川内川における平成18年7月洪水から10年の取り組みと
鶴田ダム再開発事業による治水効果発現について
鶴田ダム再開発事業による治水効果発現について
安部剛
髙山善光
髙山善光
キーワード:防災・減災、水防災意識向上、鶴田ダム再開発事業
1. はじめに
川内川は、その源を熊本県球磨郡あさぎり町の白髪岳(標高1,417m)に発し、羽月川、隈之城川等の支川を合わせ薩摩灘へ注ぐ、熊本県、宮崎県及び鹿児島県の3 県、6 市4 町にまたがる幹川流路延長137㎞、流域面積1,600km2の一級河川である(図- 1)。
川内川流域の地形としては、過去の度重なる火山活動や地殻変動等により、盆地と狭窄部が交互に繋がる階段状の縦断形状をなしており、狭窄部が多いことから「ひょうたん」型のはん濫原が連続して現れ、盆地や平野部に人口や資産が集中している。
また、気候特性としては、流域の平均年間降水量は約2,800㎜と全国平均の約1.6 倍と多く、特に上流の霧島山系においては4,000㎜を超える多雨地域となっており、降雨の月別特性としては、梅雨期の6 月から7 月にかけて多くなっている。
2.平成18 年7 月洪水の概要
鹿児島県では、梅雨前線の活動が活発化し、平成18 年7 月18 日から23 日にかけて薩摩地方北部を中心に記録的な大雨となり、川内川流域で降り始めからの総雨量が1,000㎜を超える雨量を記録した観測所もあり、流域内の雨量観測所において25 観測所中20 観測所で既往最大の雨量を観測した(図- 2)。水位観測所では、流域内の15 観測所中11 観測所で既往最高水位を上回り、7 観測所において計画高水位を超える水位を観測した。
この豪雨により、川内川の上流から下流にいたる流域内の3 市2 町(薩摩川内市、さつま町、伊佐市(旧大口市、旧菱刈町)、湧水町、えびの市)の136 箇所で浸水被害が発生し、流域内の約5 万人に避難勧告等が発令され、浸水面積約2,777ha、浸水家屋2,347 戸に及ぶ甚大な被害が発生した(写真- 1)。
3.平成18 年7 月洪水後の様々な取組
1)ハード対策
平成18 年7 月洪水による甚大な被害を受け、同年10 月には河川激甚災害対策特別緊急事業(以下、「激特事業」と言う。)が採択され、平成19年度には鶴田ダム再開発事業が採択された(図-3)。
激特事業については平成18 年度に着手し、平成18 年7 月と同規模の洪水に対し、河川の溢水や逆流による外水はん濫による家屋の浸水被害の軽減を図るため、築堤、河道掘削、輪中堤、宅地嵩上げ及び分水路(虎居・曽木の滝)開削等を実施し、平成23 年度に整備を終えた(写真- 2、3)。
鶴田ダム再開発事業では、洪水期の発電容量(250 万m3) と死水容量(2,050 万m3) の合計2,300万 m3を洪水調節容量に振り替えることにより、洪水期の洪水調節容量を最大7,500 万m3から最大9,800 万m3(約1.3 倍)とする事業で、主な工事としては、貯水位の最低水位をこれまでの標高130.0m から標高115.6m へ14.4m 低下させるため、低い貯水位でも運用できるように、新たに直径約5m の増設放流管3 条を増設し、発電管2 条の付替えるとともに、放流管の増設に伴い減勢工を新設して治水機能の向上を図るものであり、平成28 年3 月には主要な部分である増設放流設備が完了し、新たな治水容量を活用した運用を開始した(図- 4、5)。
2)ソフト対策
川内川では、激特事業や鶴田ダム再開発事業等のハード対策を実施するとともに、防災・減災に関するソフト対策として、「川内川水害に強い地域づくりアクションプログラム(以下、「アクションプログラム」と言う。)」を地域の住民の方々、沿川の市町、鹿児島・宮崎両県及び国土交通省の
連携の下、流域一体となり様々な取組を推進してきたアクションプログラムでは、①避難計画の充実、②水害の危険性に関する認識向上、③洪水時の情報提供・伝達機能の向上、④避難勧告等の発令の迅速化、⑤水防・救助体制の強化を目的に、19 項目37 分類の取組を市町、県、国が連携して取り組んできた(図- 6)。
連携の下、流域一体となり様々な取組を推進してきたアクションプログラムでは、①避難計画の充実、②水害の危険性に関する認識向上、③洪水時の情報提供・伝達機能の向上、④避難勧告等の発令の迅速化、⑤水防・救助体制の強化を目的に、19 項目37 分類の取組を市町、県、国が連携して取り組んできた(図- 6)。
3)水防災意識社会再構築ビジョン
平成27 年の関東・東北豪雨を受け、全国の一級水系において沿川市町村と連携し、水防災意識社会を再構築する取組を行っており、川内川においてもこれまで行ってきたハード、ソフト各々の取組を踏まえつつ、より水害に強い地域づくりを推進するため、市町、県及び国土交通省等の関係機関が、それぞれ又は連携して概ね5 年間で取り組む事項を「取組方針(新川内川アクションプログラム)」としてとりまとめ、流域一体の取組を開始した(写真- 4)。
4.平成18年7月洪水から10年目の取組
平成28 年は、平成18 年7 月洪水から10 年目の節目の年であり、「川内川における水防災意識の向上に向けた様々な取組」として、シンポジウムやサミット、完成式典等を実施した。以下、主な取組を紹介する。
1)シンポジウム「川内川大洪水から10年」~次世代の子供たちへ~
平成18 年7 月洪水から10 年を迎えることから、その大水害からの教訓と、予測のできない気象や著しく変化する社会情勢の中、どのように水害に備え「防災・減災」を実現していくのか、次世代の子供たちのために何を伝え残していくのかについて考えるシンポジウムを、平成28 年10月2 日(日)の午後に開催した。
シンポジウムは、鶴田ダムとともに水害に強い地域づくりを考える意見交換会実行委員会の主催により、鹿児島県さつま町の鶴田中央公民館において、300 名の来場者を迎え、基調講演とパネルディスカッションの二部構成で開催した。基調講演では香川県丸亀市川西地区自主防災会の岩崎会長に、「地域に密着し継続した自主防災活動について」と題し講演をいただいた。また、パネルディスカッションでは、鹿児島大学の山田名誉教授にコーディネイトいただき、地域住民の代表、九州大学の小松名誉教授、日髙さつま町長に登壇いただき、川内川河川事務所長、鶴田ダム管理所長、会場の来場者も含め、平成18 年7 月洪水後の様々な取り組みと、今後の「防災・減災」について議論した(写真- 5、6、7)。
2)川内川サミット~安全・安心・魅力ある川内川を次世代の子供たちへ~
同じく平成18 年7 月洪水から10 年目の平成28 年に、自助・共助・公助の考えの下、どのように水害に備え“ 防災・減災” を実現していくのか。また、川内川各地で行われている川を利活用した取組を、点から線、線から面へと広げ、川内川沿川の市町が連携し、地域が元気になる“ かわまちづくり” をどのように実現していくのかを議論し発信するサミットを、川内川沿川の3 市2町の首長が一堂に会し、平成28 年12 月18 日(日)に開催した。
サミットは、川内川沿川3 市2 町(薩摩川内市、さつま町、伊佐市、湧水町、えびの市)並びに国土交通省川内川河川事務所、鶴田ダム管理所の主催により、鹿児島県薩摩川内市の入来文化ホールにおいて、350 名の来場者を迎え、基調講演と川内川サミットの二部構成で開催した。基調講演では国立環境研究所地域環境影響評価研究室の肱岡室長に、「気候変動の影響と適応策」と題し講演いただいた。また、川内川サミットでは、九州大学の小松名誉教授にコーディネイトいただき、川内川沿川全ての5 首長に登壇いただき、九州地方整備局の河川部長、川内川河川事務所長、鶴田ダム管理所長も含め、各市町及び国土交通省の“ 防災・減災”、“ かわまちづくり・地域活性化”に係る取り組みを紹介するとともに、川内川流域一体となった今後の取り組みの方向性等について議論した。
最後に川内川サミットでの議論を踏まえ、5 首長により「川内川サミット宣言2016」が共同で宣言された(写真- 8、9、10)。
3)鶴田ダム再開発事業治水効果発現・鶴田ダム管理開始50 周年式典
平成28 年度の出水期より再開発事業の治水効果が発現すること、及び昭和41 年の管理開始以来50 年の節目を迎えることから平成28 年10月2 日( 日) の午前に再開発事業治水効果発現・鶴田ダム管理開始50 周年式典を開催した。
式典は、九州地方整備局の主催により、鶴田ダムサイトにおいて、鹿児島県知事(代理副知事)、国会議員、地元さつま町長、川内川流域自治体、用地関係者の皆様ほか工事関係者約200 名が出席し、執り行った。始めに、主催者である九州地方整備局長が式辞を述べ、国土交通省治水課長が挨拶を述べ、来賓の方々から御祝辞をいただいた後、川内川河川事務所長が再開発事業効果発現の概要、鶴田ダム管理所長が管理開始50 周年の概要説明を行った。
続いて、地元の鶴田中学校生徒さんによるビデオ放映、地元園児による太鼓の演奏が披露され、最後に「記念放流式とくす玉開披」を同時に執り行い、鶴田ダム治水効果発現と管理開始50 周年を祝した(写真- 11、12、13)。