巻 頭 言
九州技報編集委員会 委員長 九州大学 大学院 教授 大塚久哲
自然災害が多発している。とりわけ2011.3.11の東日本大震災は2万人近い死者・行方不明者を出す未曾有の大災害となった。古来急峻な地形を克服しながら、山深き谷や小さな入り江にも集落を発達させて平和な生活を営んできた我々日本人は、この悲しみを乗り越えるだけの勇気と我慢強さを持ち合わせていると信じている。自然災害に脆弱な国家に住み続ける日本人の誇るべき国民性である。想像を絶する困難を乗り越えながら、早く被災地に復興の鎚音が響きはじめることを祈る。
しかし、3.11東北地方太平洋沖地震による津波と地震動は、絶対に起こしてはならない重大原発事故の引き金にもなった。原発事故は自然災害と区別されて論じられるべきである。原発事故の発生を防ぐべき立場にある人々の怠慢と想像力の欠如が今度の事故を引き起こしたことを反省し、今後、このような事故を防ぐためには、そのような立場の人々に責任を果たさせるべき仕組みを作る必要があることを指摘しておきたい。
さて、3.11以後は、脱原発(依存)が世論の大勢を占めている。これを実現するための、再生可能エネルギーの普及が加速しているようにみえるが、脱原発を達成するための全体的な工程表はいまだに明確にはなっていない。筆者は、現時点での再生可能エネルギーの9割以上を占める水力発電をさらに発展させることが、脱原発依存の社会づくりに欠かせないとの認識を持っている。どの程度の発電量が可能なのかなどについては本特集への拙著原稿に譲り、ここでは事業推進の面から考えるべき点を述べて、今後の公共事業を展望する本特集の前文としたい。
公共事業の多くは住民の願いによって実現されるものとの認識をもっている。水道や下水道、高速道路のICや新幹線の停車駅、港湾や空港、これらは地域住民の希望によって実現していったと思われる。
ところが地域住民の利益に直接的に結びつかないダムや発電所はいわば迷惑施設なのであろう。これが、わが国土に与えられたほとんど唯一の天然資源である水力発電を活用しようという声が、現在の状況にあっても、湧きあがってこない理由の一つと考えられる。であるならば、地元が活用(消費)できる形での水力発電形態を考えていくなどの努力と工夫が必要であろう。分散型・消費型の電力発電が可能な仕組み作りをしながら、豊富な包蔵水力の活用を考えていくことが、これからの日本がとるべきエネルギー政策の一つであると考えている。
3.11以後の電力事情を例に公共事業の在り方の一端を述べたが、本特集ではいろいろな過去の公共事業の分析や、今後の社会資本整備のあり方に関して多くの提案がなされている。日ごろの立場や繁忙さを忘れて、ゆっくり社会資本整備のあり方を考えていただくことこそ、この特集の目的であると一人合点している。