斜張橋の技術革新に関する国際シンポジウム開く
建設省土木研究所構造橋梁部,
前 九州大学助教授
前 九州大学助教授
大 塚 久 哲
1 はじめに
平成3年4月18,19の両日,福岡において首題の国際シンポジウムが開催された。本シンポジウムは著者が九州大学土木工学科に在籍中の昭和63年4月にスタートさせた「部定式斜張橋研究会」が主催団体となり,福岡県科学技術振興財団,九州橋梁・構造工学研究会,土木学会西部支部の後援のもとに開催されたものである。
「部定式斜張橋研究会」は,近年躍進の著しい斜張橋における新しい構造形式の一つである部定式の適用を掘り下げ,中央支間の長大化を検討すべく発足した研究会で,官公庁・大学を始め,コンサルタント,鋼橋・PC橋ファブ,ゼネコン,支承・鋼線メーカーから43社が参加していた。
会の研究項目は,試設計・架設工法・ケーブル・アンカレッジ・支承・継手と多岐にわたり,鋼・PC・複合の3タイプの斜張橋を対象にそれぞれワーキンググループに分かれて研究を行った。その成果は「長大斜張橋の解析と設計」と題して既に九州大学出版会から出版されている。
本稿では,先ず,部定式斜張橋研究会各ワーキンググループの研究活動結果の概要について述べ,その後に国際シンポジウムで発表された講演を概観し,斜張橋研究のトレンドを紹介する。
2 超長大化を可能にする部定式
部定式斜張橋に複合形式を採用すれば主桁の軸力分布に応じ(図ー2),引張軸力に対しては鋼桁を,圧縮軸力に対してはPC桁を配置してその特性を生かすことが可能となる。複合ワーキンググループは複合部定式斜張橋の有利性を確認するために,主径間900m,側径間300m(全長1,500m)の斜張橋の試設計を行った。鋼桁部とPC桁部の境界にせん断力のみを伝えるヒンジを設けることにより,自定式に比べて大幅な軸力の改善となった。また,活荷重の曲げモーメントも小さくなり断面構成上有利となることが立証された。解決すべき事項として架設におけるヒンジ部の仮固定とその解放方法,耐震・耐風性の更なる検討などが挙げられる。
鋼ワーキンググループにおいては既に多くの長大斜張橋の実績があり,検討対象の主径間900m級に対しても,既往データより集約されている各種パラメータを採用し,実現性を考えながら各種検討を行った。ワーキンググループでの最終的な認識として,長大支間における部定式斜張橋は力学的に有利な構造であり,検討対象を更に超える主径間1,000m級の鋼斜張橋の施工も現状の技術で十分可能であること,しかし,風荷重などによる橋軸直角方向の変形の対応策が必須であること,またアースアンカ一方式など他定式も部定式同様検討に値する支持方式であること,などが挙げられる。
PCワーキンググループにおいては,国内での長大PC斜張橋の実績が少ないことを考慮して,主径間500m(全長1,000m)規模のPC斜張橋を検討対象とした。検討の結果,主径間500m規模のPC斜張橋では部定式の有利性を十分発揮するまでには至らなかったが,ワーキンググループとしては,より長支間になれば自定式では対応が難しく部定式が有利になることを予想しており,今後の研究に期待している。
3 斜張橋研究のトレンド
シンポジウムの基調講演としては,斜張橋の主径間長大化についてのオピニオンリーダー的存在である,デンマーク工科大学のギムシング教授から,立体的なケーブル配置をもつ長大斜張橋が提案され,フランスノルマンディ橋の構造部門最高責任者ヴィルロジョー教授からは,ノルマンディ橋の工事進展状況の報告と種々の問題点の解決策が報告された。伊藤学東京大学名誉教授(埼玉大学教授)からは,これまでの日本の鋼斜張橋での経験を踏まえた,風・地震・走行荷重などの動荷重に対する設計法が紹介された。
一般発表は表ー1のように6セッションに分かれ,各々において熱心な討議がなされた。各セッションにおける発表論文の内容は次のように多岐に亘るものであった。
セッション1では,斜張橋の全体構造及び主塔の座屈安定性の解析結果,多段階最適化理論を用いた自定式・部定式・完定式の経済性比較結果,形状最適化理論を用いた部定式斜張橋アンカレイジの最小重量設計の結果,RC・PC斜張橋のクリープ解析結果などが発表された。
セッション2では,地震応答測定値に基づいた減衰比の議論,メキシコタンピコ橋の動特性の決定,東神戸大橋の耐震設計と変位制御装置,PC斜張橋の弾塑性地震応答解析,衝撃係数の算定結果などが発表された。
セッション3では,斜張橋の空力特性に対する乱流やフェアリング形状・パラペット充腹率の影響などの実験結果,斜張橋の各部材に生じる種々の振動問題,液体封入タイプ制震装置の主塔への適用例などが発表された。
セッション4では,鋼とコンクリートのいずれが上床板に適した材料であるかの議論,締め固め不要の超流動化高強度軽量コンクリートの主桁への実施例,木製斜張橋の開発,高強度ケーブルや振動を抑制できるケーブル定着部の開発などが発表された。
セッション5では,東京国際空港拡張部に架設されている3つの斜張橋,メキシコタンピコ橋,ユーゴースラビアの斜張橋,高橋脚を有する1本主塔PC斜張橋の製作・架設事例,PC斜張橋架設管理システムが紹介された。
セッション6では,我が国最大規模のPC斜張橋となる秩父公園橋の解析・設計概要,中国における4径間(3本主塔)斜張橋の設計概要,台湾基隆港に架設計画中の主径間600mの斜張橋・吊橋・混合タイプの比較設計,デンマークグレイトベルトプロジェクトに提案された主径間長1,200mの斜張橋案,PC・鋼・複合タイプの部定式斜張橋(後2者は主径間長900m)の試設計結果などが発表された。
4 おわりに
本シンポジウムはこのように国内21件・海外13件・研究会4件の計38件の発表がなされ,海外12ヶ国におよぶ参加者30余名とともに,総勢130余名の橋梁技術者・研究者が明日の斜張橋に向かって真剣に討議を行った誠に有意義なシンポジウムとなった。またフランスのヴィルロジョー教授からはノルマンディ橋の工事が佳境を迎える2,3年後に是非フランスで第2回目を開催したい旨の発言もあり,会場の雰囲気は大いに盛り上がった。さらにバンケットでは,土木学会鋼構造進歩調査小委員会から斜張橋の過去と将来と題するスピーチが寄せられ,好評を博した。
ポストシンポジウムツアーでは,尾道大橋・因島大橋経由で生口橋・瀕戸大橋・東神戸大橋などを新幹線・バス・クルーザーを用いて巡回視察を行った。幸いにして天候にも恵まれシンポジウムに一層の華を添えた。
※本シンポジウムに関する書籍として,次のものが用意されました。希望者には頒布致しております。
Innovation in Cable-Stayed Bridges,丸善㈱,頒価6,000円
「長大斜張橋の解析と設計」,九州大学出版会,頒価3,400円
図ー1から5までは,「長大斜張橋の解析と設計」から,図ー6から10まではシンポジウムプロシーディングから転載した。