平成6年度技術開発諸制度の課題について
―特定技術活用パイロット事業・試験フィールド制度―
―特定技術活用パイロット事業・試験フィールド制度―
建設省九州地方建設局企画部
技術管理課長補佐
技術管理課長補佐
高 崎 寿 男
1 パイロット事業について
質の高い住宅・社会資本整備を効率的に進めていくためには,民間を含めた技術開発の推進と併せて,開発された新技術の現場への積極的な導入を図る必要がある。
このため,新技術の現場への適用性を検証することを目的に,昭和62年度から各地方建設局単位で新技術・新工法を直轄事業で活用する「技術活用パイロット事業」を実施しており,平成4年度までに全地建544技術を終了している。
平成2年度には,早急に普及を図ることが望まれる新技術・新工法を全国的に直轄事業で活用する「特定技術活用パイロット事業(官提案型)」を創設し,平成4年度まで12技術を実施した。
更に,平成4年度には,行政ニーズに基づく技術活用テーマに沿った技術提案を民間から広く公募し,応募された民間新技術のうち審査・証明されたものについて,「特定技術活用パイロット事業(民提案型)」として活用しており,平成4年度に6技術,平成5年度には4技術の公募を行った。また,前述の特定技術活用パイロット事業は,完成度の高い新技術(他事業での施工性・安全性等が確認されている技術)を対象としているため実験室レベルで技術の有効性等が確認されているだけでは,その技術を積極的に直轄事業で試行していくことは困難であった。そこで,将来に向けて行政ニーズが高く(技術の確立によって行政上の問題が解消される),現場での技術的検証を通じて完成度を高める必要のある技術を対象に,実際の現場において試験フィールド(新技術の実施工現場)を設定し,実大構造物を建設して各種試験等を実施する「試験フィールド制度」を創設した。九州地方建設局においては,「雲仙における無人化施工」と「胴込めコンクリートを不要とした大型コンクリートブロック」の2課題について試行した。
これら技術開発に関する課題等は,本省に設けられる「建設技術協議会(会長:建設技監)」により討議,決定される。今回の「地建だより」は4月下旬に開催された建設技術協議会において,平成6年度の技術開発諸事業および制度の課題が決定承認されたので,特に「特定技術活用パイロット事業」と「試験フィールド事業」の新規課題について紹介する。
2 特定技術活用パイロット事業
特定技術活用パイロット事業は,全地建が同一の技術テーマを直轄事業で活用し,施工時に実施する歩掛調査や,施工後の追跡調査の結果によって,直轄事業への適用性や適用するための歩掛および各種技術基準等を整備するものである。また,図ー1に示すとおり,官主体で開発した技術を対象とする「官提案型」と,民主体で開発した技術を対象とする「民提案型」の2種に分けられる。
(1)平成6年度 新規課題
総合技術開発プロジェクトや各地方建設局による共同開発等により開発されたもので,「官提案型」として新たに9テーマが新規課題として承認された。
① トンネル覆工厚および覆工背面空洞探査技術
NATM工法以前のいわゆる従来工法で作られたトンネルは,長い間の湧水や地山の劣化等によって覆工背面に空洞が生じる場合がある。この空洞はボーリング調査等によって確認する必要があるが,手間と時間を要する。そこで,在来工法により建設されたトンネルにおいて,供用下で大幅な交通規制を行わず経済的に覆工厚および覆工背面の空洞の有無を測定するため,電磁波を対象物に放射し,その反射波を計測・解析することにより対象物の内部構造および背面状況を知るものである。
② 散乱型RI計器を用いた盛土の品質管理技術
盛土の品質管理試験(締固め管理)は,砂等によって置き換える方法がこれまでの標準試験法である。しかし,この試験法は結果を得るまでに時間がかかり,試験の殆どが人間によるため誤差が多くみられる。そこで,ラジオ・アイソトープを用いた計器により,乾燥密度および含水比を計測するものである。また,表面透過型RI計器とは異なり,盛土地盤に穴をあける必要がない。
③ ロボットアスファルトフィニッシャによる舗装技術
アスファルト舗装工はmm単位の仕上がり精度を要求されることから,熟練工や多くの補助労力を必要としているが,近年の労働者不足により品質の維持・向上や省力化による生産性の向上が早急な課題となっている。そこで,アスファルト舗装工の省人化,品質の向上を目的とし,各種操作を自動化したロボットアスファルトフィニッシャが開発された。これにより,従来熟練工2名を要した操作は,熟練度を必要としないワンマン操作が可能になり,安定した敷き均し精度が向上したため,レーキ・スコップ等の周辺作業量も大幅に減少する。
④ 玉石ブロックによる型枠パネル工法
近年,建設労働者不足となっており,特に型枠・鉄筋・鳶工等の技能者不足および高齢化が深刻化している。砂防ダム工事現場においても型枠大工不足と作業員の高齢化に伴う作業能率の低下等が問題となっている。このため型枠の機能を有した大型ブロックによる型枠パネル工法を開発し,施工現場の合理化・省人化を図るものである。
⑤ 切土法面の大型枠ブロックによる植栽工法
道路などの切土法面の対策工法は人力作業で,高所作業が多く,危険を伴うため,安全な工法の開発が求められている。また,従来の工法はコンクリート吹付けや法枠工などの自然景観と調和しない施工法が中心であった。このため,大型法枠ブロックを改良し,中詰めに植栽ポーラスコンクリートや厚層マット工等を予め装備して,人力による高所作業を省き安全な緑化工法を開発したこの技術は,大型枠法ブロック(6m2)を基本にしているためクレーンによる機械化施工が中心である。
⑥ 騒音低減効果の高い遮音壁
道路交通騒音対策の一つとして遮音壁があるがその設備やかさ上げに対しては沿道利用上や道路構造上の制約,日照や景観の制約等の課題が生じる場合がある。そこで,既存の遮音壁に対し,その先端を改良すること等により,同じ高さの従来の遮音壁と比べ,より大きな減音量を得ることができる。
⑦ 美観・耐久性に優れた型枠技術
型枠脱型を不要にすることにより作業の省人化を図るとともに,新素材を用いることにより,耐久性の向上を図るものである。
活用する技術は,運搬・組立が容易で,必要に応じ加工が可能であり,コンクリート打設時の側圧に耐える十分な強度と剛性を有している。また,打設されたコンクリートと一体化するとともに,腐食・凍結融解・摩擦・化学作用に対して耐久的であり,表面の美観も改善されている。
⑧ 耐久性に優れたグランドアンカー技術
既存の永久アンカーは,その機能を保つため,二重防食構造となっているが,これに代わり,これまでの防食構造に頼らず,引張材そのものを腐食しない新素材(炭素繊維等)を用いることで,更に耐久性・信頼性を向上するものである。
⑨ 改修に適したアスファルト防水(営繕)
営繕事業で整備してきた良質な社会資本ストックについては,今後そのフォローアップとして,それらをいかに保全,補修していくかが重要なテーマである。施設の屋根防水改修工事においても施設を使用しながら,周辺景観を保ち,安全でかつ効率的に施工できることが要求される。そこで居住者および近隣に対しての安全性が確保され,騒音・振動等の影響が少なく工期の短い,改質アスファルトフィングシートを用いることにより,作業の合理化も図られる。
(2)平成6年度 継続課題
前年度からの継続テーマとして,表ー1のとおり,15テーマが課題として承認された。
更に,「民提案型」として表ー2の5テーマが公募課題として承認された。なお,これら公募課題は,平成6年度に公募および応募技術の審査証明を行い,審査証明を取得し,平成7年度から活用する。
3 試験フィールド事業
試験フィールド事業とは,地方建設局が以下の条件を満たす新技術・新工法を試行し,その現場適応性,効率性,安全性,経済性等を検証するために行うものである。
① 建設省単独・官民共同・民間単独により開発された技術
② 将来に向けて事業執行上のニーズの高い技術
③ 開発が進み現場での検証実験が残されている開発段階の技術
また,試験フィールド事業のうち本省の建設技術協議会において特定された,事業執行上のニーズが高い技術を「特定試験フィールド事業」として行う。なお,これら試験フィールド事業には特定技術活用パイロット事業と同様に,活用技術の経緯により「官提案型」と「民提案型」の2種がある。これら事業のフローを図ー2に示す。
(1)平成6年度 課題
① 繊維混合土を用いた補強土工法の開発
建設副産物として大量に発生する建設発生土を有効利用するために,建設発生土に短繊維を混合し,高付加価値化することによって,道路においては,路床の安定や法面のエロージョン防止を図り,河川においては河床の洗掘やバイピング等の防止を図るとともに,植生の促進による多自然型の護岸を形成する。
② 袋詰脱水工法による高含水比粘性土の有効利用
環境浄化対策として,河川・湖沼等に堆積している粘性土を浚渫して除去することが多いが,その際に問題になるのが浚渫した粘性土の処分である。そこで,高含水比状態にある浚渫土を対象にして透水性のある袋に注入して脱水し,それらを積み重ねることによって直接堤体や道路盛土として利用するものである。
③ 流動化処理土を用いた基礎工法
建設事業の進捗に伴い建設残土の量は年々増大する一方,その処分地は少なくなってきていることから,建設発生土の再利用の促進が重要な課題となっている。そこで,建設発生土に固化材と比較的多量の水を加えて混合することにより,流動性および硬化性を持った安定処理土となる。これを地下埋設物の基礎および周辺の埋め戻しに用いることで建設発生土の有効利用を図るとともに,埋め戻し作業における締固め作業等の省略を図る。
④ 発砲ビーズ混合軽量土を用いた軽量盛土
前述と同様に,建設発生土の有効利用を促進するもので,土に超軽量な発砲ビーズ(発砲スチロール,発砲ポリプロピレン等)を混合して,土を軽量化することによって,軟弱地盤及び不同沈下箇所での盛土や擁壁・橋台の裏込め等に活用できる。
⑤ 建設汚泥の高度処理技術
建設工事に伴って発生するベントナイト泥水や含水比の高い粒子の微細な泥状の「建設汚泥」は産業廃棄物として処分されている。しかし,建設汚泥はもともと天然の土であり,殆どの場合有害物質を含まない安全なものである。そこで,高含水比の建設汚泥を機械的または固化材等によって盛土材等に利用するものである。
⑥ コンクリート副産物の利用技術
コンクリート副産物は年間2,000~3,000万tが発生しており,今後とも増加することが予想される。これに対して処理場は既に逼迫しており,その一方で骨材資源の枯渇がさけばれている。そこで,コンクリート殻を処理(破砕・分類)することにより,コンクリート骨材・構造物の裏込めおよび埋め戻し材・土質改良材・路盤材・一般盛土材等への有効利用を図る。
⑦ プレキャスト型枠部材を利用した施工技術
部材厚1.0m以上の大型コンクリート構造物の建設において,従来の型枠工の代わりに,主鉄筋を含んだプレキャストコンクリート版を接合し型枠化した上で二次コンクリートを打設,一体化するものである。これにより,従来二次製品化が困難であった場所打ちコンクリートによる大型構造物(橋脚,擁壁,ボックスカルバート等)の施工がプレハブ化される。
⑧ 大型コンクリートニ次製品を利用した施工技術
場所打ちで施工されている逆T等の鉄筋コンクリート造擁壁,大型ボックスカルバート構造物について,延長(長手)方向および断面方向に分割しプレキャスト構造とするもので,これらのプレキャスト部材を大型の施工機械を用いて据え付け,組み立てて構造物を構築することによって,施工現場の省人化・合理化を図るものである。
⑨ PCウェル工法の自動化
オープンケーソンの謳体は従来は現場打ちコンクリート構造が一般的で,合理化を図るため躯体をプレキャスト化したPCウェル工法があるが,施工現場への運搬等の制約から直径3.5m程度しか適用できなかった。そこで,プレキャスト化したケーソン謳体構築を自動化するために,躯体を小割りのプレキャスト部材同士の継手による接合で構築するとともに,自動堀削・排土装置および自動沈下管理システムの開発により,施工現場の省人化を図る。
⑩ ニューマチックケーソンの施工自動化技術
ニューマチックケーソンの掘削土の排除は,作業員による土砂バケットの取り替え等の作業が必要となっているため,深度が深くなると作業員は高気圧下にさらされ,長時間作業が出来なくなり作業効率も低下する。そこで,函内の掘削土砂を自動的に揚土し,函内の高気圧状態を下げることなく大気圧下へ排土する機械により,これら問題を解決するものである。
⑪ コンクリート構造物の施工合理化技術
現場打ち方式のコンクリート構造物は経済的に優れ,かつ現場条件に応じた柔軟な施工ができる反面,その構築までには鉄筋の加工・組立,型枠の製作・設置・脱型およびコンクリートの打設・締固め・養生など多くの工程が必要であり,その殆どが苦渋作業でかつ熟練工による人力作業である。そこで,現場作業の簡素化として,施工性を考慮した鉄筋仕様やユニット化を行うとともに,自動化・機械化導入のために環境整備として,形状の単純化,配筋の標準化,形状寸法の規格化を図ったり,コンクリートの打ち込み,締め固めの合理化として,高流動(締固め不要)コンクリートの活用を図る。
⑫ 急深海岸における突堤施工技術
近年,海岸における土砂の供給源となっている河川の治山治水対策の進展により,海岸浸食が激しくなっている。そこで,漂砂補足機能を確保した不透過構造物により,急深勾配の海岸保全を図るものである。
⑬ 緑化空間創出のための基礎技術
近年,花と緑豊かな潤いのある国土形成が求められているが,急激な都市化の進展,地価の高騰等に伴い,緑化空間を確保することが困難になりつつある。そこで,道路高架上や屋上等においては緑化樹木と,灌水装置を備えた植栽桝を一体化した技術により,植栽基盤の確保できない空間の緑化を行う。
⑭ 道路トンネルのカウンタービーム照明技術
道路トンネルの共用本数・総延長の急激な増加により道路トンネルの換気・照明等にかかる設備費・維持管理費の増大が予想される。そこで,新照明技術であるカウンタビーム照明方式を採用するものである。これは,障害物と背景路面とのコントラストが強調されるため視認性が向上し,一般的な照明方式である対称照明方式に比べて設備費および消費電力が軽減される。これによって,道路トンネルの高速化,坑口部での渋滞・省エネルギー化へ対応するものである。
⑮ 自然法面の野生生物の移植・保存技術
現在,生物の種が加速的に減少している中,国民の生活環境に対する意識が高まり,身近な自然を要求する声が大きくなっている。このような背景の中で,土木構造物の設計・施工においても生物との共存,緑の保全と創造に積極的に取り組むことが重要である。そこで,新たな法面の法覆工(既存表土の利用)施工技術および施工機械で,永い年月をかけて創られた表土を破壊せず,人工的な法面に移植し,生物の生存,植物保全を配慮した法面を施工できる技術である。
⑯ 岩盤掘削面の高木植栽および自然景観創造技術
ダム工事などの長大な岩盤掘削法面の緑化は,法面保護を兼ねたフリーフレーム工法に代表される現場打ち法枠工と厚層客土吹付けによる草本類の緑化が中心であった。また,背後が岩盤であるため施肥などの管理を行わないことによる立ち枯れや,コンクリート吹付枠が異様に目立ったり,周辺植生と調和のとれた修景緑化が困難であった。そこで,掘削面に天然の岩肌をイメージしたコ型状断面の緑化ブロック壁を法面に布設し,その背面に培土を連続して充填して高木の植生を可能にするとともに,間伐材を上下方向に一定間隔に埋込むことにより,培土の圧密を防止し,樹木の成長肥料にするものである。