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宮崎空港のバリアフリー化への取り組みについて

国土交通省 宮崎港湾空港工事事務所
 所長
小 澤 康 彦

国土交通省 宮崎港湾空港工事事務所
 工務課長
濱 田 浩 二

国土交通省 宮崎港湾空港工事事務所
 工務課 係員
島 田 雅 志

1 はじめに
身体障害者等の社会参加への機会の増大や現在急連に進んでいる高齢化社会に対応すべく,身体障害者及び高齢者等,誰もが安全に,自立した社会生活を送ることができる社会環境の整備が重要な課題となっている。しかしながら,公共施設を利用するに当って様々なバリアが存在しているのが現状である。そこで昨年度宮崎空港では,駐車場内及び駐車場から空港旅客ターミナルビル(以下,空港ビル)へのアクセスルートのバリアフリー化及び歩道ルーフの設置を行った。また,これに伴い我が国の空港駐車場としては初めて,駐車場内に“高齢者・乳幼児連れ家族用駐車帯”を設置した。本報告は,歩道ルーフの設置とバリアフリー化の設計を行った際の留意事項について取りまとめるとともに,施工完了後の施設の利用状況についても考察する。

2 バリアフリー化に関する基準
多くの人が利用する空港には,空港ビル等の建築物の他,歩道,駐車場等,様々な施設が存在する。しかしながら,今回の設計当時は空港旅客施設のバリアフリー化に関する統一された基準がなかったため,ハートビル法(平成6年6月施行),交通バリアフリー法(平成12年11月施行)及び宮崎市の福祉のまちづくり条例(平成13年4月施行)を比較し,各基準値の中で最も厳しい値を用い改良を行うこととした。(現在は「みんなが使いやすい空港旅客施設計画資料」(平成14年3月)により基準値が定められている。)

3 宮崎空港の改良前の状況
改良前の一般車両の乗降場(中之島),駐車場及び歩道等は平成2年3月の空港ビルの供用開始と同時に整備された。その後,ハートビル法やバリアフリー法が施行されたため,今回,空港旅客施設のバリアフリー化に関する再検討を行った。
表ー1にバリアフリー化改良前の状況とその基準値を示す。

ここで基準値と比較すると,歩道床面の縦断勾配が6~22%となっており,基準値の5%以下を満足していない。また身体障害者用駐車帯の設置台数についても改良前は4台であり,これもまた基準値の11台に比べ不足している。写真ー1は歩道床面の縦断勾配が最も急(22%)であった歩道切下げ部(中之島)の写真であるが,かなりの急勾配であり,また横断歩道上の点字ブロックも設置されていないことが確認できる。この横断歩道上の点字ブロックに関しては法律上,何の規定もなかったが,通常の道路上においても最近の事例では多く見受けられることから,視覚障害者の車道横断時における安全性を考慮し設置することとした。また写真ー2は,駐車場から空港ビルヘのアクセスルート上及び身体障害者用駐車帯ルーフの設置状況であるが,中之島から空港ビルまでの間しかルーフが設置されていない。そこで,既設ルーフとの一体性や降雨時における身体障害者の車の乗降に配慮しルーフを設置することとした。

4 検討会の開催
前述のような状況を改良するに当って,ただ基準に適合させるだけではなく,より視野の広い改良を行うことを目的として,学識経験者,身体障害者等の有識者によって構成された検討会(委員数15名,開催回数3回)を設け,意見交換を行った。以下にその主な検討項目とそれに対する意見及び決定理由について述べ,検討会開催の成果をまとめる。
・主な検討項目
  1.身体障害者用駐車帯ルーフの設置
  2.高齢者・乳幼児連れ家族用駐車帯の設置
  3.横断歩道上点字ブロックの設置及び色彩
  4.歩車道境界部における段差の改良方法

(1)身体障害者用駐車帯ルーフについて
身体障害者用駐車帯ルーフ(12台分)の設置位置を決定するに当たり,利便性及び景観性の両面からの検討を行った。表ー2にルーフ配置の最終検討案(2案)の提案理由を,図ー1及び図ー2にそのイメージパースを示す。

ここで両配置案について委員の方々から頂いた意見を下記にまとめる。
・利便性:『出発時にはチェックイン等の時間的制約を受ける可能性が高いので,出発ロビーに近い第1案の方が望ましい。』
・景観性:『空港周辺には景観を損なうような大型看板がなく,空港ビルから出た時の開放的なイメージをコンセプトとしているため,到着時にルーフが視界に入りにくい第1案の方が望ましい。』
以上の意見から,身体障害者用駐車帯ルーフは出発ロビー側配置案を採用することとした。

(2)高齢者・乳幼児連れ家族用駐車帯について
障害者のみに配慮した施設ではなく,より多くの人が使い易い施設とするために,高齢者もしくは乳幼児を連れた家族の人などが優先的に駐車することのできるスペースを空港ビルかつルーフに近いところに設け(38台分),さらに床面のカラーマーキングやピクトグラム(絵文字表示)等で区別することを提案し,委員の方々からの支持が得られた。しかしながら,このような駐車帯は前例がなくカラーマーキングの色やピクトグラム自体の統一規格がなかったので,検討の結果,カラーマーキングの色は緑色,ピクトグラムは図ー3に示す“高齢者と乳幼児カート”をイメージさせるものとした。

(3)横断歩道上の点字ブロックについて
横断歩道上の点字ブロックの設置について,当局から提案したところ,検討会においても『点字ブロックのない長い横断歩道をまっすぐ歩くことは視覚障害者にとっては非常に難しい。』という意見が出され,委員の方々からの支持が得られた。また点字ブロックの色彩については,視覚障害者の方から『盲目の方には色は関係ないが,弱視の方は色を頼りにしているため識別しやすい色が良い。』という意見を頂いた。景観性を考慮すると,横断歩道上のアスファルト舗装箇所において目立ちにくい半透明や白黒の点字ブロック等も考えられるが,弱視の方でも識別し易いように黄色とした。

(4)歩車道境界部の段差改良について
検討会において,歩道と車道の境界部分にある段差の改良方法についての検討を行ったが,視覚障害者と車椅子を利用している身体障害者の意見は次に示すものであり,“障害”となる対象が異なっていた。
・視覚障害者:『歩道と車道の境界を認識するために2cmの段差が必要不可欠である。』
・車椅子利用者:『2cmの段差が障害となる。』そこで歩車道境界部については,図ー4に示すような歩車道境界部を,図ー5に示すように視覚障害者のために2cmの段差を設ける部分と,車椅子利用者及びキャスター付きバッグ利用者等のために摺付けを設ける部分とを作ることにより,視覚障害者と車椅子利用者等とを分離し,両者が利用し易い構造とすることを決定した。また摺付け部の幅については,車椅子同士がすれ違うことが可能な広さ(1.8m)を確保した。

これまでで述べてきたように,検討会を開催し有識者らの意見を設計に反映することにより,“バリアフリー化の基準に適合した施設”から,“多くの人が利用し易い施設”,つまりユニバーサルデザインに近い設計となることが確認できた。

5 改良後の各施設の状況
以上の設計に基づいて,施工を行った。写真ー3~写真ー6に改良後の写真を示す。写真ー3はルーフ等改良後の全景写真,写真ー4は4.(3),4.(4)で述べた横断歩道上の点字ブロック設置後及び歩車道境界部改良後の写真(手前側が車椅子利用者らのために摺付けを設けた部分,奥側が視覚障害者のために2cmの段差を設けた部分)であるが,横断歩道上にルーフを設置したことや点字ブロックを黄色にした結果,横断歩道を強調することができ,横断歩道に対するドライバーの認識を高め,安全性を向上することができた。
また写真ー5は身体障害者用駐車帯ルーフ設置後,写真ー6は高齢者・乳幼児連れ家族用駐車帯設置後の写真であるが,身体障害者用駐車帯は空港ビルに最も近い場所に設置されていたため,整備前は一般利用者による使用が後を断たなかった。しかしながら,写真ー5及び写真ー6から一般利用者が優先駐車帯を使用していない状況が確認できる。このように,身体障害者用駐車帯へのルーフの設置や優先駐車帯にカラーマーキングを行うことにより,その存在感を強く与え,一般利用者による優先駐車帯使用の抑制を可能とした。

6 おわりに
宮崎空港駐車場のバリアフリー化設計において,検討会により決定した『高齢者・乳幼児連れ家族用駐車帯』を設置したところ,利用者の方々からの好評を得,検討会等の重要性を再認識できたと共に,公共施設の質的充実を高めることができた。
今後,公共施設のバリアフリー化を行うに当っては,基準を適用することも重要であるが,実際に利用する方々の意見を反映させることにより,“全ての人が安心して利用できる施設”,つまりユニバーサルデザインが取り入れられた公共施設となっていくことが期待される。
最後に,検討会等において御協力頂きました関係各位に対し謝意を表したいと思います。

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