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小石原川ダム建設事業の今 ~ダム建設工事最盛期に向けて~
仲道貴士
髙橋健一

キーワード:小石原川ダム建設事業、導水施設、基礎掘削、ICT施工

1.はじめに
小石原川ダムは、筑後川水系小石原川に建設されるロックフィルダムです(図- 1)。平成4 年に実施計画調査を開始し、平成5 年に筑後川水系における水資源開発基本計画に位置づけられ、平成15 年より建設事業に着手しました。平成16 年の環境影響評価法に基づく環境影響評価の手続きを完了し、平成20 年の一般損失補償基準の妥結を経て、平成28 年4 月にダム本体建設工事に着手。平成31 年度事業完了に向けて、工事の進捗を図っているところです。
本稿は、工事最盛期を迎える小石原川ダム建設事業の現状について報告するものです。

2.小石原川ダム建設事業の概要
小石原川ダム建設事業は、堤高139m、堤体積約830 万.、総貯水容量約4,000 万m3の九州最大規模のロックフィルダムの築造と筑後川水系佐田川から小石原川への導水路の建設により水資源開発を行う事業であり、次の3 つの目的を有しています。

①洪水調節
小石原川ダム地点における計画高水流量190m3 /s のうち140m3 /s の洪水調節を行い、下流の高水流量を低減させます。
②流水の正常な機能の維持
下流既得用水の補給等、流水の正常な機能の維持と増進を図ります。また、筑後川水系の異常渇水時の緊急水の補給を行います。
③新規利水
福岡県南広域水道企業団、うきは市の水道用水として0.65m3 /s(56,160m3 / 日)の取水を可能とするよう補給を行います。

3.小石原川ダム建設事業の特徴と現況
3.1 堤体
小石原川ダムでは、ダムサイトの地形、及び地質の特性を踏まえて、当初計画よりもダム軸を上流側に移動させましたが、直線軸のままでは掘削量等が多くなるため、ダム軸を円弧とし(図- 2)、コア基礎部の岩盤性状を考慮して上流側を傾斜、下流側を直立させた修正中央コア型を採用しました(図- 3)。これにより、コア敷き基礎の止水性を確保しつつ基礎掘削量を低減することが可能となりました。

3.2 基礎掘削及びダム堤体の築造
平成28 年4 月、小石原川ダム本体建設工事に着手しました。準備工事を経て7 月に転流を行って本体基礎掘削を開始し、平成29 年4 月には監査廊の初打設を行いました(写真- 1、2)。引き続きダム堤体の盛立を開始する予定です。

3.3 洪水吐き
小石原川ダムの洪水吐きは、周辺地形や地質、地形改変量等を考慮し、配置設計を行いました。洪水吐きシュート部においては、堤高100m 級のフィルダムにおいて国内初となる階段式減勢方式(カスケード型減勢方式)を採用しています。本方式は、洪水吐きシュート部自体に減勢機能を持たせるもので、一般的に広く採用されている、副ダムを設置して減勢池にて跳水を発生させる跳水式減勢方式に比べて、減勢工の規模を縮小することができます。階段形状、減勢効果については、水理模型実験により確認しています(写真- 3)。

3.4 施工ヤードの確保
一般的に、ロックフィルダムの建設に当たっては、大量の堤体材料を短期間で盛立てることから、材料を確保するための広大な施工ヤードが必要となります。小石原川ダム周辺は地形が急峻であることに加え、ダム直下流には江川ダム貯水池が存在すること、事業による地形改変を減らすために、可能な限り湛水区域内に施工ヤードを配置する必要があったことから、十分な施工ヤードを確保することが困難でした。そこで、小石原川ダム建設工事では、仮排水路トンネルのほかに、水路トンネルを2 本設置することにより河川を転流し、河床部に本体基礎掘削や原石山掘削等で生じた廃棄岩を用いて必要となる施工ヤード等を造成しています(図- 4)。

3.5 CIM及びICT施工の導入
小石原川ダムでは、建設段階における生産性の向上と品質の確保、管理段階における維持管理業務の省力化、効率化及び操作運用・状態監視の高度化等を目的として、3 次元モデルに属性情報を付与したシステムであるCIM(Construction Information Modeling/Management)を導入すると共に、積極的にICT(Information and Communication Technology)施工を推進しています。
設計段階において、構造物を3 次元モデル化することにより、それぞれの位置関係や干渉等を立体的に確認することが可能となり、構造物の細部設計や施工計画の立案を補助することが可能となりました。加えて、3 次元モデル化により全体を俯瞰することも可能となり、ダム天端や管理棟操作室等からの各構造物や管理設備等の視認性の確認(図- 5)、全体レイアウトや調和等の景観設計にも活用することができました。

品質管理、出来形管理等、施工段階において得られる情報をCIM に取り込み、一体としたデータ管理を行うと共に、今後の維持管理段階における省力化・効率化等、管理高度化を図っていくこととしています。
また、水資源機構では、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新、改築までのあらゆる建設生産プロセスの現場において、抜本的な生産性の向上、効率化及び高度化を図るため、i -Construction & Management の推進を図っています。
小石原川ダム本体建設工事においては、3D -MG(machine guidance)バックホウによる掘削(写真- 4)やUAV(Unmanned Aerial Vehicle)による地山測量・出来形測量を実施しています。
今後、GNSS(Global Navigation Satellite System)搭載ブルドーザを活用した薄層ストックパイルの造成、コア材の均一化を目的としたストックパイルの切り崩し管理、盛立て時のまき出し厚の確実な管理、並びに建設機械の自動化施工を予定しています。

3.6 導水路トンネル工事
小石原川ダムは、既設の江川ダム・寺内ダムと総合運用することにより水資源の開発を行います。より効率的・効果的に総合運用を行うため、佐田川から小石原川へ導水する内径2.4m、延長約5㎞、高低差3m を自由流下する導水路トンネルを建設します。
導水路トンネルは、土被りが大きく、高水圧という条件下での長距離掘進に加え、工事区間の近傍においては生活用水として地下水等を利用している集落が存在するため、工事中及び供用後において、沢水や地下水等の水利用に影響を与えない掘進計画及び覆工構造とすることが求められました。
そこで、切羽の水圧(想定最大1.5MPa)に対し泥水圧で対抗すること、掘削機内から地盤改良等の崩落対策工が可能であることなどの条件から「泥水式岩盤シールド工法」を採用し、上下流両方向から施工することとしました。

3.7 環境に配慮した事業計画
小石原川ダム周辺には、河川、水辺、森林、草地に生息する動物や、杉・檜の植林、河川沿いを中心とした広葉樹林など、豊かで多様な自然環境があります。事業による環境への影響を回避・低減するため、平成7 年から環境調査を開始し、平成16 年に環境影響評価法に基づく手続きを終了しました。ダム工事期間中も、専門家の指導・継続的に取り組むと共に、保全対象種の生息環境の復元・整備、重要な動物の保全、重要な植物の移植などの環境保全に取り組んでいます。助言を得ながら(写真- 6)、必要な環境調査に継続的に取り組むと共に、保全対象種の生息環境の復元・整備、重要な動物の保全、重要な植物の移植などの環境保全に取り組んでいます。

4.おわりに
現在、朝倉総合事業所ホームページにおいて、ダム工事の進捗状況を見ることができるライブ映像を配信するとともに、まさに動いているダム建設現場を一般の方々に見ていただく『ダム工事現場見学バスツアー』を原則として毎月第2 土曜日に開催しています。現地状況を知って頂く方法としてご活用頂ければ幸いです。
小石原川ダム建設事業が進捗しておりますのは、ダム関係移転者をはじめとする地権者の皆様、多大なご支援・ご協力をいただいている関係機関並びに関係流域の皆様のおかげです。あらためて、深く御礼申し上げます。今後も事業効果の早期発現を目指し、安全かつ着実に事業の進捗を図って参ります。

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