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宮浦橋上部工補修工事について

国土交通省 九州地方整備局 宮崎河川国道事務所
 日南国道維持出張所 所長
沓 掛  孝

㈱さとうベネック建設本部
技術部技術開発課 副長
衛 藤  誠

東亜コンサルタント㈱ 取締役技師長
(元㈱さとうベネック現場代理人)
財 津 公 明

1.はじめに
一般国道220号は,宮崎市を起点とし,日南市や鹿屋市を経由して鹿児島県国分市に至る延長約190㎞の主要幹線道路であり,宮崎県日南地方と鹿児島県大隅地方とを結ぶ動脈となっている。当該国道の宮崎市から日南市にかけては日向灘に面した海岸線を通るルートであり,また,台風時期には海からの潮風を直接うけるため,鉄筋コンクリート構造物にとっては非常に厳しい環境下にある。
宮浦橋は,図ー1に示すとおり,その路線内(宮崎県日南市大字宮浦)に位置する,橋長60m,全幅8.25mの鉄筋コンクリート単純T桁橋であり,昭和40年3月の竣工から約40年が経過している(写真ー1,表ー1)。

本橋は宮浦川河口部に位置し,飛来塩分を主とした外的因子による環境劣化が進行しやすい状況にあったため,主桁および床版の鉄筋腐食による断面欠損が多数生じていた。そのため平成2年3月に断面修復工ならびに表面被覆工による補修工事が行われた。しかし,施工後約15年が経過し,桁および床版にひび割れや浮き・はく離等の変状が再び確認された。
よって今回,塩害対策補修工事を行うとともに,交通荷重による疲労劣化の兆候が見られたことから,あわせて疲労耐久性の向上およびB活荷重への対応を目的とした補強工事も行い,平成17年5月に無事竣工した。以下に本橋における補修・補強工事の内容を紹介する。

2.施工前調査
2.1 ひび割れ調査
宮浦橋は,平成14年の調査によって,桁および床版にひび割れや浮き・はく離等の変状が確認されていた(写真ー2)。

ただし,過去に施工された表面被覆工によってコンクリート表面が覆われていたことから,表面被覆工の表面にまで発生するようなひび割れを含む大きな変状の確認や打音調査による浮き・はく離の確認はある程度可能なものの,詳細なひび割れ等の確認が困難な状況にあった。
そこで,今同の補修・補強工事によって既設表面被覆工を全て除去することから,その時点でひび割れの詳細調査を行った。その結果,当初調査では確認できなかった曲げひび割れやせん断ひび割れが多数確認された(図ー2,写真ー3)。

2.2 塩分量調査
本橋は,過去の補修工事の状況や架設位置の環境,変状の状態などから,塩害の可能性が高いと判断されていたため,工事用の吊り足場設置後,既設コンクリートに浮き・はく離が生じている部分の近傍においてコアを採取し,塩分量測定を行った。その結果,最大で7.05kg/m3,鉄筋位置でも1.37~2.82kg/m3と発錆限界値とされている1.2kg/m3を超える塩化物イオン量が確認された(図ー3)。

3.せん断補強
主桁のせん断に関しては,当初設計段階においてB活荷重に対する主桁のせん断耐力が不足していることが判明していた。また,既設表面被覆除去後の詳細ひび割れ調査の結果からも,主桁に多数のせん断ひび割れが確認されたことから,せん断耐力の向上を目的とした主桁のせん断補強を行うものとした。
主桁せん断補強には,比較検討の結果,『FRPグリッド増厚・巻立て工法(NETIS登録:CG-000009)』を採用した(図ー4,写真ー4)。

本工法は,補強材に軽量で耐腐食性に優れたFRPグリッド(高性能連続繊維格子筋)を用いるものである。このFRPグリッドを下地処理した既設コンクリートにアンカーボルトにて取付け,ポリマーセメントモルタルにより既設構造物と一体化する工法である。
本工法は,これまで橋梁床版の疲労耐久性の向上や,ボックスカルバート・トンネル覆工等の曲げ耐力の向上などを目的とした補強に主に用いられてきたが,橋梁主桁のせん断耐力の向上を目的とした補強に用いられた実績はなかった。しかしながら,大学等の研究機関における模型および実物大供試体によるせん断補強実験の結果から,本工法によるせん断補強効果の信頼性は高いと判断し,今回初めて本工法を実橋の主桁せん断補強に採用したl),2)
せん断補強の範囲については,一般的に支点付近でせん断力が大きくなるため補強が必要となり,支間中央付近ではせん断力が小さくなるため補強が不要であることが多い。そこで,本橋の主桁においては,死荷重と活荷重により生じるせん断応力と許容せん断応力を比較して,前者が後者を上回る範囲を算出し,道路橋示方書によるスターラップの配置を参考にして,この範囲に部材断面の有効高さを加えた範囲をせん断補強範囲とした(図ー5,図ー6)3)

4.曲げ補強
当初設計では,B活荷重を考慮した曲げ応力度が鉄筋の許容応力度 (SR235:σsa=140N/㎟)を満足していないことが判明していたが,頻度測定結果による実荷重を考慮した応力度が許容応力度を下回っていたため,曲げ補強は必要ないと判断されていた。
しかし,表面被覆工除去後の詳細ひび割れ調査の結果,活荷重による疲労に起因すると考えられる多数の曲げひび割れが確認された。またこれらのひび割れが,主桁の中立軸を超えて床版部まで達していることも判明した。
そのため今回の工事において,疲労耐久性の向上を目的として主桁の曲げ補強を行うこととした。曲げ補強にあたっては,B活荷重に対する補強を行うこととした。
主桁の曲げ補強工法の選定は,塩害に対する耐腐食性を考慮し,『連続繊維シート工法』や『FRPグリッド増厚・巻立て工法』を検討したが,外桁における応力がこれらの工法の補強可能範囲を超えることから,『鉄筋補強による下面増厚工法(NETIS登録:KK-980085)』を採用した(図ー7,写真ー5)。

本工法は,下地処理をした既設コンクリート下面に鉄筋をアンカーボルトや取付け金具にて配置し,ポリマーセメントモルタルを吹付けることにより既設部材と一体化する工法である。
本工法の採用にあたっては,補強材に鉄筋を用いるため塩害による鋼材の腐食が懸念されたが,遮塩性の高いポリマーセメントモルタルおよび表面被覆にて鉄筋が覆われることから,耐腐食性に問題はないと判断した。

5.塩害対策
5.1 防錆処理
前述のように,塩分量調査の結果では発錆限界(1.2kg/m3)を超える最大7.05kg/m3,鉄筋位置においても1.37~2.82kg/m3もの塩化物イオン量が確認されたことから,断面修復箇所のマクロセル腐食による再劣化を防止するため,既設コンクリートの除去を鉄筋の裏側10mm程度まで行い,さらに既設コンクリートのはつり面およびはつり出した既設鉄筋に亜硝酸リチウム水溶液および亜硝酸リチウムペーストを塗布し,防錆処理を行うこととした(図ー8,写真ー6)。

また,断面修復を行わない既設コンクリート表面にも亜硝酸リチウム水溶液を塗布することで,はつり出しを行わない鉄筋に対しての防錆処理とした(図ー9)。

亜硝酸イオン(2N02)は,次式のように水酸化第二鉄(Fe(OH) 2)と反応し,塩化物イオンとのモル比(2NO2/Cℓ)で0.6以上存在すれば防錆効果を発揮できる。

2Fe2++20H+2N02 → Fe2O3 + H2O + 2NO

このことから,塗布により供給される亜硝酸イオンが既設コンクリート中に存在する塩化物イオンに対して,モル比で0.6以上になるように亜硝酸リチウム水溶液の塗布量を決定した。

5.2 表面被覆
本橋の既設コンクリート中に存在する塩化物イオンは,橋梁の架設環境や塩化物イオンの分布(図ー3)から,その多くが隣接する海岸からの飛来塩分によるものと考えられた。
そこで,今回施工された補修工事後の外来塩分の供給低減を目的として,舗装面を除く橋梁の全面に表面被覆を施した(図ー10)。

表面被覆工には,他工法との比較検討の結果『超速硬化ポリウレタン樹脂吹付け工法(レジテクトRT-2工法NETIS登録:KT-050036)』を採用した(図ー11,写真ー7)。

本工法は,表面を処理した既設コンクリートにプライマーを塗布し,パテ材にて不陸修正した後に主材として超速硬化ポリウレタン樹脂を吹付け,トップコートにて仕上げるエ法であり,十分な遮水性・遮塩性などを有するとともに,押し抜き抵抗性能や耐候性などにも優れる工法である。また,他工法に比べて工程数が少なく,主材のゲル化時間も短いため,足場による河川断面阻害の期間が短縮可能であることから採用に至った。

6.社会環境対策
本橋が位置する国道220号は,日南地方の主要観光ルートとなっているため,週末や年末年始,ゴールデンウイークなどには一般車両が著しく増加する。
そのため,「路上工事縮減」を念頭に,年末年始やゴールデンウイークなどには橋面上の施工をいっさい行わず,平日等においても資機材の搬出入時や橋梁上面の施工の際など,国道を交通規制する必要がある場合に,はあらかじめ周辺住民の方々に周知するとともに,交通誘導員の配置や安全設備の設置を十分検討して行った。また橋梁上面の施工では,一日の工事時間を延長することによって工事日数を短縮する等,綿密な工程の調整により交通規制の期間を短縮することで,交通災害の防止や一般交通への影響低減に努めた。

7.おわりに
本橋は,塩害および活荷重による疲労によって,大きく変状していた。また,過去に断面修復が施された箇所では,マクロセル腐食によるものと思われる再劣化が生じていた。
そこで今回の工事において,疲労耐久性を向上させるために鉄筋やFRPグリッドによる補強を実施したり,マクロセル腐食を防止するために亜硝酸リチウムを使用したりするなど,それらの要因に対する対策を施した。特に塩害に対しては,その要因が飛来塩分であることから,表面被覆エが大きな役割を果たすことになる。表面被覆工は一般的な耐用年数が10年程度とされており,本工事において採用した工法も例外ではない。表面被覆が耐用年数を越えてその性能が低下すると,コンクリートおよび鉄筋の劣化が著しく進行し,新たな補修・補強工事に多大な費用が必要になる。
今後も定期的に点検を実施するとともに,維持管理にアセットマネジメントの考え方を取り入れ,「対症療法型の管理手法」から「予防保全型の管理手法」へとシフトすることで,より効率的かつ効果的に構造物の延命化を図っていきたい。

参考文献
1)泉満明,濱岡弘二,訟野浩司,小林朗:炭素繊維によるPC桁のせん断補強効果に関する実験的研究,プレストレストコンクリート技術協会第10回シンポジウム論文集,2000年10月,pp763-768
2)小野敦,川内康雄,米倉亜州夫,佐川浩紀:CFRP表面張付によるRC梁のせん断補強効果,土木学会中国支部第51回研究発表会,平成11年度,pp601-602
3)道路橋示方書・同解説 Ⅲ コンクリート橋編,(社)日本道路協会,平成14年3月

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