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平成2年度技術士試験をかえりみて
(建設部門出題傾向と解答例)

日本技術士会九州地方技術士センター
受験対策委員会 専門委員
総     括     矢 野 友 厚
土質および基礎     野 林 輝 生
鋼構造およびコンクリート   是 石 俊 文
河川砂防および海岸   中 島 義 明
道     路     久保田 信 一

平成2年度技術士第2次試験の筆記試験は,昨年8月22日および23日に福岡市ほか7カ所の試験場で実施され,筆記試験合格者に対する面接口頭試駿は昨年12月1日から16日までの間に東京で実施された。技術士試験の指定試験機関である㈳日本技術士会の発表では,2年度の技術士第2次試験の受験申込者総数は13,869名で,5年連続して10,000名の大台を越え,10年前の昭和55年度の,4,799名に対し実に2.9倍弱,合格者総数もまた技術士制度創設以来の最大数1,414名に達したと報じている。(なお,平成3年度の受験申込者総数は14,852名に達し,うち福岡試験場での受験申込者数は1,425名である。)
建設部門の受験申込者総数は8,260名で,このうち筆記試験受験者数は4,674名,最終合格者数は730名で,合格率は筆記試験受験者数に対して15.6%,受験申込者総数に対して8.8%で,国家資格として評価が高まるなか,これまでどおり試験合格は相当に厳しく狭き門であることを示している。我が国の社会資本の一層の充実が要請される中,多くの合格者が生まれるよう期待したい。
同年度の筆記試験ならびに面接口頭試験の試験科目と設問傾向には殆んど変化はなく,具体例をあげてその概要を記述すると次のとおりである。
まず,筆記試験選択科目Ⅰ-1(午前9時~12時の3時間で解答記述)の問題は,受験者がこれまでに体験してきた技術士に相応しい業務をいくつか具体的に示させ,その業務における技術的問題点と,それに対して受験者が採った技術的解決策を具体的に記述させ,その業務の技術的特色を明らかにさせる仕組としている。このⅠ-1の問題は,建設部門の10種類の専門科目の全てにおいて,この10年余,問題設問文章の文言に殆んど変化が見られず,次に示す一例(河川・砂防および海岸Ⅰ-1問題全文)に見られるような設問形式を毎年踏襲し続けている。

選択科目(9-4)河川砂防および海岸  9~12時
Ⅰ-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙5枚以内にまとめよ)
あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について,直接体験した業務のうち,技術士としての業務に最もふさわしいと思われるもの1例を挙げて,下記3項目について述べよ。
 (1) その業務の技術的内容
 (2) あなたが果した役割
 (3) 技術的な評価および今後の課題

次に,筆記試験選択科目Ⅰ-2(午後1時~5時の間に,Ⅱの問題と一緒に出題)の問題は,各選択専門科目ごとに,各専門技術分野における最近の技術動向をふまえ,専門的事項について解答論述させるもので,設問内容は本稿末尾に,土質および基礎,鋼構造およびコンクリート,河川砂防および海岸,道路の4科目についてそれぞれ一例を示したように,比較的各技術分野の基礎的技術にかかわるものが主体となっている。
Ⅰ-2の問題と一緒に出題させる筆記試験必須科目,Ⅱの問題は建設部門全体に共通する事項で例年2題出題し,いずれか一題を解答させる方式で,平成2年度の問題は次のとおりである。

必須問題(9)建設一般  1~5時
Ⅱ 次の2問題のうち1問題を選んで建設部門全体の問題として解答せよ。(茶色の答案用紙を使用し,解答問題番号を明記して4枚以内にまとめよ。)
Ⅱ-1 公共投資の拡大充実が重要課題となっている現状を踏まえ,我が国の均衡ある発展のために,建設部門としてどのように対処すべきか,あなたの意見を述べよ。
Ⅱ-2 建設工事における効率性,安全性を高める観点から求められる技術開発テーマおよびそれを促進するための方策について,あなたの意見を述べよ。

以上のⅠ-1,Ⅰ-2,Ⅱの3科目の問題のうち,Ⅰ-1は前述のとおり問題設問文章が事実上固定化されているので,予定答案をあらかじめ作成し,完全に丸暗記して試験にのぞむことが可能であり,3時間の解答時間で制限文字数一杯の解答を書くのが普通である。しかし,Ⅰ-2およびⅡの午後からの科目問題に対しては,受験者自身の筆記速度を考慮し,各問題に対しバランスのとれた時間配分を行うことが肝要で,本稿末尾の解答例に付記しているような留意が必要である。
筆記試験合格者に対して行われる面接口頭試験における設問事項にも,これまでと異なった傾向は殆んど認められず,平成2年度試験においても設問項目は次の3項目に分類要約できるようである。
Ⅰ 受験者の技術的体験を主眼とする経歴の内容と応用能力を問う。
Ⅱ 必須科目および選択科目に関する,技術士として必要な専門知識と見識を問う。
Ⅲ 技術士としての適格性および一般的知識を問う。
以上が平成2年度技術士試験の概要と出題傾向であるが,以下に同年度筆記試験選択科目の4問題を選定し,当受験対策委員会の技術士に解答の執筆をもとめ,模範解答例として参考のため例示する。
当技術士センター受験対策委員会は,例年,技術士試験受験者のための総合受験対策講座を継続的に実施し,九州地域受験者の受験対策に役立ってきており,技術士資格取得を目ざす技術者は気軽に当センターに相談されるようお奨めする。

土質および基礎  平成2年Ⅰ-2-13(C)
下図に示すように,既設建屋(直接基礎)に近接して,道路盛土を建設する計画がある。以下の設問に答えよ。
 (1) 盛土建設に係わる問題点とその対策について述べよ。
 (2) 安全施工のための計測管理を実施する場合の留意点を述べよ。

1 盛土施工に係わる問題点とその対策
(1) 図ー1に示すように,腐植土層(N=0,GL-2~5m)を有する基礎地盤上に盛土施工(盛土高4.5m)を実施する場合,盛土施工に伴う上載荷重によって,①側方流動による周辺地盤の変位。②盛土の沈下および滑り破壊等の問題点が挙げられる。このため盛土に近接する既設建屋(直接基礎)等は基礎地盤の不同沈下によって大きな被害を被ることが考えられることから,盛土施工を実施するにあたり充分な対策を検討する必要がある。対策として,腐植土層を良質材と置き換える除去置換工法や,中間砂層(N=10~15,GL-5~-9m)を限度とするサンドドレーン工法等の地盤改良工法の採用が考えられる。
(2) 当該基礎地盤中にシルト層(N=0~2,GL-9~-25m)が存在することから,施工盛土に伴う上載荷重による盛土および周辺地盤の長期にわたる圧密沈下の問題点が挙げられる。このため盛土に近接する既設建屋(直接基礎)等は,長期にわたる地盤沈下によって大きな被害を被ることが考えられる。対策として,既設建屋基礎地盤を盛土荷重による圧密沈下から遮断するために,地盤改良・矢板等による応力遮断壁の設置を行う必要がある。
(3) 腐植土層は一般に,植物の遺体が低温多湿条件の下で多年にわたり分解不充分のまま堆積したものであり,含水比が高く一軸圧縮強度が極端に低いことから,盛土施工時における地盤振動は不可避である。このため盛土に近接する既設建屋等は,地盤振動によって大きな被害を被ることが考えられる。対策として既設建屋基礎地盤を施工時盛土地盤の地盤振動から遮断するために,既設建屋基礎地盤周囲に溝や矢板による地中防震壁等を設置することが必要である。

2 対策を実施する場合の調査・設計・施工上の留意点
(1) 地盤改良工法を検討する際,当該基礎地盤における腐植土層の物理的性質および層厚等について詳細な調査を実施すると共に,近接する既設建屋の構造並びに重要度等についても調査を実施して,既設建屋の防護計画および移転の可否について検討すべきである。
(2) 対策としての地盤改良工法には,除去置換工法とサンドドレーン工法とが考えられる。当該基礎地盤における腐植土層厚は3mと比較的薄いことから,施工場所に近接した適当な土捨場の確保および良質材の入手等が容易な場合,除去置換工法は非常に有利な工法といえる。しかしながら,施工場所に近接して既設建屋が存在することから置換掘削に伴う既設建屋基礎地盤の変位について充分な検討が不可欠である。サンドドレーン工法は,従来軟弱層中に砂柱を打設して排水距離を短縮し圧密沈下を促進させる工法であるが,腐植土層に設置した場合においては圧密速度は無処理地盤とあまり変化がなく,圧密促進効果は期待できないことから,所謂置換工法として検討することが望ましい。
(3) 当該基礎地盤上で盛土施工を実施する場合既設建屋をも含めた基礎地盤の沈下・地表面変位・間隙水圧等の管理計測を実施しで情報化施工を行うことは不可欠である。特に中間砂層以下にシルト層が存在することから,盛土施工期間を通じて中長期にわたる圧密沈下が考えられる。このためシルト層の圧密沈下量を詳細に評価し,これが既設建屋基礎の許容沈下量を越える場合,既設建屋の重要度に応じて盛土との間に薬液注入等による遮断壁の設置を検討する必要がある。この工法を実施する上での留意点として,注入範囲およびグラウト材の選定並びに地盤汚染に関する検討が挙げられる。特に井戸水の水質汚染に関する検討は不可欠である。

鋼構造およびコンクリート  Ⅰ-2-10(C)
普通ポルトランドセメントを使用して高品質のコンクリートを製造する上で,骨材および混和材料の選定並びに使用上の留意点を述べよ。(800字詰2枚以内)

1 骨材
(1) 堅硬で有害物質を含まないものでなければならない。堅硬の程度については,比重および吸水率試験その他必要な試験を行って判断しなければならない。一般に比重が2.5未満,吸水率が3%を越える粗骨材には不適格なものが多い。
有害物質としては粘土塊や洗い試験で失われるものなどの限度が規定されているので,限度以下のものを用いるようにする。
(2) 粒度は細骨材において特に重要で,学会規準等の標準粒度範囲にあり,粗粒率が2.3~3.1の間にあるものを用いることが望ましい。
(3) 耐凍害性を考慮する必要がある場合は,硫酸ナトリウムによる安定性試験を行い,損失重量が規定限度以下である骨材を用いることが望ましい。規定限度を超えるときは,これと同じ産地で同じような骨材を用いた同程度のコンクリートが,予期される気象作用に対して満足な耐凍害性を示した実例があれば使用して差支えない。
(4) 海砂を使用する場合は,含有塩化物量について関連学協会等の基準を参考にし,使用される構造物に関する諸条件を総合的に判断して,許容限度内であるか否かを判断しなければならない。許容限度を超える場合は水洗い等により許容限度以下として使用するか,防錆剤の使用などの措置を講じなければならない。
(5) 化学的安定性に関してはアルカリ骨材反応がある。この反応を起こしやすい鉱物を含む岩石は,安山岩,頁岩,砂岩,その他種類が多い。
したがって,過去の使用実績によって安定性が確認されているものを選定するのが望ましい。
使用実績の少ない骨材あるいは過去にアルカリ骨材反応による被害を生じさせた骨材については「骨材の潜在反応性試験方法(化学法)」等によってその品質を確認する。反応性の骨材を使用せざるを得ない場合には,混和剤としてのフライアッシュや高炉スラグ微粉末などの適当量を混和し,コンクリート中のアルカリ総量を抑制しなければならない。

2 混和材料
(1) AE剤,減水剤,AE減水剤などは種類が極めて多く,品質・性能・均一性などが互いに相当異なっているので,少なくともJIS「コンクリート用化学混和剤」に適合した良質のものを使用しなくてはならない。混和剤のなかには塩化物を含むものがある。混和剤からコンクリート中に供給される塩化物の量が塩素イオン重量で0.2kg/m3以上となるものは使用してはならない。
(2) 流動化剤は,いわば強制的に流動性を増大させたコンクリートを製造するわけであるから,流動化剤の品質,性能,添加および撹拌の場所などはコンクリートの品質特性を大きく左右する。このため関係学協会の品質基準に適合するものを用いることは勿論,工事現場にコンクリートの品質・施工を管理できる専任の担当者を置くなど,施工管理体制を確立しておかなければならない。
(3) フライアッシュはSiO2を55~61%程度含有し,球形粒状であるためワーカビリチーの改善,水和熱による温度上昇の低減,長期強度の増進などの効果が期待される。しかし近年良質のフライアッシュを大量に継続して入手することが困難な場合もあるので,品質ならびに供給可能量を確認しておく必要がある。
(4) 高炉スラグ微粉末はマスコンクリートにおける水和熱の発生速度の抑制やコンクリートの化学抵抗性の向上,アルカリ骨材反応の抑制などに有効である。その置換率は活性化指数を把握して30~70%の範囲内で選定するとともに,特にコンクリートの初期材令において湿潤と温度とを十分与えるなどの入念な養生が重要である。

河川砂防および海岸  Ⅰ-2-1-(A)
我が国の自然的,社会的条件の特性を踏まえて,治水,利水,河川環境に関し,計画立案上の課題について論ぜよ。
(800字詰2枚以内)

1 我が国の自然的、社会的条件の特性と問題点
我が国の河川は,古来より国土の重要な構成要素としてその社会的役割を果たすとともに,地域社会における風土・文化と深い関わりをもってきたが,河川流域の開発,特に近年の急速な都市化の進展に伴い,治水・利水の問題が深刻化し,更には水質の悪化など河川環境の問題が生じてきた。
一方,我が国の国土は,地形・地質および気象条件等の自然的要因から災害をうけ易い特性を有しているうえに,洪水氾濫の危険性が高い区域に経済・社会活動の枢要を占めるという社会的要因が重なっているため,常に洪水による災害が発生する可能性を内蔵しており,近年の都市化に伴ない,流域のもつべき保水・遊水機能が低下し洪水時のピーク流量が増大していること,高度な土地利用や生活様式の変化に伴い,水需要が増大し新たな水資源が必要となっていること,我が国の経済活動が安定成長期に入った今日において,河川の持つ文化的価値や防災空間としての機能が再認識されはじめ,社会的ニーズとして河川環境の整備が必要となってきていること,など治水・利水および河川環境にかかわる諸問題への対応が急務と考えられる。

2 治水・利水計画および河川環境計画の施策
治水・利水計画は洪水時の災害の防止や渇水時の流水の保全を目的として国土の保全と開発に寄与しており,また,河川環境の保全・整備は,治水・利水計画と一体となった「水辺」の有様によって生活環境に潤いやゆとりなど精神的・文化的な恩恵をもたらすものと位置付けることができる。
前述のような我が国における自然的・社会的条件と諸問題を踏まえた上で,これらの問題に対処するためには,より一層の治水・利水施設の整備と河川環境整備とを進める必要があるが,地価の高騰や河川周辺での民家連担などの社会的制約から,治水・利水施設の整備が流域の開発に追随できない現状にある。
したがって,このような現状に鑑みて,今後,治水・利水計画および河川環境計画を策定するにあたっては,次のような施策を講じて,それらの効果が充分発現できるような総合的な河川計画の策定が望まれる。
① 総合冶水対策の推進
治水施設の整備を促進するとともに,流域の保水・遊水機能の確保,住民の水防・避難などの対策を講じて,水害による被害を最少限にとどめることを目標とした総合治水対策を今後も推進していくこと。
② 超過洪水対策の推進
大都市周辺の河川氾濫原への人ロ・資産の集中が顕著で,河川堤防が破堤した場合に被害の拡大が予想されるため,高規格堤防の整備や洪水氾濫時の警戒避難体制の強化,洪水情報伝達体制の整備など,超過洪水対策の施策を推進していくこと。
③ 総合的な利水計画の推進
水の重要性を公報活動などで住民にアピールし,節水活動を通じて,水需要の抑制に努めるとともに,計画的な水資源開発と水源地対策を講じた総合的な利水計画を推進していくこと。
④ 川環境整備計画の推進
近年,河川計画に対する文化的価値が再認識されてきており,都市の生活環境に潤いとやすらぎをもたらす空間としての機能を発揮させるとともに,過密都市の防災空間として活用するなどの河川環境整備計画を推進していくこと。

注)試験場において,時間不足の場合には,上記①~④を列記すること。

道  路   Ⅰ-2-1
都市内における駐車問題について論じ,その対策について意見を述べよ。
 (800字詰3枚以内)

1 はじめに
自動車交通の急増を背景に都市内での駐車需要増が著しく,違法路上駐車が日常化している。違法駐車の蔓延は中心市街地での円滑な都市活動に障害をもたらし,特に地方都市では市街地衰退の一因ともなっている。
物資輸送や人の移動に欠かせない最も普遍的な公共交通施設である道路は,都市内を中心とする交通渋滞や交通事故多発等の交通公害のため大きな社会問題の対象となっており,駐車問題への抜本的な対策が国民的ニーズとなってきた。

2 道路整備の基本的視点
我が国の道路整備は戦後の国土復興下での交通機能重視の内容で本格的にはじまり,高度成長期には産業基盤形成の土地利用誘導機能を重んじて進められた。次いで上述の如き交通問題を生ずるに至った安定成長期には沿道環境保全へ力点が置かれてきたが,その整備水準は未だ先進諸外国に比べて極めて低いものである。
陸上交通施設の一端である道路の整備目的は,国民生活の最大利益を求めて展開されることにある。機動性・多様性・戸口性や確実性を有した自動車交通に代表される道路交通は陸上交通の中心的役割を担い,これに供用される道路の今後の整備を進めるにおいては,多様化増大する交通需要の安全・効率的な処理に寄与しつつ,国土全体の長期的基盤の形成や豊かで創造的な地域社会の形成,および安全快適な生活基盤の充実を図るため,交通問題の解消に基本的な視点を注がなければならない。

3 都市内における駐車問題
都市内駐車の全国的な最近の実態は,1日延べ駐車需要が昭和60年に7,560万トリップを越え,その内の路上駐車が1,450万トリップで,約25%相当を占めている。これを三大都市に限れば路上駐車の全駐車需要比が4割に達し,そのほとんどが違法駐車である。
道路路面外に設置される路外駐車場と,その暫定措置として路面使用で設置される路上駐車場とに大別される駐車場の整備現況は,昭和62年度末現在で路上駐車場が約2千台と極少なほか,都市計画上の必要から設けられる公共用の都市計画駐車場と,都市計画区域で設置される有料届出駐車場,および商業地域内の建築物新築に対し条例で義務づけられる附属義務駐車施設の3つに分類できる路外駐車場も,各々,約6万台,81万台,64万台程度に過ぎない。一方,不定期・不特定で短時間駐車が大半である路上駐車へ対応する一時預り駐車場は全需要量の20%程度であり,そのピーク時利用率も6割弱と十分ではない。
かような都市内駐車の実態と駐車場整備の現状とから判断すれば,我が国の駐車問題の第一は,路外駐車場整備の不足に尽きると言える。かかる駐車場不足に起因する無秩序で違法な路上駐車の日常蔓性的な発生の状態が,次のような都市環境への悪影響を招来している。
① 道路のトラフィック機能である交通容量低下で,中心業務地区における恒常的な交通渋滞の発生。
② 道路のアクセス機能を低下させることにより商業地区等における都市活動の障害。
③ 自動車交通流を乱すことによる交通事故多発の誘因と道路管理における都市活動の障害。地方都市における商業業務機能を郊外移転させることによる中心市街地の活力低下や衰退。
駐車問題の第二は,従来の駐車場整備が民間投資を主体としていることである。駐車場経営の採算性は高地価や料金制約等からオフィスビル類に比べて低く,公共財源投入の極めて少ない現状下において,特に中心市街地では用地確保と新規経営が困難を伴っている。

4 都市駐車問題の対策
前述のように都市内駐車問題は,自動車利用増に対する路外駐車場整備政策の不足や総合的管理政策の不備に基本的な病根を有し,対症療法でない抜本的な対策が不可欠とされる。かように駐車問題への対応を考えれば,向後は計画論の観点と運用面の観点とからの2種類の課題を同等に,且つ互に関連させた解決策が求められる。
解決策第一の計画設計上の検討課題は,街区建築物の用途や床面積と周辺道路との均衡を図った路外駐車場の整備である。車両集中大なる建築物の出入口を幹線道路から避け,交通施設に応じた容積率を認めるほか,路上駐車場の集団化・大規模化を図る都市計画や路外荷物積み下ろし場所の設計等が必要である。また道路法の一部改正で道路区域の上下方向設定等が可能となり,地下利用を含めた沿道建築物と道路付属駐車場の一体的整備が望まれる。
第二の駐停車に関する交通運用の課題は,急を要して多岐にわたる。まず当面の無秩序な違法駐車をなくすため,障害の大きい区間を指定した取締りの強化が必要であり,簡単な違反車移動法の開発研究を要する。次に路上駐車場利用の公平性・効率性確保のため,短時間需要車優先等の時間制限や料金設定法を工夫すべきである。
また,既設路外駐車場の有効利用に資するため駐車予約を含めた案内誘導により高度な総合対策が求められる。
更に加えて重要な検討課題に公共財源の投資がある。資本主義経済下で市場原理に委ねる公共施設の整備が不健全に至らないよう公共事業存在目的のある原点に立ち返り,民間事業へ過度の期待を寄せない行政側の本格的な取り組みが不可欠とされる。また,NTT株売却益主流の現行融資制度の更なる拡大政策や他事業費捻出策での官民双方への財政投下が望まれる。

5 おわりに
近年,国民生活水準が急速に高まり,ニーズの多様化・高度化に伴って道路環境保全から更に進んだ,ゆとりや潤いのある安全快適といった道路の質の向上を望む声が増大している。したがって道路技術者に課せられた命題は益々増大していきその果すべき使命は極めて重大である。

付  記
① 解答指定枚数の8割程度は埋めること。
② 時間不足の場合は箇条書きで対応すること。
③ 自己の見解を出す必要がある。

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