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木本類を利用した新しいのり面緑化工法

建設省土木研究所環境部
緑化生態研究室長
半 田 真理子

建設省土木研究所道路部
緑化研究室主任研究員
(現日本大学農獣医学部農学科
緑地環境計画学研究室専任講師)
藤 崎 健一郎

建設省土木研究所環境部
緑化生態研究室
飯 塚 康 雄

1 のり面緑化をめぐる背景
道路,ダム等の建設に伴い生じるのり面については,防災に十分配慮し,崩壊や滑落を起こさない構造としなければならない。また,のり面は景観や地域の生態系等に影響を及ほすことがあるので,地域環境と調和、維持管理が少なくてすむような工法を選択する必要がある。
のり面に木本植物を導入する方法は,①当初は草本植物のみを播種し木本植物の侵入を待つ方法と,②当初から木本植物を導入する方法とに分けられる。①の方法においては,条件が良ければ周辺から樹木の種子が侵入して樹林に遷移する。しかしながら,周辺に樹林がない場合,あるいは播種した草本植物が密に茂った場合等には,木本植物の侵入が順調に進まず草本植物のみとなる。このような場合,周辺環境にそぐわない景観になることや草本植物の根が揃って浅くなるため根の先端で滑落しやすいこと,過剰に繁茂した草本植物の一斉枯死が起こる等の問題が生じることがある。また,これを防ぐための維持管理も必要となる。
このため,のり面緑化の量と質を向上させる方向として,当初からのり面へ木本植物を導入する方法が検討されるようになってきている。のり面に木本植物を導入する方法には,播種と苗木植栽の二通りがある。播種による方法は,種子を吹付基材に混入して播くだけなので作業が効率的であるが,ほとんどの樹種について種子繁殖が不可能あるいは困難な樹種であり,現在は数種類の樹種しか導入できない。また,木本植物を計画的に配置することも不可能である。一方,苗木植栽による方法は,既に発芽生育したものを植栽するので利用できる種類が豊富で,計画的な配置も可能である。しかし,苗木植栽の場合,植穴を掘らなければならないため作業効率が悪く,切土のり面のような環境条件の厳しい場所においては地上部に対して地下部の成長が遅いため,苗木が風などで倒れやすく,乾燥による害も受けやすい。また,地山が硬い場所では植穴の掘削が困難な上に水の溜り場となり,軟らかい場合には植穴がのり面の崩壊を招くことにもなる。
しかしながら,公園等において早期に目標植生の完成が要望される場合,デザイン的な配植を行う場合,種子繁殖が不可能あるいは困難な樹種(アジサイ,ツツジ類等)を利用する場合などには苗木植栽を行う必要が生じる。
そこで,簡便で低コスト,しかも活着率の高い苗木植栽の方法の開発が望まれている。

2 工法の概要
以上のような背景を踏まえて,自然の植生遷移系列において通常は落葉樹の後に出現する常緑広葉樹類を切土のり面造成の当初から苗木で導入することの可能な方法として,苗木設置と厚層基材吹付工を併用した新しい緑化工法を開発した。
本工法は,のり面地山に導入する樹種のコンテナ苗を確実に固定した上から有機質基材,草本植物の種子,肥料,接合材等による厚層基材吹付工をのり面全体に5~10cmの厚さで行うとともに苗木の根鉢を完全に埋没させることによりのり面を草本および木本植物で緑化することを特徴とする。

3 工法の詳細
3.1 生育基盤材
切土のり面へ苗木を植栽にするにあたっては,土壌に肥料分がほとんどないことを前提としなければならない。特に景観形成や修景に用いる植物は肥料分の要求度が高いものが多い。一方において,肥料分,特に窒素分が多いと草本植物が過剰に繁茂し、木本植物の成長が抑えられることになる。そこで,草本植物の急速な成長を防ぎ,木本植物を順調に成長させることを意図して,肥料を選択する必要があると判断した。のり面の崩壊や侵食を防ぐために,基材のなかに接合材を混入することが必要であるが,これについては厚層基材吹付工で通常用いられているセメントあるいは高分子系の樹脂で充分である。
3.2 苗木設置方法
本研究で検討を行った工法は,のり面に植穴を掘らずに苗木を設置し,生育基盤材を吹付けて根鉢を覆うものである。したがって,簡易に施工でき,しかも倒伏などの起こりにくい苗木の設置方法を考案することが重要であった。苗木を設置する方法として,図ー1,2,3のような方法を考案した。図ー1は,のり面の地山に凹凸が多くある場合にそれを利用して設置しようとするものである。苗木の根鉢を金網をくぐらせて設置するため作業量は3つの方法のなかでは最小であるが,凹部が大きい場合に深植えとならないように注意する必要がある。図ー2は,厚みのある金網を用いて苗木の根鉢を網目にはさむ,あるいは通常の金網を用いて苗木設置位置の金網を切って折り曲げ,その間に苗木の根鉢をはさむ方法である。この場合,基材を吹付ける際に根鉢が完全に覆われるように吹付けないと根鉢が乾燥してしまうことに注意する必要がある。図ー3は,地山に植物の根が侵入しやすく良好な成長が望める場合に,金網の上に苗木を置き、地山まで通るアンカーピンを根鉢に打ちつけることにより,直接地山に固定する方法である。この場合には,根鉢が金網で浮いてしまうことにより地山への根の侵入が妨げられることがないように根鉢を地山に密着させる必要がある。

3.3 草本植物
のり面は侵食防止等の面から木本植物の下草として草本植物で覆う必要があるが,その種類によっては草丈が高い等の理由から設置した苗木を被圧する恐れがある。そのため,導入する草本植物は,苗木を被圧しない草丈の草種を選定するとともに播種量を適正にする必要がある。現在,一般に使用されている主な草種と、緑化目標(高木林,低木林,草原)に応じた発生期待本数の目安を表ー1に示す。高木林型,低木林型においては,草原型より小さな値を適用している。苗木植栽を併用する工法においては,当初から木本植物の苗木が共存することを考慮し,高木林型,低木林型よりもさらに少なめの値を採用し,草本植物が苗木を被圧することを防ぐべきである。

3.4 木本植物
木本植物の樹種については,のり面周辺の植物群落と調和するもの,景観形成に役立つものなど,のり面緑化目標に合致するものがよい。また,そのなかでものり面という植栽困難地においても活着および生育が可能である生命力の強いもの、防災機能を考慮して深根性のものなどで,入手可能なものを選定する。
苗木の大きさについては,草本植物による被圧を受けない程度の樹高(30~50cm程度)とし,根の損失がなく活着率の高いコンテナ苗を使用する。コンテナ苗であれば根鉢が崩れることもなく設置の作業性もよい。
3.5 維持管理方法
本工法は,施工後の維持管理が少ないが、施工後の点検を随時行い,問題が発生した場合はその対応策を検討し早期に手当する必要がある。点検時の点検項目と着眼点を表ー2に示す。

3.6 施工手順
苗木設置と厚層基材吹付工を併用したのり面緑化工法の施工手順は概略次のとおりである。
① のり面表面のゴミ,浮石等を除去し出来るだけ平坦にする。
② のり面全体に緑化基礎工としての金網をなるべく地表面に密着するように張り,アンカーピンにより確実に固定する。
③ 苗木(コンテナ苗)の姿勢を維持しながら図ー1~3のいずれかの方法で設置する。
④ 吹付材料を攪拌装置内で十分に練り混ぜ,設置してある苗木を傷つけないように注意しながらのり面全体に均一にムラなく吹付ける。この時,苗木の根鉢が完全に覆われるように注意して吹付けを行う。

4 国営讃岐まんのう公園建設地内におけるのり面緑化
4.1 緑化目標
国営讃岐まんのう公園は,香川県に建設中の国営公園である(面積:350ha)。国営公園としては初めて,車を乗り入れて施設間を移動できる方式を採用することが計画されている。そのため,園路ののり面についても公園にふさわしい樹木を計画的に配植し,建設当初から開園した時の景観を配慮した対策をとることが望まれている。このような緑化目標に最もよく合致する工法として,本研究で開発中の工法を提案し,細部の検討を行った。これに基づき国営讃岐まんのう公園で工事が施工された(写真ー1)。

4.2 施工方法
施工内容の概要は次のとおりである。
1)施工日  平成3年3月6,7日(吹付,植栽)
2)施工場所 国営讃岐まんのう公園建設地内切土のり面(香川県仲多度郡満濃町)
3)のり面の状況 
  地質:花崗岩,土壌硬度25~30mm(山中式土壌硬度計による指標硬度)
  勾配:1:1 面積:790m2
4)供試樹種 ネズミモチ(樹高50cm程度)135本,シャリンバイ(樹高30cm程度)510本
5)草本種子 トールフェスク(ジャガー),オーチャードグラス,バヒアグラス
6)厚層基材吹付工
  吹付厚:5cm(ただし,苗木設置部分は根鉢が覆われるように多少厚く吹付ける。)配合:表ー3

7)苗木設置方法
  緑化基礎工として設置した#14,網目50mmのひし形金網を写真ー2のように切断して,切断した金網の端を上方に曲げてそこに苗木を固定する。

4.3 結果および考察
1)施工時における作業性
施工に要する時間は厚層基材吹付工のみの場合に比べると多少長いが,他の方法で苗木を植栽する方法に比べるとかなり短時間で施工できることが実証された。
2)苗木の活着率
表ー4に平成4年10月(施工1年7カ月後)現在の活着率を示した。ネズミモチは135本中4本の枯損で活着率97%,シャリンバイは510本中29本の枯損で活着率94%と両樹種とも非常に高い値で良好な結果であった。

3)木本植物の生育状態
木本植物の生育状態は、樹高については植栽時の樹高(ネズミモチ:50cm,シャリンバイ:30cm)と比較するとネズミモチが26cm,シャリンバイが14cm程度の伸びである。樹勢は施工を実施した昨年度よりも両樹種ともに良好になっている。なお,両樹種ともに花や実をつけている個体が多く見られた。
4)木本植物の引抜強度
引抜強度の測定は,背筋力計(Tarzan Muscular Meter 300kg)を用いて各樹種5本ずつ行った。引抜強度は根系が表層土を保持する力を評価する一つの指標として考えられており,この値が大きいほど植物の安定や土壌緊縛が良いといえる。のり面緑化の表層土壌の侵食防止目的から考えるとこの結果は非常に重要なものである。測定を行った結果,表ー5に示すとおりネズミモチが平均69kgf/本,シャリンバイが92kgf/本と高い値であった。この値はのり面の状態で大きく変わってくることなどから他のデータとの比較は難しいが,播種により成立したものに劣らない結果であると考えられる。写真ー3に引抜後の根系状態を示した。根系は吹付層の下の地山に侵入していた。

5)草本植物の生育状態
導入した3種類のなかでバヒアグラスが施工1カ月後に平均140本/m2の成立本数で生育したがその後消滅した。これ以外の草本植物の生育状態は,トールフェスク(ジャガー)およびオーチャードグラスの成立本数がともに60~80本/m2,草丈がともに25cm程度であり,この2種でのり面の95%を被覆しており,良好な生育状態であった。
6)播種工による木本植物の状況
本施工のり面では本工法と播種工の比較を行うため,北向きのり面において上段のり面を播種工により施工し,ネズミモチ,シャリンバイを導入している。播種工による成立本数は,ネズミモチが平均15本/m2,シャリンバイが平均12本/m2であり,平均樹高はネズミモチが4.3cm,シャリンバイが6.7cmであった。
7)まとめ
施工後1年7カ月後ののり面の状態は,木本植物,草本植物ともに良好に生育しており安定している。また,公園建設地内の他の切土のり面においても本工法の施工が平成4年3月に実施されており,ここでの活着率も98%(表ー6)と高い結果であった。のり面緑化は短期間での成否の判断が難しく,今後も継続調査を行っていく必要がある。

5 おわりに
苗木設置と厚層基材吹付工を併用したのり面緑化工法を考案し試験を行った結果,苗木の活着および植物の生育は良好であった。また,他の方法で苗木を植栽する場合に比べるとかなり簡単に短時間で施工できることが実証され,施工時の苗木の損傷や吹付材の苗木への付着の問題もほとんどないことがわかった。
今後の課題としては,一層効率的な施工方法(簡便な苗木設置方法の考案、コンテナの形状および材質の改良,吹付工の省力化等)について検討を行うとともに,対象とする樹種の範囲を広げるための研究を進める必要がある。

謝 辞
本工法について,平成5年度の科学技術庁創意工夫功労者表彰を受賞した。本研究を実施するにあたり工法案を現場に適用して下さった四国地方建設局国営讃岐まんのう公園工事事務所,調査に協力をいただいた明治大学輿水肇教授ほか関係機関の各位に深く感謝の意を表する。

参考文献
1)農山漁村文化協会:のり面保護工 ー設計・施工の手引きー,農業土木事業協会編
2)日本道路協会:道路土工ーのり面・斜面安定工指針ー,昭和61年11月

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