の砂防工事に従事する関係者の噴火に対する安全を確保する必要がある。
本稿では,桜島の安全対策の充実を図るうえでの背景やその概要,今後の安全対策について述べるものである。

2 桜島における火山観測体制の現状と課題
現在,桜島においては,京都大学防災研究所と鹿児島地方気象台が観測を行っている。そのうち,火山噴火予測を行う上で最も信頼性の高い計器と言われているのが,京都大学が桜島北西部に位置する春田山観測坑(図-5)に設置した水管傾斜計2台及び伸縮計3台である。昭和60年実績では70%程度の確率で噴火を事前に予測することが可能とされている。

桜島における噴火活動は,前記図-1に記載したとおり,昭和60年頃をピークとしてその後爆発回数は減少傾向にある。平成17年の爆発回数は,12回であり,昭和60年の474回に比べると10分の1にも達しない回数である。しかしながら,平成12年10月7日の爆発のように噴煙高度が5,000mに達し,桜島で最も南岳山頂から離れている袴腰まで(距離約5.6km)噴石が達するような爆発は突発的にその後も発生している。このことは,工事従事者の安全を確保するため,従来よりも小規模ではあるが災害を発生させる可能性のある爆発に対しても対処し,より高精度の噴火予測を行わなければならないことを意味する。また,最近の水準測量やGPSによる地盤変動の観測に拠れば,桜島の北部姶良カルデラの下には着実にマグマが蓄積されつつあることが示されており(図-6),火山噴火予知の要請は依然として大きいといえる。

3 新たな火山観測施設の整備
大隅河川国道事務所は,前記までに述べたことを踏まえ,噴火予測精度を向上させ工事従事者の安全を確保するために,新たな観測坑の整備を計画した。計画にあたっては,気象庁・京都大学等の関係機関と連携して,観測機器の仕様やシステム構成,情報共有の在り方についての検討を行ってきた。
検討してきた中で,新たな観測坑の位置については,これまで既設の春田山観測坑だけでは,現在活動を続ける南岳の南東側の動向が完全に把握できない状況であったため,桜島南東側の動向把握及び観測精度を向上させるために,南岳を挟んで春田山観測坑と正対する有村地先に観測坑を整備することとした(図-5)。

また,坑内に設置する観測機器については,既設の春田山観測坑と同様に水管傾斜計2台及び伸縮計3台を設置することとした。新たに観測される有村観測坑のデータと既設の春田山観測坑のデータを併合解析することにより,観測精度の向上,より詳細な火山活動状況を把握することが出来る。春田山観測坑と同程度の高精度の観測を行うために最も重要な点は,地表周辺の外力(震動や温度変化)の影響を受けない機器設置深度を確保することである。そのため,既設の春田山観測坑の設置条件(土被り70m,坑口から200m)にならい,有村地先から南岳に向かって約300mの坑道を施工した。形状は,「図-7」のようになっており,坑道奥の三角形部に観測機器を設置する予定である。(観測機器は平成18年12月完成予定。)

この整備された有村観測坑において今後観測を続けていくことで,精度向上による噴火予測率の向上や,噴火位置の特定などより詳細な火山活動状況を把握できることとなり,噴火予知の解析が大きく向上するものと考える。

4 桜島火山の噴火予測システムの概要
今回新たに整備した有村観測坑の観測データと,既設の春田山観測坑の観測データを併合処理して噴火予測をするための「桜島火山の噴火予測システム(以下「システム」という。)」を,桜島国際火山砂防センター(図-4)に整備した。
本システムは,有村観測坑と春田山観測坑のデータを併合処理して火山活動状況を判定するもので,基本論理は京都大学防災研究所で開発したソフトウェア(KamoandIshihara,1989)と同一である。
基本的には潮汐の影響を除去した水管傾斜計の記録から読み取れる地盤の隆起・沈降に対応して「噴火前」「噴火中」「噴火の兆候なし」の3つの火山活動状態を判定し,「噴火前」と判定されてからの傾斜変化量に応じて「注意」「臨界状態」「警報」の3段階の警報を発するものである。
判定の要領としては,5分前の傾斜量との差を求め(傾斜変化量),山頂火口方向の地盤の隆起に対応する傾斜変化を検出しその状態が3分間継続すれば「噴火前」と判定し,逆に山頂火口方向の地盤の沈降に対応する傾斜変化を観測し,その状態が3分間継続すれば「噴火中」と判定する。傾斜変化が一定範囲内に収まっていれば「噴火の兆候なし」と判定する。
これまでに行った春田山観測坑のデータを用いた試験運用では,概ね従来のソフトウェアと同様の結果が得られている。今後,「噴火前」と判定されてからの「注意」「臨界状態」「警報」の3段階の各警報を用いて,工事従事者への安全対策として活用していくものである。

5 工事従事者への活用方法
従来の火山噴火に関する工事従事者への安全対策としては,島内の各所に地震計とサイレンを設置し,地震計が一定のレベルの震動を感知するとサイレンを鳴らして,工事従事者へ周知させ避難させるというものであった。また,その他に噴火時の避難場所として避難壕の整備を各河川の各地に整備をしてきた。
今回整備したシステムの活用については,春田山観測坑のデータを用いた試験運用結果をみるかぎり,昭和60年当時の活動と同等規模の爆発が発生すれば,同様に数分から数時間前に警報を発して,砂防工事従事者に情報を通知することができるものと思われる。
具体的な活用方法としては,システムで発令される警報を用いて,「注意」で工事従事者への周知,「臨界状態」で工事従事者の避難開始,とし避難の基準を設けた。また,発令方法については,それぞれの警報の信号を既存の光ケーブルを用いて工事従事者へ通報を行うこととした。
桜島での砂防工事は,島内各地で工事を行うため,島内のどこにいても使用できるものが必要である。そのため,光ケーブルと無線装置を組み合わせた移動式の通報装置とすることにより,各工事現場で避難の通報を受けることができるものとした。
これにより,その時々に応じた火山噴火に対する安全対策の体制ができ従来噴火発生後の避難しか出来なかったものが,噴火前に避難をすることが可能となるため,工事従事者への安全性が増すものと考えられる。

6 今後の課題
今回整備したシステムは,試験運用結果では噴火の前に,工事従事者に情報を通知することが出来ることとなる。しかしながら,最近の爆発は規模が小さく,春田山観測坑のデータだけでは事前に警報を発することが難しい。平成18年2月28日20時28分の爆発では,傾斜計はわずかな火口方向の地盤の隆起をとらえて「噴火発生前」の火山活動を判定しているが,傾斜の増加量が小さいために警報を発するには至っていない。
小規模な変化でも警報を発するためには判定のための設定値を下げればよいが,この変化は傾斜変化のノイズレベルをわずかに超える程度の変化なので,設定値を下げることにより実用にならない回数の警報が頻繁に発せられる可能性がある。これを避けるためには有村観測坑のデータを使用して,両観測坑道のデータがわずかであっても同様の変化を示したときに誓報を発する必要がある。そのため今後は,観測機器設置後のデータを蓄積・解析し,警報の精度を上げていく必要がある。

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