宮崎県における沿道修景の取組について
三林聖
キーワード:景観、環境、観光
1.はじめに
本県はこれまで、道路が単に輸送施設であるということにとどまらず、風景であり、情景を創る生活空間であるという「沿道修景美化条例」の基本方針に基づき、花と緑にあふれた道路環境の創出及び保全に努めてきた。
このような中、平成16年に都市や農山漁村等における良好な景観形成を促進することを目的とした「景観法」が制定されたことを受けて、沿道修景の果たす役割はますます大きくなってきている。
その一方で、本県では樹木の高木化・老木化といった問題や、東九州自動車道の開通等による自動車交通の流れの変化等、沿道修景を取り巻く環境は大きく変化してきており、これらの状況を踏まえた上での、将来あるべき植栽の配置や管理手法についての検討が求められている。
2.沿道修景の歴史
宮崎県の沿道に初めて植栽が行われたのは昭和12年のことで、本県の観光の父と呼ばれる故岩切章太郎氏(宮崎交通㈱初代社長)が、日南海岸沿いの国道沿線にフェニックスを植栽し、ロードパークとしての整備を始めたことが始まりであった。
その取組は昭和30年の日南海岸国定公園の指定と、県土の美化を目指す県民運動の推進につながるとともに、昭和37年からは県においても沿道修景美化の取組を開始し、沿道への草花や樹木の植栽を推進してきた。
そして昭和44年に、全国で初めて「宮崎県沿道修景美化条例」を制定し、「うるおい」と「やすらぎ」のある美しい郷土づくりに努めてきた。
3.沿道修景美化条例について
(1)条例の目的
本条例の目的は、沿道において優れた自然景観や樹木、その他の植物を保護するとともに、新たに草花や樹木の植栽を行うことで沿道の修景を図り、もって郷土の美化を推進することである。
この目的を達成するために、「沿道自然景観地区」、「沿道修景植栽地区」、「沿道修景指定樹木」を指定し、それらの保護、育成のための、県と住民の責務と行為の制限について定めている。
(2)沿道修景植栽地区
県内の沿道修景を重点的に推進する路線(沿道修景推進路線)において、草花や樹木を植栽し修景を行っている地区のうち、知事が指定する地区を沿道修景植栽地区として指定している。
現在までに74 地区、計168㎞を指定している。
(3)沿道自然景観地区
県内の沿道における代表的な自然の風景地(山岳、田園、河川、渓流、湖沼等)と、その眺望を妨げない地区のうち、知事が指定する地区を沿道自然景観地区として指定している。
現在までに18地区、計1,026haを指定している。
(4)沿道修景指定樹木
県内の沿道において、樹形が美しい樹木、または樹木の集団で、ランドマークとしての指標効果の高いもののうち、所有者の協力を得たうえで知事が指定するものを沿道修景指定樹木として指定している。
現在27箇所の39本が指定されており、その維持管理にかかる費用については、県が所有者に対して助成を行っている。
(5)行為の制限
指定地区等における以下の行為に際しては、事前に知事の許可を得なければならないものとして定めている。
ア 植栽された植物の伐採、移植
イ 火入れ、たき火
ウ 建築物や工作物の新築、増築、色彩の変更
エ 土地の開墾、形状の変更
オ 自然景観地区における木竹の伐採
カ その他条例に定める行為
4.沿道修景美化の取組
(1)取組の基本方針
沿道修景美化の取組としては、沿道修景美化推進路線における沿道及び周辺地区の除草、植栽地区における草花の植栽、樹木の剪定、施肥、防除等の維持管理を実施しているが、その実施にあたっては特に以下の点に留意している。
ア 周辺環境との調和を図る
イ 道路利用者の視距を妨げない
ウ 植栽地の広さに適した樹種を選定する
エ 海岸道路においては耐潮性を考慮し樹種を選定する
オ 花の開花時期を考慮し、四季を通じて沿道に花が見られるような組み合わせで修景を行う
(2)維持管理の実施
実際の維持管理については、県内の各土木事務所等が管内の推進路線及び植栽地区を、民間業者に業務を委託して実施している。
また、年度をまたぐ3月から5月の期間においては沿道修景の空白期間が生じることから、12月から次の年の12 月までの債務負担によって業務委託を発注することで、年間を通した切れ目のない沿道修景の実現に取り組んでいる。
(3)関係機関との調整
県内の道路管理者(国、県、市町村)間で、各地域において合同での協議を実施し、除草や剪定等の維持管理の実施予定時期や実施箇所、関係する工事の計画等についての調整を行うことにより、県内全域で効果的な沿道修景を行えるよう努めている。
また、直轄区間である国道10号及び220号については、県内でも特に交通量が多い重要な路線であることから、国と県との間で沿道修景に関する協定を結び、国の協力を得ながら効果的な維持管理に取り組んでいる。
(4)特定修景地区における取組
空港や高速道路のインターチェンジといった本県の交通の玄関口と、多様な観光地が集中して存在している宮崎市中心部から日南海岸沿いに至る区間については、特に重点的な整備を行うべき区間として、特定修景地区と位置づけている。
特定修景地区では、国や市と連携して効率的な維持管理の実現を目指し、植栽方法の見直しや、高木化したワシントニアパームの植え替えの検討等、既存の修景をベースに、一歩踏み込んだ沿道修景の維持管理を行い、宮崎らしい沿道景観の創出と保全に取り組んでいる。
(5)県民との協働
日本風景街道、九州道守会議等の道路に関する活動団体や地域住民と連携し、道路の除草、清掃や草花の植栽活動を協働で実施することにより、自分たちの道路を自分たちで美しくするという気運の向上や、道路に対する愛着の醸成に努めている。
5.沿道修景の課題
(1)樹木の成長
沿道修景美化条例の制定から50年近くが経過し、条例制定当時に植栽した樹木には成長に伴う様々な問題が生じてきており、維持管理にかかるコストや労力の増大につながるとともに、管理瑕疵事故の発生も懸念される。
ア 高木化
樹木が高木化し、特にワシントニアパームについては剪定等の維持管理に高所作業車が必要となっているほか、枯れ枝の撤去、落下防止対策等の必要が新たに生じてきている。
イ 老木化
サクラ等の樹木において、老木化が進み花の付きが悪くなり、植え替えの検討が必要となっているほか、倒木の危険性も生じてきている。
また、市街地の街路樹等においては、建築限界や電線等の占用物件等との兼ね合いにる強剪定が原因で、樹勢の衰え、樹形の悪化が生じ、沿道修景のための街路樹が逆に景観を阻害する要因となっている等の問題も生じてきている。
(2)維持管理コストの増大
現在本県が管理する植栽地区は計80万㎡、植栽樹木は150万本以上にも上り、近年の労務費や諸経費率の増加も相まって、維持管理にかかるコストは膨大な金額となっている。
このため、除草や剪定等の維持管理を行う回数を低減、範囲を縮小する等、限られた予算の中での対応に苦慮している。
6.これからの沿道修景
(1)取組の見直し
沿道修景美化条例の制定から50年近くが経過したことに伴い、現在の沿道修景においては様々な問題が生じてきている。
それに加えて、東九州自動車道の宮崎~大分間が全面開通したことや、条例制定当時には無かった新たな観光地の人気が高まってきていること等により、自動車交通網の状況や観光客の動線も大きく変化してきている。
こうした状況の変化とともに生じてきた様々な問題や沿道修景を取り巻く環境の変化に対応するためには、現状を踏まえ新たな視点に立った実施計画のもとでの、沿道修景の取組の見直しが必要となる。
そこで本県では、沿道修景美化条例の基本的な考え方は踏襲した上で、より効果的でメリハリのある沿道修景を実現するための、具体的な実施方針を定めた沿道修景基本計画の策定に、今年度取り組むこととしている。
(2)沿道修景基本計画の策定に向けた取組
沿道修景基本計画の策定に向けて、主に以下の項目についての検討を実施する。
ア 沿道修景美化推進路線の整理
高速道路のインターチェンジ接続路線や、主要道と新たな観光地とを結ぶ路線等を新たな推進路線として追加するほか、バイパスの整備等により交通の動線から外れた路線は廃止する等、沿道修景美化に力を入れて取り組むべき路線の整理を実施する。
また、各推進路線における特徴を反映させた、今後の沿道修景を行っていく上での目標像を示す修景コンセプトを設定する。
イ 各指定地区等の整理
道路状況や周辺環境の変化、修景コンセプトに合わせて、沿道修景植栽地区や沿道自然景観地区等の各指定地区の整理を実施する。
ウ 各指定地区における修景・管理水準の設定
推進路線や植栽地区ごとに、交通量や周辺環境等の要素から重要度をレベル分けし、それぞれのレベルに合わせたメリハリのある修景・管理水準を設定する。
7.おわりに
本県では、平成27年5月に本県を全国へPRするための新たなキャッチフレーズ「日本のひなた宮崎県」を発表し、本県の知名度や好感度の向上、及び地域の活性化や観光振興に向けた取組を開始した。
観光振興、特に「見る観光」の振興にとって、沿道修景美化の取組は極めて重要な役割を担うものである。
今年度取り組むこととしている沿道修景基本計画の検討の中で、これからの時代に合った効果的でメリハリのある維持管理の実現と、県民をはじめ本県を訪れる人々に、うるおいとやすらぎを与えられる沿道環境の保護と創出が図られるよう、そして「日本のひなた」を実感できる美しい県土となるよう努めていきたい。