川内川塩水遡上対策について
一 刃口式推進工法による取水樋管工事 一
一 刃口式推進工法による取水樋管工事 一
九州地方整備局 川内川河川事務所
工務課長
工務課長
森 崎 和 博
九州地方整備局 川内川河川事務所
専門調査員
専門調査員
牧之内 洋 一
1 はじめに
川内川下流部では,砂利採取や流下能力確保のために実施した河床掘削などにより,平成4年から約16.6km付近にある丸山共同取水口(利水者:川内市上水・工水,中越パルプ用水,農業用水)において,川内川の流況が悪くなる時期に塩水遡上による取水障害が頻発するようになった。その対策として平成10年度~平成14年度にかけて利水者との共同事業として丸山共同取水口から約2km上流に斧渕共同予備取水口を設置した。本報告は,塩水遡上対策として実施した予備取水口工事のうち,刃口式推進工法による取水樋管工事の概要を紹介するものである。
2 塩水遡上対策事業の概要
川内川では,平成4年9月に丸山共同取水口で塩水遡上による最初の取水障害が発生し,以来,毎年のように取水障害が発生するようになった。
特に,平成6年は全国的な渇水年となり取水障害はより顕著化し,水道水の水質基準である塩素イオン濃度200mg/ℓを超える日が170日を数え,川内市民約9,700世帯,約25,000人に被害が及んだ。このような状況から,まず緊急対策として,平成6年度に導流堤設置を行い上流から流下する河川水の掃流力により塩水楔の進入を抑制した。また平成7年度からは,河床を横断したパイプから気泡を出して塩水くさびを破壊し塩水遡上距離を抑制するエアレーション等の対策を実施した。
一方,川内市水道局においては,取水障害発生時には,24時間体制で常時,河川水の塩素イオン濃度の監視を行い取水口の堰板の高さをこまめに調節することにより河川表層からの取水を実施した。このため,関係者間において抜本的対策が検討され,約2km上流に予備の共同取水口を新設することとなり,工事は丸山共同取水口の利水者と河川管理者との共同事業として実施することとなった。すなわち,塩水遡上による取水障害の原因の1つとして,取水口より下流での河床掘削工事があり,今後の河川改修工事により塩水遡上距離が更に上流まで伸びる恐れがあったこと及び河川管理者が行う河川環境対策事業として,支川の銀杏木川への浄化用水供給たのめの取水施設が必要だったこと,並びに丸山共同取水口の利水者としても平成6年のような異常渇水時にも安定して取水できる対策を求めた為,共同事業として実施したものである。
【塩水遡上対策事業(斧淵共同予備取水口工事)の概要】
・目 的:上水・農業用水・工業用水の水質確保及び河川浄化用水の取水
〈取水樋管工事〉(刃口式推進工法による)
・断 面:φ1,800mmダクタイル管×2連
・延 長:約80m×2連,計160m
〈導水路工事〉(管皮膜推進工法による)
・断 面:φ1,500mm
・延 長:2,800m 開削区間1,480m 推進区間1,320m
・目 的:上水・農業用水・工業用水の水質確保及び河川浄化用水の取水
〈取水樋管工事〉(刃口式推進工法による)
・断 面:φ1,800mmダクタイル管×2連
・延 長:約80m×2連,計160m
〈導水路工事〉(管皮膜推進工法による)
・断 面:φ1,500mm
・延 長:2,800m 開削区間1,480m 推進区間1,320m
3 取水樋管工事
(1)工法の検討
本工事の工法選定に当たっては,下記の3点が制約条件であった。
① 当樋管は,取水堰を設けず,常時取水可能とする。
② 町道として使用されている堤防天端の交通機能を維持する。
③ 施工位置に近接する中学校等,地域社会への影響を極力少なくする。
① 当樋管は,取水堰を設けず,常時取水可能とする。
② 町道として使用されている堤防天端の交通機能を維持する。
③ 施工位置に近接する中学校等,地域社会への影響を極力少なくする。
以上のような条件を踏まえると,従来の開削工法で樋管を設置した場合,施工期間が出水期間をまたぐ長期間となり大掛かりな仮締切り堤防が必要となる。また,兼用道路(町道)の交通にも支障をきたすことになるため,「推進工法」で樋管を設置することとした。
(2)推進工法の検討
推進工法は概ね表ー1に示す4種類に大別される。当樋管の設置位置は地盤が砂礫層であり,崩壊性,透水性が高いと考えられ,当初,機械推進の中で土圧を発生させて,切り羽を安定させる土圧式推進工法が考えられた。
しかし,堤防への影響を考慮して,補助工法を併用し,切羽の状態を目視で確認しながら推進が可能な「刃口推進工法」を採用した。補助工法は,掘削面の崩壊や地下水の進入を防止するため,薬液注入による地盤改良とした。なお,発進立坑は揚水機場本体や沈砂池を建設するため,比較的大きくスペースがとれる川裏側に設置することとし,川表側の到達立坑はゲート工等の比較的小規模なコンクリート構造物の工事ができる立坑と仮締切り堤を兼用することにより,仮設工事を最小限に抑えることとした。
(3)管種の選定
一般的に推進工法に適用できる管は表ー2に示す円形断面の3種類となる。この内,埋設管として実績が豊富で,柔構造樋管として地盤沈下にも無理なく追従でき,さらに経済的にも最も有利なダクタイル管を採用した。
(4)遮水壁設置工法の検討
推進工事で設置する樋管の場合,遮水壁の設置工法は以下の2つがある。
① 管内から,遮水用鋼板を地山に挿入し,開削工法と同等の遮水壁を設置する方法。
② 堤防上面から,機械攪拌工法にて地盤改良により構築した連続壁を推進時に壊して貰通した後,管と連続壁の隙間を間詰めする工法。
当樋管では開削工法と同等の遮水壁を管内から確認しながら設置でき,かつ遮水性能に長期的信頼が置ける①の方法を採用した。また,経済比較においても,樋管の敷高,土被りに関係のない①の方が安価であるという結果を得た。
4 施工状況
(1)推進工
工事は,薬液注入により地盤改良を行い切羽からの浸水,地山の崩壊が生じることなく実施できた。また,推進工法用ダクタイル管はメカニカル接合であるため,スムーズに推進工事が実施出来た。管の推進後,管1本当たりに3ケ所設けたグラウトホールから,管外面と余掘り分の隙間に裏込注入を行った。
(2)遮水壁工
遮水壁は,推進工の後に管内から掘削機を用いて掘削した溝に設置した。なお,掘削した溝と遮水壁の隙間8ケ所のグラウトホールから裏込め注入を行い,遮水壁上端より高い位置に設置したパイプから,裏込め材の挿入状況を確認できた。
5 おわりに
平成4年に顕在化した塩水遡上による取水障害も,塩水遡上対策事業(斧淵共同予備取水口)の完成(平成15年3月)で抜本的解決を見ることが出来た。また,堤体開削を行わない,推進工法を採用したことにより,地域社会への影響を最小限に抑えることができ,施工期間及び建設コストの縮減を図ることが出来た。