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技術活用パイロット事業について

建設省九州地方建設局
企画部技術管理課長補佐
高 崎 寿 男

1 はじめに
近年,「パイロット事業」といった言葉を耳にする機会が多い。特に建設産業関連従事者間では,合言葉ともなっている。
いったいこの語源は? しかし,即座に答えることは難しい。特に末端にいる技術者にとっては尚更のことである。
そこで,今回はこの言葉が生まれた背景並びに建設省における「技術活用パイロット事業」の現状について紹介したい。

2 言葉が生まれた背景
「パイロット」の意味を直訳すると“水先案内人”,“操縦士”,“航空士”あるいは“指導者”とある。
このことからして,技術活用パイロット事業というのは,新しい技術(工法)の開発(活用)をする事で,先導的役割を担うための事業と解される。
一方,住宅・社会資本の整備を実施する建設業は労働者数約600万,日本のGNPの2割を担う巨大産業であるが,今後の円滑な社会資本の整備と建設業の健全な発展には解決すべき課題も多い。
例えば
① 都市化,情報化,国際化,高齢化などが進行するなか,世界有数の経済大国となり,各種社会資本についても,一定の水準に達したが,欧米諸国と比べた住宅・社会資本整備は国民が豊かさを実感できるレベルには未だ達していない。

② 住宅,社会資本整備に対する国民のニーズがますます多様化・高度化し,質が高く耐久性のある構造物の建設が望まれているものの,現下の厳しい社会経済の状況下で,これに応えて行くには事業の効率性の確保が極めて重要な課題となっている。

③ 住宅・社会資本整備の実務面を支える建設関連産業においては,労働条件の厳しさからか労働者の不足が深刻化するとともに高齢化も進み,これらの解決に向けた行政・技術面からも支援する必要がある(図ー3)。

更には,今後急速に進展するであろう労働時間の短縮,安全性重視,労働感覚の変貌の中で改善を図りつつ,諸ニーズに沿った適切な住宅・社会資本整備を達成して行くことが大切であり,また近年特に注視されている地球規模の環境問題への対応等,環境価値の増大があげられる。よって,これらの解決のためにも建設技術の開発に向けた研究と積極的な事業への取り組みを展開して行く事が重要である。
そこで,これら分野における研究開発については,総合技術開発プロジェクトや試験研究機関等あるいは民間等で開発された成果について,その実用化を図るためには実際の工事現場で試験施工する必要があり,昭和62年度から技術活用パイロット事業制度を創設し建設省の直轄事業における新技術の活用を積極的に進めているところであり,平成2年度からは特定の新技術を全国的に実施する特定技術活用パイロット事業を導入した。
また,建設事業分野では技術開発,特に応用技術開発においては民間活力に負うところが大きいため民間などにおける技術開発の意欲を高め,その活動を推進するため建設省においては下記に示す各種技術開発制度を設けてきた。
(建設省における技術開発制度の整備経緯)
①昭和47年度
 〇総合技術開発プロジェクト制度
建設技術に関する重要な研究開発課題の中から国において課題設定を行い国が主体となり大学,民間との密接な連携組織を設定し研究開発を行い,その成果を公表および関係機関への通知を行う。
②昭和53年度
 〇建設技術評価制度
国が行政ニーズに基づき設定した課題公募に対し民間が研究開発を行い,その成果を国が評価,公表および関係機関への通知を行う。
③昭和61年度
 〇共同研究制度
従来行政サイドのニーズで設定してきた課題を官民双方がプロポーザルにより調整し課題設定したうえで共同研究者を公募設定し建設省研究機関および関係機関への通知を行う。
 〇共同開発制度(地建)
建設事業における技術開発の一層の促進を図るため各地方建設局が民間等と共同で技術開発を行うもので,民間,法人,自治体,他機関等を共同開発者としてプロポーザル方式により開発を行い,成果の公表,関係機関への通知を行う。
④昭和62年度
 〇民間開発建設技術審査・証明事業制度
民間において自主的に開発された建設技術の活用を推進するため,これら民間開発技術を国の認定した認定機関で審査および結果の証明を行い,これらの公表,関係機関への通知を行う。
 〇技術活用パイロット事業(地建)
建設分野への新技術の積極的導入を図るため新技術の適用について直轄事業において試行し現場適応性,効率性,安全性,経済性等を検証することにより新技術の活用普及を図る。
⑤平成2年度
 〇特定技術活用パイロット事業
前述の各種開発制度や民間開発技術の評価や審査・証明また民間独自開発技術を含めたパイロット事業での検証等を踏まえ,これら新技術の中から早急に普及を図っていくべきテーマを国で選定し全国一斉に特定技術活用パイロット事業として実施し,歩掛調査を含め各側面からの検証を土木研究所と連携して普及方針,方策を定めていく。
⑥平成5年度
 〇技術提案型特定技術活用パイロット事業
社会各層のニーズ等を広く収集し早急に普及を図ってゆくべき技術テーマを広く議論,検討したうえで技術テーマを設定し民間からもテーマ公募により技術提案を受け,官提案技術(官関連の既往開発技術)を含め審査し課題決定したうえで従来の特定技術活用パイロット事業と同様に実施する。

3 技術活用パイロット事業について
建設事業の一層の効率化を図るため,先端技術を始めとする新技術を建設分野へ積極的に導入する必要がある。
このため,建設工事の現場ニーズに基づき,新しい工法等を建設省直轄事業において試行し,現場適応性,効率性,安全性,経済性等を検証することにより,新技術の活用を図り,建設技術水準の向上と効率的な事業執行に資するとともに民間における建設技術開発の振興に資することを目的として技術活用バイロット事業が昭和62年度に創設された(表ー1,2)。

本事業の技術課題は,平成4年2月に設立した地方公共団体,関係業界を含めた九州建設技術開発会議における各立場からのニーズや,地建管内から収集するニーズをベースに検討整理している(図ー4)。
また,これらに際しては九州地方建設局の本局および各工事事務所等に設置されている「技術開発推進窓口」で規定様式による一般からの「新技術・新工法申請」受付,登録に寄せられた技術情報も大いに活用いただくこととしている。

また,平成2年度からは前述事業の拡大として「特定技術活用パイロット事業」を追加している。これは,技術活用パイロット事業のうち早急に標準化等,技術の普及を必要とする技術(工法等)を「建設技術協議会(建設技監召集)」により特定し,統一的かつ重点的に技術の試行を各地建で行うものである。この成果は,土木研究所および本省・担当地建により建設省標準設計として歩掛制定等の整備がなされる(表ー3,4)。

また,平成5年度からは特定技術活用パイロット事業の更なる拡充として「技術提案型特定技術活用パイロット事業(仮称)」を創設する予定である。これは,先にも述べたように技術開発については民間活力に負うところが大きいため,民間が開発した新技術を積極的に活用し公共事業へ導入するものであり,これにより各企業が保有する技術の普及につながるとともに,新技術を開発する好循環を生む波及効果に期待するものである(表ー5)。

4 おわりに
近年の国民ニーズは多様化・高度化し質的な充足を求める一方,今後事業を推進する上で,地球規模での環境対策も重要な要因である。これらのニーズに応えるためには,より広い視野での情報収集が肝要である。
九州地建においては,前にも述べたように「新技術・新工法申請」を受け付ける一方,九州における建設関連業界と建設行政部局(地建,県,政令市)を結集し技術開発に向けた取り組み等全般について意見交換や協議等を行うべく発足された「九州建設技術開発会議」での各種部会検討を進めることにより,裾野の広い技術開発(活用)を行い,これらの検討や成果の反映を通じ地方業界の活性化や技術力向上を目指すものである。

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