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「川内川における水害に強い地域づくり」
~地域防災力の向上に向けて~
九州地方整備局 竹下真治
1.はじめに

現在、川内川では平成18年7月22日の甚大な被害を契機に「激甚災害対策特別緊急事業(激特事業)」を実施中である。事業目標を平成18年7月洪水と同規模洪水の再来においても家屋の浸水被害を回避することとし約1500戸を解消する事業である。
■主な事業内容
・用地取得面積:約680,000m2
・築堤延長  :約16,000m
・掘削量    :約200万m3
・水門、樋門 :約27箇所
・事業箇所  :37箇所(築堤、掘削等)
■事業費
・約356 億円
(国:約331億円、鹿児島県:約19億円、 宮崎県:約6億円)
■工期
・平成18年度~平成22年度末を目標
現状は用地取得の整った箇所から随時工事を実施しており、特に今回事業の目玉とも言える「推込分水路」「曽木の滝分水路」の掘削も順調に促進(写真1、2)している。「曽木の滝分水路」は、景勝地「曽木の滝」の真横を通過する人工河川になることから、特に景観に配慮することとし景観委員会を設置して工事に臨んでいる。また、「推込分水路」も人工河川でさつま町の市街地の直下流にあたり、島津藩政時代の山城でもあり街の顔ともなる風景・風情を成していることを踏まえ、最大限の配慮と上流右岸虎居地区の改修(最大約30m横断方向への拡幅)との景観の調和を図ることを目標に、宮之城地区川づくり検討会を開催し工事に臨んでいる。その外にも、築堤や輪中堤、河道掘削、橋梁、樋門・水門などの構造物の新、改築を実施している。これら治水のハード対策を進め平成18年7月洪水の再来においても家屋浸水被害のない安全な流域づくりを急ピッチで促進しているところである。

2.ソフト対策の重要性

一方、平成18年7月洪水は前述で述べた治水のハード対策の必要性とともに両輪となるソフト対策の重要性を浮き彫りにした。流域で最大の被害を被ったさつま町虎居地区では洪水の氾濫で泥の海と化し約530世帯が浸水した。虎居地区は地盤高が高いこともあってまだ堤防未完成の状態の時に計画高水位を約3m超過する洪水が襲い、周辺の洪水痕跡は軒下浸水は勿論のこと地盤の低い箇所では約5mの浸水状況であった。

洪水位の上昇に伴い、さつま町の避難勧告・指示、防災無線や水防団、警察の呼びかけがあったにも関わらず、一部には「過去、水位がここまで上がったことがない」「昭和47年洪水はここまでで止まった」「もう大丈夫だろう」・・・などの過信や過去の経験則から避難せず、後刻自衛隊から救助される事態に陥った。
被災後、住民の方々へアンケート、ヒアリングを実施した結果から見ても様々な課題が浮き彫りとなっており、事前の情報の送受信や高い住民の自己意識があれば的確な初動体制につながると、防災に関わる者にとって再確認させられた結果であった。また、情報は送り手だけが必死になっても活かしきれない。受け手側の「入手する努力」も必要であり、そのための入手のしやすさに配慮すべきなのである。昨今の地球温暖化や局地的な集中豪雨の顕在化を見れば尚更である。

3.平成18年7月洪水の課題

平成18年7月洪水はアンケートやヒアリング結果から、大きく以下のような5つの課題があると整理した。
3-1 避難計画の不備
・洪水ハザードマップは作成済みであるが住民に定着していない
・自主防災組織はあるが水害時に機能していない
・災害時の要援護者の避難対策が不十分
・避難所、避難経路の浸水や自家用車利用率の高さ

3-2 水害の危険性に対する認識不足
・水害危険性の認識不足(過信・経験則)
・未避難(避難の遅れ)
・浸水常襲地区での宅地開発

3-3 洪水時の情報提供・伝達の遅れ
・収集した情報活用が不十分
・現地の浸水、被災情報の不足
・住民への情報伝達が不十分、手法の再考

3-4 避難勧告・指示発令の遅れ
・発令の遅延
・発令判断に資する情報不足

3-5 水防・救助体制の不備
・水防、救助用資材の不足
・水防、救助活動における二次災害の危険性
・水害時を想定した水防、救助の訓練不足
これらの課題を踏まえ流域全体で考える場を設けることとし、先の洪水を教訓に水害に強い地域づくりを目指す、「川内川水系水害に強い地域づくり委員会」を設置することとした。

4.水害に強い地域づくりに向けて

委員会は学識経験者(2名)、専門家(4名)、流域代表者(6名)、マスコミ関係者(3名)の15名で構成し、自助・共助・公助の役割分担と連携に基づいた防災・減災を目標に水害に強い地域づくりのあり方の基本理念とその方向性について提言いただいた。
提言の内容は防災情報に関する課題のほかに、地区コミュニティの防災力の向上や水害にあいにくい暮らし方、土地利用規制といった従来のハード主体の在り方とは異なる理念を柱として、これからの川内川流域の「情報治水」の方向性を導いている。

【基本理念】
■7.22水害を教訓として、適切な防災情報の送受信と共有、安全な避難行動の実現
■地区コミュニティとその防災力の向上
■水害にあいにくい暮らし方、土地利用規制への理解
■安心して暮らせる地域づくりのための基盤整備

<基本方針>(方針は頁の関係から主題のみを列記した)
(1)避難計画の充実
(2)水害の危険性に関する認識向上
(3)洪水時の情報提供・伝達機能の向上
(4)避難準備情報・勧告・指示発令の迅速化
(5)水防・救助体制の強化
(6)水害に強い地域づくりの効率的推進
これら基本理念、基本方針(具体的施策として19項目を提言)をより具現化するため“(6)水害に強い地域づくりの効率的推進” のもと川内川水害に強い地域づくり推進協議会を設置し「提言」を単なる絵に描いた餅とならぬよう流域全体で実現していくこととした。

4-1 アクションプログラム
濁流が渦巻きながら自宅を襲い、また水が引いた後の泥まみれの悲惨な状況下で使い物にならない家具を捨てる光景を流域の防災担当者は見ている。自宅がその状態になった人もいた。この提言を必ず実現させるんだとの強い意識と流域全体で取り組もうとの連帯感がこの推進協議会下部組織の幹事会で生まれた。幹事会構成メンバーは各自治体の防災系課長や係長クラスである。19項目の提言を一つ一つ我が町の状況に置き換え、実施済みであるもの、実施途中であるもの、未実施または構想さえなかったものなど提言の内容を更に追求し協議会に諮るため幹事会は議論を重ねた。検討内容を持ち帰り各市、町内部で調整し幹事会で照合し再度調整する。また、先進的に進んでいる自治体を参考にした意見交換や現地での確認、勉強会など回を重ねていくうちに“ こうあるべきでは” と積極的な議論が進み6回の幹事会と3回の協議会をもって平成21年3月「川内川水害に強い地域づくり」ーアクションプログラムーが完成した。

アクションプログラムは提言を基軸に、更に細分化した内容となっており、19項目37分類となった。これらのほとんどが河川管理者だけでなく、流域自治体、そして地域住民の方々が一体となって取り組み、地道で継続的な備えのうえで初めて効果を発揮するものと位置づけている。公助に頼るだけでなく自助・共助の大切さを地域の方々が理解し、そして実践していく事を念頭においたものである。

4-2 アクションプログラムの一例
(文頭の番号はアクションプログラム番号と整合)

5.より実行力のあるアクションプログラムの実践に向けて

策定されたアクションプログラムはより実行力のあるものにしなければならないし、策定することが目標になってはならない。流域の自治体では策定前から実践している項目もあり、自治体や住民への浸透も早く、更に策定のプロセスで築いた防災担当者間との信頼関係において、年次計画に基づき確実に進めていく事としている。さらに「川内川水系水害に強い地域づくり委員会」は解散したものの、委員各位には提言内容の進捗を確認していただく事としており、年1回進捗状況を報告する場を設けている。これは当方から各委員に自主的にお願いしたことであり、今後責任を持って進めていくことを約束したものである。

6.おわりに

平成18年7月の大洪水はこれまで実施してきた築堤や河道掘削等の治水対策、そして各自治体の個別対応・情報提供だけでは流域に生活する住民の安心・安全な暮らしは100%守ることができないということを再確認させられた洪水であった。そのような背景のもと「川内川水系水害に強い地域づくり委員会」の提言、そして「川内川水害に強い地域づくり推進協議会」の発足から約1年をかけてアクションプログラムを策定した。
各市町の防災担当者は、担当職員が少ない中また、洪水対応だけでなく土砂災害、地震等の総合防災を担わなければならない方々であり、共通項目はあるにせよ今回のプログラム策定だけに時間を割くには限りがあった。それでもあの壊滅的な被害を教訓に集まり、また、お互いの顔を知り合う情報交換の場にもなり防災担当者同士の横の繋がりが深まったことにより“顔の見える防災” が整ったと考えている。
今後、住民の心の中に「自らの命は自ら守る」という自助の精神が高まっていくと考えている。事実、先の大洪水を契機に自主防災の組織率が急速に高まってきた。自助・共助に基づく地域防災力の向上のためにこのアクションプログラムが役立つと期待しているところである。そして、流域内防災担当者間の更なる連携による公助の防災力も高め、自助・公助・共助による「川内川水害に強い地域づくり」を実現させていく。

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