平成15年7月豪雨災害を繰り返さないために
宇美川災害復旧事業の紹介
宇美川災害復旧事業の紹介
福岡県 福岡土木事務所
災害事業室 主任技師
災害事業室 主任技師
北 原 琢 馬
福岡県 福岡土木事務所
災害事業室 主任技師
災害事業室 主任技師
下 川 修
福岡県 福岡土木事務所
災害事業室 主任技師
災害事業室 主任技師
古 賀 成 善
1 河川概要
多々良川の主要支川である宇美川は、その源を福岡県糟屋郡宇美町の三郡山に発し、井野川・坂瀬川・吉塚新川・綿打川・須恵川を合わせ福岡市東区で多々良川に合流する流域面積71.6km2幹川流路延長20.0kmの河川です。流域の山地部は地形が急峻であり、自然が多く存在します。平地部においては、福岡市の活動圏での人口増加・開発が急速に進んだため、宇美川の河川改修は大幅に遅れて、近年の出水で度々氾濫しており、その対策が望まれていました。近年30ヶ年においては、昭和48年、54年、55年、58年、平成11年に大水害に見舞われました。
2 被災概要
平成15年7月18日から19日にかけて、活発化した梅雨前線の影響により、非常に狭い範囲で猛烈な雨が長時間降り続きました。宇美川上流域に位置する三郡山では時間雨量101mmを記録する等40mm以上の激しい雨が4時間降り続きました。この集中豪雨により宇美川流域での氾濫面積は約201haにおよび、床上浸水670戸・床下浸水1,469戸の家屋等が浸水する甚大な被害を受けました。宇美川の主な被災原因としては、被災流量に対し河道断面が不足していたことによる溢水、堤防の土羽部の浸食による護岸の崩壊、固定堰および橋梁といった構造物による断面阻害が考えられました。
一方、上流部で発生した土石流については、砂防ダムにより下流への影響を大きく軽減することができました。しかし、土砂崩れにより多量の流木および土砂流出で河川断面を阻害した事についても、被災原因の一つとして挙げられます。
このことから、本河川においては砂防事業および河川事業が一体となった改修が必要となりました。
3 事業概要
宇美川においては、平成15年7月19日豪雨による被災箇所のみ原形復旧を行っても、河川の蛇行や河積不足などの被災要因が残り、再度災害が発生する可能性があります。そこで、災害復旧助成事業により、平成15年7月19日と同程度の豪雨が発生した場合でも再度の氾濫を防止する為に、一定の計画に基づき河川法線是正や河床掘削築堤、堰改築を行い、災害に強い安全な川づくりを行いました。
併せて、宇美川の上流部を助成事業により改良した場合、下流部への流量増加が生じる為、下流部は河川災害復旧等関連緊急事業で河床掘削や橋梁架け替え等の改修を行いました。
環境面において、多々良川と宇美川合流部付近の干潟には、希少種の底生動物(ハクセンシオマネキ)や鳥類(クロツラヘラサギ)等の生物が確認され、重要な生育・生息場所となっていることから、工事の影響を出来る限り、回避・軽減するよう、環境に配慮した掘削を行っています。また、植物においても、ハマサジやフクド等の希少種やヨシ群落も繁殖しており、生物の生活の場として利用されているだけではなく、ヨシの根元に付着する微生物の有機物分解や、ヨシの栄養塩吸収により水質浄化にも役立っています。よって、植物についても工事が影響するエリアは、ミチゲーションにより環境保全を図っています。
宇美川流域の渓流ではまだ多量の土砂が不安定な状態で堆積しており、今後の降雨により流出する恐れもあることから、災害関連緊急砂防事業、砂防激甚災害対策特別緊急事業で砂防ダム(重力式コンクリートダム・鋼製スリットダム)の整備を行いました。
4 堰改築について
宇美川の事業の中でも、新しい構造を取り入れた堰改築について紹介します。宇美川の中流部については、都市化が進んでいる事から、灌漑面積が少なくなっていると考えられました。そこで、堰の改築を行うにあたり、堰の取水量・水系図・灌漑(取水)期、灌漑面積等を詳細に調査したところ灌漑面積が小さいため他の堰からの取水で補っている。また現在取水していない堰もあった為、統廃合により3基の堰を撤去し、9基の改築を行っています。
堰の種類は、改築前では鋼製堰とゴム堰でありました。今回宇美川では、スチール(S)とラバー(R)による合成起伏堰(SR堰)を改築9基の内8基施工しています。
SR堰と従来の鋼製堰、ゴム堰との比較をすると概算工事費で、鋼製堰>SR堰>ゴム堰となります(表-1参照)。SR堰は、確実な水位制御ができ、また扉体やゴムは2m~4mで分割施工が可能で、据付・運搬費が最も安価であり、転石対策としても扉体が鋼製のため問題ありません。維持管理費としても扉体はSUS製なので塗装塗り替えが不要です。ゴム堰は、工事費で一番安価ですが、ゴム堰では確実な水位制御ができません。ゴム堰は越流すると、水が袋体の局部に集中し、水位制御が困難(Vノッチ現象)になります。また、堰の位置が上流から中流に位置しており、転石や流木が多い事から耐久性も劣ります。鋼製堰は工事費が最も高価で、扉体の定期的な塗装が必要となるため、維持管理費も高価となります。
住民から以前の災害についてヒアリングを行うと、流木や大きい転石が大量に上流から流れてきたとの事でした。改修計画について、役場や農区からはゴム堰ではなく、耐久性のある鋼製での改築の要望や、灌漑期で雨が降らなければ、ほとんど河川内に水がなくなるため、堰を起立させた時に水が漏水しないようにしてほしいとの要望もありました。
以上のことから、堰の工事費・維持管理費・確実な水位制御・耐久性等総合的に比較した結果、SR堰を採用しました。
5 おわりに
上記で述べているとおり、宇美川の被災は、流木や土砂が流出し、河道断面を阻害した事も原因の一つとなっています。今回の災害対策事業として、砂防事業と河川事業が一体となった整備を行えたのは一つの成果でありました。
平成19年度で事業は完了しますが、流砂系での土砂管理を踏まえ、今後の河道の堆砂状況や環境面のモニタリングを継続して行う事が必要だと考えています。