建築模型のすすめ~大分県立美術館の設計と施工にあたって~
桑田一敏
キーワード:開かれた美術館、大型水平折戸、モックアップ、模型
大分県立美術館は、平成27 年春の開館を目指し現在工事が進められています。完成後は各種刊行物等で紹介されると思いますので、今回は設計や施工時における模型製作等を通して、美術館の特徴を紹介したいと思います。
○世界初の大型水平折戸
「 開かれた美術館」を目指している本美術館は、1 階に間仕切り自由な展示スペースを備え、アトリウムと一体となり様々な企画に対応できる機能を持つことが最大の特徴です。その機能やコンセプトを具現化するものが、南側の国道に面するガラスの扉「水平折戸」です。この折戸は、スイッチ1 つで床から高さ6 メートルまで大きく開きます。この扉が14 枚連続しており、すべてを開放すれば長さ80 メートルにわたり大きく開き、外部空間とつながります。
この規模でこの開閉機構を備えたものは、現段階で国内外に存在していないため、設計及び施工にあたっては、全体模型、部分模型、施工時におけるモックアップによる開閉実験により、見え方及び開閉がうまくいくかなどのシミュレーションを行っています。これらの模型と試験の状況を写真で紹介します。
完成模型や、完成予想図(パース)については一般の新築工事などで公共、民間工事を問わずよく目にするのではないかと思いますが、スタディ模型や実物大模型(モックアップ)などは、設計や施工の過程にて製作され、その目的が「検証」であるため、完成したものと異なることも多く、建物完成後は一般の方の目に触れることは殆どありません。
建築物は一般にオーダーメイドの構造物ですが、様々な部品で構成される製品の集合体でもあります。そういう意味では自動車などの工業製品と同様ですが、その大きさ故に、完成をイメージできる方法は限られます。また、一度きりのものや初の試みの場合は、模型を造ったり工場や現場内でモックアップをしたりしていろんな角度からシミュレーションを行い、全体や部分のイメージ、施工性などを予め検証します。
○竹細工をイメージ
さて、水平折戸の上部には、この建物の外観を特徴付ける木の格子があります。これは、大分県の伝統工芸である竹細工をイメージしたものです。この格子についても、大きさの異なる数種類の模型と現場内でのモックアップにより、木の組み方、施工手順、納まり等について検証がなされています。
このような特徴を持つ美術館ですが、全体像として上の写真のように変遷し、最終案に至っています。最終案を含めてスタディ模型であるため、実物はさらなる進化を遂げる見込みです。周辺の建物や道路を含めたボリューム模型や完成イメージに近い1 / 100 スケールの模型まで、それぞれの目的に応じたシミュレーションを行い、どう見えるか、どう造るかなどの検証がつづいています。
○デッキも格子組み
大分県立美術館は、県都大分市の中心部に位置し、JR 大分駅から700 メートル程度の交通利便性のよい場所に建つことから、商店街や中心市街地の活性化に期待されています。国道を挟んで南側には、県立複合文化施設である「オアシスプラザ21」があり、そのアトリウム2 階と美術館2階がペデストリアンデッキにより結ばれ、駅からの主要なアクセス通路となります。デッキ桁部分には全長60 メートルの鉄骨トラス構造を採用し、美術館外壁の連続性から本体と同様に竹を編んだようなデザインを取り入れています。
このデッキについても、全体模型、美術館との接続部の部分模型、オアシスプラザ21 の外観と合成したCG によるシミュレーションを行いながら設計が進められました。
○建物は来年秋に完成
建築現場では、このほか各部の色合い、照明器具や防火防災設備の見え方など、細かな検討が行われ工事が進められています。
建築物としての完成は、平成26 年秋を予定しており、現場を取り囲むパネルが外されれば、大分市中心部の一角に、長大な格子組みが出現します。そしてオープン後には多くの人が国内外から訪れ、芸術文化を発信する象徴的な建築物となることを期待しています。
最後に、今回の執筆にあたり貴重な設計段階の資料を提供してくださいました㈱坂茂建築設計の皆様及び現場でのモックアップ作業の中協力くださいました鹿島建設梅林建設建設工事共同企業体の皆様に感謝申し上げます。
(建物概要)
名 称 大分県立美術館
設計・監理 ㈱坂茂建築設計
構造・規模 鉄骨造一部鉄筋コンクリート造
地下1階 地上4階建、塔屋1 階
延床面積 約16,700㎡
工 事 費 約 8,000 百万円