新天門橋(仮称)工事における耐風安定性及び航行安全性の検討
本田晃三
キーワード:新天門橋、風洞試験、航行安全
1.はじめに
熊本天草幹線道路は、熊本市から天草市に至る延長約70㎞の地域高規格道路であり、熊本都市圏と天草地域との交流・連携を強化し、効率的な交通体系の形成を目的に計画されたものです。その整備効果として、熊本・天草間の交流の強化、交通渋滞の緩和、天草への交通代替路線確保、観光客増加や水産物の価値向上による地域振興などの様々な観点から県民に期待されています。
熊本天草幹線道路の一環として整備されている宇城市三角町から上天草市大矢野町を結ぶ国道266 号大矢野バイパス(約3㎞)において、三角ノ瀬戸を渡海する新天門橋の架設工事を進めております。現道の天門橋(昭和41 年架設、橋長502m、鋼3 径間連続トラス桁)は、天草上島と熊本本土を結ぶ天草五橋の一つであり、代替路の確保の観点からも新天門橋の早期完成が望まれています。
新天門橋は、橋長が463m( アーチ支間長350m)の鋼プレストレストコンクリート複合アーチ橋です。橋長に対して幅員(11.4m)が狭く、桁形式も縦横比の大きい箱形断面であるため、風の影響を受け振動が生じやすい構造であり、路面は高度45m、アーチ頂部は高度70m の高さに架設されるため、台風等の影響も受けやすくなります。したがって、耐風安定性について確認する必要があります。
また、本工事の補剛桁の直下吊り作業は、三角ノ瀬戸での工事となりますが、本箇所は船舶の航行が多く、特に大きさが20GT(グロストン:船舶の大きさを示すのに用いる指標)未満のプレジャーボート等の小型船舶の航行が多いところです。したがって、作業時において船舶の通航の安全確保が必要となります。
本稿では、新天門橋の工事における耐風安定性及び航行安全性の検討について紹介します。
2.耐風安定性の検討
本橋架設時において最も不安定であると考えられるアーチリブ最大張出時の耐風安定性を検討するために、架設系(アーチリブ最大張出時)の模型による3次元風洞試験を行いました。
2. 1 試験方法
風洞試験に用いた模型は、実橋の1/80 の縮尺の3 次元模型であり、架設機材として「移動防護工」「下面ネット」「添接足場」「桁上通路」を再現しました。3 次元模型を写真ー1、図ー2に示します。
風洞試験では、まず、①架設機材の安全ネット閉塞率を26%とした基本構造(写真ー2)、②安全ネットの閉塞率を100%とした渦励振対策構造(写真ー3)、③架設機材を取り外したアーチリブ単体(写真ー4)について一様流中試験を実施しました。一様流中試験ケースを表ー1 に示します。③架設機材を取り外したアーチリブ単体は、実際にはない構造ですが、アーチリブの風に対する特性を把握するために試験ケースに取り入れました。さらに、基本構造および渦励振対策構造を対象として、乱流中試験を実施しました。
2. 2 試験結果
一様流中試験結果として、鉛直たわみ渦励振の発現振幅および構造対数減衰率を表ー2 に示します。ここで、架設時の渦励振許容振幅は特に規定がないため、架設作業の安全性および品質の確保を考慮して、完成系の許容振幅値(道路橋耐風設計便覧)を用いました。
一様流中試験の結果、
1)すべてのケースでギャロッピング(※1) の発現なし。
2)基本構造では、許容振幅を上回る鉛直たわみ2 次モードの渦励振が発現。
3)渦励振対策構造では、渦励振の発現振幅が許容振幅以下に低減。
となり、架設機材や安全ネットの閉塞率が、アーチリブの風に対する特性に大きな影響を与えることが判りました。
乱流中試験の結果、
1)鉛直方向の有害な振動は発現なし。
2)水平方向のガスト応答(※2)が発現。
・作業限界風速(10m/s)での発現振幅は完成系の渦励振許容振幅以下。
・架設時設計基準風速(34.1m/s)での発現振幅は完成系の渦励振許容振幅以上。
となり、風速10m/s 以下の架設作業の安全性および品質の確保に問題がないことを確認しました。また、応力照査は架設時設計基準風速(34.1m/s)時に水平方向のガスト応答によって許容値以上の応力が生じることが危惧されたため、格子解析による応力照査を実施し、構造の安全性にも問題がないことを確認しました。
※1 ギャロッピング…気流に直角なたわみ1自由度の発散振動。
※2 ガスト応答…自然風の風速変動に起因する強制振動であり、振幅が不規則に変動する振動現象をいう。風速の増加とともに振幅が徐々に大きくなる。
2. 3 検討結果
新天門橋架設時(アーチリブ最大張出時)において、「ギャロッピングが発現しないこと」、「渦励振および水平方向のガスト応答が発現する可能性があること」が判りました。渦励振対策として、安全ネットの閉塞率を高めることが有効であることが判りました。また、水平方向のガスト応答については、応力照査を実施し、構造の安全性に問題がないことを確認しました。
なお、実橋架設時には、構造減衰、固有振動数の計測および動態観測を実施し、状況に応じて耐風対策を実施します。
3.航行安全性の検討
補剛桁架設工事は5つのブロックに分け、直下吊工法により作業位置を変えながらの作業となります(図ー3)。このとき船舶を通航させながらの海上作業となることから航行船舶の航行安全対策の検討を行いました。
3. 1 検討方法
補剛桁架設時は、気象や潮流等の状況により船舶の航行が影響を受けると考えられ、航行の安全性について机上での検討だけでは安全かどうかの判断が難しいため、航行時の様々な条件(航行幅、航行方法、風速、風向等)を再現してビジュアル型操船シミュレータ実験(写真ー5)により通航方法等を検討しました。
3. 2 検討結果
補剛桁ブロック直下吊作業時には、作業位置に応じて可航幅が制約されることとなります。このことから航路中央での作業(ブロックⅤ)では十分な可航幅が確保できないため、20GT 以上は航行不可となりますが、それ以外のケースでは20GT 以上500GT 未満の船舶は航行可能と判断されました。20GT 未満の船舶はいずれの作業位置においても航行可能と判断されました。施工中は作業船の工事作業区域への入出域時における安全指導、一般船舶に対する警戒、注意喚起等のため警戒船を配備することになり(図ー4)、さらに、広報船を配備し、作業区域から離れた海域で施工実施情報を提供することが必要と判断されました。
4.おわりに
本業務の実施にあたっては、貴重な資料や情報の提供を頂いた㈱横河ブリッジホールディングスの皆様、また、新天門橋架橋工事に関わる委員会の皆様及び関係者の皆様には多大な協力をいただき感謝いたします。