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コンクリート構造の限界状態設計法(その2)

福岡大学工学部教授
大 和 竹 史

7.6 せん断力が作用する場合の安全性の検討
はり,柱等の棒状部材あるいはスラブ等の面部材であるか,さらに面内,面外等のせん断力の作用方向等によりせん断破壊のメカニズムが異なるのでこれらを考慮して適切に安全性の検討を行う必要がある。棒部材の設計せん断力Vd(前号,図ー3ではSd)は設計荷重Fdから求めればよいが,部材高さが変化する棒部材の場合,曲げ圧縮力および曲げ引張力のせん断力方向に平行な成分Vhdを減らして算定する必要がある。Vhdは次式(7.20)により求めてよい。

αcおよびαtの符号のとり方は曲げモーメントの絶対値が増すに従って有効高さが増加する場合に正,減少する場合に負とする。
棒部材の設計せん断耐力Vydは式(7.21)に示すように,コンクリートの設計せん断耐力Vcd,せん断補強鉄筋の設計せん断耐力Vsdおよび軸方向に緊張するPC鋼材の有効引張力のせん断力に平行な成分Vpedの総和で表される。

上式におけるVcd,VsdおよびVpedの計算方法は示方書(6.3.3)式以下を参照されたい。なお,せん断補強鉄筋として折曲鉄筋とスターラップを併用する場合は,スターラップが負担する割合を50%以上とする。
せん断補強鉄筋が十分に配置されている場合,腹部コンクリートの圧縮破壊によるせん断破壊を生じる場合があるのでこれを避けなければならない。腹部コンクリートのせん断に対する設計斜め圧縮破壊耐力Vwcdは次式(7.22)によって求めればよい。

面部材が面外せん断力を受ける場合には棒部材に準じて面外せん断力に対する検討を行い,部分的に集中荷重が作用する場合には集中荷重Vdに対して押し抜きせん断破壊に対する検討を行う。面部材の設計押し抜きせん断耐力は次式によって求められる。

直交2方向に配筋された面部材が面内力を受ける場合については省略する。また,ねじりに対する安全性の検討についても省略する。

8 使用限界状態に対する検討
8.1 概 説
構造物あるいは部材はその供用期間中,使用目的に適合した十分な機能を有しなければならない。その機能として考えられるのが,所要の耐久性と使用上の快適性,水密性,気密性,美観等である。これらを損なう主なものとして過度のひびわれ,変位,変形,振動等が挙げられる。したがって,これらに対する使用限界状態を設定して適切な方法によりこの限界を越えないことを確認しなければならない。
使用限界状態は構造物の破壊とは直接,結びつかないので表ー1(前号の掲載)に示すように各部分安全係数をすべて1.0にとっている。
使用限界状態の検討を行う際には部材断面のコンクリートおよび鋼材の応力を求める必要が生じる。この場合の計算上の仮定は以下のとおりである。
① 維ひずみは,断面の中立軸からの距離に比例する。
② コンクリートおよび鋼材は弾性体である。
③ コンクリートの引張応力は無視する。
④ コンクリートのヤング係数は普通,軽量の区別,設計基準強度に応じて定める。
鋼材および構造用鋼材のヤング係数は2.1×106kgf/cm2,PC鋼材のヤング係数は2.0×106kgf/cm2とする。
8.2 ひびわれに対する検討
コンクリート構造物に発生するひびわれには多くの種類があるが設計においては通常,対象とするのは曲げモーメントに起因するひびわれである。コンクリート構造の耐久性に影響を及ぼすひびわれの検討は,コンクリート表面のひびわれ幅(計算値)を許容ひびわれ幅以下に制御することを原則としている。土木学会の示方書では鋼材の腐食に対する環境条件を表ー3に示す「一般の環境」,「腐食性環境」および「特に厳しい腐食性環境」に区分している。この環境区分と鋼材の種類に応じてかぶりcの関数として許容ひびわれ幅を表一4に示すように与えている。腐食性環境および特に厳しい腐食性環境のPCでは曲げひびわれの発生を許さない設計を行うことが可能であること,引張応力の働くPC鋼材の腐食は特に避ける必要があることから許容ひびわれ幅を規定していないのである。

RCおよびPCにおける曲げひびわれ幅wはそれぞれ式(8.1)および(8.2)によって求める。

上記の曲げひびわれ幅の算定式は式(8.3)および(8.4)に示すように鋼材とコンクリート間に生じる平均ひずみの差にひびわれ間隔ℓを乗じて求める考え方に基づいている。

ここに,符号は式(8. 1)および(8. 2)の場合と同様である。
なお,今までの研究結果により,ひびわれ間隔ℓは式(8.4)に示すように鋼材のかぶり,鋼材の水平方向中心間隔,鋼材径φに依存し,鋼材の付着性状に左右されることが確認されているのである。
式(8.1)と式(8.2)における鉄筋応力度の増加量σseおよびPC鋼材応力度の増加量σpeは式(8.5)で与えられる断面力Seによって生じる値である。

ひびわれ幅の計算は常に行うわけではなく,永久荷重による断面力で生じる鋼材応力度が表ー5に示す値よりも小さい場合には,たとえひびわれがはいったとしてもその幅は小さいものと考えられるので曲げひびわれ幅の計算を省略してよい。現行の許容応力度設計法では鋼材の応力度を許容応力度以下に抑えることにより,ひびわれ幅の検討を省いているのである。

9 疲労限界状態に対する検討
9.1 概 説
疲労限界状態は繰り返し荷重作用によりコンクリートおよび鋼材が疲労破壊をする状態であり,活荷重(変動荷重)が繰り返し作用する橋梁(特に床版部)や波浪作用を受ける海洋構造物等で特に問題となる。繰り返し荷重が作用しないか,作用してもその影響が軽微と考えられる構造物(たとえば,上載荷重のない擁壁)の設計ではこの検討を省いてよい。
9.2 疲労に関する法則
鉄筋コンクリート構造には自重による永久荷重の他に自動車,列車等の通過により変動荷重が作用する。したがって,荷重は永久荷重の最小値から永久荷重と変動荷重を加えた最大値の間を変動する。コンクリートおよび鋼材に働く応力もこれに伴い変動する。設計変動応力または設計変動断面力を独立した繰り返し応力または繰り返し断面力にレンジペア法,ピーク法などの方法で換算し,かつ,疲労に関するマイナー則を適用する。
作用する応力σi(i=1,2,3,・・・・・・,n)のもとでの疲労寿命がNi(i=1,2,3,・・・・・・,n)であるとすると実際に作用する繰り返し回数がni(i=1,2,3,・・・・・・,n)であれば,その疲労の度合いはni/Niであるとし,∑(ni/Ni)=1になった時,疲労破壊するという考えかたがマイナー則である。
9.3 疲労の検討

10 耐震に関する検討
10.1 概 説
昭和61年に制定された土木学会「コンクリート標準示方書」(最新版)設計編9章「耐震に対する検討」は,昭和55年版「道路橋示方書Ⅴ耐震設計編」(これは昭和52年策定の建設省の新耐震設計法案を反映させている)を参考にした本文および解説よりなっている。その後,「道路橋示方書Ⅴ耐震設計編」は平成2年2月に改訂版が刊行された。
その主要な改訂点を紹介すると以下の通りである。
① 従来の震度法と修正震度法をまとめて改めて震度法とした。
② 地盤種別を4区分から3区分にし,設計水平震度の地盤別補正係数を改めた。
③ 橋の振動特性をよりよく反映させるために,慣性力の算定を設計振動単位ごとにし,連続橋の耐震計算法を充実した。
④ 砂質土層の液状化強度を算定する際に細粒分の影響を考慮した。
⑤ RC橋脚の地震時変形性能に関する規定を地震時保有水平耐力を基本とする照査法にした。
⑥ 動的解析に用いる地震入力を規定し,動的モデル,動的解析による安全性の照査に関する規定を設けた。
10.2 設計想定地震
RCおよびPC構造物の耐震設計は地震時における安全性と地震後の供用性をどの程度期待するかを考慮して行う。設計に用いる地震の規模は構造物の種類,建設地点の特性に応じて定めるが,これを設計想定地震という。一般の場合,耐用期間中一回程度発生する規模の地震を設計想定地震とする。
一般の土木構造物の場合,公共性,経済性,地震後の供用性,耐用年数等から考えて設計想定地震による被害を以下の分類における「軽微な損傷」以下とするのがよい。

「軽微な損傷」ではひびわれもそれほど顕著でなく,構造的にも相当の健全性を保っている状態と考えてよい。
10.3 地震の影響
構造物に作用する地震の影響は構造物自体の重量と負載荷重による慣性力・地震時土圧・地震時動水圧などである。また,地震の方向は一般に最も不利な水平方向のみを考慮すればよい。上記の慣性力は構造物重量と負載荷重に設計水平震度khを乗じて求める。この方法は震度法と呼ばれる最も簡便な方法である。
設計水平震度khは標準値を0.2として,構造物の建設地域,地盤,応答特性等に応じ補正した値を用いる。一般には式(10.1)により定めるものとする。ただし,式(10.1)による値が0.1を下回る場合には0.1とする。

11 あとがき
限界状態設計法は各種の限界状態における構造物の安全性を照査する合理的な設計法であるが,安全係数,修正係数が多数あり,判別の繰り返しを多く要求されるので計算が煩雑になりがちである。したがって,この煩雑さを避けるためにパーソナルコンピューターが必要であろう。九州コンクリート技術研究会では「パソコンを用いたコンクリート構造の限界状態設計法による設計例」を昭和63年9月に作成し,各地で講習会(土木学会西部支部,九州橋梁・構造工学研究会との共催)を開催した。この中からPC部材の設計フローチャートを転記するので参考にされたい。

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