建設リサイクルの現状と課題への取り組み
九州地方建設局企画部技術管理課
基準第二係長
基準第二係長
原 尻 克 己
我が国においては,主要な資源の大部分を輸入に依存していることに加え,近年の経済成長,国民生活の向上に伴い,廃棄物の発生の増加,廃棄物をめぐる問題が深刻化している。このような状況に対応して,資源の有効利用を図るとともに,廃棄物の発生の抑制および環境の保全に資するため,平成3年10月に「再生資源の利用の促進に関する法律」(リサイクル法)が施行された。
それ以来,関連法制度の整備,諸基準の策定,再資源化施設の立地等により,建設廃棄物のリサイクルも一定の成果をあげてきている。
しかしながら,特定の建設廃棄物等においては種々の問題からリサイクル率が低迷している状況にある。
このような中,建設副産物の現状と課題をとおし,新たな取り組みの在り方を検討するために,平成8年11月には,建設省と建設業界(建設八団体廃棄物対策連絡会)は共同で,建設リサイクル推進懇談会において「建設リサイクル推進の在り方について」3)提言を取りまとめた。平成9年4月には,平成7年度「建設副産物実態調査」2)結果が公表されている。その内容について一部抜粋し紹介するものである。
1 はじめに
1992年6月に開催された国連環境開発会議(地球サミット)以来,地球環境問題に対する取り組みが世界的規模で進められている。我が国においても「環境基本法」の制定,「環境基本計画」の策定等「資源循環型社会」の構築に向けての枠組みが整備されてきた。建設分野においても,環境を建設行政の内部目的化するとした「環境政策大綱」が策定されている。また,産業界においては,経団連が「地球環境憲章」および「環境アピール」を発表するとともに,品質管理に続く環境に関する国際規格であるISO14001の発行に伴い自立的な環境への取り組みを行おうとする気運が高まっている。
このような中で建設産業界においても,建設副産物対策は環境への取り組みが重要な位置づけとなってきている。
2 建設副産物対策行動計画(リサイクルプラン21)1)
リサイクルプラン21とは,建設副産物に関する各種取り組みを再構築し,工事発注者,工事請負企業および処理会社が一体となって建設副産物対策を総合的に推進するため,リサイクルの目標値の設定および具体的な方策の提案等について,平成6年4月に策定された。この計画は西暦2000年を目標とし,建設省地方建設局,北海道開発局,沖縄総合事務局,関係公団,事業団,地方公共団体や建設業団体などから構成される各地方ごとの建設副産物対策連絡協議会において策定されている(表ー1)。
リサイクルプラン21の内容は,建設副産物に対し
① 設計の工夫等による徹底した発生の抑制
② 工事間の情報交換等による最大限のリサイクル推進
③ 再利用が困難な廃棄物に対する適正処理の推進
④ 積極的な技術開発の推進
について具体的な方策を取りまとめたものである。
リサイクルプラン21の目標は,建設廃棄物に対し,将来的には一部の再利用が困難なものを除き,処分量をほぼ0にすることを目指し,当面西暦2000年までに処分量を半減させるため,予測される発生量に対して10%弱の発生抑制を行うとともに,再利用率等を42%から80%にアップする計画としている。建設発生土に対しては,将来的には山砂の使用を極力減らし,当面西暦2000年までに公共系工事での利用率を36%から70%にアップする計画としている。
リサイクルプラン21の目標を達成するために,5年毎の建設副産物の実態調査および補足調査等を行い進捗状況をフォローし,必要に応じて計画内容の修正や追加を実施することとしている。
3 産業廃棄物の現状
産業廃棄物の排出量は,厚生省の調査によれば,昭和60年度の約3.1億トンから平成5年度には約4億トンヘ増大している。一方,そのリサイクル率は40%前後で頭打ちの状況となっており,最終処分量も増加している。
このような状況のなかで,産業廃棄物の最終処分場は,その残容量が逼迫しており,最終処分量との対比では最終処分場残容量は約2.3年分,首都圏で見れば約0.8年分となっているともいわれている。さらに,最終処分場の新規立地が困難となっており,近年,最終処分場の新規立地数は減少傾向にあり,新設数がこのままの状況で推移すれば最終処分量を一定に保ったと仮定しても2010年頃には残余容量がゼロになるという推計もある。
このようなことから,不法投棄の不適正処理が多く発生している。産業廃棄物の不法投棄は,平成7年度251件,133万トンとなっており依然として跡を絶たず,住民の産業廃棄物に対する不信感を生じさせる大きな要因となっている。
建設廃棄物は,その排出量が多いことに加えて不法投棄量の90%を占めているといわれており,建設事業の関係者は不法投棄を起こさない産業システムを構築することが課題となっている。
4 建設副産物の現状2)
(1)建設副産物の定義
建設工事に伴い副次的に得られる物品を建設副産物という。その構成は図ー2のようであり,建設廃棄物と建設発生土が主体となっている建設副産物は,有害なものは少なくそのほとんどが安全で,その多くは再生資材として再利用可能なものである。
(2)建設廃棄物の現状
建設廃棄物の搬出量は,平成7年度で9,900万トンであり,阪神・淡路大霰災の影響により平成2年度より30%,2,300万トン増加した。一方,厚生省調査によると,建設業の産業廃棄物排出量は,平成5年度で全産業の21%を占め業種別では最も多くなっている。
平成7年度の建設廃棄物搬出量を品目別で見ると,コンクリート塊,アスファルト・コンクリー卜塊,建設汚泥,建設混合廃棄物,建設発生木材の順となっている。このうち,アスファルト・コンクリート塊,建設汚泥については,公共工事,それ以外は民間工事からの発生量が多い。
また,全体の63%は土木工事,15%は建築物の新築・改築工事,22%は建築物の解体工事から発生している。建設廃棄物の再利用・減量化率(リサイクル率)は,58%と産業廃棄物全体の79%(平成5年度,厚生省調査)に比較して低い。
(3)建設発生土の現状
建設発生土の搬出量は,平成7年度で4.4億m3と関西国際空港埋め立て最の2.5倍に相当する膨大な量となっており,平成2年度から18%,7,100万m3増加している。建設発生土の搬出量の約90%は,公共土木工事から搬出されている。
建設発生土は,本来,宅地造成工事等の盛土材等の建設資材として利用できるものであるが,平成7年度で見ると搬出量の約80%が内陸部の山砂・砂利等採取跡地や谷地の埋め立て等の「内陸部受入地等」に搬出されており,土質改良したものを含め内陸部の公共工事等で建設資材として利用されているのは15%にすぎない。
一方,建設資材としての土砂利用量は,平成2年度より400万m3減少し約2億m3となっているが,そのうち山砂等新材の使用量は平成2年度より増加し約1.4億m3となっている。このように,建設資材として利用可能な建設発生土を大量に「内陸部受入地等」に搬出する一方で大量に山砂等を採取しているのが実態である。
5 建設リサイクル推進の在り方3)
提言が取りまとめられた背景としては,建設副産物対策について,2000年を目標年次とするリサイクルプラン21を策定するなどの取り組みにより,一定の成果を上げてきたが,建設副産物の現状と課題をとおし,具体的な行動指針として,建設副産物への新たな取り組みの在り方を検討するために,平成8年8月「建設リサイクル推進懇談会」を設立し,この度,提言が取りまとめられた。
(1)基本的な取り組み姿勢
建設リサイクル低迷の第一の要因は,建設工事に係わる主体の認識の低さ,他人任せの姿勢にある。今後は,それぞれの主体が「自立」して,自らの責任を果たすこととし,この観点に沿って施策を推進する。
また,建設産業は,受注産業,総合組立業でありかつ,現地単品生産という特殊な産業であり,建設リサイクル椎進には,発注者,建設業者,建材業者,廃棄物処理業者等の連携が必要である。
この連携強化に建設産業の側から積極的に取り組み,産業界全体のリサイクル推進や産業廃菓物処理システムの信頼向上の必要がある。
(2)今後の施策の在り方(基本施策の再構築)
①「発生の抑制」については,各事業種別,工事種別毎に数値目標を設定し,ガイドラインを作り自立的な取り組みをおこなう。また,建材業界との連携による建築資材・製品のモジュールの統一化等の推進を図り,関連業界との連携を促す等の具体的な施策を検討していくこととしている。
②「再利用の促進」については,公共工事全体での再生資源利用の徹底を図るため,技術開発や市場開拓のためのリサイクルリーディング事業および大規模再生資源活用事業等を実施し,より積極的な公共工事の取り組みを行っていくこととしている。また,建設混合廃棄物選別設備等リサイクル施設整価への財政的支援や土質改良プラント等の公的整備を推進していくこととしている。
③「適正処理の推進」については,産業廃棄物処理業者への委託契約後も適正処理の実行を確認する等による取り組みを強化するため,マニフェストの溝入,公共事業での処理条件等条件明示の徹底写真管理の実施を検討していくこととしている。また,建設業法による解体業者等の指導強化,建設業者自らの不法投棄監視体制の整備等を検討していくこととしている。
(3)基本施策を支える3つの基盤施策
(イ)「しくみづくり」については,建設工事に係る主体の自立的な取り組みを促すための監視,評価等への公的な関与が必要であり,しくみとして自立的な取り組みが可能となるまでの支援措置,あるいはリサイクル施設等の社会基盤の公的整備が必要である。
(ロ)「技術開発」については,各種施策に対し,これまでも各種の技術開発が進められてきているが,さらなる技術フロンティアを開拓し,ライフサイクルアセスメント(LCA)の確立,既存技術の総合化,情報の高度化,市場形成のコスト分析等を,大学等を加えた幅広い連携の中で推進する必要がある。
(ハ)「理解と参画」については,国民全体が自らの問題として建設リサイクルヘの取り組みに参画する意識を醸成するため,広報活動の充実,わかりやすい目標の設定,教育・研修の充実等を推進する必要がある。
6 おわりに
リサイクル法制定を機に,リサイクルに関する国民の理解を深めるとともにその実施に関する国民の協力を求めるため,平成3年度から毎年10月を「リサイクル推進月間」とし,広範な普及啓発活動を行うとともに,建設副産物リサイクル推進広報会議より「現場での実効ある推進のために」と題し「総合的建設副産物対策」1)のパンフレットを毎年作成している。九州地方建設副産物対策連絡協議会においては,「建設副産物のリサイクルに向けて(1問1答)」4)を発行している。これらの資料をもとに建設副産物対策のより積極的な推進を願うものである。
また,今後も「建設リサイクル推進の在り方について」3)提言の主旨をふまえ,建設副産物の適正処理の徹底および再利用の推進をより一層図るために,発注者および建設業界等が一体となって取り組んでいく必要がある。
参考文献
1)建設副産物リサイクル広報推進会議:「総合的建設副産物対策」,平成8年度
2)建設省建設経済局事業調整官室:「平成7年度建設副産物実態調査結果」公表資料,平成9年4月
3)建設副産物リサイクル広報推進会議:「建設リサイクル推進懇談会提言」,平成8年12月
4)九州地方建設副産物対策連絡協議会:「建設副産物のリサイクルに向けて(1問1答)」平成7年10月