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土木研究所における地震防災研究の取り組みについて
~耐震技術研究センターの発足~

土木研究所耐震技術研究センター防災技術課
 課長
杉 田 秀 樹

土木研究所耐震技術研究センター防災技術課
 研究員
濱 田  禎

1 はじめに
建設省土木研究所は,我が国の自動車の普及に伴う道路構造に関する研究の必要性を契機に大正10年に設置された道路材料試験所を端緒とし,翌年の大正11年9月(1922年)に内務省土木試験所として昇格・発足してから現在に至るまで74年の歴史を有する。この間,土木研究所は,河川,下水,ダム,砂防,道路,橋梁,材料,施工,耐震,積算技術等,広く,土木事業に関する調査,試験,研究および技術開発を総合的に実施し,災害を防ぎ国土の均衡ある発展と快適な生活環境づくりの基礎となる土木技術の諸問題の解決のため,たゆみない努力を続けてきた。
土木研究所の長い歴史の中で,平成7年1月17日に発生した兵庫県南部地震は,発足以来,最も大きな自然災害の一つであった。この地震は,高度に発達した大都市を襲った初めての直下型地震であり,道路,鉄道,港湾などの土木構造物に大きな被害を及ぼし,都市機能・経済活動に大きなダメージを与えた。この地震では日本で近代土木工学が始まって以来の地震力が土木構造物に作用したとはいえ,従来の技術的な見識では想像し得なかった甚大な被害,例えば高架橋の倒壊,橋脚の崩壊,礫質土の液状化などが発生した。これを受けて,土木構造物の設計地震動に対する考え方の再検討,免震・制振などの先端技術を活用した耐震設計の高度化,震前震後に向けた防災情報システムの検討などが緊急の課題となった。道路橋等,各種の土木構造物の耐震基準については,現在改訂作業が進められている。
これらの課題に,より機動的に対応するため,土木研究所地震防災部は平成8年5月,「耐震技術研究センター」と名称を改め,組織体制に変更が加えられた。すなわち,振動・耐震・動土質の3研究室に防災技術課が新たに加わり,今回の地震で特に充実の必要性が指摘された防災計画・地震防災情報システム・強震観測に関する研究や,地方建設局・地方自治体の防災計画に関する業務への技術的支援・連携プレーに取り組んでゆくことになった。
以下に,耐震技術研究センターの各課室の最新の取り組み,および新たに整備が進められている研究施設について紹介する。

2 耐震技術研究センターの取り組み
防災技術課
防災技術課は,耐震技術研究センターの発足に伴い平成8年5月11日に新たに設置された。課の所掌業務は,主に,①地震防災情報のシステム化および地点防災計画の調査,研究に関する事務並びにこれらの技術の指導を行うこと,②地震防災情報の収集,整理および地震防災情報システムの管理連営に関する事務を処理することである。特に,ソフト的な防災技術を専門に扱うことや,土木研究所の防災技術に関することが特徴となっている。具休的には,強震観測データ・被災状況のリアルタイムでの把握,初動体制に資するための情報システム,震災の社会経済的影響評価技術の研究開発を目指している。
図ー2は,全国に展開された地震計ネットワークのデータをリアルタイムに収集し,これに基づいて,公共土木施設の被災状況の予測を行うことを目的に開発を進めている「震後即時被害予測システム」の表示画面(デモ)である。兵庫県南部地震で明らかになったように,大地震が発生した直後には,各地の地震動の大きさや被災状況に関する正確な情報が伝達されない恐れがある。このような事態に陥ると,施設管理者が的確な初動体制を整えることが困難になり,被害の拡大の防止や支援・復旧活動に大幅な遅れが生じる可能性がある。本システムは,予測被害の情報を迅速に施設管理者に提供するもので,大地震時の全省的な初動体制の確立に大きく寄与することが期待される。
また,防災技術課は,土木研究所の防災業務に関して,土木研究所防災会議震災対策部会の事務局として活動するとともに,土木研究所に震災対震本部が設置された際には,他の行政機関との連携をとり,災害復旧を支援する技術的中核として機能することも求められている。

振動研究室
振動研究室の所掌業務は「地盤の振動および耐震性に関する調査,試験,研究および技術の指導をつかさどる」であり,主として,地震動の工学的な特性およびそれに基づく設計地震動に関する研究,並びに地盤の液状化に関する研究に取り組んでいる。
地震動の工学的特性に関する研究の推進のため,現在,地震動観測施設の充実をはかっている。特に,高密度強震観測場の増設に注力しており,従来からあった駿河湾伊豆半島地域の4地区と土木研究所構内に加え,幕張・習志野地区,館山地区,小田原地区,神戸地区にも観測場を新設する予定である。

地震動は,地震の発生機構や震源から観測地点までの伝播特性並びに観測地点の局所的な地形や地盤条件に強く影響されるが,なかでも局所的な地形・地盤条件は地震動に大きな影響を及ぼす。高密度強震観測により,地震動の局所的な伝達特性を詳細に検討することで,長大橋梁や沈埋トンネル等,軸線の長い構造物やライフライン等の面的な広がりを有する構造物の合理的な設計地震動の設定を目指している。
また,兵庫県南部地震のような直下型地震の経験を踏まえるとともに,東京湾口部等の過去の大地震の震源域において大規模プロジェクトが計画されていることに鑑みて,断層モデルを用いた地震動の推定などの新しい試みも進めている。
液状化等に関する研究においては,大地震時に対する液状化の判定および設計上の取り扱いに関する研究,兵庫県南部地震でクローズアップされた地盤の流動化に対する設計および対策に関する研究を進めている。
これらの研究のための手段として,3次元大型振動台の建設が,平成9年3月の完成を目指して進められている。これは,3次元振動台としては,搭載重量,加振性能の全ての面で世界最大級の能力を有するもので,兵庫県南部地震の際に得られた強震観測記録の再現も可能な,高性能な振動台である。この振動台を用いれば,大型模型により,従来の小型模型で問題とされている模型境界の拘束効果の影響を軽減した,より精緻な液状化・流動化実験が可能となる。

また,3次元大型振動台にはハイブリッド振動実験装置が併設される予定で,これにより,実大規模を想定した振動実験を行うことができる。ハイブリッド振動実験装置は,振動実験と数値解析を統合させることにより,今まで実験的に再現が困難であった地盤と構造物の地震時挙動を,限りなく現実に近くシミュレートすることができる。これにより,液状化時を含めた地盤と構造物の相互作用の評価が可能となり,基礎の設計法の合理化に資することが期待される。
この他にも,大型橋脚模型の破壊実験等,様々な実験が予定されており,3次元大型振動台にかかる期待は大きい。

耐震研究室
耐震研究室の所掌業務は,「土木構造物の地震災害の防除に関する調査,試験,研究および技術の指導」であり,これまでに,橋梁や地中構造物を中心とする各種の土木構造物の耐震設計法の開発等を行っている。これらの研究成果は,各種の設計技術基準に反映されている。最近では,兵庫県南部地震において被災した橋梁の復旧に関する仕様や,近々改訂される道路橋示方書V・耐震設計編の策定に,振動研究室,動土質研究室,構造橋梁部とも協力して取り組んでいる。
これからの土木構造物の耐震設計においては,設計地震動のレベルアップに伴って,従来の震度法から,地震時保有水平耐力法への移行がますます進んでいく。ラーメン橋脚等についても,地震時保有水平耐力怯による設計法を確立するため,部材耐震実験施設の大型変位加振機はフル稼働の状態が続いている。
また,同時に,動的解析も今後の耐震設計においては重要なものとなっていくと考えられる。動的解析は,モデルのパラメーターの設定や入力地震動の特性によって得られる結果が変わってくるため,現在のところ一般的には用いられていない。しかし,今後,桁の連続化等,不静定次数の高い設計上複雑な構造物が増加し,これらの構造特性を適切に反映できる動的解析の必要性がますます高まるものと予想される。耐震研究室では,このようなニーズに応えるため,動的解析の設計への適用についても重点的な研究を行っている。

動土質研究室
動土質研究室の主要研究テーマは,①盛土の耐震性,②土の動的変形強度特性,③堀割道路の耐震性,④落石,⑤下水道施設の液状化対策であり,特に盛土構造物の耐震性評価法,設計法,対策工法に重点が置かれている。兵庫県南部地震を契機に,河川・海岸堤防の耐震強化事業が7年度から開始され,また道路盛土においても耐震基準が強化される予定であることから,従来より,河川堤防や道路盛土等を対象に進めてきた耐震設計技術の研究成果の積極的な活用が図られつつある。
また,現在,大型動的遠心力実験装置を建設中である。この装置は,主に地盤・土構造物の静的および地震時挙動を調べることに用いられる。例えば,地盤厚さが20cmの模型を用いて100Gの遠心力場で実験を行えば厚さ20mの実地盤の挙動をほぼ忠実に再現できることになる。すなわち,相似実験を可能にする装置である。この様な実験が可能な装置としては世界最大規模である。装置の完成後には,以下のような実験を予定している。

(1)地盤の流動化に関する実験
兵庫県南部地震では流動化による公共土木施設の被害が多く発生した。護岸近傍の地盤の模型を作成して地盤の破壊現象を再現したり,あるいはさらに基礎構造物を設置して流動化により生じる地盤流動力を測定する等の実験を行う。

(2)軟弱地盤上の盛土・擁壁・補強土等の安定性と変形に関する実験
通常行われる重力場で軟弱地盤の挙動を実験的に研究するためには,かなり大規模な模型が必災で,地盤作成・圧密に長期間を要する。しかし,遠心力装置を用いればその労力・時間は数十分の一となる。このため,従来以上に系統だった実験的研究が可能になる。
その他上記以外にも,土工構造物や地中構造物の液状化時の挙動に関する実験,トンネル掘削時の安定に関する実験等の実験を予定しており,成果の結実を期待している。

3 おわりに
以上,耐震技術研究センターの設置の経緯,現在重点を置いている研究課題および今後の取り組みについて紹介してきたが,この他にも,土木研究所では,AHS(自動運転道路システム),統合情報システム(CALS),生態系の保全技術の開発等,新しい時代のニーズに対応した研究が多数行われている。今後とも建設省が所管している社会基盤整備と自然災害に対する国土の安全確保に関わる先導的な技術開発を務めて参る所存であるので,関係各方面のご支援を期待したい。

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