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工事の安全パトロールから
一現場の実態,経験と知恵のフィードバックついて一

元㈱丸島アクアシステム 理事
村 上  晃

1.はじめに
12年前に,水門製作関係の会社に就職した。46年ぶりの鉄工所勤務である。といっても前回は町工場,5時まで設計5時から工場にて4時間残業有り技術論議大好きの職場で4年3ヶ月過ごした。新たな会社は,より効率的を目指して生産工程も組織も合理的に近代化されていた。
ただ,私は入社前から他産業のクレーム事例を含め技術基準通り,設計図通り風潮に『スムーズに流れている時はいいが工程に変化があった時の対応はどうかな』と生意気な疑問を持っていた。
それを意識した訳ではないが,入社後出来るだけ工事現場立会に努め,その後安全パトロールや安全研修を積極的に実施した。この体験を通じて勉強させられたことをまとめてみたい。

2.我が家の設備だったら
入社後の現場の実態は,流石と思える知恵も少なくなかったが,予想以上に問題も感じた。
例①,除塵機の,ベルトコンベアから,ゴミを受けるホッパーの斜面に段がついていた。改善させたが,もしこれを我家に据えると言ったらどこの奥さんでも『この段の所にゴミが掛かる』と言うと思うが,どうして据付まで来てしまったのかに,
設計担当は,梁の強度上大きくなったので
社内検査は,設計図通り寸法は管理基準合格で
据付担当は,品質検査済みだし急いでいたので
と設置目的が抜けてる。発想は重傷だと感じた。
例②,水門扉工事の作業員が,大手本体工事の作業に『そこは角落としの入る所なので化粧石はまずいのでは』と言ったら『発注者の図面通りだ,部外者が口出すな』とまずい雰囲気になった。
作業員は『もう口出をしない』と言い,現場代理人も官に言ったら『チクッた』と土木と気まずくなると心配していた。次元が違うだろうとは言ったものの,ここは出番と対応した。
例③,大型水門扉を,ブロック毎吊込み組立作業をしてる時,クレーンの運転手が『急いで組めば今日終わるのに』と小声で言った。全員を集め『逆キャンバーに組むと溶接後修正が利かない』等ベテラン技術者が図を示した丁寧な工法説明に運転員も納得感心してた。安全にとって全作業員が工法を理解することの重要性を実感した。
例④,支川の設備工事で,本川の流路に突出した設備のため,施工中出水で土砂をかぶり排土したが,設計の現場調査手法の課題を感じた。
例⑤,水門のゲート据付は,5月予定のところ土木工事の工期は3月までで,締切り矢板を撤去されてしまった。協議不足で仕方無く自前で締切を設置し施工した。ただ,設備の品質と安全にはお互い関連工事の観察が不可欠なのにと思った。

3.施工改革戦士気取り
現場の実態から,度々社内の研修資料を作成して支店内の集会で細かい説明を実施した。
『入社間もない者に言われたくない』と思われるのは必然と考えたが,その意地がエネルギーになると全く気にしなかった。
本社の,社長参加の営業会議にも,資料を持込んで説明と言うより説教調で捲したて,まるで製作施工改革戦士気取りのドン・キホーテである。

4.現場で責任をとる立場に立つと
自らが実際に,安全パトロール員として絶対に事故を起こさせない責任ある立場に立つと,立会だけの時とは,別の経験と勉強をさせられ安全研修が必然的にセットとなった。
例⑤,干潮区間の水門修理工事で,連絡が悪く予備ゲートの仮設が終わった後のパトロールになって,仮設の不可視部分の確認が洩れたところに季節外れの2月の大雨で内水被害を起こし『格好だけのパトロールをして貰っても』と言われ悔しい思いをした。以後安全研修では,仮設は必ず不意の気象変化を想定した現場確認厳守を徹底した。
例⑥,水門の予備ゲートが,現況の管理橋幅員からクレーン作業が安全に出来る分割重量になってなく不安全作業となった。また引込用架線も2台のクレーンで吊替る複雑な工法となった。
現場では,このように初期設計に起因する不安全作業に度々直面し,そのハンデーをカバーしながら安全施工に努めている例が少なくない。

5.設備共用後の管理上の安全
安全研修で,施工中の安全と品質に加え共用後の管理上についても『現場の目で見て疑問のある時は必ず申出て下さい』を強調してきたが,
例⑦,電気配線の下請の人が本当に言って良いですかと念をおして『門柱と擁壁間の配管はボックス中継しないと将来切断の恐れがあり,門柱の高所のボックスは操作室に直した方が後々の点検時安全と思う』と遠慮がちに提案した。このような提案が積極的に出るのが普通の環境にしたい。
例⑨,ダム選択取水の,水密ゴム取替え工事でシリンダーの補修用受台の手摺が当たるのを避けるため,大型角材を4本約20mも吊り降ろす準備をしていた。危険な作業を避けるために手摺を取外し式に改造することを提案して協議の上施工した。製作時の不備の物件を安全パトロールに来てはじめて気付いたのであるが,現場経験の貴さを再認識した。
例⑩,樋管扉の,将来の脱着用に吊フックを特設したが,通常の安全率計算で取付けたのであるがいかにも貧弱斜吊りや扉が壁と摩擦したら等を想定出来る人間の目で観るからである。何倍大きくしても経費微増で大きな安心が得られる場面である。
このように,人間の五感の力を反映した設計感覚は現場でしか得られぬ貴重な経験である。

6.現場の経験と知恵をデスクへ
工事現場の,実態の一部を述べてきたが現場はもっと多くの経験や知恵の宝庫である。
各項目のコメントは,現場に厳しい表現もしたが,目的はその現象を招いてる効率化システムの負の部分を考えたいのが本心である。
今日の産業は,建設産業に限らずより効率化を目指して分業化や下請化が進み,会社の組織も外向けの名刺は係長でも,実質中抜きのリーダー直結となり検討の段階が合理化されている。
経済の発展に応じた,成果の裏付けに基づく進化であろうが,その負の部分への配慮不足と成熟してない成績主義等によって生じたリスクが現場の現象として表れていると感じている。
流れ作業の各種産業でも,モデルチェンジ時のクレームが連発する時代に,一品料理の建設関係では殊更現場の経験の反映が重要で,それにはデスク側からの働きかけの努力がカギだと思う。
偉そうな事を述べてきたが,厳しい指摘に関わらず各方面からので受賞者も出るほど素直に頑張っている現場の皆に感謝しています。
最後に,定説化した『失敗の積極的利用』に加え現場の知恵の活用によって日本の全産業が益々発展することを期待します。

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