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川づくりの夢
野見山ミチ子

遠賀川の中流域にある直方市は、福岡市と北九州市の100万都市のまん中あたりにあり、自然環境が残っている私達の自慢のふるさとである。
この川は、筑豊炭田という日本のエネルギー時代を、約100年間支えてくれ活躍した川であり、それ以前は2000年前とも言われている農耕文化を育んできた、他流域とは異なった文化を持っている一級河川である。そこに生まれ、多分終えるであろう私達の「ふるさと」は、昔も今も変わらずに「山はあおきふるさと、水は清きふるさと」で、あってほしいと願っている。

1996年、直方川づくり交流会が女性11名、男性11名で発足した。
この会は、住民と行政が同じテーブルにつき、地域の川のことを話し合い、ふるさとに50年後の夢プランを描き、そのために自分たちでできることを話し合う、当時では珍しい会の発足であった。地域住民と国交省、県、市、大学人、女性、男性、年齢も、職業もバラバラの集団は、言いたいことを言い、夢を語り、反論したり、共感したり、なだめたり、酒を酌み交わしたり、苦しいときもあったが、振り返ると楽しい思い出が多く、また大きな収穫はメンバー達が学び、大きく成長してきた事である。
そして、何より感動的なことは、夢プランがひとつずつ形や方法は違うけれど目に見えて実現していくことである。全く同じものはなく、形や方法を変えて一歩ずつ夢に近づいていく、この活動は住民に責任と夢を与え、守ることの大変さや、大切さに智恵をしぼり、次世代へと語り続けることの大切さに気づき、まだまだ継続中である。

夢のひとつである河川敷は、2009年度土木学会デザイン賞において最優秀賞を受賞した。この風景は河川敷が緩傾斜護岸になっていて、ゆったりと歩いて楽しく、直方の人々の誇りでもある。
ここで何をして遊ぶか、色々と考えてみるだけで楽しくなる。そして、川を利活用して、まちまで元気になれる方法を模索している。
土木学会デザイン賞の選考委員の方は、「このような川辺の街に生まれ育った人々、特に子ども達にとっては、生涯忘れることのないふるさとの風景となるに違いない」と評された。

広い目、永い将来の目、やさしい心を持ち、楽しい導線を考えてみようとしている。そして、地域の空、山、川、人々が自慢できる風景を次世代にバトンタッチしたいと願っている。
この水辺の風景の横に、6年前に建てられた遠賀川水辺館は防災施設であるが、平常時は環境学習の場として、NPO法人直方川づくりの会が、運営し活動している。そして、すぐ横には、人工河川である春の小川も流れている。この小川を使って魚をすくって調べたり、水質調査や、野鳥の様子や草花を採集したり、ホタルの飼育をしたりと、めだかの学校、YNHC(青少年博物学会)、キッズLNCなどの活動の場として大いに活躍している。

これらの体験は、将来の環境を考えたときに、水ぎわの大切さを改めて実感し、「人と人のきわ」「水と土手のきわ」…等々、川を学ぶ中から「きわづくり」の大切さを身につけていくのである。
また、大人達もリバーツーリズムや、毎月行われるゴミ拾いやカヌースクール等、ゆっくりするひまもない。YNHCメンバーの中には世界子ども水フォーラムに日本代表として選ばれ、メキシコやトルコなどに遠賀川のすばらしさや、環境の大切さを発信し、社会貢献を目標に、色々な経験を重ねている。
YNHCのOBの若者は、ある研修会の発表で「地域の方々からいただいた支援の恩返しは、将来どんな形でもいいから、社会に返しなさい。支えてくれた人を忘れず立派な社会人になり、社会貢献できる人になりなさいと言われた言葉を胸に、もっと様々な幅広い視野を養い社会を広く見据え、自分が出来ることは何か探していこうと思う。そして社会に、恩返しをしたいと思う、次世代を担う子ども達にも、私と同じような経験ができるきっかけを作りたい。」と語ってくれた。

私達から次世代へ、また次世代とつながる夢の活動に、将来の明るい光が差している気持ちになり、ウルウルとなったのである。活動を存続していく時、意見が対立したり、感情的になって色々あっても、こういう若者達の笑顔や言葉に出会うと、また大きな力をもらい希望を持って頑張ろうと思うのである。

どちらが育てられているのか、人生の喜びを与えてもらっているのか、おかしな話である。
我がふるさと直方の遠賀川を通して、住民達が力を合わせて学び、夢を語り、絵を描き、提案し、責任を持って維持管理を続けていくことで、数年後の子ども達に自慢できるふるさとをバトンタッチしたいものだと願っている。
今からいまから……もうひとがんばり!

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